Fate/kaleid liner プリズマ☆ぐだ子   作:普通の燃えないゴミ

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皆さんお久しぶりです、普通の燃えないゴミです
もし待って下さっていた方が居たら正直に謝ります。遅れて本当にすみません
理由?FGOとマリオオデッセイとポケモンしてただけですよ。あとついでに試験勉強
マーリンとエミヤが最終再臨になったりして嬉しかったので頑張って書き上げて投稿しました
12月は試験無いけど多分忙しいので更新はもしかすると年明けだ!ごめんなさい

ではサブタイでネタバレしていく第三話、どうぞ


03 パラレルオーダー

 

 少女が居た。

 少女は黒いナニカを纏っていた。表情も格好も何もかもが違うけれど、見覚えがある。自分はこの少女をよく知っている。優しくて、思いやりがあって、とても頼りになる少女だ。

 声が聞こえた。

 何かを言っている。少女ではない。他に人は居ない。ただ黒いモノがあるだけ。そうだ、これは、自分の声だ。なのにどうして、何を言っているのか聞き取れないんだろう。

 亀裂が走る。

 視界が(ひび)割れるように、金色が入り込む。邪魔だ。どいていろ。こんなものがあっては見えない。

 また、声が聞こえた。

 誰が何を言っているんだろう。また自分の声だろうか。最早、誰が喋っているのかすら判別出来ない。ギリギリという金属音が、直接頭に響いていた。

 金色の罅が視界を覆う。

 もう、何も見えない。聞こえない。感じない。けれど、はっきりとわかった。そうだ。確かに、

 

 殺した。

 

 

 

 

 

「―――ろー。しろー!」

 

 声がした。立香の声だ。

 

「ん…あぁ…立香。おはよう」

 

 どうやら起こしてくれたようだ。時計を見ると、時刻は6時半。いつも通りの時間だ。

 

「うん。グッド…とはいかないみたいだね」

「え?」

「凄い汗。うなされてたみたいだし、嫌な夢でも見てたの?」

 

 確かに汗をかいている。寝間着にしているTシャツが肌に張り付いて、嫌な感触だ。さっさとシャワーを浴びて汗を流したいところだ。

 

「ああ、そう…あれ?」

「どしたの?」

 

 首を傾げると、立香が心配するように覗き込んでくる。

 

「いや、どんな夢を見てたか…っていうか、夢を見てたかどうかも思い出せなくってな…」

「マジかー」

 

 夜の間は大して暑くもなかった。それでもこんなに汗をかくのだ。酷い夢だったのは想像に(かた)くない。なのに何故か何も思い出せない。自分は本当に夢を見ていたのだろうか。ただ普通に、気付いていないだけの体調不良とかで寝苦しかっただけなのだろうか。まるでそこだけがぽっかりと穴が空いたように、昨晩イリヤと立香とヘンテコステッキと共に帰宅した後、布団に入ってからの事が何一つ思い出せない。

 

「まぁ、うなされるぐらいの夢だったんだろうし、思い出せないならそれはそれでいいんじゃない?嫌な夢なんて覚えててもしょうがないし。っていうか夢って起きたら忘れてるもんじゃないの?」

「そう…だな。気にしないでおくか。って、うわ、こりゃ布団洗った方がいいかもな…」

 

 頷く。確かに、夢など別に気にするほどのものでもないだろう。そんな事よりも寝汗でぐっしょりと濡れた布団の方を気にするべきだろうと思った。

 

「布団はやっとくから、しろーはシャワー浴びてきなよ。そんだけ汗かいたら結構気持ち悪いんじゃない?」

「あぁ、まぁ早くシャワーは浴びたいけど…いいのか?」

「いいって。ほら早く着替え出して、行った行った。風邪引くよ?」

「わかった、わかったって。押すな」

 

 ぐいぐいと布団から押し退ける立香を制して立ち上がり、箪笥から着替えを出すと、部屋から押し出される。鍛えているせいか、とても女子中学生の膂力(りょりょく)には思えない。

 

「っと。立香」

「うん?」

「ありがとうな」

「どういたしまして。じゃあ夕飯、とびきり美味しい麻婆春雨期待してる」

「はいはい。仰せのままに」

 

 今日の夕食当番は士郎だ。やっぱり好物のリクエストが狙いか、と呆れてしまう。

 

「そういえばしろー」

「どうした?」

「昨日のあの姿。あれは、英霊エミヤなの?」

「…ああ。俺の知っているエミヤシロウじゃなかったけど、あれもエミヤシロウの1人だ」

「そっかー。流石、平行世界の同一人物なだけあって、いっぱい居るのね。引き止めてごめん。布団やっとく」

「いいさ。じゃあ、頼むな」

 

 1階に移動し、朝食を作っていたセラに挨拶をしてから風呂場に行き、シャワーを浴びる。

 ふと、鏡に映る自分に、違和感を覚えた。

 

(色が…変わってる…?)

 

 左腕と左目付近の前髪の一部が変色している。いや、正確には、記憶にある限りでは始めから左手は褐色の肌という意味合いの黒で、髪も白髪混じりのようなものだった。しかし今鏡に映っている姿ほど、変色域は大きくなかった。昨晩、入浴した際には、左手首から二の腕にかけて、斑点のように黒っぽくなっていて、前髪の白い部分も髪型を変えれば隠せる程度の大きさだったのだ。それが今や、掌や肩、ほんの一部分を残して黒くなっており、白髪はどう頑張っても隠せそうにない。

 

(投影魔術の反動、か…)

 

 エミヤシロウの記憶を思い出す。英霊エミヤは丁度、今の士郎の変色した部分のような肌色と、髪色だった。褐色肌に白髪で筋骨隆々、鷹を思わせる鋭い瞳の武人。それが英霊エミヤの姿。確か、度重なる投影魔術の行使による無茶がたたって、魔術回路が漏電するように身体の内から焼け焦げ、変色してしまった筈だ。違ったような気もするが、思い出せない上に小難しい理屈は理解出来ないので、今は頭の片隅に追いやる。

 今自分に起こっている変化も、同じものだろう。士郎の魔術に関する知識は浅い。エミヤシロウの記憶を合わせても、恐らく凛やルヴィアには敵わない。だから詳しい事はわからない。けれども、確かに投影魔術の反動である事は理解出来た。

 初めて行う、計8度に及ぶ、宝石剣や干将・莫耶、偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)の投影、それの真名解放や壊れた幻想(ブロークンファンタズム)に、英霊との戦闘。最近になってようやくちゃんとした刃物として使えるレベルの投影が可能になった所で、力を借りているとはいえ無茶な投影。そりゃあ、反動もあるだろう。むしろ、体を動かすのに支障がないのが不思議な程だ。

 体の動きや感覚の異常が無い事を確認してから、風呂場を出て、いつも通りのTシャツに袖を通す。布に覆われれば手首から先しか見えないが、それが逆に肌色の違いを際立たせる。自分はもう慣れているが、やはり左右の手で肌の色が違うのは変だろうな、と思う。一応、10年前の火災で負った火傷の痕という事にしてあるが、さて、範囲が拡大してしまった事がバレた時、どう誤魔化したものか。悩みのタネが一つ、予想外の所で増えてしまった。

 

「まぁ、見える事もそんなにないだろうし、悩む程でもないか」

 

 この数時間後、士郎は自分の考えが甘かった事を思い知る。弓道部の後輩によって。

 

 

 

 ― ― ― ― ―

 

 

 

「すっごー…」

 

 夕方。情報共有と互いの立場の明確化をするとの事で、士郎、立香、イリヤの3人は、エーデルフェルト邸―――何故か学校に行っている間に家の向かいに建っていた西洋風の大豪邸―――に訪れていた。

 そういえば話し合いの時間と場所を決めていなかったな、と立香が考えながら帰宅した際、士郎がその疑問に答えてくれた。どうやら今日の昼、昨日の内に同じクラスに転校してきていたルヴィア(凛も同じクラスらしい)に、学校からこの豪邸までの地図を渡されていたのだ。尤も、地図を見るまでもなく、あの金髪ドリルのお嬢様が住んでいそうな雰囲気はするのだが。というかこんな地方の閑静な住宅街に大金持ちがそう何人も居てほしくない。もっと豪邸が建ち並ぶ、高級住宅街に外車とか何台か置いて住んでいてほしいのだ。そうじゃないと、こう、夢がない。

 門から長い石畳を歩き、大きなシャンデリアが照らす邸内を、客間まで通される。ルヴィアと凛、そして美遊と蒼いステッキは既に揃っていた。

 

「皆様、ようこそおいでくださいました。さ、どうぞおかけ下さいまし」

 

 優雅に、気品溢れる動作で、ルヴィアから座るよう促される。

 

「ああ、ありがとう」

「失礼します」

「し、失礼しまーす…」

 

 出来るだけ音を立てたりしないように、気を付けて椅子に座る。落ち着いた雰囲気の部屋によく合う、普通の椅子っぽかったが、座ってみると結構お高い良い物な感じがした。というか豪邸にある家具が庶民の感覚で普通の家具なわけがないのだが。

 

「それじゃ、早速始めましょうか。全員、キリキリ吐いてもらうわよ?」

「って言っても、俺達もわかる事はそんなに多くないぞ」

「構いませんわ。わかる事を、わかる範囲で話して下さい。ひとまずはそれからですわ」

「わかった」

「りょうかーい」

 

 見た目と昨晩の高笑いから、少しばかり嫌味な人種なのかと思っていたが、印象よりも断然いい人っぽかった。立香は認識を改めた。

 

「とりあえず、自己紹介からの方がいいよな。そっちの子とは初対面だった筈だし。…初対面、だったよな…?」

「…はい」

 

 士郎がルヴィアの隣に座っている少女―――確か、ミユ、といったか。に若干不安そうな顔で確認を取る。「お兄ちゃん」呼びと共に抱きつかれたりもしていたが、本当に初対面らしい。

 

(初対面の年上の男性に「お兄ちゃん」と言って抱き付いたのか、この子は…)

 

 事情があるんだろうが、いかんせん立香は何も知らない、わからない。なので、きっと大好きなお兄ちゃんに似てて、嬉しくなってついやっちゃったんだろうな、と思う事にした。

 

「俺は衛宮士郎。イリヤと、こっちの立香の兄だ。よろしく」

「…よろしくお願いします」

 

 声色は暗い。顔も少し暗い。何と言うか、如何にもワケアリという感じだった。もしかしてさっきの考察は当たっているのでは?しかしそれはそれ。他人の事情に積極的に首を突っ込むべきではないので、気にしない事にした。

 

「じゃー次わたしかな。衛宮立香。イリヤの姉でしろーの妹。よろしくお三方。ほら、イリヤも。初対面の人居るんでしょ?」

「う、うん」

 

 ニコリ、と人当たりの良さそうな笑顔を浮かべてみた後、イリヤにも自己紹介するように促す。

 

「イリヤスフィール・フォン・アインツベルンです。えっと、よろしくお願いします」

 

 ペコリ、何をどう言えばいいのかわからないのだろうイリヤは、それでもちゃんと頭を下げる。やはりいい子だ。最高の妹だ。自慢したくなったが自重する立香。

 

「まさか士郎に2人も妹が居たとはね…」

「そんなに意外か?」

「まぁ、意外と言えば意外かもね。何か妙にしっくりくるけど」

「?」

 

 意外かどうかはさて置き、兄妹間で苗字が違うというのは珍しいだろう。実際立香も特殊な事例であると理解している。それよりも、何かがひっかかった。

 

「さて、こっちの番ね。私は遠坂凛。士郎とはクラスメイトなの。よろしくね。凛、でいいわ」

 

 黒髪ツインテの美少女は名乗る。学園のマドンナと言った感じだろうか。こんな美人と一緒のクラスで、しかも下の名前で呼ばれる程親しいとか許すまじ、なんて思ったが、流石に空気を読む立香。口は開かない。が、ここでひっかかった者の正体に気付いた。

 下の名前で呼ばれているのだ。士郎が、士郎と。いや、それ自体はさして問題ではない。横のはシェロって呼んでるし、自分だってお兄ちゃんじゃなくて名前で呼んでる。しかし、昨晩は確かに「衛宮君」と呼んでいた筈なのだ。まぁどうせあの朴念仁の事だ。自分が居るから「苗字は被ってるから下の名前でいい」とか言ったんだろう。間違いないな。立香はそう考えついて、勝手に納得した。立香は知らないが、実際あっている。

 

「私はルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト。エーデルフェルト家の現当主であり、シェロとはクラスメイトです。ルヴィア、と呼んでくださいまし」

 

 続いて金髪ドリル。豊満なバストをこれでもかと自信満々に見せ付けるように胸を張り、しっかりと名乗る。シェロ。立香が士郎から聞いた話では、士郎と言う名前はどうやら発音し辛いらしい。

 

「…私は、美遊。美遊・エーデルフェルトです」

 

 最後は純日本人と言った黒髪に、琥珀色の瞳の幼女。此処に来るまでに聞いた話では、イリヤと同じクラスに転校してきたらしい。何と言う偶然、これは最早運命では。

 対面に座る3人が自己紹介し終え、これで全員分終わった。

 

「ではお次は私!改めまして士郎さん、立香さん。魔法使いキシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ作、カレイドステッキに宿る人工精霊、マジカルルビーでーす!ルビーちゃん、って呼んでくださぐおっふぉぁっ!」

 

 終わってなかった。そう言えばステッキも喋るんだったな、と思い出した。昨晩、帰り道で軽い自己紹介をした気もするが、謎の律儀さを発揮されている。

 星と鳥の羽根をモチーフにしたピンク色のステッキが、星と蝶の羽をモチーフとした蒼いステッキによって、机上に叩き落された。震えて、ダイイングメッセージを描こうとしている。しているだけで、出来てはいないが。

 

「姉さん、自己紹介ぐらい落ち着いてして下さい」

 

 ピシャリと蒼いステッキは喋る。うん、その通りだ。巫山戯るのは立香は大歓迎だけれど。ルビーが動かなくなった。死んだか。

 

「申し遅れました。私はマジカルサファイア。姉さんと同じく、キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ作の、人工精霊です。サファイアとお呼び下さい」

 

 器用に羽根を折ってペコリと一礼する。何と言う礼儀正しさ。敬語使わない系の友人にも見習わせたい。

 

「さ、これで自己紹介は終わりね。本題に入りましょう」

 

 透き通った、意志の強い声で凛が言う。言わずもがな、尋問タイム

 

「ああ。これからは俺と立香もクラスカードの回収に参加させてもらう。いいよな?」

「ふぇ!?」

 

 だと思ったのだが、先に士郎が発言した。まぁ、その為に来たのだから当然と言えばそうなのだが。イリヤは意外だったのか、驚いている。きっと、イリヤを関わらせないでくれ、とか言うと思っていたのだろう。実際言いたくはあるのだろうが、無駄だともわかっているし、何よりも、士郎のお人好しはその上を行くのだ。勿論立香もだ。

 

「その前に。士郎、それと立香。あなた達は、味方でいいのかしら?」

 

 机に肘をつき、組んだ手で口元を隠すポーズで、凛は尋ねる。目がちょっとマジ過ぎて恐いと思ったのは内緒だ。

 

「ああ。俺達は遠坂達と戦う気なんて無い。な、立香」

「うむ。しろーはそんな事無いって思ってるから言わないんだろうけどわたしは敢えて言う。あなた達がイリヤの味方である限りは、わたしらはあなた達の味方」

 

 実を言うと立香も敵対する事は無いだろうと思っている。何となく、魔術師というには甘い気がするのだ。この、凛とルヴィアと言う人物は。

 

「安心して。イリヤを傷付けるつもりは無いわ」

「その口ぶりからすると、アナタ方は、妹であるイリヤスフィールを守りたいのですね?」

「そうだ」

「相違なーい」

 

 ルヴィアの問いに士郎が答え、立香も頷く。

 

「それじゃあやっぱり、魔術協会の所属って訳じゃなさそうね」

「ですが、魔術協会の者でないのなら、何故魔術を?目的から察するに、他の魔術組織に属する訳でもなさそうですし」

 

 と、ルヴィア。もっともな質問だろう。現在世界の魔術師の大多数は魔術協会に属している。聖堂教会やその他の組織に属する場合もあるが、それでもどこかの組織には属する筈である。ほとんどの場合は。

 

「いや、わたしらはほら、魔術使いだから?」

「魔術使い?」

「っていうかなんで疑問形なのよ」

「魔術師ってのは、魔術を研究して、根源に至ろうとする、学者みたいなもんでしょ?」

「そうなの?ルビー」

「ええ。ほとんどの魔術師はそうです。勿論凛さんとルヴィアさんも例外ではありません」

「そうね。その認識でいいわ」

「わざわざそんな事をおっしゃるという事は、アナタ方は違うのですか?」

 

 何となくわかったのだろう。そりゃまぁわかりきった事を説明されれば思いつくだろうが。

 

「そういうこと」

「良くは思わないかもしれなけど、俺たちは魔術をただの力としてしか見てない。根源には興味が無いんだ」

「だから魔術使い、ね…それじゃ、どこにも所属してないのね?」

「いぇーす」

 

 伝わったようだ。よかった。

 

「無所属なのでしたら、それはそれで魔術を知っている理由が気になりますね」

「衛宮家は魔術師の家系なんですか?イリヤさんはなーんにも知らなかったようですけど」

 

 尋ねるステッキ。養父切嗣も養母アイリも魔術師である。一応教導されてはいたものの、魔術そのものは基礎の強化しか教わっていないので、受け継いだとは言えない。それに、情報の隠匿に努めている2人の邪魔をするような真似をしたくないので、そうとも違うとも言い辛い。

 

「家の事は知らん。イリヤが知らなかったんなら違うんじゃない?そもそもわたしとしろーは養子だし」

 

 なので、知らない事にした。

 

「養子、ですか」

「苗字が違うのはそういう理由でしたかー。それなんて」

「それ以上はいけないぞヘンテコステッキ。名字が違うのは夫婦別姓なだけ。わたしらは日本人…日本名?だから衛宮なの。イリヤはハーフで、母親似だからアインツベルン」

「なんだかややこしいのね。あなた達の家って」

「そう、なのかな?」

「まぁ、多分家系図は書きにくいね」

 

 主にセラやリズが。メイドではあるが、一応アインツベルンのホムンクルスであり、血縁がどうとかを除いても家族なので、出来れば立香は家系図に書きたい。実際学校の宿題で家系図書く時に書いた。

 

「っと、家の事はまぁ気にならないとは言わないけど後回し。士郎、魔術を使える理由はなんなの?」

「あー…どこから話したもんか。10年前に、冬木で大火災があったのを知ってるか?」

 

 士郎が口を開いた。どうして今その話を。いや、しかしそれなら何とかなるかもしれない。

 

「そうなのですか?」

「ええ、あったわ。死者500人、倒壊した建物は100以上。とんでもない地獄絵図だったって聞いてるわ」

「イリヤも習ったよね?」

「うん。前に社会見学の時にみんなで献花しに行ったよ」

 

 社会見学というと引率もあの先生だろう。流石タイガー。やっぱいい人だ。

 

「それで、その災害がどうかしたのですか?」

「俺が魔術を使えるようになったのは、あの火災の時だ。細かい事は俺もよく覚えてないけど、俺はあの火災で、立香を守る為に魔術を使った。それが最初だ」

「偶然使えるようになったと?」

「知ってるだろうけど、魔術ってそんな簡単なものじゃないわよ?」

「わかってるさ、そのぐらい。けど、本当なんだ」

「にわかには信じられませんが…嘘ではないようですね…」

「…まぁ、いいわ。その時に何があったかは知らないけど、まともな状況じゃなかったのと、事情はわかった」

 

 確かに世界と契約して死後に守護者になる代わりにその力を使えるようになった、なんてまともじゃないかもしれない。主に死後に守護者になる部分とか。

 

「うん。これはわたしが魔術を知ってる理由が聞かれるパターンですね」

「ですねー」

「お聞かせ下さい」

「OKOK。しろーがわたしを助ける為に使った魔術を見たからだよ。それでわたしも練習して、使えるようになった。わたしも、誰かを守れる力が欲しかった。だから魔術を習得した。わたしらが魔術を使う理由なんてそれだけ」

 

 正確に言えば、立香には「格好いいから」という理由もあるが、今は言う必要が無いと判断した。巫山戯ていると思われるのも良くないし。

 

「大体わかったわ。それなら問題は無さそうね」

「問題無いというと?」

「士郎と立香もクラスカード回収の任務への参加を許可するわ」

「マジっすか」

「本当!?凛さん、ルヴィアさん!」

「ええ。本来ならば許可出来るものではありませんが…」

「しなかったところで、どうせ来るだろうし。それならいっそ、最初から居てくれた方がいいわ」

 

 よくわかっているお二人だ。そういうのは嫌いじゃない。

 

「ありがとう、2人とも」

「こっちこそ、戦力が増えるのは有り難いわ。それに、結局昨日戦ったのはほとんど士郎だった訳だし」

「私と美遊、シェロがいればクラスカードの回収は達成したも同然。これからよろしくお願い致しますわね、シェロ」

「ああ。よろしく頼むよ、遠坂、ルヴィア、美遊」

「…はい。よろしくお願いします、士郎、さん。立香さん」

「呼びにくいんなら、お兄ちゃんとかお姉ちゃんとかでもいいんだよ、美遊ちゃん」

「お姉ちゃん!?」

「えっと、その…」

「立香。あんまり巫山戯るのはよせ。困ってるじゃないか」

「へーい。あぁ、しろーもわたしもへっぽこの見習い魔術使いだけど、大丈夫。足は引っ張らない」

 

 実際、立香も士郎も、強力な魔術なんて何一つ会得していない。士郎にはエミヤシロウの記憶で見た大魔術があるそうだが…まだ使えないそうだし。

 

「へっぽこ、というのは少し謙遜しすぎでは?少なくともシェロは昨晩、ライダーを追い詰めたのでしょう?」

「いや、俺は強化と解析と投影しか使えないへっぽこだ。あれはほとんどこのカードの力があったからだ。それに、あのまま長引いたら、危なかった。だからトドメを刺してくれて助かったよ」

 

 アーチャーのクラスカードを見せながら士郎は言った。嘘ではない。が、ライダーは確実に仕留められただろう。もっとも、その場合、士郎は無事では済まないだろうが。

 

「そう、それよ!クラスカード!どうして士郎が持ってるの?まさかイリヤ、あんたが解析でも頼むのに渡したの?」

「ち、違うよ凛さん!」

「そうだぞ遠坂。イリヤを疑うのはよしてくれ。大体、俺達が魔術使いなのすら知らなかったんだから、そんな事思いつく筈がない」

「じゃあますますなんで士郎が持ってるのよ」

「カードは立香さんが士郎さんに渡したんですよー」

「は?」

「いやー、起きる前に返せばいいかと思ってたんだけど、間が悪かった」

 

 いや本当に、夜中に小学生が出歩くなんて思わなかったので。たはは、と苦笑いを浮かべてしのぐ。

 

「ルビー!あんた何で止めなかったのよ!」

「えー、だって一般人にワタシの事を知られる訳にはいかないじゃないですかー」

「ぐっ、確かにそうだけど…!」

「それにー、そっちの方が面白そうですしー」

「やっぱそれが理由か!」

 

 凛がルビーの羽を掴んで、伸ばしたり曲げたりして怒りをぶつけている。面白い同時に楽しそうだと思ってしまった立香だった。

 

「どうして持ち出したのですか?」

 

 凛がルビーで遊び出したので、ルヴィアが進める事にしたらしい。

 

「魔術礼装っぽかったから、士郎に解析してもらおうかな、と。そしたらイリヤが出掛けちゃって。追い掛けたら、その後は知っての通り」

 

 とてもふんわりざっくりした説明。語彙力が貧弱な為、これが限界なのだ。バカは辛い。

 

「魔術礼装っぽかったからって…いや、そこはもういいわ。問題は士郎よ士郎。どうしてカードを使えたのか、教えてくれるわよね?それも限定展開(インクルード)じゃないあんな使い方…」

「時計塔の総力をもってしても、限定展開まで漕ぎ着けるのがやっとでした。それをまるで英霊と一体化するかのようなあの使い方…。シェロ、アナタは何者ですの?」

「えっと、ただの魔術使いっていうので納得…」

「しないわよ」

「しませんわ」

「しない」

「しません」

「しないですねー」

「出来ません」

 

 凛もルヴィアもイリヤも美遊もルビーもサファイアも、みんな納得しないらしい。まったく。どんな力を使えようとも士郎は士郎だろうに、何をそんなに気にするのだろうか。立香には理解出来なかった。バカなので。

 

「だよな…。アレは、英霊と一体化して、力だけを借りてたって感じだった。って言っても、ほとんどカードの方からやり方が流れ込んできたから、俺も詳しい事はわからない。もしかすると、俺と英霊の相性が良かったのかもな」

 

 濁すような喋り方。立香も知っているが、実際士郎は理屈とかは全く理解出来ていない。それでも出来たのは、エミヤシロウだからだろう。流石平行世界の同一人物。相性が良いとかそういう次元じゃない。

 

「そのような事が…」

「って言っても、実際なーんにもわかんないみたいですしねー。嘘発見器も反応してません」

「何か変なアンテナ出てる!?」

「いつの間にそんなものを…!?」

「便利だな。一個くれ」

「脱線しないで下さい。お願いですから」

「すまなんだ」

 

 ルビーからヘンテコアンテナが出てたので交渉を持ち掛けた所、サファイアに止められてしまった。立香は今日帰り道にでももう一度交渉する事を決めた。

 

「それで?体はどうなのよ」

「体?どうしてだ?」

「さっきも言ったでしょう?時計塔の総力をもってしても、限定展開がやっとなの。クラスカードはまだ未知の部分の方が多いのよ。それなのに全く違う使い方をして、しかも英霊と一体化なんて。何か体に違和感とか、後遺症とかはないの?」

「そうなの?」

「だ、大丈夫なの!?お兄ちゃん!」

 

 イリヤは勿論、美遊も先程までより浮かない顔で心配しているのが見て取れた。士郎の事をとても気にしているようだ。やはり、兄と重ねているのだろうか。

 友人の言葉が頭を過る。『過ぎたる力は身を滅ぼす』。何故今まで気付かなかったのだろう。もしや今朝うなされていたのもそのせいだろうか。

 

「いや、それが、今の所は何ともない。体調もいつも通りだし、魔術回路の調子ならむしろ良いぐらいだ」

「本当に?」

「…嘘では無いようですね。何も反応がありません」

「ならばよし」

 

 イリヤが追って尋ねると、ルビーがすかさずヘンテコアンテナをグルグル回して謎画面を出して嘘じゃない事を示す。後遺症がないならOKだ。美遊も安堵しているようだ。口には出さないし表情もわかりづらいが、多分めちゃくちゃいい子に違いない。仲良くなれたら思い切り甘やかしてあげようと思った立香だった。

 

「そう。取り敢えずは大丈夫そうね。よかった」

「ですが、クラスカードは未知の力です。もし何かあれば、直ぐに言って下さいまし」

「ああ、そうさせてもらう」

 

 随分と親身になってくれる。もしや、フラグか。フラグだろうな。間違い無い。この短期間でフラグを構築していた兄に感心しつつ呆れてしまった。

 

「それはいいのですが、士郎様はもう一度クラスカードの力を使えるのですか?」

「ああ、それは大丈夫だ。1度試した。表現しにくいけど、こう、カードを持ってたらわかるんだ。この力を使える、って」

「ランサーとライダーはどうなの?」

「美遊、カードを」

「はい」

 

 美遊から2枚のカードを受け取り、士郎は一度目を閉じる。

 

「…」

「どう?」

「…」

「…ちょっと、どうなのよ」

「何とか言って下さいまし」

「えーっと…多分、無理だ。アーチャーと一緒のやり方でいいのかどうかもわからない」

「そう。じゃあ士郎にはアーチャーの力で昨日みたいに戦って貰うわね」

「ああ」

 

 アーチャーなのに近接戦を強いられている士郎。しかも拳銃で。弓じゃないだけマシだろうか。もっとも、エミヤシロウの能力は無限の剣を内包する固有結界と、そこからの武具の投影であり、近・中・遠距離・白兵・狙撃何でもござれのオールラウンダーらしいので問題はないだろうが。

 

「そういえば、アーチャーの英霊って誰なの?限定展開じゃ黒い弓だけだったのに、英霊の力を使った士郎の武器は二丁拳銃だったし。しかもあんなデカい刃のついた。薙刀もあったっけ。どういう事なの?」

「シェロなら、わかるのでは?」

「わかるにはわかるけど、アーチャーは未来の英霊だから、真名を言っても何処の誰かはわからないと思うぞ」

「未来の?」

「納得。何の変哲もない弓だけの英雄や騎士なんて、聞いたことないもの。せめて矢が無いとね」

「えーっと、質問」

「はい、イリヤさん。どうぞ」

 

 手を挙げたイリヤに、ルビーが発言を促す。

 

「未来の英霊、ってどういうこと?未来の人なんて、知りようがないんじゃないの?」

 

 過去の英雄ならわかる。アーサー王やジャンヌ・ダルク、織田信長なんかは、このご時世知らない人間の方が少ないレベルだろう。だが未来となれば、誰にもその正体は掴めない。というか、居るかどうかすらわかりようがない。なのに何故、そんなものの力を宿せるのか。そういう意味の質問だろう。

 

「なるほど。未来の事なんて普通は知りようが無いですもんね。もっともな疑問です。英霊の座には時間の概念が無いんですよ。そういうのから外れた、理の外側にあるんです。ここまでいいですか?」

 

 立香は驚愕した。巫山戯倒して相手を弄りまくるものだと思っていたあのステッキが、しっかりとした説明をしているのだ。性格はアレだが、意外とまともな思考回路をしているらしい。

 

「理の…外?」

 

 イマイチピンと来ないようだ。流石に小学生への説明には難しい言葉だったか。

 

「ルールが通じないってことだよ。宇宙には地球みたいに空気がないでしょ?そんな感じ」

「あー、うん。なんだかわかったような気がする。ありがとうお姉ちゃん」

「うんーいいんだよー」

 

 守りたい、この笑顔。可愛い。語彙力が著しく低下していた。

 

「つまり、時間というルールの外なので、どこでいつ英霊になっても、その座はどこからでも、どんな時代からでもアクセス出来る。そんなところです」

「なるほど…。うん、もう大丈夫。あ、止めちゃってごめんなさい」

「構いませんわ。ゆっくり話せるように夕方来てもらったのですから」

「ええ。それに当事者だもの。あなたにも知る権利はあるわ」

「えっと、ありがとう?」

「どういたしまして」

 

 凛とルヴィアは表情こそ真面目なままだが、微笑んでいるようにも見えた。優しい世界。まるで、面倒見のいいお姉ちゃんが2人居るようだ。

 

「じゃあ戻すけど、遠坂が限定展開した弓も同じ座の英霊の物だろう。多分、平行世界の同一人物で、同じ座の同じクラスだけど、厳密には違う英霊とかそういう感じの」

「そんな事もあるの?」

「有り得ますねー。辿った人生が違っても、同じ魂なら同じ座に至っても不思議じゃありません」

 

 つまりは弓オンリーのエミヤもいる訳か。矢は…きっと投影するんだろう。もしかしたら剣を矢にするのかもしれない。

 

「では、アーチャーの宝具は?あの拳銃でしょうか」

「それだと薙刀が気になるけど。どうなの、士郎」

「拳銃も薙刀も、両方同じ宝具だ」

「え、あれ同じ武器なの?」

「いや、どう見ても別物だったんだけど」

「あんな風に形を変える事が可能な武器、という訳ですか?」

 

 色合いや刃の形状から察するに、エミヤシロウのお気に入り、干将・莫耶だろう。宝具としてのランクは低めだが、投影するコストが安いのと、併せ持つと防御力が上がる効果、互いに互いを引き寄せ合う効果等がある為、士郎も気に入っているらしい。鍛錬に使っているのもそうだ。もっとも、士郎のは双剣だが。

 

「えーっと、アレはアーチャーが改造を加えて投影した宝具なんだ。だからアーチャーのものじゃない」

「そうなんだ…」

 

 正直知ってた。それにしても双剣を薙刀…はともかく、拳銃にしてしまうなんて、トンデモ魔改造だ。だがそこがいい。

 

「…待って士郎。あなた今、投影って言った?」

「ああ。言ったぞ。アレはアーチャーの投影魔術を使って出した宝具だ」

「発見器に反応なし。嘘じゃありません。いやー、びっくりですねー」

「姉さん、茶化さないで下さい。大事な所です」

「そっち方が嘘でしょ…」

「信じられませんわ…」

「ああ、うん。気持ちはわかる。投影魔術って、どっちかっていうと使えない部類に入る魔術だもんな…」

「え、マジ?」

「る、ルビー」

「サファイア、お願い」

「はいはーい」

「了解です、美遊様」

 

 驚愕の事実。投影魔術は使えない魔術だったのか。じゃあ何でエミヤはそれを使っているんだ。というかどの辺が使えないんだ。さっぱりわからない。

 ひらひらと舞うルビーが若干鬱陶しく感じた。サファイアは平気なのに。何故だ。

 

「投影魔術と言うのは、簡単に言えば魔力でレプリカを作り出す魔術です」

「と言っても作れるのは、本物には遠く及ばない、粗悪な劣化品ですけどねー。しかも数分も経てば魔力に還ってしまう時間制限付きです。」

「アーチャーが使っているのに、それが使えない魔術なの?」

「いいえ、美遊様。それは逆です。そんな使いづらい…いえ、敢えて厳しく言います。そんな使えない魔術を、アーチャーが使っているのです」

「そこまで…」

「言い過ぎでも無いですよ。投影魔術を使うぐらいなら、ちゃんとした材料を揃えて、ちゃんとした手順でレプリカを作った方が余程いい、というのが一般的です。まぁ材料を揃えにくい物を、儀式の間だけ用意するという風な使い方も出来ますが、それにしても使いにくい事に変わりはありません。ええ、サファイアちゃんの言う通り、使えない魔術です」

 

 士郎の唇の端が引きつっているように見えた。悲しそうな顔をしている。

 

(しろー…)

(ああ、大丈夫。俺は大丈夫だよ、立香…)

(強く生きて)

 

 哀れ士郎。自分が唯一得意とする(正確には少し違うが)投影魔術が散々な言われようなのだ。泣きそうにもなるだろう。立香だったら泣いてたかもしれない。

 

「いい、あなた達!投影魔術で作れるのなんて精々何の変哲も無いただの剣よ!それなのに宝具?アーチャーはどんな馬鹿げたズルしてるのよ一体!」

「シェロ、詳しい説明をお願いしますわ」

「って言ってもなぁ…なんで出来るかとかの詳しい事は俺にもよくわかんなくて…いや、話すから、ちゃんと話すからそんな睨まないでくれ。…とりあえず、一回最後まで喋らせてくれ」

「OKいけしろー」

「お前も少し静かにしような、立香」

 

 悲壮の表情でお口チャック。士郎は時々辛辣だ。

 

「まず、アーチャーには形のある宝具は無いと言ったよな。アーチャーの宝具にあたるのは、固有結界。色々例外はあるみたいだけど、武器を見ただけで複製して貯蔵するのが、アーチャーの固有結界の力で、そこから武具を現実に引き出すのが、投影魔術―――正確には、それに近い特有の魔術だ。って言っても、流石に投影したもののランクは1つ以上落ちる。これでいいか?」

 

 2,3年前に立香も聞いた内容だ。エミヤシロウの固有結界、無限の剣製(アンリミテッドブレイドワークス)。エクスカリバーの鞘を埋め込まれ、起源が「剣」となったエミヤシロウは、魔術師として大成すると、これに辿り着く。らしい。正直名前に惚れた。これ自分の能力でもあるんだよなぁ、とは言わないが、話している士郎の方も、ちょっと微妙な顔をしているように見えてしまう。

 

「投影魔術の時点で引っかかってたけど、アーチャーなのに、生前は魔術師だったのね」

「しかも、固有結界とは…」

「コユー、ケッカイ?」

「固有結界というのは、術者の心象風景で現実世界を侵食し、内部の世界を変える結界のことです」

「…つまり?」

「精神世界を現実世界に引っ張りだすの。ビル群とか海とか草原とか、そういうのに上書きしちゃうんだよ」

「精神世界…うん、大丈夫。わかった」

 

 理解力が高くて嬉しい。やはり頭が良いのは良いことだ。

 

「それで士郎。疑問なんだけど、アーチャーの固有結界、使えるの?」

「カードを介して英霊の座にアクセスすればその英霊の宝具を使用出来る、というのが魔術協会としての見解なのですが…」

「心象風景は個人によって異なる物です。やはり不可能でしょうか?」

「もしかして士郎さんの心象風景で発動されるとか?」

「いや、ルビー。俺の心象風景じゃあ流石に無理だ。アーチャーの固有結界なら、色々とマイナス補正がかかっていたせいでそもそも特殊な使い方をされてたから、同じ使い方なら一応使える筈だ。ただ、俺の魔力だと1日1回が限度だと思う」

 

 要はとてつもなく燃費が悪い。そういうことだろう。全然いいじゃないか。必殺技は消費がデカくて威力が高い方がロマンがあるというものだ。

 

「そんなに魔力を使うの?」

「ええ。何せ極小とはいえ世界を作るんですから、そりゃもうとんでもない消費ですよ」

「凛様やルヴィア様であれば、万全の状態であれば維持だけなら数分から数十分は持たせられるでしょうが、士郎様は残念ながらそこまで魔力量は多くありません」

「結構キッパリ言うだね、サファイアって」

「私の妹ですから」

 

 凄く納得した。

 

「で、しろー。特殊な使い方って何?敵の内側から展開して爆発させる的な?」

「何でわかったんだ…」

「嘘やろ」

 

 銃火器使うかもしやと思って冗談で言ったら、本当にそうらしい。体の内部から固有結界によって爆発する名も無き黒ずくめの敵を想像した立香は何とも言えない顔をしてしまう。えげつねぇ。

 

「そんな事も出来るんだ…」

「本当に特殊な使い方ね…」

「えげつないですねー、アーチャーって」

「俺も正直どうかとは思う」

 

 平行世界の自分に力の使い方をどうかと思うとか言われるのってどうなんだろう。というかさっきから立香の知っている英霊エミヤと違う所が多過ぎる。改めて根掘り葉掘り聞かねば。

 

「それにしても、随分と詳しい事がわかるんですね。魔術協会でもわからないことまではっきりと。本当にへっぽこなんですか?」

「だから言っただろ。見習いでへっぽこだって。力を使っただけではあるけど、英霊と繋がった時にその辺の知識を少し貰ったんだ」

「では、その残りの知識を聞かせて下さいますか?」

「ああ。わかった」

 

 その後もいくつかの疑問を消化し、各自夜に備えて一度帰宅。0時にまた、カード回収の為に現地集合する事になった。

 

 

 

 

 

「集まったわね」

 

 凛がそう言った。既にイリヤと美遊は魔法少女に転身をしていて、士郎もアーチャーに変身している。相変わらず可愛らしいコスチュームと格好良い外套だ。デザイナーを褒め称えねば。

 今回の場所も、穂群原学園高等部。前回と違い、グラウンドではなく、グラウンドから一番遠い校舎の屋上だ。

 

「まだ学校にクラスカードがあったんだね」

「こんなに近くで、よく昨日乱戦にならなかったな」

 

 立香の言葉に士郎も呟く。道すがら聞いたのだが、どうやら士郎は最近妙な違和感を感じていたらしく、ライダーのクラスカードを回収した際に弱まった事から、クラスカードが違和感の元だと判断したらしい。立香にはさっぱりだったが、流石士郎という事だろうか。妙な、というのは既視感があるかららしい。恐らくは、エミヤシロウの記憶に、似たようなものでもあったのだろう。

 

「それが、どういう訳か、増えたのです」

「増えた?」

「カードって増えるの!?」

「増えないとは言い切れないですねー。何せわからないことだらけですから」

「そういう訳なので、何故増えたのか、また、それを防ぐ為にはどうすればいいのかを調査する為に、新たにカードが現れた地点を選んだのです」

「さて、士郎の見立てでは何のクラスかしら?」

 

 凛が尋ねた。士郎には英霊についての知識があるからわかるかな、とでも思ったのだろうか。わかればそれに越したことはないが、流石にノーヒントで当てるのは無理というものだろう。

 

「…アーチャーとか、アサシンとか?」

 

 わからないんだろう。士郎も難しい顔だ。というかそのクラスは確か、別のエミヤシロウの所で2騎目が居たクラスでは。確か、何とかッシュと、サハンだったか。うろ覚えなので違う気しかしない。

 

「アーチャーはあなたが持ってるじゃない」

「だよな」

「じゃあ8個目のクラスじゃない?」

「それが妥当なとこね」

「問題は正体がわからないということですわね。一体どんなクラスなのやら…」

「ま、会ってみればわかりますって。大丈夫、ルビーちゃんがついてますよー」

「なんであんたはそんなに脳天気なのよ!」

 

 確かに8つ目のクラスは気になる。確か今判明してるカードのクラスは、セイバー、アーチャー、ランサー、ライダー、キャスター、アサシン、バーサーカーの7つ。エミヤシロウの記憶の聖杯戦争の知識と一致するので、サーヴァントシステムの部分が異なる聖杯戦争だろうと士郎は言っていたが、黙っているように言われているので口に出さずに考える。武器や戦い方で呼べるものが好ましいだろう。剣、弓、槍は使われているとなると、銃はエミヤを見るにアーチャーのようだし、斧とかだろうか。アックサー?語呂が悪い以前の問題、却下。いっそ非人間、エンジェルとかデーモンとかでどうだろうか。天使のサーヴァント。うん、いいんじゃないだろうか。それか、菌糸類のサーヴァント。クラス名に悩む。そもそも菌糸類って英語で何と言うのだろうか。帰ったら調べよう。

 そんな風に妄想を膨らませる立香をよそに、作戦が立てられていく。士郎が前衛、イリヤと美遊で遊撃、そして凛とルヴィア、立香でバックアップ。士郎が隙を作れたら、美遊が突き穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)でそこを突く。その際はイリヤは黒化英霊の拘束もしくは魔力弾での回避・防御の妨害という感じらしい。今切れるカードは多くはないので、それがいいだろう。

 

「では、参りましょうか」

「サファイア、お願い」

「ルビーも、ちゃんとやってね」

「了解しました」

「わかってますってー」

 

 足元に魔法陣が形成され、2度目の転移。はて、名前は何と言っただろうか。真面目な雰囲気の5人と2本とは違って、立香は呑気にそんな事を考えていた。

 転移先はちゃんと学校の屋上だった。別に何もおかしい所はない。夜みたいに暗くて、万華鏡みたいな変なエフェクトが空にかかってたりするが、別に普通だ。何せ、物理的には存在しない筈(らしい)異空間だし。

 

「居たわ」

「皆さん、作戦通りに!」

「了解!!」

 

 士郎、イリヤ、美遊の3人が前面に出て拳銃とステッキを、凛とルヴィアは一歩下がって宝石を構える。

 しかし、立香は動かない。いや、動けない。その黒化英霊の姿を見た瞬間から、目が見開かれて、足が縫い付けられて。だってその英霊は。彼女は。

 

「…え?」

 

 構えるは四方に刃のようなパーツの飛び出た身の丈程の大きさの盾。ヘソ出しのノースリーブのレオタード型のアーマーと、ミニスカートのようにも見えるフォールド、二の腕まであるグローブに、装甲付きのハイヒールのニーハイブーツ。身に纏うそれらの黒と対照的な白い肌に、銀のボブカット。

 見覚えなんて無い。ある筈がない。だって自分は、衛宮立香は魔術が少し使えるだけのただの中二女子だ。英霊と関わりなんて、士郎がエミヤとほぼ同一だというのを除けば無い。なのに何故、彼女を見ると言い表せない感情が溢れるんだ。

 

「立香!?」

「待ちなさい!」

 

 気付いた時にはもう走り出していた。どうしてだろう。制止の声なんて聞こえない。

 

「え…?」

「お姉ちゃん!?」

「立香ッ!」

 

 理由なんてわからない。理屈じゃない。それでもわかる。わかってしまう。

 そうだ。自分は、■■立香は彼女を知っている。知っていなくちゃいけない。だってそうじゃないと、彼女が此処に居る意味が無い。

 

「―――!」

 

 知らない筈の名前を、叫んで(呼んで)いた。




※サハンは立香がちゃんと覚えてないだけです

そんなわけで、8枚目のクラスカード登場です。一体何のクラスなんだ!?(すっとぼけ)


~次回予告(嘘)~

大盾による堅牢な守りに苦戦する士郎達。そこへ、1組の男女が姿を現す!

「どうして2人がここに!?まさか、自力で突入を!?」

腰に光るゴツいベルト!手に持つ叫ぶメモリー!

「いくわよ」
「ああ」

彼と彼女は2人で1人、半身を継ぎ合う正体不明の謎のヒーロー!その名は―――

次回、Fate/kaleid liner プリズマ☆ぐだ子
【シールダー】
デュエルスタンバイ!


サブタイ以外は全部ウソです
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