二人の魔弾   作:神話好き

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七話

地核内部。周囲が眩しいほどに光り輝くその場所で、シンクはルークたちと相対していた。すでにその四肢には力がなく、片膝を突いてしまっている。

「お……おまえ……」

いつもつけている仮面が外れると、そこには見知った顔があった。

「嘘……イオン様が……二人!?」

「……ぐっ」

あまりにも似すぎている顔を恥じるように隠そうとするも、呻き声を上げる事しかできない。

「やっぱり……。あなたも導師のレプリカなのですね」

「おい!あなたも……ってどういうことだ!」

「……はい。僕は導師イオンの七番目―――最後のレプリカですから」

衝撃的な事実に予想していたジェイド以外のメンバーが目を見開く。

「レプリカ!?おまえが!?」

「ええ、あの時、オリジナルのイオンは病で死に直面していた。でも、後継ぎがいなかったので、モースとヴァンがフォミクリーを使用したんです」

「……お前は、一番オリジナルに近い能力を持っていた。ボクたち屑と違ってね」

沈黙を保っていたシンクが静かに口を開く。その瞳には憎悪がありありと浮かんでいた。

「そんな……屑だなんて……」

「屑さ。能力が劣化していたから、生きながらにしてザレッホ火山の火口に投げ捨てられたんだ。ゴミなんだよ……。代用品にすらならないレプリカなんて……」

「……そんな!レプリカだろうと、俺たちは確かに生きているのに」

「必要とされてるレプリカの御託は聞きたくないね」

震える手足を無理やり押さえつけながら立ち上がると、ルークを睨む。

「だけどね。そんなゴミに話しかけてくる奇特な奴もいたんだよ。予言が消えた世界で、本当に自由に生きてみろ、ってね。鼻で笑うような話さ。代用品にすらなれなかったガラクタのボクに自由だなんて滑稽だ。だけど―――」

もう立てるはずがない手足に力が入る。憎悪しか映さなかった瞳に強い意志が宿る。

「その言葉は、ボクの心に酷く響いた。そこが地獄でも構わない。一目でいいから、アイツの望む世界を見てみたいと思ったんだ」

歯を食いしばり、再び構えを取ったシンク。

「構えなよ。ボクは早いとこあんたたちを倒して、地上に戻らないといけないんだ」

「ダメです!それ以上続けては体が持ちません!」

「引っ込んでな導師イオン。アンタそうやって大事な時に、なにも選べずに朽ちていくといい」

その言葉と共に、ルークたちへと向けて目にも止まらぬ速さで駆け寄る。顔面へのフェイントの直後回し蹴りを放ち吹き飛ばすと。丁度全員の真ん中に立つ。

「代用品ですらない、ボクはただの肉塊として生まれた。そんなことを考えて、毎日毎日、気が狂いそうなほどに予言を恨んだよ。ようやく解放されるんだ。邪魔ななんかさせてたまるもんか」

「それでも……それでも、俺たちは師匠を止める!」

己の信念を掛けた第二幕が幕を開けた。

 

・・・

リオネスにある僕の家には今、重傷を負った三人の手当てをしていた。ラルゴ、アリエッタ、リグレットだ。ロニール雪山で、ルーク一行と交戦した際、その衝撃により引き起こされた雪崩に巻き込まれたのだ。

「全く、命が助かったから良かったものを……」

「面目ない。事ここに至って、床に伏せることになろうとはな」

「本当だよ。アリエッタが起きたらちゃんとお礼を言っとくんだぞ」

「分かっている」

ラルゴとは少し離れた場所で、ライガたちに囲まれながら安らかな寝息を立てているアリエッタを見る。

「本当によくやってくれたよ。所詮は傷の舐めあいかもしれないけど、僕はあんたにも死んでほしくはないからな」

「……お前がそれを言うのか」

目を細めて僕の方を見るラルゴ。迫力のある顔つきがさらに凶悪になっている。

「やっぱり分かるか?」

「分かってないのは、ディストとアリエッタくらいだろうよ。誰しもが口に出さんだけだ」

僕は、あはは、と愛想笑いのような笑みを浮かべながら窓際に立つ。

「僕がやっていることは、決して許されていい行為じゃない。下種と罵られてしかるべきだ」

「…………」

吐き出される言葉を、何も言わずに受け止めてくれるラルゴ。今の僕にはとてもありがたい。

「殺すだけ殺しといて、今度は生かすために泥を被ろうとしている。実に醜悪だよ」

激情に駆られるままに、壁を殴りつけようとして、その手を掴まれる。

「ジゼル……」

「もうやめてくれ。見てる方が苦しくなる……」

いつの間にか起きだしていたリグレットだ。目じりにうっすらと涙をため、震える声を絞り出す。

「ごめん。少し、弱気になってたみたいだ」

暫くそのまま固まってから、僕は腕から力を抜くとリグレットの方へと向き直る。

「君を泣かせるなんて、僕は本当にどうしようもない奴だなあ……」

苦笑しながら、流れる涙を指で拭う。

「いいさ。お前が馬鹿なのは出会った時に知っている」

「……ありがとう」

軽くリグレットを軽く抱きしめ、ありったけの思いを込めてささやく。

「それじゃあ、ちょっと行ってくる。安心して養生してなよ」

「ああ。言われるまでもない」

いつもと変わらない会話をして、僕はアブソーブゲートへと向かった。もう二度と、へこたれる事はないと誓おう。僕の背を押してくれた彼女の為にも。

 

・・・

「止まれ」

アブソーブゲート最奥の手前、ヴァンの演奏する曲を聞きながら、僕はルークたちを出迎えた。その手にはすでに『イゾルデ』を付け眼帯も外している。戦闘準備は万全ではないが、万端だ。

「やはり、あなたも来ましたか」

「当たり前だろう。なれ合ってはいたものの、僕たちは敵同士だ。この局面で引っ込んでなんていられないさ」

今までの柔和なものと違い、全てを拒絶するような声音。導師守護役としてではなく、軍人としての表情だ。

「お互い相いれないのはすでに分かってるはずだ、さっさと剣を取れ。その悉くを打倒し、這いつくばらせてやろう」

「話し合う気は毛頭ないってか……」

「みんな!来るわよ!」

腰を低くかがめ目標を定めると、僕ははじかれるように地を駆けた。その動きは船の時よりも数段早く、タイミングを外されたアニスの人形の爪も、ガイとルークの剣も空を切る。

「させませんよ」

油断なく構えていたジェイドの槍が足元へと突き刺さる。わずかにスピードが落ち、その合間を狙うように弓とナイフによる攻撃が来た。後方に宙返りしながら躱すと、やはりそこには人形がいた。そのままの勢いで人形の頭に蹴りを入れ、着地すると、体を捻りうつぶせに倒れた人形の上にいるアニスを狙う。

「させるか!」

「囮だ」

僕の放ったけりはその軌道を変え、ルークの剣を握る拳へと直撃した。以前、ガイに取った戦法と同じものだ。

「ふっ!」

蹴りが放たれた瞬間から、動き出していたガイが眼前まで迫る。それと同時にナタリアの第二射が僕を襲う。姿勢を低くし、体を大きく右へとずらす。顔へと迫るガイの一閃にあえて近づき、頬を切られながらも躱す。それと同時に左手は飛んできた矢を掴みとり、勢いを殺さずにガイの脇腹へと突き立てる。剣を振り切ってしまったので回避は不可能だ。

「ガイ!ちょっと我慢して!」

アニスがうつぶせに倒れた状態の人形の腕だけを伸ばして、ガイを吹き飛ばす。矢を握った勢いに任せて一回転すると、ルークの手にもう一撃蹴りをお見舞いして、そのまま吹き飛ばす。そして静止した瞬間、待ってましたとばかりに譜術が放たれた。

「エナジーブラスト!」

ピンポイントな初級譜術が僕を襲う。予備動作もほとんどないように見えた。下手な上級譜術よりも厄介かもしれない。

「『テッラ』」

僕の声と共に『イゾルデ』が発光し、茶色の球体が生み出される。それは出現するや否やストン、と地面に落ちると僕の周囲にドーム状の岩の壁を作った。大きさは倒れているアニスを除く全員がギリギリ入らない程度。これだけの大きさがあれば適当に売っても当たることはない。いくら細かい制御の効く術だろうが、対象が見えなければ当てられないと言うことだ。

「『イグニス』」

新たに現れたのは赤い球体。どうせ、このままここに籠っている訳にもいかない。壁が出来てからこの判断を下すまでわずか数秒。僕の頭上へと到達した『イグニス』は爆発を起こし、土を巻き上げ煙幕を作った。

「行け!」

握ったままだった矢をナタリアに投げ返すと、ジェイドへ向けてスタートを切る。土煙の舞う中互いに視線が合い、獰猛な笑みを浮かべる。あいつなら必ず対応してくる、というある意味信頼に似た感情。

「イグニートプリズン!」

「『イグニス』!」

足元から出てきて僕を包み込もうとする炎の牢獄。その陣の中心目掛けて、こちらも同じような物をぶつけ相殺する。陽炎が出来るほどに燃えたぎる火炎を一切無視。止まることなど一切考えていない、お互いに。

「瞬迅槍」

炎の壁を突き破り、正確にジェイドの槍が僕の喉元を狙う。

「『アクア』」

これで三つ目。青の球体から氷で出来た鎖が伸び、寸前のところで槍を絡みつき、その動きを止める。その瞬間、僕はジェイドの鳩尾に渾身の拳を放つ。

「風塵皇旋衝」

いつの間にか消していた槍を、先ほどとは逆の手で持ち大技を繰り出す。が、僕の方が早い。鳩尾に一撃を入れ、苦悶の表情をするジェイドを確認する間もなく、僕は『イグニス』と『アクア』を衝突させる。発生した小さな爆発は殺傷能力こそあまりないものの、人を吹き飛ばすには十分だ。

「バニシングソ――きゃあ!」

未だに無傷のティアが着地の隙を突くように攻撃を繰り出す。しかし、その足物から巨大な岩の剣が現れ薙ぎ払う。ナタリアに矢を投げると同時に地面に潜航させていた『テッラ』だ。

「ティア!」

吹き飛ばされたティアとルークとガイが、ジェイドをアニスが受け止める。これで最初と同じく対峙したような形になる。とはいえ、うち半分には先頭に支障が出る程度のダメージは負わせた。

「ぐっ、強い……!」

「謡将。船の時の比じゃないですぅ」

「当たり前だ。本気で潰すと言っただろうが」

首に手を当て、左右に揺らして骨を鳴らしながら僕は言った。

「死霊使いを含めても、僕に比べれば実戦経験が違いすぎる。昨日今日覚悟を決めたひよっこが受け止められるほど、僕の信念は安くないぞ」

「あなたも兄さんも、どうしてそれしか道がないと決めつけるの!?オリジナルを全部消してまで、成し遂げなくちゃならないことなんかある訳ないわ!」

自らの傷に治療を施しながら、ティアが叫んだ。それに追従するようにガイも口を開く。

「確かにこの世界は歪んでいるのかもしれないけどよ。あんたの作ろうとしてるレプリカ世界は歪んでないと言えるのか」

「そうは言わない。確かに歪んでいる可能性もある。だけど、確実に今よりはましだ。いつの日か、人は人の業により滅びるだろう。だけど、予言に導かれた結果そうなる事を僕は絶対に認めない」

「滅びも栄も人間の意思によるものであるべきだ、とあなたはそう言いたいのですか」

「ああ。僕は人間が予言なんてものに頼らなくても生きていけると信じている。葛藤し、苦悩し、それでも前に進み続ける。その意志の放つ輝きこそ、僕が勝ち取ろうとしている本当の意味での自由というものだ」

すっと目を細めると、少しだけ昔を思い出す。それは人間の尊さを教えてくれた人々言葉。

「『人はみんなが思っているより、少しだけ強い』。良い言葉だろ?僕の根幹にあるのはこれさ。だから、僕は負けない」

有無を言わさずに言い放ち、返答を受ける前に構えを取る。

「『ウェントゥス』」

『イゾルデ』が発光し、現れた球体は緑。これで四つ目。地水火風を従え、ベヒモスを倒した時と同じ状態になった。

「ここを通りたいのなら、僕の理想を粉砕して先に進め」

「……行きますっ!」

隙を見せずに悠然とたたずむ僕へと向かって、一斉に駆け寄る。『ウェンティス』を操り、左右両方から振り翳される剣を受け止めると、自身はもう一人の前衛、アニスの迎撃を行う。途中、飛んでくる矢を当然のように自由に浮遊している球体が撃ち落とし、一対一の状況を作り出した。

「爪連龍牙昇!」

「沈め」

襲い掛かる爪の嵐をすべて紙一重で避け、その合間にカウンターで拳を叩きこむ。総数十を超える打撃は人形の体制を容易に崩した。が、とどめの一撃を放つ前にその場を離脱すると、やはりと言うべきか轟音を轟かせて、地を裂く譜術が発動した。

「『イグニス』!」

「このタイミングでも躱しますか……っ!」

間髪入れず標的をジェイドに変更し、背後で爆発させた『イグニス』の爆風に乗って襲い掛かる。左の手で顔面を狙ったアッパーを放ち、それを防御させて槍を封じる。そのまま膝を跳ね上げガードを吹き飛ばすと、衝撃でのけぞったジェイドの足を払う。

「砕けろ!」

その他のメンバーによる妨害を意に介さず、真下にいるジェイドの腕を踏みつけ、破壊する。しかし、その手を砕かれながらも目には闘志が揺るぎなく。

「消えなさい!」

「『ルーメン』!『テネブラエ』!」

咄嗟に出したのは、第一音素と第六音素の球体。全ての球体を防御に回す。そうしなければやられるほどの大技だ。急いでジェイドから離れて周りを把握する。

「ミスティック・ケージ!」

虚空にはいつの間にか展開された無数の魔方陣が浮かんでおり、僕を中心に尋常ではない譜力だ辺りを包む。発動する寸前、どうにか手元に戻した六つの球体に命令を下した。僕の弾丸すら通さない、絶対防御の技だ。

「アダマース!」

荒れ狂う力の奔流が襲い掛かり、まばゆい光が広がる。まるで、音も景色も全て消し去られてしまったようだ。そんな光景がしばらく続き――

「正直、終わったかと思ったよ」

ピシピシと音を立てて強固な金剛石のような殻を破り、僕は話しかける。

「そんな!?あれを食らって無事なのか!?」

「そうでもない。本当にギリギリだったさ。後ほんの少しで僕は致命傷を負っていただろう」

「人はそれを完全に防いだというのですよ。まったく自信を無くしますねえ」

こんな時でもペースを崩さずに皮肉を言うジェイド。自分を律する精神力は僕の遥かに上だ。

「……六つ出して戦ったのは、片手で数えるくらいしかないんだ」

そう言って、僕の周りを浮遊する球体を自由に操って見せる。

「加減は一切できない。死にたくないなら早急に立ち去れ」

誰一人として口には出さないが、その目を見れば分かる。そんな気は微塵もないのだと。

「冥土の土産だ。僕の力を見せてやる」

バックステップをし距離を取る。僕の体から空気が振動するような譜力が放出されると同時に、六つの球体は背後に集まり高速で回転を始める。

「廻れ廻れ世の理よ。其の法を以て、我が敵悉く灰燼と帰せ」

「詠唱!?」

「ここに来て譜術ですか!」

「マグナ・コンケプトゥス」

六つの球体が混じり合い、六色のまばゆい輝きを放つ剣となる。僕はその剣を手に取ると、ルークたちに向けて一振り。すさまじいエネルギーを内包した六色の虹が剣より放たれ、放射状に全てをのみ込んでいく。通過した後は新しく床が敷かれたように真っ平になり、塵一つ残していない。

「うおおおおおおぉぉぉ!」

そんな中一か所、ルークたちが固まってた場所だけが虹の寝食を免れている。いや、抗っているというべきか。ルークの周囲に展開されれいる超振動が原因だ。

「レイディアント・ハウル!」

完全に相殺、とまではいかなかったが、僕の渾身の一振りは負傷を与える程度にまで減衰されてしまった。

「まさか耐えられるとは思わなかったな。それで、続きはどうする?」

声に一切の感情をこめずに、僕は言い放った。

 

・・・

すでに壊滅状態と言っていいルークたちは、地に伏しながらも諦めていなかった。とはいえ、まともにやりあって勝てる相手とも思えない。

「みなさん、聞いて下さい」

「大佐、何か策がおありで?」

「策、とは言えないようなものですが……」

ジェイドは難しい顔をしてメガネを上げながら答える。

「彼も化物じみているとはいえ人間です。その譜力の総量には限りがあるはずです。私の攻撃を防ぐのに一回、先ほどので二回目。すでに二回もの大技を繰り出しているということになる」

「譜力切れを狙うんですか?しかし、トリスタン謡将がそんなミスを……」

「しないでしょうね。しかし、それは平常時ならです」

「あんた、……まさか!?」

「軽蔑してもらって構いませんよ。恨まれるのには慣れてますから」

目を見開くガイ。作戦の内容を理解したのだ。それも、とびっきり非道な。

「大佐ぁ……」

アニスが泣きそうな声を出す。

「……あなたたちは迎撃の準備を。彼の暴走、とやらがどれほどのものなのか、分かりませんから」

そう言って一歩前へ出る。一瞬だけその顔が歯を食いしばっているように見えた。

「少し、言いたいことがあるのですが」

「……なんだ?」

「あなたの行為についてですよ」

「…………」

全員が息をのむ。唯一にして最悪の一手だからだ。

「予言に縛られて、人を殺すあなたの行為は」

「やめろ……」

ジェイドの声が震えている。そんな気がするような弱々しい声だ。

「まるで―――モースのそれと同じです」

目を伏せながら吐き捨てるように言い放った。

「『フェイルノート』オォォ!」

喉が焼き切れんばかりの慟哭が響き、怪銃『フェイルノート』が展開された。七本ある羽のうち六本が光り輝き、四方八方へと極大の銃撃が放たれる。近づこうとすれば、右手に一体化した銃を鈍器の様に扱い薙ぎ払う。その荒々しさは、まるで修羅。加減もなく、その場全てを破壊しつくす鬼神に見えた。

「ガァアアァァァアァアァ!」

憎悪に曇った瞳は普段の彼から想像できないほどに凶悪で、それだけで息が出来なくなりそうだ。しかし、攻撃は大雑把になり避けるだけならば、そう難しくはない。そして、その時は何の前触れもなく訪れた。

「あ……、ああ……」

突如、紐の切れた人形のように崩れ落ち、そのまま動かなくなる。こちらの狙い通り、譜力が切れたのだ。

「……ごめんなさい」

その言葉は一体誰のものだったのか。胸の中をかき乱す罪悪感に苛まれながら、ルークたちはその場を後にした。

 

・・・

「さんざん人に生きろとか言っといて、アンタが落ちてきちゃ世話ないね。トリスタン」

「ここは……」

聞き覚えのある声に目を覚ます。地面がなく、漂うように僕は浮いていた。

「目を覚ましたか」

「ヴァン、それにシンク」

「気絶しているうちに落ちてきたアンタには、状況の説明が必要かな?」

「……頼む」

痛む頭を抑えながら、シンクの方を見る。

「知ってる事を説明するのは無駄になる。お前はどのあたりまで覚えてるのだ」

「暴走させられて、無様に倒れ込んだところまでだな」

「……なるほどね。アンタがまっとうな方法で倒されるとは思ってなかったけど、そういう事か。意外にやるじゃないかあいつら」

口調は軽いが、その声には少なからず怒気が感じ取れた。その証拠に、眉間にしわが寄っている。初めて見たかもしれない。普段は仮面をつけているからかもしれないが。

「そこまで記憶が確かならば話は早い。お前を倒した後、奴らは私をも打倒したのだ」

「……あんた、レプリカがどうのとか言って舐めてかかったろ」

「……そして私は、そのまま地核へと落ちてきて今に至る、という訳だ」

分かりやすい反応だ。やはりヴァンの野郎大一番で慢心しやがったらしい。あとで説教だな。

「ってことは、やっぱりここは地核なのか。ずいぶんと不思議な場所だな」

「アンタの意味不明な狙撃程じゃあないよ」

「まったくだな」

何故か六神将もヴァンも、僕を貶める時だけは異常に息が合う。以前、ディストとヴァンがそれをやった時には度肝を抜かれたものだ。

「まあ、いいや。とりあえずは地上に帰ろうよ。そんで、アリエッタのフェレス島あたりでシンク復活パーティーでも開催しよう」

「お断りだね。って言ってもアンタは聞かないんだろうけどさ」

僕の提案に対し、シンクは呆れたように笑っている。

「じゃあ、早く帰ろうか。リグレットたちにこれ以上心配をかけるのも嫌だしね」

あらためて言うまでもなく、僕たちは地上へと向けて移動を始めた。言葉て確認なんか取らなくても、その意志は揺るぎないと知っていたからだ。

「次は……負けない」

ゆっくりと浮上していく最中、僕は誰にも聞こえないような小さな声で、そう呟いた。


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