二人の魔弾   作:神話好き

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三話

バチカルを出た直後、ルークたちはイオンを捉えた『鮮血のアッシュ』と『烈風のシンク』に遭遇した。アッシュはルークと全くと言っていいほど同じ顔をしており、全員がその事実に呆然としている間に取り逃がしてしまった。その後、ザオ遺跡にてイオン奪還に成功し、現在砂漠を無事に越えたところだ。

「ちぇっ。師匠には追いつけなさそうだな」

デオ峠に差し掛かったころ、唐突にルークが口を開いた。

「砂漠で寄り道なんかしなけりゃよかった」

「寄り道ってどういう意味……ですか」

あからさまにイオンを蔑ろにした発言に、アニスが食って掛かる。その額にはうっすらと青筋が浮かんでいる。

「寄り道は寄り道だろ。今はイオンがいなくても俺がいれば戦争は起きねーんだし」

「あんた……バカ……?」

「バ、バカだと……!」

普段の猫かぶりは完全になりを潜め、侮蔑の眼差しをルークへと向ける。アニスほど露骨ではないが、他のメンバーもそれぞれ差はあれど負の感情を視線に乗せている。

「ルーク。私も今のは思い上がった発言だと思うわ」

「この平和は、お父様とマルクトの皇帝が、導師に敬意を払っているから成り立っていますのよ。イオンがいなくなれば調停役が存在しなくなりますわ」

やれやれ、と首と振りながら、ティアとナタリアが口をはさむ。あのままだと、アニスが爆発しかねなかったからだ。

「いえ、両国とも僕に敬意を持ってるる訳じゃない。『ユリアの残した予言』が欲しいだけです。本当は僕なんて必要ないんですよ」

イオンが自虐的に笑いながら心の内を吐き出すと、ガイが不満げな顔をして反論する。

「そんな考え方には賛成できないな。イオンには抑止力があるんだ。それがユリアの予言のおかげでもね」

「ですが、抑止力ならばトリスタンがいます」

「俺はそうは思わないけどな。トリスタン謡将の場合は恐れられてるから成り立つ抑止力だ。イオンのそれとは勝手が違うさ」

「ガイ……ありがとうございます」

「なるほどなるほど。みなさん若いですね」

軽く笑いあうガイとイオンに向けて茶々を入れるジェイド。その表情はとても楽しそうだ。

「まあ、大佐。からかうものではありませんわ」

「それは失礼。若者をからかうのは年老いたものの特権のようなものですから」

「それ、トリスタン謡将からも聞かされましたよう」

ようやく機嫌を直し、アニスが話の輪に入ってくる。

「アニス、トリスタン謡将に会った事がおありなんですか!?」

「はうあ!急に大声出さないでよ~」

ナタリアが、興奮した様子でアニスに詰め寄る。ルークがヴァンを見る時に似た、憧れの眼差しをしている。

「ナタリア、少し落ち着いて。それじゃあ、アニスも話が出来ないわよ」

「それもそうですわね…。失礼。少し取り乱してしまいました」

「そういやナタリアはトリスタン謡将のファンだったな。なんでも、以前狙撃を見せてもらった事があるとか……」

こめかみのあたりをポリポリ掻きながら、ガイが思い出したように告げる。

「ええ、あの時のことは今でも鮮明に思い出せますわ。目視できないほどの遥か彼方の海上に浮かぶ族の船を、たった一度の狙撃で機能停止にまで追い込んでおられました。まさに神業でしたわ」

その話を聞いて顔色を悪くするジェイド以外のメンバー。聞かなきゃ良かったと言った表情である。

「私としたことが…。船でバチカルへと向かったのは悪手でしたか」

「だなぁ……」

逃げ場のない海の上で攻撃されていたらひとたまりもなかっただろう。それをしない所を見るに、やはりモースの指示を聞いているわけではなさそうだが。

「どういう事ですガイ?」

「ああ、実は――」

「止まれ!」

山の頂上に差し掛かろうとした時、足元に銃弾が撃ち込まれ、聞き覚えのある声が響いた。

「ティア。何故そんな奴らといつまでも行動を共にしている」

見上げた先にいたのはリグレット。腰に手を当ててこちらを見下ろしている。

「モース様のご命令です。教官こそどうしてイオン様をさらってセフィロトを回っているんですか!」

モースの名前に僅かに眉をよせたリグレットだが、すぐにいつものポーカーフェイスへと戻った。

「人間の意思と自由を勝ち取るためだ」

「どういう意味ですか……」

初めて聞く教官の自身の強い言葉に困惑するティア。

「この世界は予言に支配されている。何をするのにも予言を詠み、それに従って生きるなどおかしいとは思わないか?」

「予言は人を支配するためにあるのではなく、人が正しい道を進むための道具にすぎません」

「導師。あなたはそうでも、この世界の多くの人々は予言に頼り、支配されている。その結果があの人だ。バチカルへの船で彼の過去を聞いたならば、容易に否定は出来ないでしょう」

「それは……」

イオンが弱気になったのは、リグレットの視線がキツくなったからではない。船での話を思い出してしまったからだ。彼の口から吐き出された、慟哭にも似た話を。

「……結局のところ、予言に頼るのは楽な生き方なんですよ。もっともユリアの予言以外は曖昧で、読み解くのが大変ですがね」

この場の誰もが予言を否定的に見た事すらない。そんな中で年長のジェイドだけが話を真摯に受け止めていた。

「そういうことだ。この世界は狂っている。誰かが変えなくてはならないのだ」

何かを思い出すように一度目を閉じ、再び開くと視線とティアへと注ぐ。

「ティア……!私たちと共に来なさい」

「私はまだ兄を疑っています。あなたは兄の優秀な副官。兄への疑いが晴れるまでは、あなたの元には戻れません」

「一つ、訂正があるな。私が傅くのはこの世でただ一人。トリスタン謡将のみだ」

「これはまた大胆な発言ですね」

「なんとでも言え、死霊使い。話は終わりだ、ここからは武力を以てお前を止める!」

その言葉と共に、リグレットは戦闘を開始した。

「まずは貴様からだ」

最も厄介な敵であろうジェイドめがけて銃弾を放つも、虚空から槍が現れ容易く弾かれてしまう―――はずだった。

「なん、ですって…!?」

驚愕はジェイドだけではない。なぜなら弾丸を完全に防いだはずのジェイドの肩に穴が空いているのだから。何が起こったのか全く分からない。あの銃撃は小手調べ程度のものだと思っていたのに。

「期待外れだな。まさか最初の一撃で終わるとは思っていなかったぞ」

誰も動けない中、そのままジェイドに駆け寄り傷を負った肩に蹴りを叩きこむ。

「ぐ……ぅ……」

苦悶の声を漏らしながらも、自分から吹き飛ぶことで負傷を最小限に抑え離脱する。一番強いであろうジェイドがいともたやすく敗れた。その事実を前に、リグレットの実力を知らないティア以外の人間が一瞬止まる。

「次はお前だ」

ルークに銃口を向けると、ガイはすぐさま庇うように前にでる。だが無意味だ。

「レイジレーザー」

銃口から発射されたのは一直線に伸びる青白い光線。直撃する寸前、ガイは光線に背を向けルークを抱えると横へと飛んだ。背中にそこそこのダメージを負ったものの、戦闘に支障はないようだ。

「教官!」

叫びながらすでに近くまで接近していたティアが跳びかかる。ナイフを銃で受け止め、力ずくで弾き返すと両手に構えた銃を放った。

「捉えましたわ!」

意識から外れた場所から構えた銃を打ち抜く完璧な一射が放たれ、リグレットに迫る。

「なっ!?」

リグレットはその矢を気にも留めずに背を向け、アニスの迎撃を行う。しかし、驚いたのはそこではない。なんと当たる寸前、銃弾が矢を打ち抜いたのだ。

「ナタリア!」

「遅い!」

アニスの奇襲を軽くいなし、体を反転させるとナタリアへ銃撃を行う。距離があるため完全に回避したはずだったが、魔弾はナタリアの弓を打ち抜き、破壊した。

「それではもう使い物にならんだろう。これで残りは四人。そろそろ観念したらどうだ?」

「それは遠慮させていただきます」

「まだ動けたか。存外しぶといやつだな」

「これくらいで根を上げるようなら、死霊使いなどと呼ばれたりはしませんよ」

「だが、すでに戦闘能力はほぼ削いだ。今さら起き上がってきたところで何ができる」

ジェイドを睨みつけながら両手を伸ばし、銃を突きつけるリグレット。

「みなさん聞いて下さい。敵は一人ではありません!」

「大佐……?一体何を」

リグレットに警戒しながらも辺りを探るが、もちろん誰もいない。ジェイドは訝しむティアたちへ、ある事実を告げようとするが、その鼻先を銃弾が掠める。リグレットは発砲していないにも関わらずだ。

「その通り、よくぞ見破ったな。だからと言ってどうなるという訳でもないがな。わたしたちの魔弾は躱すことなど敵わん代物だ」

「トリスタン謡将かっ!」

ティアに治療譜術を掛けてもらいながらガイが言う。

「ちょっとシャレになってないくらいピンチですう~!」

「教官一人でも手一杯なのに……」

「それでは続けようか」

相手の言葉を悉く無視し、再びジェイドを仕留めるために襲い掛かる。引き金を引くと無数の弾丸が射出され、その全てがどこからともなく飛んでくる弾丸に当たりその軌道を変える。それが幾度も繰り返され、まるで蛇のようにジェイドを取り囲む。

「タービュランス」

突風が巻き起こり、全ての弾丸を巻き上げる。

「躱せないならば、防いでしまえばいいだけの話。確かに呆れた絶技ですが、無敵という訳ではありませんから」

「ならこれならどうする」

リグレットは銃口を真上に向け、七発の弾丸を射出する。それを合図に彼方から飛んでくる弾丸が目視できるほどの大きさに変化した。

「ファクス・カエレスティス。トリスタンが名前を付けた数少ない技の一つだ。耐えれるものならば、耐えてみせろ」

直径10メートルほどの大きさの白い光の玉が、流れ星の様に降り注ぐ。地獄のような光景だ。

「おいおい。こりゃまずいんじゃねえか」

「みんな早く、こっちに!」

慌ててティアが譜歌を歌い始め、着弾ギリギリで第二音素譜歌フォースフィールドが完成する。流星が地を削るその最中、リグレットは平然とティアたちのいる方角へと歩みを進めていた。そして、フォースフィールドを眼前に捉えると、再び上空に向けて発砲する。

「これでチェックだ」

無数の流星に混じり飛んできた、特大の弾丸がフォースフィールドにぶち当たり。互いに消滅する。

「これは、超振動ですか!」

まったく同一の振動数を持つ音素が干渉しあうことで、ありとあらゆるものを分解し再構築する。それが強固な防壁であろうと関係ない。防壁はすでに無くなり、未だ降り注ぎ続ける流星がルークたちをのみ込んだ。

「終わりだな」

リグレットはそう呟きながら土煙が晴れるのを待つ。出てきた人影は五つ。

「限界まで力を出し切ったか」

「おかげて助かりました。後でお礼を言わせてもらいましょう」

全身ボロボロではあるが、重症は肩を打ち抜かれているジェイド一人だ。ティアが無茶をしてもう一度フォースフィールドを展開した結果だった。

「当の本人がこれでは説得は出来そうにないか。今日のところは引かせてもらおう」

安らかな顔で気絶しているティアの顔を一瞥すると、リグレットはその場を後にした。

 

・・・

アグゼリュス崩落の報は世界中を駆け巡った。まばゆい光と共に、都市一つがすっぽりと抜け落ちたのだ。両国とも、相手の国が持つ最新兵器を疑ったため、ホド戦争の時よりも数段上の緊張状態に陥った。いつ戦争が始まってもおかしくない状況だ。

「ここも異常はない。さて、次はケテルブルクか」

各地の様子を見て回れ、という任務を仰せつかった僕は現在、音機関都市ベルケンドにいた。

「どうやら無駄足にはならなかったようだな」

「その声は、アッシュか?」

振り向くとそこにはルークとティア、そしてガイを除くメンバーと共にアッシュがいた。厳しい目でこちらを睨みつけている。

「どうした、苦虫をかみつぶしたような顔をして。アッシュはいつものことだが導師イオンには似合いませんよ」

「うるせぇ!そんな事より答えろ。いったいここで何をしている。ヴァンの指示か」

「大声出すなっての。話せることは話してやるよ」

「では洗いざらいはいてもらうとしましょうか」

ニヤニヤと笑いながらジェイドが言う。僕の言葉を完全無視である。早くも頭が痛くなってきた。

「まあいいや。それで聞きたい事ってのはなんだ?」

「お前とヴァンの計画についてにきまってるだろうが」

「それは本人から直接聞け、僕が勝手に話していいものではないからな」

僕の声から軽い様子が消え去り、緊張したアニスとナタリアが身構える。

「それでは、あなた自身のことで一つ。なぜヴァン謡将に協力しているのですか?」

「……大体の思想はリグレットからも聞いたろう。それに加えて、僕は予言を心底恨んでいるからな。消すためならどんなことでもすると決めたのさ」

思い出されるのは僕の生き方を決めたあの日の出来事。今では誰も覚えてないような小さな反乱の話だ。

「決められた場所に決められたように歩んでいく。それは生きていないのと変わりない。人間が人間である強さを手に入れるためならば、僕は喜んで逆賊の汚名を被ろう。数えきれないほどの屍を積み重ね、その果てにある真の未来に届くまで、僕は決して立ち止まらない」

一人一人順番に目を合わせる。しかし、真っ向から視線を返すことが出来たのは、アッシュとジェイドの二人だけだ。後の二人は、人の本気の言葉に向き合うにはまだ経験が足りないようだ。

「……お前の考えは分かった。計画とやらについて聞き出せないこともな」

「ああ」

相も変わらずこちらを睨みつけている視線には、敵意に混じり僅かに敬意が感じ取れる。

「だがそれは俺には関係のない話だ。立ちはだかるなら切り捨てる」

「それでいい。居場所を失った境遇は似ていても、相いれないのならぶつかるのは道理だからな」

ふう、と息を吐き重苦しい雰囲気を霧散させると、イオンの方を見る。

「導師イオン。そんな顔をしないで下さい。僕が恨んでいるのは予言だけです。貴方個人の人徳には尊敬の念を覚えているほどですよ」

苦しそうな顔のイオンへと柔らかい言葉を掛けて、軽く笑みを作る。

「やれやれ、私からも聞いておきたいことがあったのですが、どうやらそうタイミングを逃してしまったようですね」

「欲張りな奴め。これでも結構話してやったほうなんだぞ」

「トリスタン謡将の真面目なとこ、初めて見ましたぁ~!」

「アニース。少し黙ってようか」

ニコニコと余所行きの笑顔に切り替えると、アニスに近づき頭を鷲掴みにする。導師守護役では上官への無礼は体罰上等。と言っても僕以外は全員横並びなのでアニスやアリエッタのような問題児を躾けるための決まりである。

「それで、そちらの御嬢さんはナタリア・ルツ・キムラスカ・ランバルディア様で相違ないですよね?改めまして、私はトリスタン・ゴットフリート謡将であります。以後、お見知りおきを」

「えっ、ええ。こちらこそよろしくお願いいたしますわ」

あからさまに取り乱すナタリア。不審に思い首をかしげていると、ジェイドが耳元で僕のファンだということを教えてくれた。最後に物好きな人もいた物です、余計な事とか言いやがったが。

「そういえば以前、バチカルからの狙撃をしたことがありましたっけ」

「覚えておいでなのですか?」

「誰かに見られながらというのは稀なものですからね。記憶にも残っていますよ」

社交辞令だ。実は今までの全ての銃撃を記憶している、なんて言ったらジェイドにねちねちと嫌味を言われかねない。

「教団の人間以外に『フェイルノート』を見せたのは、後にも先にもあの一件しかありませんので」

「私たちは撃たれる側ですからねえ」

「あんたは嫌味しか言えねえのか!」

つい興奮してしまって、掴んでいるアニスから嫌な音が鳴った。……まあ、大丈夫だろ。アニス結構頑丈だし。

「じゃあ、そろそろ僕は行こうかな。ヴァンの手がかりを探すなら、君たちの目的地はワイヨン鏡窟だろうし」

「さっさと行っちまいやがれ」

悪態をつくアッシュに苦笑して、僕はベルケンドを後にした。

 

・・・

「ガイラルディア・ガラン・ガルディオス」

「なっ!?」

ルークたちの到着を今か今かと心待ちにしていたガイに向けて、禁忌の言葉が投げかけられる。かつて、目的のために捨て去った名前わ告げられ、首元にナイフを突きつけられているような錯覚に陥る。

「別段知っていてもおかしくないだろう。僕は君が生まれた時くらいから、教団で銃を握っていたんだ」

「トリスタン謡将……」

剣に掛けていた手を放し、僕の方へと向き直る。僕の手にある白い手袋を見て、抵抗は無意味だと悟った。というか話をするために悟らせた。

「理解が早くて助かるよ。少しだけ聞いておきたいことがあってね」

「吐かせたい事、の間違いじゃないのか?」

「そう警戒するな。確かに僕と君は相いれないかもしれないが、復讐者という一点においてのみ同類だ」

「あんたと同類とは畏れ多いな。俺は町一つ崩落させるほどではないんでね」

崩落した町とは無論、アグゼリュスの事だ。あの場で散ったたくさんの人の命を目の当たりにしたのだろう。ガイからは肌を突き刺すような怒りを感じる。

「復讐に貴賤は存在しない。その悉くが劣悪な負の連鎖を生む地獄への道だ。一度踏み入れれば、もう戻ることは出来ない」

「……それで結局あんたは何が言いたいんだ」

「簡単な話さ。君にはまだ引き返せる場所があるだろう。僕の様に無様な負け犬に堕ちる前に、もう一度だけその是非を考えてみろ」

ガイは驚いた様子でこちらを見ている。きっと今の僕は酷い顔をしているのだろう。

「復讐に取りつかれた君にとって、良くも悪くも純真なルークは最後の救いになってくれるかもしれない。それを忘れるな」

「……覚えておこう」

やりきれないといってるように顔を顰め、ガイは短くそう言った。

 

・・・

それからしばらく、時折ガイと互いの過去についての話をしていると、待ち人が到着した。魔界にあるユリアシティから上ってきたティアとルークだ。髪が短くなっていた事よりも、顔つきが以前と比べ物にならないほど成長していたため、一瞬誰だか分からなかったが。まさに見違えた、というやつだ。

「ようやくお出ましかよ。待ちくたびれたぜ、ルーク」

「ホントだよ。ガイと無駄に打ち解けちまったぞ」

「あんたは黙ってろって。それよりルーク、髪を切ったのか。いいじゃん。さっぱりしててさ」

「ガイ、それにトリスタン!?」

再会の嬉しさよりも、僕の存在への驚きが勝っているようでその場に立ち止まってしまった。

「僕の事は気にしなくていい。先に再開の挨拶を済ませろよ。話はその後だ」

「言われなくてもそうさせてもらうさ。な、ルーク」

ガイに話を振られるものの、アッシュと会い自身がレプリカであると知ったルークは黙り込んでしまう。

「あん?どうした?」

「……お、俺……、ルークじゃないから……」

「おーい、お前までアッシュみてえなこと言うなっつーの」

「でも、俺レプリカで……」

震える声で言うルークに対し、ガイはそんな事と切って捨てる。

「いいじゃねえか。あっちはルークって呼ばれるのを嫌がってんだ。貰っちまえよ」

「貰えって……。お前、相変わらずだな」

「そっちは随分卑屈になっちまったな」

「卑屈だと!」

呆れたように言うガイに対してルークが少しカチンとする。

「卑屈だよ。今更名前なんて何でもいいだろ。せっかく待っててやったんだから、もうちょっと嬉しそうな顔しろって」

名前なんてどうでもいい。その一言は、存在そのものを否定されたと思っていたルークの胸に大きく響いた。

「……うん。ありがとう」

「ルークがありがとうだって……!?」

未だかつてないほどにガイが驚く。僕に名前を言われた時でもこんなに驚かなかったぞ……。そんなことを考えていると、ティアが前に進み出て、ガイはそれに合わせて飛びのいた。それを見て二人とも呆れた顔をしている。

「さて、そろそろ僕の話に移ってもいいかな?」

オチも付いたことだし頃合いを見て口を開く。

「ユリアシティに行ったんなら、予言の事を聞いたはずだ。そしてこの世界がどれほど狂っているかも、お前たちはその目と耳で知っただろう」

「ああ。確かに聞いたさ。ヴァン師匠が俺を利用したことも、なにもかも!」

「ならば、お前の進むべき道は三つだ。ヴァンを恨むか、自分を恨むか、それともこの狂った世界を恨むか」

「それは……!?」

僕の目的に感づいたティアが声を上げる。

「そうだ。君たちが予言を恨み世界を壊す大罪人になる道を選ぶというのなら、こちらに来い」

ガイもティアも口を噤むなか、ルークの言葉だけが響いた。

「俺は―――」


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