Fate/kaleid liner プリズマ☆ぐだ子 作:普通の燃えないゴミ
中々作業する時間が取れず、また展開を思うように文章化出来なくて…
すまない。本当にすまない。
では第4話、どうぞ。
「―――!」
気付けばその名を呼んでいた。彼女は俯いていたその顔を上げて、金色に濁ってしまっているその瞳で、こちらを見据えている。
全てがゆっくりに見える。思考は驚く程にクリアで、体は嘘みたいに軽い。
どうして駆け出したんだろう。英霊になんて、敵うはずがないのに。
それでも、この足は止まらない。止められない。
静止の声が遠い。今通り過ぎたばかりなのに。そんなに離れていない筈なのに、どうして?
黒化英霊まで、あと5メートル。
「―――
グッ、と力を込めた右足で踏み切って、残りの距離を一気に詰める。
もう、手が届く。それでも、彼女は動かない。
「マシュ!」
嬉しかった。どうしてかわからないけど、どうしようもなかった。だからそれを行動で表した。彼女の事なんて知らない筈なのに、そうしなければならないと思ってしまったから。
端的に言おう。立香は、黒化英霊―――シールダー、マシュ・キリエライト―――に、抱き着いたのだ。それも、飛び込むように、思いっ切り。
「なっ!?」
「はぁ!?」
「お姉ちゃん!?」
「立香!?」
みんなの声が聞こえた。そりゃまぁ驚くよねぇ、という呑気な感想しか浮かばないぐらいには、立香は油断しまくっていた。
「せ、ん…ぱい…」
マシュが口を開いた。めちゃんこ可愛い声だった。しかし、その顔は、嬉しそうな表情など浮かべてくれてはいなかった。
―――ごめんなさい―――
どうして、謝るのだろうか。
「立香!」
「お姉ちゃん!」
兄妹の呼ぶ声がする。どうして、そんなに声が遠いのだろうか。
次の瞬間。
立香の視界は光に包まれた。
― ― ― ― ―
「…は?え?何ここ我今ど、こ………」
燃え盛る炎。倒壊したコンクリの建物。暗い空に浮かぶ、皆既日食のような真っ黒なナニカ。
立香は此処を知っている。よく知っている。見間違えようが無い。此処を見間違えてしまったら、それはもう自分では無いのだから。
「冬木…?」
10年前の、大災害の只中の冬木だった。その目で見たのと瓜二つ。生物なんてどこにも居ない、正にこの世の地獄。たった二人だけが生還した、人を殺すという大儀式。
どうしてここに。動揺する立香が辺りを見回すと、それはあった。
「あれは…マシュのラウンドシールド?」
マシュが持っていた、あの盾だ。割れたアスファルトの地面に、一番長いパーツを下にしてぶっ刺さっている。
「あぁ、そういう事か」
納得した。大体わかった。間違い無い、と頷きながらラウンドシールドに近寄る。
自分が今やるべき事がわかる。理屈はわからない。
そうしなければらない事がわかる。理由はわからない。
ならば、立香が取る行動はただ一つ。ラウンドシールドの裏側、持ち手に手を添える。流れ込む何かに、ゆっくりと口を開く。
「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公」
衛宮立香にこのような呪文の知識は無い。そもそも立香は、二小節以上の呪文の詠唱を必要とするような魔術を習得していない。
「降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」
それでも詠唱が止まる事はない。それはきっと、リツカという存在にとって必要なことだから。
「
ズズズ。重々しく、地面に刺さった盾はゆっくりと引き抜かれていく。
「――――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」
繋がるのは、英霊の座へのリンク。心と心を繋ぐ、魔法の架け橋。
「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
ザッ。引き抜いた盾を、天高く掲げる。
「力を貸して、マシュ!」
瞬間。眩い光が放たれ、視界が白に飲まれる。
「………これ、は……………」
光が収まると、立香の姿は変わっていた。黒を基調とし、青を織り交ぜた、ヘソ出しノースリーブのレオタード、ミニスカのようなフォールド、二の腕まであるグローブ、装甲付きニーハイブーツ。マシュのそれと同じ衣装だ。
引き抜いたラウンドシールドはそのまま。しかし何故か、引き抜いた時よりも軽くなっていた。いや、盾が軽くなったのではない。立香の力が強くなったのだ。
「マシュの姿?って言うかなんでわたしはマシュみたいな
知識の出処自体はわかってはいるのだが、何故そこから来て自分がちゃんと受け取れているのかが全くわからず、頭を抱えていた、そんな時。
ザッ。足音が聞こえた。
振り返る。何かが居た。
炎による風を受けて揺れる布。刃物であろう長物。和装に見える出で立ち。青年であろう姿。
どうにも不明瞭なのは、全身が黒い
いや、覆われているのではない。体自体がそれで出来ているのだ。立香はそれをよく知っている。何度も何度も、何百回も何千回も目にしたのだ。
「シャドウサーヴァント!」
いくら平行世界の別の自分の記憶を断片的に持っている士郎の妹とはいえ、立香には平行世界を跨ぐような力も、別の自分と繋がるような奇跡も、可能性を得るような契約も無い。ただの普通の、ちょっと魔術が使えるだけの中学二年生なのだ。
だから、知っている訳がない。なのにわかる。よくわかる。立香は平気だが、人が人なら、気持ち悪い感覚だろう。何せ知らない筈の知識なのだから。
「シャド鯖!?嘘でしょこっちにもそのシステムあるの!?って何それ待ってエルモそれ知らない!」
現在、立香わかる事は2つ。
1つは、今この何処かわからない変な所に居るのは確実にマシュが原因だという事。クラスカード本体には英霊の座に干渉する力こそあれど、空間転移は出来ないし、時間移動も不可能。ましてや第二魔法なんて以ての外。と聞いている。よって、シールダーのクラスカードに外から与えられた特殊な力によるものだろう。1人だけ転移してしまったせいで、対敵した際はとんでもないピンチとなる。
そしてもう1つは、今まさに、そのピンチが訪れているという事。シャドウサーヴァントに理性は無い。昨夜士郎が戦ったライダーの黒化英霊と似たようなものだろう。あちらと違い、シャドウサーヴァントは現界し損ないかのサーヴァントか、サーヴァントの残留思念の様なものの為、宝具の発動は出来ないが。それでも充分な脅威には違いない。何せ人間とは基本スペックが違うのだ。
意味がわからない。どうしてこんな事になる。マシュと戦うだけであればまだ説明は付いただろう。
考えに考える。その答えが脱出の糸口になると信じて。そして、思い当たった。
「…ああ、わかった」
何故自分はマシュの力を得て変身できたのか。
何故冬木にとばされたのか。
何故シャドウサーヴァントが現れたのか。
その答えはただ1つ。
衛宮立香が、世界でただ1人、マシュのマスターだから。
「そういう事か」
これは試練。サーヴァントの力を使うに相応しいかを試す戦い。ここで生き残り生還して初めて、立香はこの力で家族を守る事が出来る。
なら、やる事は既に決まっている。
「来いよ!何体来ようが蹴散らしてやる!」
― ― ― ― ―
所変わって、マシュと遭遇した校舎屋上。
「どどどどどうなってるの!?」
あたふたと、イリヤは慌てふためいていた。
立香が黒化英霊―――立香はマシュと呼んだ人物―――に抱き付いた直後。一瞬、眩い光が立香達を包んだかと思うと、立香は気を失っており、黒化英霊に抱き抱えられていた。しかも盾を持ったまま器用に横抱き―――俗に言う、お姫様抱っこ―――で。全員一致で意味がわからなかった。士郎や凛に至っては、何やってんだアイツ、的な目だ。正直全員攻撃したいのは山々だが、流石に立香に当たってはいけないので各々の武器を構えた状態から動けない。
マシュはそのまま後ろに跳んで、フェンスの近くに丁寧に立香を寝かせると、数歩こちらに進み、少し腰を落として、盾を構える。臨戦態勢だろう。
「立香さんを返して欲しいなら勝ってみせろ、って感じですかね?」
「ええ、恐らくは。とても単純で宜しいと思います」
「でも、どうして攻撃しなかったんだろう?」
「イリヤスフィール。今はそんな事を考えている暇は無い」
イリヤの疑問を、ピシャリと美遊が切り捨てるように言う。今日、日中何かあったのか、何て思った士郎だが、それこそ今追求すべき事ではない。すぐに頭を切り替える。
「遠坂、ルヴィア、俺達であいつを引き付けるから、立香を頼む」
「わかりました」
「確保出来次第、私達も援護に回るわ」
「ありがとう。じゃあ行くぞ。3、2、1!」
士郎が駆け出す。合わせるようにイリヤと美遊がその左右に広がる。士郎の手には二丁拳銃ではなく、柄の両端に刃のある薙刀。立香が敵の後ろで寝ている以上、もし避けられて流れ弾を発生させる訳にはいかないからだ。
薙刀を振り抜くと同時に、イリヤと美遊も魔力弾を放つ。立香を気にしているせいで、威力が抑え目な上に、狙いも少し上。防御や回避されやすい、肩ぐらいの高さだ。
案の定、マシュはその盾を以てして、全ての攻撃を真正面から防ぐ。と、1人だけ至近距離に居た士郎に狙いを絞り、盾を横薙ぎに振るう。士郎は薙刀で軌道を逸らすように防ぎつつバックステップによって回避するが、防御に使った薙刀は真ん中で折れてしまっていた。物理的な威力が高かったのもそうだが、未だ力を完全に使いこなせていない士郎が投影した為に、さらにランクダウンしてしまっているせいだろう。
柄が折れようと刃は無事。士郎は2つに分かれた薙刀をまるで双剣のように両手に持って、盾を振り抜いた直後のマシュに、もう一度正面から斬り掛かった。
ガンッ!
金属音と共に干将・莫耶の一撃は盾によって受け止められる。パキリ、と刃に罅が入る。だが、それでいい。自らの攻撃を完全に凌がれた士郎の口元に、薄い笑みが浮かぶ。
士郎の様子を察知したのだろう。後ろに大きく跳んだ。一瞬遅れて、左右からいくつもの魔力弾が空を切る。イリヤと美遊だ。士郎が引き付けて盾を正面に構えさせた所で挟撃するという作戦だったのだが、ほんの少し、タイミングが遅くなってしまった。
「くっ…」
「惜しい!あとちょっとだったんですが!」
「ごめんなさい、お兄ちゃん」
「すみません」
「気にするな。攻撃の隙なら何度だって作るさ」
謝るイリヤに、罅の入ってしまった干将・莫耶を拳銃として投影し直し、士郎は首を横に振った。本当に気にしている素振りは無い。というか、そもそも普通の小学生の少女だった2人にいきなり戦えという方がおかしいのだ。当然である。士郎も昨夜までは戦闘経験は無かったのだが、そこはそれ。伊達に平行世界の自分の記憶を見てはいない。それに今は、クラスカード・アーチャー、エミヤオルタの力もある。士郎からすれば、これで戦えない方がおかしい。
短い会話の直後、マシュは強く床を蹴って、今度はマシュの方から攻勢に出た。先の打ち合いで早く片付けるべきだと判断したのか、対象は士郎。確かに3人の中では最も戦闘が出来るのは士郎だ。士郎さえ倒せば、銃撃なんかの厄介な動きは少なくなる。魔力弾もあるが、盾で防げるという判断なのだろう。実際、弾丸の方が速い。
一瞬で接近すると、盾から飛び出た刃で切り裂くように大きく振るう。
ブオンッ!
風を切って振られた盾の一撃を、バックステップでギリギリで躱す。そして両手の拳銃で、それぞれ2発の、赤い尾を引く弾丸を射出する。しかし狙いは大きくズレており、マシュが躱さずとも、それは後ろへと過ぎてゆく。
視線を向ける事も無く、マシュはさらに踏み込み、盾を連続で振るう。士郎も拳銃でいなし、躱し、攻撃を防ぐ。イリヤと美遊による魔力弾での妨害を避け、盾を振るい、士郎を攻め立てる。速度は最早常人の域を脱している。士郎も、防御がやっとのようだ。
ガンッ、ガンッ、ガンッ、と金属音を幾度も響かせて、ついに士郎の持つ拳銃が根元から崩れる。武器を失ったのをチャンスと見たのであろう。マシュは、少し大きく振りかぶって
盾を振るう直前、マシュは無理矢理体勢を崩し、横に転がった。ほんの一瞬の後、マシュが居た所を、4条の赤い光が貫いた。それは意思を持つかのように士郎を避けると、再びマシュへ向かう。先程士郎が放った弾だ。それぞれ異なる軌道を描き、マシュへ襲い掛かる。躱されても躱されても襲い掛かるその姿は、まさに猟犬。
士郎が放ったのは、
尚も避けるマシュを追い詰める為、士郎達3人はさらに弾を増やす。今度は士郎も普通の弾だ。が、総数15発越えなら、避けにくさなら充分過ぎる程だ。その証拠に、イリヤの放った散弾は、半分程が命中している。といっても、致命傷には届かない。散弾故に威力が低い為だ。もしかするとそれをわかっていて、他のを避ける為に敢えて受けたのかもしれない。だが、ダメージはダメージ。少しだが、動きが鈍った。
そうして何度か躱して、理解したのだろう。マシュは
先程までの打ち合いよりも遥かに重い金属音の連発。いくら力を使いこなせていない士郎の投影によりランクが幾つか下がろうと、宝具は宝具。高濃度の魔力が一気に解放されれば、その爆発の威力は破格。
爆風によりマシュが大きく後退。殆どを盾で受けられた為に直撃程のダメージは入っていないようだが、腕周りの衣服や装甲が欠けていた。体勢も崩れている。攻め込むならば、今を逃す手は無い。
「士郎!こっちは大丈夫よ!」
「外傷無し、気を失っているだけですわ!」
凛とルヴィアだ。マシュが離れた隙に、立香を救出出来たようだ。気を失っているだけ。原因は確実にマシュ―――に抱き着いた事―――だろう。が、今はどうでもいい。
「ありがとう。遠坂、ルヴィア」
「気にしないで下さいまし!」
「ほらアンタ達!そんな奴、とっととやっちゃいなさい!」
「はい!
「
イリヤと美遊がカレイドステッキを振り、それぞれ魔力弾を放つ。
「
士郎も詠唱と共に魔剣を弾丸として投影、装填する。昨夜のライダー戦でも唱えた、後ろ向きな詠唱。
「
真名解放と共に放たれる、空間ごと裂くドリルの如き魔
「やった!」
「ナイスですよ、イリヤさん!」
喜ぶイリヤ。着弾は明らかだ。喜ぶのも無理は無い。が、
「まだだ!奴はまだ倒れちゃいない!」
士郎が言う。全員に、緊張が走った。
煙が晴れる。そこに居たのは、盾を突き刺し、真正面から全てを受けきったマシュだった。体は傷だらけ、鎧も破損し、血も流れている。左腕に至っては、完全に骨が折れている。どう見ても満身創痍、ボロボロだ。
それなのに、倒れない。膝を折らない。彼女はまだ、立っている。何かを守るように。その姿は、紛うことなき騎士のそれだった。
「なら私が!」
「待て、美遊!」
美遊が飛び出す。左手にはランサーのクラスカード。サファイアに押し当てると、起動を宣言する。
「クラスカード、ランサー!
サファイアが朱い槍へと変貌を遂げる。余計な装飾など一切無く、無骨なまでに一直線な魔槍。名を、ゲイ・ボルク。幾つかの真名解放の種類を持つ、珍しい部類の宝具。
今なら、トドメを刺せる。満身創痍の状態では、到底避けられるようなものではない。いや、たとえ無傷だろうと、そう避けらるものではない。
「
朱槍に紅い魔力が纏う。必殺の呪い。その力が、解放されようとしていた。マシュの心臓をロックオンし、そこに突き刺さるという結果を先に作り出す。作られた結果に向かって動く、因果逆転の一撃。放てば殺す。正に、一撃必殺。
そう。放つ事が出来れば。
「はあああああああ!」
ダンッ!
屋上を蹴る音と、咆哮にも似た叫びが響く。マシュだった。
彼女は一足で踏み切ると、一瞬で美遊の所まで距離を詰め、その盾を、押し出すように大きく振るう。
「っ!?」
迫る真正面からの一撃を、咄嗟に槍で防ぐ。槍で盾を防ぐという一見逆の攻防だが、盾から刃のような突起物が出ているのだ。特に不思議では無い。
ガァンッ、と重い金属音を響かせて、美遊は後方へと弾かれる。あるのは転落防止用の金網のフェンスのみ。
「お兄ちゃん!」
「シェロ!」
美遊の背中に何かにぶつかった感触が広がる。が、それはフェンスにぶつかったようなものではない。
「士郎さんっ!?」
美遊は今、士郎に抱かれている。フェンスにぶつかる直前で、受け止められたのだ。もっとも、勢いが勢いだった為に士郎がフェンスにぶつかってしまったが。
追撃してくるマシュを、士郎は美遊を抱えたまま回避する。フェンスを、盾の刃状のパーツが紙かなにかのように切り裂く。
「美遊、大丈夫か?」
士郎は美遊を下ろす。心配そうな表情だ。士郎が受け止めたのだから、大丈夫に決まっている。
「私は物理保護があるから大丈夫なのに、どうして…!」
カレイドステッキ便利機能その1。常時展開型Aランク対物理障壁。多少のダメージ、それこそフェンスにぶつかる程度であれば、問題なく凌げる。といっても、威力によっては多少の痛みはあるかもしれないが。
「あぁ、そういえばそんなのもあるんだっけ…」
忘れていた、つい、と士郎は笑う。咄嗟に身を挺して誰かを守る事がどれだけの高難度なのか、まったく分かっていない顔だった。
「お兄ちゃん、美遊さん!」
「大丈夫ですかー?」
イリヤが2人に駆け寄る。ルビーも少し間延びした声だが、心配しているようだ。
「ああ、大丈夫だ」
「…私も、大丈夫」
「よかったぁ」
安堵した声。本気で心配していたのは誰の目にも明らかだ。
ゲイ・ボルクへと変身していたサファイアが光り、ステッキとカードに分離して元の姿に戻る。
「…すみません。わたしのせいで」
「いえ、美遊様のせいではありません。敵の体力を見誤ったのは私もです」
美遊とサファイアが謝る。唇を噛み締めて、悔しそうに。
そんな時。
色鮮やかな宝石が数個舞い、爆散。閃光と爆風を巻き起こす。
「ちょっとあんた達!何ボサッとしてんの!」
「そうですわ!戦闘はまだ終わっていないんですのよ!」
凛とルヴィアだった。先の宝石は、2人の魔術のものだったらしい。ハッとしてそちらを見れば、爆発を盾で防いだマシュが立っていた。
「ありがとう。遠坂、ルヴィア」
「礼には及びませんわ」
「別にいいわよ。それより、わかってるわよね?」
「ああ、任せてくれ。
ある程度は効果があるかもしれないが、基本的に黒化英霊に魔術の類は効かない。よって、士郎達が何とかしなければならない。
士郎は再びその手に干将・莫耶を投影する。左手の干将は、先程までと同じような拳銃形態。右手の莫耶は、薙刀の白い方半分、片刃の剣だ。
迫るマシュへ駆けて、それらを交差させて振るい、盾を防ぐ。近接戦闘をする気満々に見えるが、左手に握るのは拳銃だ。刃自体は付いているが。
「遠坂とルヴィアの言う通りだ。今は失敗を気にしている暇は、無い!」
押し返し、距離を取る。怒っている訳ではない。いつもの優しい口調だが、美遊にとっては今はそれが少しばかり辛かったりもする。
「大丈夫だ。あとは、何とかしてみせる」
振り返らずに、士郎は言う。その背中は、とても頼もしいのに、どこか心配になってしまう。
再び交差する刃。何度も響く金属音。片腕が折れているというのに、マシュは士郎の攻撃を全ていなしている。
防いでいるだけではない。マシュもまた、士郎に斬りかかる。盾の重さも利用した攻撃を防ぐが、打ち合う度に干将・莫耶は錆び付き、罅割れていく。
一瞬、マシュの体勢が歪む。片腕が折れた状態で高速の攻防を繰り広げれば無理もない。すかさず、砕けるのも構わずに莫耶を盾に叩きつけて、防御を崩す。
「
投影、発射。至近距離から、マシュの胸元、急所を少し外れた所に命中。深々と内側に飲み込まれる。着弾の直前、僅かだが体を動かして、急所からずらしたようだ。
痛みを感じながらもマシュは止まらず、盾を振るう。何度も何度も打ち合い、士郎の防御にほんの僅かな隙が出来た。マシュはそれを逃さず盾を横薙ぎに、左から右へ大きく振るう。
士郎もそれを干将・莫耶で受け止める。だが、ここまでに蓄積していたダメージのせいだろう。パリンッと硝子が割れる様に砕け散った。
武器を失った隙を逃すまい、とマシュはさらに一歩踏み込み、振りかぶる。
「
士郎は干将・莫耶を剣として再度投影した。ただ、ほんの少しだけ先程までよりも形が不安定で、その刃は錆びていた。
盾を、干将・莫耶で防ぐ。攻撃はいなせた。だが、案の定、錆び付いていたそれはあっさりと砕け散った。
「
1度、2度、3度。振るわれた盾を全て投影した剣で受け止め、躱し、防ぐ。
「ちょっと、任せろとか言っといて、防戦一方じゃない!」
「そ、そんなこと私に言われても…」
凛とイリヤだ。確かに士郎は先程、弾丸を打ち込んでから攻撃をしていない。
「
まただ。声が響く。静かに紡がれているのによく通る、士郎にしては低い声。
「これは、もしや…」
「どうしたの?サファイア」
サファイアが何かに気付いたように声を上げた。
「
バキン、と攻撃を防いだ剣が砕ける音が響く。
「まさか、詠唱ですの…?」
「おや、ようやく気付きました?」
ルヴィアに、ルビーが答える。詠唱。それは、強力な魔術や、宝具の真名解放に必要な文句。力を使う為の唄。
「
ブンッ。振るわれた盾を寸でのところで回避する。
「詠唱?って、何の?」
魔法とかであればイリヤもわかる。が、士郎が使える魔術は魔法とは比べることも出来ない程低級の代物。そもそも、こんな詠唱が必要な程、高ランクのものでは無い。トレース・オン。その一小節で、殆どは行使できる。
「
大きく上段から振られた黒い刃。盾から突き出すそれを、交差させた干将・莫耶で受け止める。そして、全力で押し返す。マシュの体勢が崩れたが、士郎は下がる。追撃はしない。
「決まってるじゃないですかー。必殺技ですよ、必殺技」
必殺技。今までの話では、英霊が持つ宝具。アーチャーの力を使ってる士郎も、それが使えるだろう。
アーチャーの宝具は、固有結界。であれば、この詠唱が意味するものは。
士郎は静かに、目を閉じる。
―――本当にいいのか?―――
士郎の内に、声が響く。低く、しわがれた声。何もかもを憎むような、それでいて、何一つ感じられなくなったような、そんな人物を想起させる。
本当にいい? 何が? 戦う覚悟なら、とうに済んでいる。その意味ぐらい、理解している。故に士郎は迷わない。怯まない。
「
マシュが目前まで迫る。盾が持ち上がる。直撃まで、あと僅か。
それでも士郎は動かない。
―――そうか。なら、思い切りやるといい―――
目を開く。
「
ザンッ!
マシュの腹から、刃が生えていた。錆び付いた、干将でも莫耶でも、
「え?」
誰の声だったか。士郎とマシュ以外の、全員だったかもしれない。
1本、また1本と、刃がマシュの内側から突き出る。肉を裂き、骨を断ち、血を吹かせ。まるで針山のように、次々と錆び付いた刃が体から溢れ出す。
「あ、ぁ、―――!」
声にならない絶叫。剣に貫かれ、無惨にも、爆発するように弾ける。
一瞬だけ目に映る、無数の剣の突き立つ荒野と、赤黒い空に歯車の回る世界。英霊エミヤの心象風景。
内側から形成された世界によって、その体は、“剣に成り果てた”。
ドチャッ。嫌な音を立てて、マシュは半分以上原型を失ったその体で倒れ伏す。光の粒子となって溶けた体が、1枚のカードとなって収束する。
「ッ、ぐ…」
士郎が膝をつく。クラスカードが飛び出し、変身が解けて元の姿に戻る。
「お兄ちゃん!」
「士郎さん!」
イリヤと美遊が駆け寄る。
「大丈夫、だ…」
手を挙げる。顔色は優れないが、大きな怪我や発汗などは無い。少し疲れているだけで、一応大丈夫には見える。
「固有結界の発動で魔力を使い切ったのですね」
「まったく、固有結界だなんて無茶しちゃって」
「ですが助かりました。シェロ、感謝しますわ」
「意識を保つだけでもしんどいんじゃないですか?」
ルビーは相変わらず明るい声だが、心配しているのは伝わってくる。
「はは…まぁ無茶は認めるよ。とりあえず、カードを…」
その時だ。カードが発光し、人の形を形成していく。マシュだ。しかし、先程までの鎧姿ではない。黒いミニワンピース型の白い襟の制服に赤いネクタイ。黒タイツとブーツ。そしてパーカーを羽織り、眼鏡をかけた姿。そして何より今までと違う事を物語る、澄んだ青い瞳。
「2連続!?さっきので終わりじゃないの!?」
「待ってくださいイリヤさん。多分違うと思いますよ」
「違うってどういう事よ、ルビー」
「まーまー落ち着いて下さいよー」
イリヤの言う通り、2連戦なんてたまったもんじゃない。が、ルビーはそれを否定。
「エミヤ先輩」
マシュが口を開く。一瞬、空気が固まった。エミヤ先輩。彼女はそう言った。この場にいる衛宮という名前なのは、立香と士郎。見た目だが、マシュよりも年上に見えるのは士郎の方だ。それに、立香は今も呑気に意識を失ったままだ。
「…立香か?」
士郎が尋ねる。勿論、目の前の少女の名前の事ではない。
「はい。先輩…マスターに伝えて欲しい事があるんです」
マシュはそう言って頷く。伝えて欲しい事。その為に、クラスカードからもう一度限界したのだろうか。
「自分じゃあ、言えないのか」
「そう出来ればよかったんですけど…。そういう風にしてしまいましたから」
そういう風に。という事は何か事情があって、立香の意識を失わせたのだろうか。マシュは残念そうだった。本当は自分の口で伝えたい。けれど、それが不可能だから、伝言を残す。
「お願い、できますか?エミヤ先輩」
断る理由は無い。士郎は勿論二つ返事で了承する。が、口を開きかけた時だった。
「その必要は無い」
若干ズレた、格好良さ気な言い方。聞き慣れた声。聞こえたのは後から。
マシュは驚きに目を見張る。士郎達は振り返る。そこには、未だ意識を失っている筈の立香が、まるでタイミングを見計らっていたかのように立っていた。
「立香!?」
「お姉ちゃん!?」
「せん、ぱい…?どうして…」
「どうして?決まってるよ、そんなこと」
立香は歩む。マシュへ真っ直ぐ、脇目も振らず。
「だってわたしは、マシュのマスターだもん」
そう言って立香は、マシュを抱き締めた。
「ありがとう、マシュ。助けようとしてくれたんだよね」
「はい。わたしは、先輩のサーヴァントですから」
立香はその年にしてはちょっとだけ背が高いので、若干年上に見えるマシュとはほぼ並んでいる。
「先輩。わたしの力は守る為のもの。戦うのはわたしじゃありませんけど…それでも、先輩を守ってみせますから。ですから、どうかご無事で」
「うん。絶対に生き抜いてみせるよ」
「ありがとう、ございます」
マシュの体が、淡く光る。肩や足、手の先から、徐々に光の粒子となって溶け始める。
「先輩」
段々と、光の粒子となっていく。もう体の半分以上がそこに無い。立香は抱き締めるのをやめて、ただまっすぐにマシュを見つめる。
「大好きです」
マシュは笑った。最後にとびっきりの笑顔を立香へ向けて、その姿は溶けた。マシュは、居るべき場所に戻った。彼女を形作っていた光の粒子は収束し、1枚のカード―――セイントグラフ―――になった。
「ありがとう、マシュ。わたしも、大好きだよ」
立香はセイントグラフを手に取る。クラスカードに酷似したそれに描かれているのは、盾を構えた騎士の絵。そして、『Shielder』の文字。
カードを掴んだ右手の甲に、紋章が浮かび上がる。大まかな形は五角形。三画で描かれた、赤い紋章。
「…ハッ」
誰だったか。少なくとも立香ではなかったが、そうやって唖然と口を開いていた状態から、全員が戻った。
「お姉ちゃん!どういう事!?」
「どういう事よ!さっきのと知り合い!?」
「立香さんってソッチだったんですか?」
「お答えなさいリツカ!寝ている間に一体何がありましたの!?」
詰め寄る女性陣。1人(1本?)何か違うような気がするが、今は流す。
「…しろー」
立香は士郎に救援を求める。助けてお兄ちゃん。目が雄弁に語っていた。
「ごめん。あとお願い」
そして立香は、再び意識を手放した。
そういう訳で立香は、マシュの力を手に入れました。
戦ったシャドウサーヴァントの詳細は、後々。どういうシステムでいくのかは次回以降で説明します。
〜次回予告(嘘)〜
マシュの力を得た影響でマシュマロボディになった立香!
「待ってお姉ちゃん何それ!?」
テンションの上がった立香は、特に意味も無くとんでもない暴挙に出る事に!
「うっし、とりあえず、しろー誘惑すっか!」
立香までもが加わって、士郎完全ハーレム計画が始動する!
次回、プリズマ☆ぐだ子
「カルデア」
恋にドロップ☆ドロップ☆
※タイトル以外は嘘です。燃えないゴミはなんにも考えてません。
次回の投稿はモンハン次第となります。
では感想と誤字脱字報告待ってます。