終始、オリキャラ視点です。
そこは煮えたぎる溶岩が流れる灼熱の階層。光源はその溶岩のみで常に薄暗く、灼けるほど熱せられた空気は生物が足を踏み入れたならばたちまちに命を燃やし尽くすだろう。
そんな極限の場に全速力で駆け抜ける美女と美少女の姿があった。
「待ってぇ!お願いだから話をおぉぉ…!」
「くどい!!」
アルベドと
──くっそー!さっぱり話を聞こうとしねぇ!つーかルビ!失礼だろ!
事実である。しかし、ここで問題なのはこの階層はデミウルゴスが守護する階層ということだ。彼に見つかるのは時間の問題と思われる。幸い、今はまだ
──不味いまずいマズい!このままだとデミウルゴスの住居である赤熱神殿を通る!あそこには三魔将がいる!
「ぐ…も、[ももんが]さんが悲しむぞぉ!」
モモンガさんの名前を出した途端に
「煽ってしまったことは謝ります!まずは話を──」
「──屑が偉大な御名を使うな、と言ったはずだけれど?」
──…全然話聞いてねぇ。
今のアルベドの顔は見えない。しかし、般若の如き相貌であることは容易に想像できる。身体が
美人の面影が欠片も残っていない顔がゆっくりと振り向いた。
「…ウザったいったらないわ。貴様は何故そんなにのうのうとしていられる?…私が貴様の子供?ハッ、笑わせるな。なら何故タブラ・スマラグディナ様…いや、
「っ!」
──…参ったな…耳が痛い。
あゝ、悪い予想というのはどうしてこうも当たるのだろうか。とんだ置土産だと思う。まぁ、『こんなこと』になるなんて誰も想像すら付かなかっただろうから、仕方ないといえば仕方ないだろうが…勘弁して欲しい。
眉間にしわが寄った金色の双眸がこちらを鋭く射抜く。
時間を掛けるわけにはいかず、かといって妙案があるわけもなし…親子かどうかは一旦諦めて、
「言い訳はしません。しかし、あなた達の知らない真実というものがあります。まずはそれを聞いて欲しい」
「…それが言い訳でなくて何が言い訳か問い詰めたいところだけれど…。──いいわ。いい加減に鬱陶しいし、話を聞かせたら二度と
──何にせよ、これで話が出来るか…。
アルベドの含みのある言い方は気になったが、まずは話を聞いてもらわないとそれこそ話にならない。
とはいえ、こちらの話を信じてもらえるかどうか、だ。そもそも、右の耳から左の耳へ聞き流されてはたまったものではない。ここからは
「…では、私の部屋で話をしましょう。他の者たちに聞かせることは出来ません」
「ハン、そう言うと思ったわ。お断りよ」
──…はい?
蔑むような視線を送ってくる目の前の美女を改めて見やった。眉間には相変わらずシワが寄っており、攻撃的な姿勢は全く変わらず
「どうせモモンガ様を誑かして口裏を合わせてもらうつもりだろう?…ここで話せ」
見抜かれている。誑かすことなど一切ないがやはり、ある程度は口裏を合わせたかった。いくら
この子の様子を見る限り、モモンガさんが本当に求めているものを計り兼ねているだろうし、まずはそこからいくべきか逡巡する。考えている時間はないのだが。
「…どうした?やはり一人では何も話せないのか?」
「…長が本当に求めているものから話しましょう。長は『愛』を求めている…愛されることを欲しています」
『愛』の一言に
「…しかし、それは命令して与えられるものでもありません。また、愛と一言で言っても様々です。自愛、友愛、情愛、家族愛、博愛、異性愛…今現在、最も欲しているのは恐らく友愛…つまり、[ぎるどめんばあ]です」
「…あ?」
生温い風が突風の如く体の表面を荒々しく撫でていった。
「落ち着きなさい…あくまで
疑わしさや訝しさ、いかがわしさが多分に入り混じった複雑な感情が込められた視線が向けられる。少なくとも興味は持ってくれたようだ。モモンガさん関係の話から進めて良かったかはまだ分からないが。
「…まず、私達[ぷれいやあ]は厳密に言えば[ゆぐどらしる]の住人ではありません。本来の姿を持つ世界というものがあり、私達は
「…」
金色の瞳に疑わしさが増した。しかし、拒絶することなく顎をしゃくり、続きを促してくる。警戒心は未だ高いが…まぁ、まずは話をしてからだからな。
「…現実での私達はとても虚弱でした。それこそ、人間の如く。そのくせ、現実はとても酷い世界でした。しかも、死ねば生き返ることも叶わない世界。そこは毒の空気に覆われて道具が無ければまともに息をすることも出来ず、飲料も食事も全てが人工的で家畜の餌以下。ほとんどが一部の支配層にこき使われる毎日…そんな地獄の中で癒やしを求めて[ゆぐどらしる]に降り立ったのが私達[ぷれいやあ]です…そして、長を始め[ぎるどめんばあ]が集い、
「…」
アルベドは大いに不機嫌なオーラを発して考え込んでいる。何か不味いことでも言ってしまったのか不安に駆られる…あ、沈静。
「…つまり、私達は貴様らを癒やすための使い捨ての玩具だった、と…?」
──あー、そう来たか。ある意味正解だ、なんて言えねぇし言いたくねぇ。言ったら自分の首を折るわ。
難しいところだ。しかし、ここは一つのターニングポイントであろうことは間違いない。踏み外せば取り返しが付かなくなるだろう。肝が冷えっぱなしだった。沈静化も立て続けに起こるほど緊張の糸が張り詰める。
「いくつか訂正しましょう。まず、使い捨てなどではなく、そのような想定はしていません。また、玩具でもありません。あなた達は私達の最高傑作…。──とは言っても納得は出来ないのでしょうね…」
顔を見れば明らかだ。冷めた目でこちらを見据え、皺が寄りっぱなしの眉間は疑いを色濃く表していた。何より、不機嫌と敵意の感情が少しも和らいでいない。怨恨は根深そうだ。
「当たり前だ…最高傑作ならば、何故『飽きて辞めた』などと言える。何故モモンガ様を哀しませる…何故モモンガ様を蔑むことが出来る!!」
──…は?
この娘は今、何と言った。蔑むとはどういうことだ。
ナザリックに全ての愛を注ごうとする彼──彼女でも我が家を護って維持してくれた
「…
「…
──あんの野郎…いつかぶっ殺す。
心の奥にいつか仕舞った黒い
これはもう言葉を濁しても伝わらない。俺の頭では全部話すしか方法がない。壊れてしまったら…俺も壊れてしまうかもなぁ。
「(あいつはいつかぶっ飛ばす)…そうですね…何から話せばいいのやら…。──これから話すことに大いに衝撃を受けると思います。いいですか」
「今更何を…」
「先程は人間の如く、と言いましたが私達は元々
初めてアルベドの顔に驚愕の感情が表れた。金色の目は大きく見開き、口は半開きのまま何も言葉が出てこない。
「ば、ばかな…」
「そして、あなた達は元々予め設定した[るぅちん]を辿る人形でしかなかった…なにかの奇跡か、今こうして生きていますが…。──これは言い訳ですが、人間は人形遊びに飽きたら別の遊びを始めます…しかし、生きていると分かれば、決して離れはしなかったでしょう。あなた達に捧げた時間は膨大です。それほどまでに愛情を込めて創ったことは紛れもない事実…[しょっく]もあるでしょうが、どうかそれだけは分かってほしい」
アルベドは衝撃から立ち直れず、
《〈伝言〉。どうしました?随分、時間が掛かって──》
《[ないす]!今すぐ七階層の神殿手前まで来て![はりぃ]!》
《ど、どうしたんですか、そんな食い気味に…》
《いいから!手遅れになってもしらんぞぉ!》
自分の
「何なんですか、もう…って、どうしたアルベド!?」
頭の中の糸が切れた後、少しして
「う、うあああぁぁ!!モ、モモンガ様ああぁぁぁ!!」
顔を上げたアルベドはモモンガさんの姿を見つけると子供のように泣きじゃくりながら抱きつき、その美貌は
一方で突然、泣き出した
《〈伝言〉!サキさん!何がどうしてこうなった!?》
《どうしようもなくなって俺達が元人間だってことと[ゆぐどらしる]が[げぇむ]だってことをばらしました》
《ハアアァァ!?なにやってんのこのボケエエェェ!!?》
《面目ねぇ…何とか[ふぉろぉ]をお願いします…》
眼窩の光が激しく燃え上がり、こちらを睨み付けた。気持ちはとても分かる。分かるけど、この人なら何とかしてくれるはず…!
あまりにも無責任な考えだが、事実としてこの場を丸く収められるとしたら目の前の魔王しかいない。問題児には荷が重過ぎた。
「…アルベドよ、まずは落ち着きなさい。ゆっくりと深呼吸するのだ…そう、そうだ」
泣き過ぎて過呼吸気味だったが、
「見苦しいところをお見せしてしまい、申し訳御座いません…ですが、今暫く…どうか、このまま…」
「う、うむ…何か不安になったのだろう。私は何処にも行かないから、安心しなさい」
そう言って、モモンガさんは優しくアルベドの頭を撫でてやった。なんてことだ、童貞なのにこのイケメン力…しかも偶然にもその言葉は、今のアルベドがもっとも掛けて欲しかった言葉だろう。すごい。本物だ…。
《すっげぇ…本物の天然
《よく分からんけど、後で説教な。たっぷり絞ってやるから覚悟しろ》
『ぶっ飛ばす』じゃなくて『説教』ということはマジ説教だな、3時間…いや、状況が状況なだけに新記録の5時間いくかもしんねぇ。参ったぜ。
しかし、この安心感は半端じゃないな。この人ならマジで何とかしてくれる、と心の底から信頼できる。ただ、一つだけ懸念があった。アルベドが
「どれ、そろそろ落ち着いただろう…ここでは何だ。サキさんの部屋で話を…そんなに嫌そうな顔をするな」
「も、申し訳御座いません…ですが…」
「ごめんなさいね。話が落ち着いたら、代わりと言ってはなんだけど長の部屋を一緒に片付けてあげて下さい。物が散らかっちゃってて入るに入れないみたいですよ?」
その時、アルベドが一瞬だけ驚いたあと心からの『笑顔』を俺に向けてくれた。あゝ、モモンガさんをダシにして申し訳ないけど、この一瞬だけアルベドと分かり合えた気がする。骨だけにいい味が出たってか。うまい。
《うまくねぇよこのボケナス!!なに勝手なこと言ってんだ!!》
《うーん、でも見て下さいよ。この笑顔、裏切れますか?》
さっきまでの混乱や殺気はどこにいったのか、もう満面の笑みだ。現金なもので内心は子供のようにはしゃいでいる。まぁでも、一時的でも元気になってくれて良かった。本当に。
《う、ぐ…ううぅ…》
《良いじゃないですか。女性的な部分はほぼ完璧ですよ、この子。家事なんか[ぷろ]級って設定にあるんで掃除もあっという間ですよ、きっと》
そんな、素直になれない魔王は
時々、巡回しているメイドや巡視しているセバスに出会ったが、特に問題なく部屋へと辿り着いた。先程、アルベドによって粉々にされた座卓は綺麗に片付いていた。巡視しているセバスか各部屋の掃除の役割を持ったメイドが片してくれたのだろう。感謝しつつ、新たに同じような座卓を虚空から取り出して設置する。
雰囲気だけでも、とお茶菓子セットを取り出してその上に置き、各々が初期の位置に戻った。
「さて…話は聞いたが一応、どこまで理解したか確認をしておこう。アルベドよ、良いか?」
「ハッ…モモンガ様を含めた至高の御方々、及び[ぷれいやあ]は元人間で辛い現実から癒やしを求めて遊戯の世界であるユグドラシルへと降り立ち、各々が癒やされる空間を創っておりました。しかし、そのユグドラシルも終焉を迎える時が来たはずでしたが、何故か今のところ我々だけ存在することが出来ている…と、解釈しております」
『辛い現実』で反応しかける魔王。その気持ちは分かる。とても。思い出したくもない。
「う、うむ…そうだな。おおよそ、その通りだ。ゲーム、という言葉は理解出来ているか?」
「申し訳御座いません。遊戯、ということでしたら理解しておりますが、具体的には…」
「ふむ…そうだな。想像を箱の中に具現化したもの、と言えば分かりやすいか?そこでは自由に人物やモノが動き、私達はその中に専用の人物を創り、それを操って遊ぶ…いわゆる、『ごっこ遊び』だな。因みに運営、というのはその箱庭の管理者だ。私達は管理者の用意したルールや環境の中で遊んでいた…幻滅したか?」
首を振って否定するアルベドの表情は変わらない。現実を受け止めたか、モモンガさんがいるならもうどうでもいいと考え始めたかのどっちか、かな…ひどく穏やかな感情しかない。モモンガさんと触れ合えて落ち着いただけだろうが、ある意味、一番危ない状態だ。安心は出来ない。
「[あるべど]…遊びでも命を懸ける人はいます。そして、ここにいた[めんばぁ]達は皆が命を懸けていました。そして、生まれたのが最高傑作である[なざりっく]です…私は、どうあれ彼らには感謝しかありません。あなたは、どうですか。それでもやっぱり許せませんか?」
「…まずは、先程までの非礼を謝罪致します。誠に申し訳御座いませんでした。──モモンガ様や至高の御方々を非難するわけでは決して御座いませんが、人間であるならば多少の我侭は致し方ないのでしょう…ましてや、生きている世界は生き返ることも叶わない地獄、とのこと…心が荒むのも頷けるというものですわ」
許すか許さないかに対しての返事を一言も言っていないのが気になった。言葉では謝罪しているが非礼、とは思ってないだろうな。こっちとしても非礼とかそんなことは気にしていないが。
そんなことを考えていたら頭の中で糸が繋がる感覚がした。
《〈伝言〉。事実ですけど…心が荒むって何のことですか?》
「[ももんが]さん。この際、裏話は止めましょう。心が荒むっていうのは[たぶら]さんのことですよ。彼、最後にくそ運営に悪態付いていたらしいですから」
「はい。タブラ・スマラグディナ様は最後に『クソ運営、死ね』と仰っておりましたわ」
んなこと、一言も言ってないだろうに流石だな。微笑んで答えるアルベドはまさに名女優だ。
すれ違う二人の間で一つだけ一致していることがある。モモンガさんを傷付けるわけにはいかない、だ。メンバーに会うことを、出来れば戻って欲しいと願っているだろうモモンガさんにさっきのセリフは
これで上手く誤魔化すことが出来れば御の字だが、この骨は気付くだろうか。
「…(同感ですよ、タブラさん)…」
──…チョロすぎじゃねー?
いや、変に追求されるよりよっぽどマシだが、どんだけギルメンの影を追っているんだろうか。これは、踏ん切りが付くまで時間がかかりそうだ…アルベド、微妙な顔をするんじゃない。バレたら終わりだぞ。
上を向いて物思いに耽っているモモンガさんの目の前で目を細めて、口を
「さて、それじゃあ…[あるべど]にも見せてあげようかな。
虚空から取り出すはアインズ・ウール・ゴウンの紋章が刻まれた巨大な一冊の鈍器…もとい、『アルバム』だ。どれだけの
「それは…?」
「『アルバム』…しかし、なぜ今?」
モモンガさんの疑問も最もだ。しかし、この子は未だにモモンガさん以外と向き合おうとしていない。俺に対する態度を見てもそうだ。落ち着いているのは、さっきも述べたがモモンガさんと触れ合えたからに過ぎない。
だが、これを使ってタブラさんのこだわりを教えたりモモンガさんと想い出話でも出来たりすれば、あるいは認識を改めてくれるかもしれない。
「[あるべど]…この一冊には、この[なざりっく]や[ぎるど]に関してほぼ全てが詰め込んであります。もちろん、あなたの紹介も…。──読んでみなさい。『愛』が垣間見れますから」
『アルバム』をアルベドに手渡して、読んでもらう。最初から自分の紹介ページを見るより他の子と比較してもらったほうが分かりやすいだろう。
「因みに右下の注釈○○○万円とは、
「…えっ」
モモンガさんがこっちを見ている。なんでそんなこと知ってるのか、だって?計算したに決まってんだろ。データ読み込んでwiki漁って過去のイベントやら課金アイテムやらからおおよその金額を割り出したんだよ。キモくないから。ただちょっと熱心に調べただけだから。そんな目で見ないで。
「…長も一緒に見てみたらどうですか」
アルベドのページをめくろうとした指が止まり、
「(うまくねーよ)…あー、もう…アルベド。こっちに来なさい」
「はいっ」
目一杯に顔を輝かせて
傍から見れば初々しいただのバカップルだ。遠慮しようとするモモンガさんにここぞとばかりに攻め立てるアルベド。キャッキャうふふと楽しくいちゃついているのを微笑ましく眺めていた。
──…まぁ、無理に『親子』になる必要もないか。この子が
今のアルベドは本当に幸せそうだった。子供が幸せなら、それでいいじゃないか。
モモンガさんは最初こそアルベドの勢いに押されて慌てていたものの、ページをめくるたびに懐古して
結構な時間が経ち、やがてアルベドのページへ辿り着く。そこでアルベドは自分にも姉と同じくらいの膨大な量の設定が書かれているのを目の当たりにし、少しだけ驚いていた。それに気付いたモモンガさんに読んでみなさいと勧められて、熱心に読み始めたアルベドを二人はしばし見守る。ふとアルベドの裏設定を思い出し、読み終わった頃を見計らってアルベドの隣まで移動する。空気もだいぶ和んだし、いい塩梅の言い訳も思い浮かんだし、教えるにはいい頃合いだ。
「…夜想サキ様、如何なさいましたでしょうか?」
「ちょっと思い出したことがあって。耳を貸して下さい」
「何ですか、サキさん。俺に聞かせられない話なんですか?」
今後の生活の根幹に関わってくることだ、聞かせられるわけがない。モモンガさんが自分で気付いたならともかく、時期が来るまでこちらからは話せない。
「はい。[たぶら]さんから聞いたことですが、これは聞いた私はともかく[あるべど]以外に話すわけにはいかない内容です。誕生秘話ってやつですね」
「えぇ…俺も聞きたいんですけど…」
魔王が本気で落ち込まないでほしい。でも、モモンガさんにだってそういうのあるでしょう。誰にも話せないこと。
そう言うと骸骨の魔王は渋々ながら納得してくれた。もちろん、時期が来たらちゃんと話すからってフォローも忘れない。
「それじゃ、部屋の隅へ…そんな警戒しないで下さい。今更何もしませんよ」
なるべくモモンガさんの耳に入れたくなかったためにアルベドを部屋の隅へ移動させようとしたが、瞳の警戒心が凄かった。仕方ないけど、ここまで信用が無いと目の当たりにさせられてちょっと哀しかった。
モモンガさんにも促されたアルベドは不承不承部屋の隅にいる自分の隣へと移動した。
「それじゃ、耳を拝借…(あなたは、元々[ももんが]さんの伴侶となるために生み出されたのです。彼は[ももんが]さんが現実ではいつも独りだったためにせめて、と[ももんが]さんの好みに沿うように、より美しくなるようにあなたを創りました…しかし、心から楽しかった[ゆぐどらしる]が終わってしまうために彼は失意の中で自暴自棄になり、あのような暴言を吐いてしまったのでしょう…どうか、彼を許してやってほしい。あなたと[ももんが]さんが結ばれるのを誰よりも願っていましたよ)」
「…」
それを聞いたアルベドは目を見開き、暫し固まっていた。やがて体が震え始め、心配になり顔を覗き込むと
「わ、私は…何ということを…っ!」
顔は青褪め、
「[ももんが]さん」
「えっ、はいっ?ア、アルベドは一体どうし──」
「──(この子が大切なら今すぐ抱き締めるんだ。はよ)」
魔王のもとへ駆け寄って囁くと、魔王の顎が外れるかと思うほどに開かれ、今まで聞いたこともない素っ頓狂な声が出た。この時を思い返すと今でも爆笑してしまう。
「…へぁ?」
「(笑い死にさせる気ですか。手遅れになる前に、はよやれや童貞)」
「ぐっ…(こんの野郎…覚えてろよ)」
そう、捨て台詞を吐いて恐る恐るアルベドを横から抱き締める
アルベドはゆっくりとモモンガさんの胸に埋まり、やがて慟哭した。その声はあまりにも悲痛で、聞いているこちらも胸が引き裂かれる想いだった。
やがて泣きやんだアルベドの目は腫れ上がり、まだ沈痛な面持ちだったが何とか落ち着きを取り戻したようだ。
「…大変なご迷惑をお掛け致しました…誠に申し訳御座いません…」
「迷惑など。それより、どうですか。
余計に感情が沈んでいるが、俺としては何を言おうとされようと許すつもりだ。だから、たとえ許さなくても問題はない。ここにいないのは事実だし、彼が暴言を吐いたのも事実だ。この子には怒る権利がある。
「私は…とんだ過ちを犯してしまっていたようです…むしろ、許されないのは──」
「──はいはい、そこまで。理由はどうあれ、私達がほとんど来なくなったのは事実です。あなた達には恨む権利も許す権利もある。もちろん、[ももんが]さんにも」
「…」
さっきの話し合いでも言ったが、ここを護り維持してくれたのはモモンガさんだから言うまでもなく当然のことだ。来れなかった、または辞めてしまった、はたまた来なくなった自分達をどう思うかは自由だ。
「ですから、どうか顔を上げて下さい。それに、今一度
「…っ!お、お止め下さい!私に頭を下げるなど…!」
「…サキさん」
一歩下がって、土下座をする。本来ならあの子達にも頭を下げなくてはならなかったのだ。ここに来なくなった者達の代わりに、愛する者達へ謝罪するべきだったのだ。寂しい思いをさせてしまってすまなかった、と。
いない者に恨みを言ってもしょうがない。ならば、いる自分が頭を下げるのは道理だ。
「…もういいでしょう。顔を上げて下さい…この子達の心労も考えましょうよ」
「負担を掛けるのは私だって嫌です…でも駄目です。これは
この頑固者め…と呟く魔王は置いといて、改めてアルベドと相対する。交わす視線には先程のような怨嗟はなく、ただ真っ直ぐに見つめ返す金色の瞳があった。
「[あるべど]、
「…そこまで仰るのでしたら…かしこまりました。改めて考えさせて頂きたく思います」
よし、これで一旦はケリがついたな。じゃ、恒例のやついきますか。
「ところで[あるべど]」
「はい、なんで御座いましょう?」
「私のことは『母』と「お断り致しますわ」」
ものっそい
「…プッ…クックック…」
隣のハゲ魔王がもらした笑いがやけに鮮明に聞こえた。
「な…なぜに…?」
「いやですわ。モモンガ様の伴侶となるのは私です。夜想サキ様が『母』では、まるでモモンガ様の伴侶のようで我慢なりません」
──…あぁー…そっかぁー…そう…なるかぁー…。
ということは今までの子たちはそう思っていたのだろうか。そうだよな。なんで気付かなかったし。というかこの子、あんまりこういう言い方はしたくないんだけど…普通はそこは『上の者』に譲るというか…なんか、やけに距離が近いというか。いや、それなら嬉しいんだけどさ。
「…んん?」
今度はハゲが首をひねる番だった。お返ししてやれ。
「ぷーくすくす。そこは気付けよ禿げ」
「やっ、夜想サキ様…あまりモモンガ様をお弄りになられやがるのでしたら、また先程のようなやりとりを繰り返すつもりか貴様…?」
「ハッ…ハゲじゃねぇよ!?そこへ直れ
「モモンガ様。僭越ながら私も加勢致しますわ」
「うへぇー…まじかよ…」
その時のアルベドの笑顔は今までで一番の輝きだっただろう。
新記録間違いないな、とどこか
「まぁ、何だかんだで上手くまとまったのかな」
「どこを見てる
「モモンガ様。ここは私が」
「もう勘弁してぇ…」
──つづく。
流れ的にタブラさんには悪者になって頂きましたが、彼に悪気はありません。声のトーンやニュアンスの違いですね。
彼のファンの方には不快な思いをさせてしまったと思います。申し訳ありません。
アルベドはその時はプログラムだった故に、おっさんは頭が悪い故に、そこの違いに気付いていません。