Fate/kaleid liner プリズマ☆ぐだ子   作:普通の燃えないゴミ

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お久しぶりです。もし待っている方が居たらお待たせして申し訳ありません。
理由?ええ、FGOやってました。あと試験が近いです。
ついでに語彙力と文章力が無い為、ああでもないこうでもない、と頭を抱えていました。

そんな訳で、今回から無印編に入ります。
では無印編第一話、どうぞ!


無印編
01 アーチャー


「味噌汁」

 

 朝日の差し込む、可愛らしい黄色いねずみや緑のフクロウのぬいぐるみ、変身ヒーローのベルトやアニメのカレンダーが壁に掛けられた雑多な部屋で、部屋の主である中学2年生の少女、衛宮立香は目を覚ますと同時に、その一言を明瞭に発音した。

 朝食の準備中だろうか、階下のキッチンから、味噌と焼き鮭の香りが微かに漂ってくる。

 

「今日のはしろーが作ってると見た。いつもより早く起きて手持ち無沙汰だったから、セラが起きるより前にケリを付けようという腹か。よし(ベネ)とてもよし(ディ・モールト・ベネ)

 

 衛宮家の家事はメイドであるセラが執り行っている。リズは基本ぐうたらで、料理なんて絶対にしない。買い物の時などに重い荷物はたまに運んでくれるが。しかし今日はセラではなく、士郎が朝食を作っていると立香は理解した。セラはメイドという仕事に誇りを持っていて、その仕事を取られるのを嫌がる為、起きる前に朝食をほとんど作り終えようという士郎の心持ちまで。普通、こんな僅かな匂いでは、寝ている人は朝食の準備が行われている事にも、ましてや作り手の事などわかるはずもないのだが。

 余談となるが、士郎は料理以外の家事も一通り習得している。さらに、料理の中でも和食は高2男子の腕を軽く超越している。始めたのは「俺もやってみたかったから」らしいが、どうやら平行世界ではどのシロウも、家事全般を引き受けていたらしい。もしかしたらエミヤにはオカン属性があるのだろうか。「英霊になる人物が主婦て」とツッコミを入れた立香は悪くない。

 ルンルン気分でベッドから下りたところで、真白な未来な歌が響く。朝6時を知らせる、スマートフォンの目覚ましアラームだ。ぺちん、という音を立て画面をタップ。

 

「…いい朝だ。二度寝がしたい」

『起きて下さいマスター(カス)

 

 スマホの画面を触ったまま呟くと、音声認識機能が働き、機械の合成音声が立香を罵倒する。紫色の少女のボイスだった。やはりこれがないと朝とは言えんな。立香はうんうんと頷き、大きく伸びをする。

 

「よし、テキパキ着替えて手伝ってあげよう」

 

 パジャマを勢いよく脱ぎ捨てて、セーラー服とプリーツスカートに身を包む。立香の通う学校、穂群原学園中等部の制服だ。鞄をひっつかみ、上半分が紫で白のMと赤いパーツの付いた下半分が白いカプセルのようなボールのキーホルダーを揺らし、階段をドドドドド、と駆け下りる。

 

「納豆!」

 

 階段の下から数段を飛び降りて、ドリフトを掛けながらリビングのソファに鞄を放り投げて好物の名を叫びながら、キッチンに突撃。Tシャツの上にエプロンを付けた士郎が、卵焼きを作っていた。

 

「おはよう立香。今日は早いな。納豆ならあるぞ。でも悪いな。まだ混ぜてないんだ」

「おはようしろー。味噌汁のいい匂いがしてな。納豆は冷蔵庫?わたしがやる」

「相変わらずの嗅覚だな…。助かるよ。上の扉の一番下の段だ」

「美味しいご飯と家族の団欒と創作物がわたしの全て」

 

 士郎と挨拶を交わしながら手を綺麗に洗い、所在を確認した納豆を取り出し、ダイニングのテーブルの定位置に座ると、器に移してかき混ぜる。

 

「…シロウ」

 

 ヒャッハー!好物は粘り気だー!という謎のテンション(見た目に変化なし)で納豆をかき混ぜながら醤油やネギ等を足していると、いつの間にやらセラが下りてきていた。セラはそのしっかりとした性格からか、足音が小さいので立香は基本接近に気付けない。足音がしない訳では無いので、完全に立香の認知能力の問題である。アホだから仕方ない。しかしそんなアホでも気付く程、顔は暗い。立香はすぐに原因に気が付くが、何も言わない。

 

「ああ、おはようセラ。朝ご飯ならもうすぐ出来るぞ?」

「おーはよー、セラー」

「おはようございます」

 

 卵焼きを皿に盛り付けている士郎と、納豆をこれでもかと掻き混ぜまくる立香に挨拶をされ、セラは反射的に返す。こういう所からも、しっかりした性格が伺える。

 

「ではありません!シロウ!いつも言っているではありませんか!家事は私の仕事なんですから、あなたはしなくてもいいのです!」

 

 セラは怒っている。非常に。ここまで怒るのは士郎かリズに対してぐらいである。何だか最近は怒ることが多くなってきたな、なんてどうでもいい感想を抱きながら納豆の混ぜ具合をここに来て慎重に見極め始めた立香だった。

 

「いいじゃないか。セラはいつも頑張ってるんだし、たまには楽しても」

「ええそうですね。それが月に一度ぐらいで、事前に連絡があれば私も怒ったりはしません。ですがシロウ!あなたはそう言って昨日も朝食を…!」

「しょうがないだろ。早く目が覚めちまったんだから」

「仕方なくありません!大体、なんで貴方はそんなに家事が出来るのです!家政婦か何かですか!」

「誰が家政婦か。せめて執事(バトラー)と呼んでくれ」

「そういう事ではありません!」

 

 貴方はこの家の長男なんですから、と続けるセラと、別にいいじゃないか、とまったく反省してなさそうな士郎。

 セラはなんで朝からあんなに元気なんだろうなぁ、と気の抜けた感想を抱く立香。納豆の粘り気が強くなってきて、試しに少しつまみ食いしてみると、中々立香好みの強い風味とちゃんと残った豆の食感がして、一人でうんうんと頷いていた。

 

「しろー。納豆美味しい」

 

 士郎とセラの会話に割って入る。説教の途中だったが、どうせセラの説教はほっとくと小一時間ぐらい続くし、気にしない。

 

「混ぜ終わったとかじゃないんだな」

「つまみ食いはいけませんよ、リツカさん」

「大丈夫。これはつまみ食いじゃなくて混ぜ具合の確認。今日のは今のわたしに出来る最高の出来だからもうしない」

 

 平然と箸を置いて答える。どうやら今日は矛先がこちらに向くことはないようだったので一安心。

 

「ならいいのですが。シロウ、後はやっておきますから、リズとイリヤさんを起こして来て下さい」

「はいはい。わかったよ」

「あ、わたしも行く―」

 

 エプロンを片付け、階段を上る士郎に続く。

 

「じゃあ、イリヤを頼む」

「そんなにリズお姉ちゃんのおっぱいがいいのか?」

 

 あれはある意味暴力だよな、なんて事を思う。士郎が時々見ちゃっているのもしっかり知っている。ちなみに立香はそれ以上にガン見している。

 

「今何と?」

「ば、違う、誤解するな!主にセラ!そんな殺気立つな!最近イリヤを起こしに行くと年頃なのか嫌がられるからでだな」

「あー…それしろーに寝ぼけただらしない姿見られたくないからじゃない?」

「そうらしい。だから頼んだ」

「仰せつかった」

 

 階段を上りきると、丁度良くリズが眠気眼をこすって部屋から出てきた。キャミソールの肩紐が片方落ちて、ヘソ出しなのとショートパンツとも相まって艶めかしい。もっとも、胸が豊満なのに何故か色気をあまり感じないのだが。本人の性格だろうか。

 

「ぐーてんもるげーん、お二人さん。朝ご飯のいい匂いがする」

「おはようリズ。丁度呼びに来たんだ」

「おはよ。ご飯出来てるよー。しろー、イリヤは任せて、先に下りてて」

「わかった。ほらリズ、行くぞ」

「へ~い」

 

 立香は反転、階段を下りる士郎とリズとは逆に、イリヤの部屋に突撃する。

 

「ぐっどもーにーん、イリヤー。起きてる~?」

 

 扉を開けると目に入ったのは、布団を被り、すやすやと寝息を立てて安らかに眠っている義妹、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。シルバーブロンドの髪がカーテンの隙間から入る朝日を受けて、艶がかっている。寝顔はまるで絵に描いたかのような儚さと尊さを兼ね備えた美しきもの。

 

「寝てるなぁ。しかし今日も可愛い。天使かな。天使だな」

 

 はっきり言うと立香はシスコンである。それも重度の。10人が10人揃って間違いなく美少女と言う容姿に、擦れてない純粋無垢な性格、そして義兄に想いを寄せている、とくればシスコンになるのも無理はないのかもしれないが。勿論ブラコンだからってイリヤは立香を蔑ろにしていたりはしない。ちゃんと好いている。士郎と違って恋愛感情ではないが、イリヤは立香の事も大好きなのだ。だから立香が余計にシスコンなのだが。

 

「…ハッ、いけないいけない。見とれてないで起こさないと」

 

 ブンブンと首を振って意識を戻す。気を抜くと1時間や2時間ぐらい余裕で眺めてしまうから注意しなければ。

 

「イリヤ、起きてー。朝だよー」

 

 肩を軽く揺さぶって優しく声を掛ける。

 うーん、と唸った後、イリヤはゆっくりと瞼を開く。

 

「おねーちゃん…?」

「うん、お姉ちゃんですよー。おはようイリヤ」

「うん。おはよー…」

 

 眠気眼を擦って上体を起こし、欠伸をするイリヤ。立香は笑顔で挨拶する。

 

「さ、起きたなら着替えて下りてきてね。朝ご飯、しろーが作ってくれたよ」

「ほんとっ?」

「本当」

「じゃ、じゃあ、すぐ行く!」

「うん。急ぐのはいいけど、焦って転んだり怪我とかしないでね」

「大丈夫!」

 

 士郎が朝食を作ったのを聞くなり飛び起きて急いで着替えを引っ張り出すイリヤ。穏やかに笑って、立香は退出する。

 

「…可愛い過ぎかよ」

 

 部屋から出た後、閉めたドアの前で蹲っていたが。

 直ぐに立ち上がってダイニングへと向かい、定位置に座って皆が揃うのを待つ。士郎は一度部屋へ鞄を取りに戻っているらしかった。

 

「いただきます」

 

 全員揃って、手を合わせる。真ん中を少し凹ませた白米の山に、納豆を流し込んでガツガツ食らいつきたいのを抑え、なんとかセラに注意されない程度に行儀良く食べる。

 

「美味」

「おいしいよ、お兄ちゃん!また上手くなった?」

「くっ…どうして…!」

 

 三者三様の反応を示す。セラは自分よりも士郎の方が美味しく作れる事に悔しがっていた。一応、洋食ではセラに軍配が上がるのだが。

 

「美味しいならよかったよ。今日は何だか特別上手くいってさ」

 

 そんな、他愛のない会話の繰り返される、平和で優しい家族の団欒。しかしそれは、しばしの時が過ぎた折、セラの一言と共に崩れ去る。

 

「そろそろ学校へ行く時間ですよ」

 

 立香のプラスチック製の心が、音を立てて砕け散った。今日はまだ平日。学校へ行かなくてはならないのだ。ノリノリでセーラー服に着替えはしたが、立香は学校へは行きたがらない。単純に家から出たがらないだけだが。

 

「はぁ…早く土曜日にならないかな…」

「リツカさん、あなたももう少ししっかりして下さい。リズみたいになりますよ?」

「あんなナイスバディーに!?」

「ばいーん」

「そうじゃありません!あんな風にダメになってしまうと言っているんです!」

 

 条件反射で食いつく立香に、案の定セラは怒る。リズは自分の胸を持ち上げて巫山戯ているが。

 

「なんだぁ…そっかぁ…」

「お姉ちゃん…」

「諦めろ立香。学生の本分は勉強だ」

「がんばー」

 

 項垂れる立香を励ますのではなく折れさせる3人。ここには誰一人として立香をサボらせる人間は居ない。もっとも、立香自身別にサボる気自体は無いのだが。

 ゆっくりとした動作ではあるが、立香が準備するのに合わせて、士郎とイリヤも玄関に立つ。予鈴まで時間は充分。信号が全部赤でも歩いたって間に合う時間だ。立香としても急ぎたくないので、あまり粘らないのである。

 

「行ってきます」

「ええ、行ってらっしゃい」

「がーんばってねー」

 

 胸部の似ていないメイド姉妹に見送られ、兄妹揃って登校する。

 

「あ!」

 

 家から10分ほどだろうか。歩いていると、突然イリヤが何かを見付けたように声を上げた。4人分の名前を呼んで、手を大きく振ると、前方を歩いていた小学生4人組がこちらを振り向く。「おー、イリヤじゃん」「おはようイリヤちゃん」等と反応している。イリヤのクラスメイトで仲良し5人組の少女達だった。

 イリヤがこちらを向いて、友達の方を向いて、どちらと行くか悩むような素振りを見せる。友達とも居たいが、士郎と立香とも居たいのだろう。

 

「一緒に行こっか」

「いいの?」

「ああ。どうせ途中までは一緒だしな」

「うん!」

 

 そうして、7人に膨れ上がった団体様御一行は、横に広がらないように縦に長い集団になって登校するのだった。

 

 

 

「聞け。ザビ」

 

 時は流れ、穂群原学園中等部2年C組。立香は勢いよく鞄を机に置くと、そのまま友人である少年と少女の元へ向かい、その名を呼ぶ。

 

「どうしたぐだ子」

「おはようぐだ子」

 

 ザビ、と呼ばれた少年と少女が応える。

 岸波白野。何故か同姓同名の為、渾名で呼び分けがなされている。一方は、無個性の男、ザビ男。意味も無く飛んだり跳ねたりして無駄に疲れたしている系男子。そしてもう一方は、鉄の女、ザビ子。やたらと女子からモテる。容姿も声も似つかないが、本人達もビックリする程息がピッタリだ。現に今も、ほぼ同時に返事をしていた。実は生き別れの双子なんじゃないか、前世ではまるで相棒のような恋人だったんじゃないか、等と言われている程だ。本人達は前世同一人物説を推している。一体どうやってその説を解明しろというのだ。

 

「おはよう。妹が可愛いんだ」

 

 至極真面目な顔と声で、そう切り出す。

 

「そうか」

「今日の朝ご飯何食べた?」

「納豆。大丈夫だよ口臭対策はバッチリ。そもそも匂いの薄い奴だし」

「誰も臭いなんて言ってないよ?」

「好物食ったならそのハイテンションっぷりも納得」

「納豆だけに?」

「二度と面白い事言おうとするな」

「死にたいの?」

 

 駄目だったらしい。実際何も面白くなかった事ぐらいは立香も自覚している。が、面白くないと思っても言うのを我慢出来なかったのだ。アホだから。

 

 そんないつも通りの会話を続けつつ、特に変わったこともないまま時は放課後まで流れる。

 

「書けた」

「うむ」

 

 立香がザビ男から翡翠色の妙に大きなUSBメモリを受け取る。その際にボタンを触ってしまい、「サイクロン!」といったボイスが流れたが、誰もツッコミを入れる事はなかった。立香がパソコンに挿す際に「ジョーカー!」と叫んだ事にも。

 現在立香とザビーズ、その多数名が居るのは図書司書室。放課後は文芸部の部室でもある。今年は何故か3年生が居ないので、立香が部長を務めている。

 受け取ったデータは、述べ数万文字に及ぶいくつかのテキストファイル。製作中の短編小説群のものだ。夏前の作品展に出展する用のものだ。

 ザビ男は定位置である一番窓から遠い隅の席に戻り、焼きそばパンをかじりだす。その隣ではザビ子が、ロールケーキを食べながらティーカップで紅茶を飲んでいる。

 

「何これ尊い」

「よっしゃ」

 

 立香が思わず涙していた。ザビ男は自慢げだった。中身は、兵器として作られたホムンクルスの美少女と、争いを嫌う魔法使いの少年の、世界全土を巻き込んだ戦争を通した純愛ラブストーリー。人がゴミのように死んでた。立香が泣いたのは少女と少年の出会いのシーン。

 

「ぐだ子。時間」

 

 いつの間にかティータイムを終えたザビ子が立香に部活動終了時刻である事を告げる。モニターの右下に表示されている時計を見ると、読み始めてからそう経っていないが、確かに終了時刻だった。

 

「よし解散」

 

 パンッ、と手を叩き、テキパキとパソコンをシャットダウンしてノートやらメモリやらを片付ける。

 

「ザビ男、続き家で読むね」

「コピーはした?」

「しっかりと。勿論読み取り専用でね」

「ならばよし。返してよ僕の沈黙の騎士、じゃない、サイクロンメモリ」

「ほい」

 

 長机の上を綺麗に滑らせてザビ男の元へ。ザビーズで何かネタの中身について光域の聖剣士がどうのとか喋っているが割愛する。

 

「戸締りは任せたぞ、副部長ズ!」

「任せろ」

「仰せのままにー」

 

 鞄を担ぎ、立香は戸締りをザビーズに押し付け、自転車置き場にダッシュ。愛用の、フレームが太い車輪が特徴の、碧いラインの走る白い自転車に跨り、帰路に着く。

 道中、見知らぬ金髪の美少女に声を道を聞かれたが、とてもスムーズに伝えて一切の無駄を省き、帰宅した。

 

「イーリヤー!」

 

 最愛の妹の名を呼び、リビングに突撃する。

 

「おかえりなさい、リツカさん。家に帰ったらまずは、ただいま、では?」

「うん。ただいま、セラ。イリヤは部屋?」

「いえ、まだ帰ってきていません」

「そっかー。夕方だし、流石にもうそろそろ帰ってくるとは思うけど」

 

 イリヤはまだ帰っていないらしい。少し落胆した。

 友達と遊んでいれば、このぐらいの時間になる事も不思議ではない。むしろ小学生なんて、友達と遊ぶのが楽しければ時間を忘れてなんぼの生き物だ。立香もそうだった。というか今でもそうだ。

 外を見ても、日は傾いている程度なので、小学生の足で行ける距離に居るならまだ大丈夫だろう。が、それは心配しないのとは別である。といっても流石に冷静さを欠く程ではない。あくまで、暗くなる前に帰ってくるといいけど、程度のものだ。

 

「心配でしたら、探しに行ってみては?」

「うーん…友達と遊んでるんだろうし、やめとくよ。部屋に居るね」

「ええ。わかりました」

 

 いつもより少し重い足取りで、部屋に向かう。丁度いいので、ザビ男から預かっている原稿を今の内に読んでおこう。

 自室の机に置いてある一世代前のノートパソコンを立ち上げる。二年前にイリヤが商店街の福引で当てたものだ。イリヤは、よくわからないから今は必要ないと言うので、有り難く使っているものだ。

 データをコピーした黒色のメモリをセットし、読み進める。

 数時間が過ぎ、イリヤや士郎も帰宅し、全員で夕食と入浴を済ませた後。

 

「ぐっ…ぬぉ…ふぅ」

 

 大きく伸びをして、ザビ男に感想と誤字・脱字の報告のメールを送る。短編とはいえ幾つもあったので、読み終わるまでに結構な時間がかかってしまった。時計を見れば、日付が変わるまで1時間を切っていた。

 

(…寝るか)

 

 凝り固まった全身を解すように数十秒ほど軽くストレッチをして、ベッドに向かう。と、枕元のライトスタンドの所に、魔法少女ものの単行本が置いてあるのを見つける。昨夜、イリヤから借りたまま、返していなかったようだ。これはいけない、と手に取って、イリヤの部屋に向かう。

 ドアの前で、声が聞こえるか耳を澄ませるも、何も聞こえず。軽くノックして、入るよ、とだけ言って入室する。イリヤはベッドに潜って、すやすやと眠っているようだった。

 

「借りてた漫画、机に置いておくね」

 

 寝ているから聞こえてはいないのだろうが、一応伝えて、勉強机に置く。

 と、見覚えのないホルダーが机に置かれていた。ピンクと白の、オーソドックスな魔法少女っぽいものだ。気になって手に持ってみると、開いていたのか、中から1枚のカードが落ちてしまう。ホルダーを手に取っておいて今更だが、勝手に見ていいものかと逡巡するも、どちらにせよ戻さなければいけないので拾い上げる。

 カードは、横よりも縦の方が倍以上長い長方形の、タロットカードのような雰囲気のあるものだ。裏面が上になっていたのか、何処かで見覚えのあるような気のする魔法陣が描かれているだけだ。筐体にカードをスキャンして遊ぶタイプの、魔法少女もののアーケードのゲームがあった事を思い出した。もしかしたら、これをやる為に寄り道して、遅くなったのかもしれない。が、それにしては裏面に大きく魔法陣が描かれているだけなのは不思議だった。どんなカードゲームであれ、裏面にはゲームや企業のロゴや文字が書かれてるだろうに、このカードにはそれがない。

 カードゲームを嗜む身としては、ホルダーなんかに仕舞われていたのもあるが、裏面が魔法陣だけのカードを気にしないなんて不可能だ。

 

「…?…A、r、c…アーチャー…?」

 

 表と思われる面には、弓に矢を番えた女戦士が描かれていた。下部には英語で「Archer」と記されている。

 しかし、それだけ。カードには他の情報は何も記されていない。アーケードのものには詳しくないが、レアリティやらステータスやらが記載されている筈だ。さらには、読み込む為のバーコード等も無い。

 

「ごめんね」

 

 こそっと言って、カードを持って部屋を出る。向かう先は兄、士郎の部屋。一つ、気になる点があったのだ。

 

「しろー。入るよ」

 

 重なり合って見える程のハイスピードな九連打のノックの後、一言だけ告げて入室する。士郎は布団の上で座禅を組んで瞑想をしていた。空気に満ちる魔力の高まる夜更け、士郎は毎日欠かさず鍛錬を行っているのだ。

 

「どうした、立香。こんな夜中に」

 

 士郎が目を開いて、姿勢を崩した。邪魔をしてしまったかもしれないので申し訳ない気持ちも少しはあるが、士郎は少しも気にしていないようだった。

 

「見て欲しいものがある」

「見て欲しいもの?何だ、面白い動画でも見つけたのか?」

「残念今日は違う。見て欲しいのはこれ」

 

 士郎が少し動いて布団の上に座る場所をあけてくれたので対面に座り、イリヤの部屋から拝借した、「Archerのカード」を手渡す。

 

「これは…アーチャー…?」

「わたしにはさっぱり。カードゲームのカードにしては情報が書かれてなさ過ぎるし、何より…英霊エミヤって、確か、アーチャーのサーヴァントだったんだよね?」

 

 気になっている点。それは、エミヤがサーヴァントとして召喚されるクラスと、カードに記載された英単語が見事に一致していた事だ。

 

「…ッ」

「しろー?」

 

 カードの裏面を見た士郎が、目を見開いて驚いた。魔法陣が描かれていただけの筈だ。見覚えのあるだけの立香と違い、ハッキリと魔法陣の正体がわかったのだろうか。

 

「何かわかったの?」

「ああ、いや。わかったっていうか…この魔法陣が、サーヴァントの召喚に使われたものに、よく似ててな」

 

 サーヴァントの召喚陣。断片的とはいえ、士郎は平行世界のシロウの記憶を見ている。特に、土蔵でセイバーを召喚した時の記憶は、ずっと鮮明なままらしい。士郎曰く、「オレにとってはとても大事な記憶なんだ。それこそ、地獄に落ちても忘れられないぐらい」とのこと。

 立香にも見覚えがあったのは、士郎が拙い絵を描いてくれた事があったからだ。どんなものか見てみたくて、頼み込んだ数年前の出来事を思い出した。

 

「じゃあ、しろー。解析、お願い」

 

 まっすぐに頼み込む。士郎は、物質の構造把握能力に長けている。その最たる例が、解析の魔術。何の事はない、基礎の魔術だが、実を言うと立香には使えないもので、士郎の解析は、物質に宿る力すらも解析できるのだ。

 立香の見立てが正しければ、このカードはアーチャーのクラスのサーヴァントを召喚するもの。もしくは、召喚の為に必要になる魔法陣や魔力等の代わりになるもの。

 

「わかった。やってみる」

「ありがとう、しろー」

 

 士郎は頷くと目を閉じて、手に持ったカードに意識を集中する。

 

解析開始(トレース・オン)

 

 青白い淡い光がカードをつつむ。立香は邪魔しないように、静かに待つ。

 少しすると、光は消えて、士郎が目を開く。

 

「どう?」

 

 少し、身を乗り出す。

 

「正直、よくわからない」

「え」

「取り敢えず、これが高度な術式で編まれた魔術礼装の類だって事と、何らかの形で英霊の座に関わるものだって事だけはわかった。けど、具体的にどう使えばいいのかはさっぱりだ」

 

 士郎は首を振って、溜め息を吐いた。得意とはいえまだまだ未熟な見習い。しかし、それでも充分だ。

 

「っていうかこれ、何処にあったんだ」

「イリヤの部屋」

 

 事の重大さは重々承知だが、立香はケロッと答える。それを聞くと士郎は、とても驚いた顔をした。当たり前だが。

 丁度その時だった。忍び足なのだろうか、廊下を歩く軽く小さな足音と、小声で話しているのが聞こえる。恐らくイリヤだろう。誰と話しているのかはわからないが。

 

「トイレかな?」

「だといいんだけどな…」

 

 頷きあい、階段を下りる音が聞こえる内に、ゆっくりと部屋を出て跡をつける。

 案の定トイレではなかった。イリヤはパジャマではなく洋服姿で、靴を履いて玄関からこっそりと出ていってしまった。

 

「小学生が深夜徘徊かぁ」

「追うぞ」

「わかってるって」

 

 恐らくこの外出は先のカードと何か関係があるとみていいだろう。何せ英霊の座に関わるような魔術礼装だ。シロウが聖杯戦争を戦った平行世界と違いこちらのイリヤは封印状態だが、それでも小聖杯。魔術世界に巻き込まれていても不思議ではない。というより、間違いなく巻き込まれているだろう。

 急いで着替えて、イリヤを追って家を出る。近付き過ぎないようにして、走ればすぐに追い付ける距離を保つ。

 直ぐに止めないのは、魔術と関わっていないかもしれないという可能性を信じたいからだ。

 イリヤは毎朝歩いている道のりをなぞっている。実は学校に忘れ物でもして、こっそりと取りに行くのか、そうならばいいな、等と考えていると、イリヤは校庭に入っていく。しかしそれはイリヤの通う初等部ではない。士郎の通う、高等部のグラウンドだった。

 グラウンドの中央付近には、高校生ぐらいの少女と思われる人物が居た。イリヤは少女と何か話しているようだ。イリヤを呼び出したのだろうか。何か事情があるにせよ何にせよ、小学生を夜中に出歩かせるなんて酷い人物だ。そんな事を言おうとして隣の士郎を見ると、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

 

「ビンゴ?」

「ああ、そうみたいだな」

「マジかー」

 

 そうでなかったらよかったのに。何となくこの場に違和感があったのは、魔術によるものだったのか。

 

「じゃあ止め…あ」

「は?」

 

 止めよう。そう行動しようとした時だった。イリヤがピンク色の魔法少女チックなステッキ(遠目の為よく見えないが、多分星型のシンボルのステッキ)を握ると、洋服からピンク色の魔法少女衣装にコスチュームチェンジ、黒髪の少女と共に魔法陣によって、姿を消してしまった。

 

「「はぁ!?」」

 

 2人揃って素っ頓狂な声を出してしまった。が、仕方なかろう。いくら魔術の存在を知っているとはいえ、目の前で魔法少女に変身されて、その上転移までされてしまったのだ。そりゃ驚きもする。

 

「ウッソだろおい!」

 

 駆け出すも、先程まで魔法陣のあった場所には何もない。

 

「しろー!」

「わかってる!解析開始(トレース・オン)!」

 

 士郎が地面に手をつき、魔術の跡を探る。と、

 

「………嘘だろ」

「どった」

「ただの転移じゃない。別の空間―――それこそ、異次元とか、そんなぐらいの所に飛んでる」

「…ハ?」

 

 異次元。士郎はそう言った。異空間だの言い方は色々あるが、此処ではない別の世界のようなものだ。通常の魔術では、そんな事は不可能だ。まごうことなく魔法の域である。

 

「第二魔法じゃん、そんなの…」

 

 現代の科学技術でも結果を再現できるものは魔術、そうでないものは魔法に分類される。異次元レベルでなくとも、空間転移は現代では不可能。つまり、イリヤ―――もしくは一緒に居た少女―――は第二魔法に近いものを行使した事になる。目的は不明だが、追わないわけにはいかないのに、追うことが出来ない。

 

「第二、魔法…そうか、それなら…」

 

 士郎は立ち上がり、手をかざす。

 

投影開始(トレース・オン)

 

 士郎の右手に淡い光が集まるが、具体的なイメージが続かないのか、霧散してしまう。

 

「しろー?」

 

 精度が低くなる事はあっても投影に失敗する事はなかった士郎が、何も投影できなかった事に驚き、心配して声をかける。一体何を作ろうとしたのかも気になったので。

 

「…エミヤシロウの記憶で見たんだ。限定的な第二魔法を行使する剣を。…でも、今の俺の力じゃ無理みたいだ」

 

 握られた士郎の手は、力を込め過ぎているのか、震えている。

 

「やっぱり、俺じゃあ…イリヤを守れないのか…!?」

 

 ギリッ、と歯噛みする音が聞こえる。立香も気持ちは同じ。

 立香達見習い魔術使い程度では、第二魔法は遠く及ばない力だ。故に、追うのは不可能。

 何か、何か出来ないのか。焦る、そんな時だった。

 

 ふわりと、士郎の前に、1枚のカードが舞い上がる。アーチャーのカードだ。

 

 カードから、何かを感じ取ったのだろうか。

 

「…俺は…俺達は、イリヤを守る。守らなくちゃいけないんだ。だから―――」

 

 士郎は、カードに手を伸ばす。

 

「―――力を貸せ、エミヤ!」

 

 指先がカードに触れた瞬間、カードから稲妻が迸り、閃光が視界を埋め尽くす。

 

「しろー…!?」

 

 光が晴れると、そこにあったのは士郎の後ろ姿。白いマント、頭にはバンダナ、手には白と黒の刃。一体何が起きたのか、後ろ姿だけでは判別すら不可能だが、恐らくは士郎が、アーチャーのカードを使ったのだろう。まさか変身アイテムだったとは。立香も予想外だった。という事は、英霊エミヤはこんな格好なのだろうか。

 今はどうでもいい感想を振り払い、士郎に声をかけようとすると、士郎は先と同じようにイリヤ達が居た場所へ右手をかざし―――

 

投影開始(トレース・オン)

 

 ―――幾つもの宝石の集合体のように光り輝く“それ”を、()()した。

 

 

 ― ― ― ― ―

 

 

 転移して少し経った。時間にして数分から10分程度だろうが、それでも少女、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンにとっては長い時間のようにも感じた。

 何せ、生まれて初めて(正確には昨夜から2度目)の魔法少女への変身、そして、

 

「な、何かヤバイ雰囲気…!」

「確かにヤバイですね―」

 

 クラスカードから実体化した、黒化英霊との戦闘を繰り広げていたのだから。

 

「イリヤ!そいつ、宝具を使う気よ!逃げなさい!」

「に、逃げるって、どこへ!?」

 

 一緒に来たツインテールのあかいあくま、もとい遠坂凛はそんな指示を出すも、イリヤには逃げる先もわからない。というか宝具って何、目の前のボディコンの美女っぽいアレって何、というような疑問ばかりが次々に生まれてくる。

 言われるがままに魔法少女へ変身(転身)し、魔力弾を撃ち、形や撃ち方を変えてようやくヒットさせたと思った矢先に、敵は赤っぽい魔法陣を出して力を溜め始めた。

 わたわたと慌てる程度ならまだ可愛いもの。このごくごく普通の小5女子の頭がパンクしてないのが不思議なぐらいだった。

 

 とにかくヤバイのはそうらしいから、せめて距離だけでもとろう。イリヤが足を動かした瞬間。

 

「―――我が骨子は捻れ狂う(I am the bone of my sword.)

 

 どこからともなく、聞き覚えのあるような、ないような、そんな声が聞こえた。

 

「―――偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)

 

 声と共に、空間を切り裂くような形容し難い音が響き、ナニカが飛来する。“それ”はイリヤの目の前で力を溜めていた黒化英霊を貫くと、黒化英霊ごと爆発し、砂埃を巻き上げた。あまりの威力に立っていられなかったイリヤは、尻餅をついてしまう。

 

「な、なに!?なんなの!?」

 

 驚いて声を上げたのは自分だろうか、それとも凛だろうか。しかしどちらにも、返答はない。

 イリヤが“それ”が飛来した方向へ首を捻る。

 

 まず目に入ったのは雪のように白いマント。次に、頭に巻いた黒いバンダナ。金の刺繍の入った右腕の露出した黒い外套と、右手に持ち、こちらに向けて構えている刃付きの白い拳銃と、左手に持った刃付きの黒い拳銃を合わせた二丁拳銃。そして、左だけの、濁った金色の虹彩。

 

「お、にい、ちゃん…?」

 

 服装は見慣れない。拳銃など持っている筈がない。何よりこんな所に居る筈がない。それでも、その人物は、イリヤの兄、衛宮士郎だった。

 




という訳で、士郎には、アーチャーのクラスカードを夢幻召喚して戦ってもらう事にしました。
ええ、お気付きの通り、士郎が夢幻召喚したエミヤはボブです。
理由なんて格好いいからに決っている。
嘘です半分は美遊兄との差別化です。

では今日はこのあたりで。続き何も考えてないです。
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