いつもよりちょっと短めです。
オリキャラ視点のみです。
──ようやく説教が終わった…何時間経ったんだ…?
「…ハアァァ…」
柔らかな光に包まれた和室。そこに正座させられた
「どうしたんですか禿げ。禿げるぞ禿げ」
「おまっ…まだ反省が足りんようだなぁ…?」
「この野郎、いい加減にしろ」
「アルベド。言葉遣い言葉遣い」
相変わらず煽る
モモンガさんも最初こそただの説教だったが、途中から投げやりというかやり取りを楽しんでいた。旧知の仲といえる
そんな中、アルベドだけはマジ説教中だ。モモンガさんが楽しんでいる空気を感じ取っていたのか、そこまで激しくはなかったのだが段々と遠慮がなくなってきていた。青筋立てた笑顔でこの野郎とか煽り過ぎたかね。
「[ももんが]さん。そろそろ指輪を渡してあげたらどうですか?」
「!!」
「ちょっ、おまっ…」
突然、爆弾発言を投下するのもいつも通りだ。指輪と聞いたアルベドの表情といったら修羅の如く。一瞬だけ
「モモンガ様…くふふ。ゆ・び・わ、で御座いますか?」
まさに聖母のような微笑みを浮かべて
「う、うむ…このリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを他の子たちにも渡す予定だが…あー、守護者統括であるアルベドから渡しておこうと思ってな」
「…(デスヨネー)…光栄ですわ。謹んでお受け致します」
この骨は相変わらずの童貞っぷりだ。そこは堂々と渡せばいいものを言い訳がましくしており、魔王然とした風格からすればみっともなかった。アルベドはちょっとがっかりしていたが、それでも何かをモモンガさんから貰えるのは嬉しいのだろう。微笑みは崩さないが、腰から生えた黒い翼は
虚空より金色の指輪が取り出され、アルベドの手元へと──
「──[ももんが]さん、ちょいお待ち」
「どうしました?」
「…」
アルベド。邪魔したかったわけじゃないから、そんな殺気を丸出しにして睨まないで。今更だけど女性がしちゃいけない顔になってるから。指輪はちゃんと貰えるから。
「練習[もぉど]…解除しましたっけ?」
「…」
「…?」
固まったモモンガさんを不思議そうに見つめるアルベド。首を傾げてるその姿は、客観的に見れば淑女のような振る舞いとは裏腹にあどけなさがあってポイントが高い。これもギャップ萌えってやつか…?
「…あっぶねー、指輪が消えるところだった…忘れていました。今から解除に向かいましょう」
練習モードの盲点だ。全てが
別の例だとアカウント消去が分かりやすい。消去前に渡して、そのまま消去すると渡したものも当然消える。それと一緒だ。
これは
──…調べなかった方が悪い。アイテムはもう一回取り直して下さい、ときたもんだ。ほんとクソ運営は死ねばいいのに。
「モモンガ様、何か問題でも…?」
「ああ、アルベドは知らないのか。特殊な処理だからか…?──お前とサキさんは、今は練習モード状態のはずでな。解除しないままアイテムを受けとって、モードが解除されてしまうと
「…そんなに青褪めなくても大丈夫よ。指輪は予備がまだまだあったはずだし…勿体無いけど」
その言葉にモモンガさんが、しっかりと頷いて同意した。昔から貧乏性なギルドなのだ。
玉座の間は何度来ても素晴らしいな。現実になってからより重苦しく感じるけど、何ていうか澄んだ空気が
「すぅー…はぁー…」
「どうしたんですか。突然、深呼吸なんかして」
玉座に座ったモモンガさんが、不思議そうにこちらを見ている。アルベドは特に興味がなさそうだ。何やってんのこいつって冷めた視線が痛い。この温度差よ。
「厳かで澄んだ空気は素晴らしいと思いませんか」
「…ああ。アンデッドになったせいか意識しないと呼吸なんかしないので、気付きませんでしたよ…そうか、空気か…」
そう言ってモモンガさんも深呼吸し始めた。
──さっきは
「…はぁー…いい。良いですね、ここの空気。凄い澄んでますよ」
「でしょ?」
そう言ってお互いにもう一度大きく深呼吸する。アルベドも再びそれを真似る。何だこの集団…あ、家族か。
モモンガさんを見れば、満足したのかコンソールを開いて操作していた。アルベドは動かないようにしているが、その視線は興味深そうにモモンガさんの指の動きを追っている。
「…それじゃ、モード解除します」
…さっき使ったスキルのリキャストはとっくに過ぎているから、特に変わった様子はない。怪我もしていないし、装備もランクが高いからか全く汚れがついていなかったために見た目も変化がない。
アルベドを見やると顔が驚愕の色に染まっていた。その手には先程破壊したバルディッシュが握られている。
「…練習モードは問題なく動作するようですね」
「みたいですねぇ…[あるべど]。
アルベドは信じられないものを見つめる目のままにこちらを向いて頷いた。うむうむ。何だかんだ言って、
「それじゃ、指輪を渡してあげましょ。その後にお待ちかねの部屋掃除です」
「うぇっ!?待ってねぇから!?」
「モ、モモンガ様は…アルベドのことがお嫌いなのでしょうか…?」
「えっ…あっ、ちがっ…!」
否定的なモモンガさんにアルベドが
詰め寄られたモモンガさんは相変わらずの童貞力を発揮している。眼窩に灯る赤い視線が上へ下へと忙しなく動き、
「酷いなぁ[ももんが]さん。さっき[あるべど]と約束したのにもう忘れちゃったんですか?」
「ぐっ、こんの野郎…アルベド、そういう意味じゃない。美しいお前に汚い部屋を見せるのが戸惑われただけだ」
「く、くふー!!モモンガ様は私のことを清楚で美人な
ちゃっかり言質を取ろうとしてきた。守護者統括の名は伊達じゃない。俺としては二人がそれで幸せなら問題ないから何も言わない。信じられないだろうけど、煽っていい場面かどうかくらいはちゃんと考えてるんだぜ。いや、マジで。
「う、うむ…んん?いや、美人だとは思うが…妻かどうかを決めるときではないな」
「(惜しい)…左様で御座いますか。伴侶に相応しくなれるよう、研鑽致しますわ」
聞こえてるから。本性を見られたせいで演技をする必要がないと吹っ切れたのか、遠慮が本当にないな。モモンガさんもどぎまぎしている。
こほん、と骸骨が仕切り直しの咳払いの真似事をして場を整える。それを聞いたアルベドも流石に姿勢を正して、仕事モードに入った。
「んんっ…それでは、アルベドにこの指輪を渡そう。これはナザリックの急所…つまり、これを渡すということは信頼の証ということでもある。今後の働きに期待しているぞ」
「有り難き幸せ…モモンガ様のご期待に添えるよう励んで参りますわ」
受け取ったアルベドは愛おしそうに指輪を撫で、左手の
似合ってるヨー!なんて囃したら歯止めが効かなくなりそうなので止めておこう、うん。モモンガさんもその辺は理解しており、さっきから眼窩に灯る光をぎらつかせてこっちを睨んでる。
「…それじゃ、部屋掃除といきましょ。ついでに何か使えそうなものとかも探してみるのもいいかもしれません」
「ああ、確かに。捨てられないアイテムを雑多に詰め込んでいるから時間が掛かりそうだなぁ…」
「モモンガ様、このアルベドにお任せ下さい。メイドほどではありませんが、私も妻として相応しくなれるように一通りの家事は万全ですわ」
なんだか
えらく上機嫌なアルベドは今にも
「う、うむ。そうか…それでは期待させてもらおう。指輪の試運転も兼ねて転移で行こうか」
「はいっ」
とか思っていたら抱きつきおったぞ、この子。大胆というか、モモンガさんも狼狽えているが満更でもなさそうなのが気に食わない。おっぱい当たってるぅ!とか考えてやがるな、このハゲ。
そんなことを考えていたら二人とも
──…ま、微笑ましくて何より。
バカップルに置いていかれ、背中に哀愁を漂わせながら転移する
「んー…初めて入りましたが、そんなに散らかってないじゃないですか」
「そうですか?」
そこはナザリックでは標準的な部屋だった。豪華に設えた壁や絨毯、カーテンなど最初に設定した部屋のままの内装。大きく広いリビングに出迎えられ、奥には幅の広いクローゼットや大きなモモンガさんも余裕で映る巨大な姿見が壁際に鎮座している。
確かに雑多に箱に詰め込んだ武器なども散見されたが、足の踏み場もないほど汚いというわけではない。クローゼットの中がヤバイのか…?
「もっと
「…流石にそれは失礼では?夜想サキ様」
苛立ちを隠そうともせず、不快感をそのまま顔に出して苦言を申す守護者統括殿。突っかかるのは別にいいんだけど、フルネームで呼ばれたり使いたくないであろう敬語を使われたりと違和感があってしょうがなかった。
「…[あるべど]。[さき]でいいし、敬語も無理に使おうとしなくていいよ。別に不敬じゃないし、俺ももう普通に話すから」
「あら、そう?じゃあ、そうさせて貰うわ」
この変わり身の速さ、流石だね。モモンガさんなんか
《
《そんな嫉妬しなくてもこの子は[ももんが]さんの『もの』ですよ》
《いや何ですか、
《何でですかね…雨降って地固まる、みたいな?》
実は俺もその辺りの変化がよく分かっていないのだ。根掘り葉掘り話し合ったからか、喧嘩したからじゃないかなぁと思っている。この子が特殊なだけかもしれんけど。…モモンガさんには恋慕しているからしょうがない。でも、望めばその通りにしてくれるんじゃないか?この子の場合はその方が嬉しいと思うんだが。
〈伝言〉で話し合っていたら、それに気付いたアルベドがモモンガさんに話し掛けてきた。急に無言になったり不自然に目線を合わせてたりしたら、そら気付くわな。
「モモンガ様。
「[あるべど]。[ももんが]さんも普通に接したいんだってさ」
「えっ、いや…」
俺がフォローを入れてやるとアルベドは目を輝かせてモモンガさんに微笑んだ。
「まぁ…『予行演習』、ということで御座いますね?」
「う…ま、まぁ…何の予行演習かは置いといて、普通に接したい、とは思っているが…」
「素直になりなよ。この子には
そうはいっても、なかなかモモンガさんの決心がつかない。守護者達の忠誠心が高いからそうしなきゃ、とかそう望まれているから、とか考えているのだろうか。まぁ、確かにそう望んでいる節はある。高い忠誠心から被支配欲とでもいえばいいのか、そういったものがあるのは感じていた。
子供達の『わがまま』は、なるほど叶えるのが親の務めだ。しかし、たまには親も『わがまま』を言っていいと思うぜ。
「そ、そう…ですかね?」
「モモンガ様の御心のままに」
「だいじょーぶだいじょーぶ。あんまり深く考えると禿げるぞ、この禿げ魔王」
「…こんの
モモンガさんが両腕を上げてキレ芸を披露してくれる。ベタだけど
──他のギルメンだとマジギレするから、割と神経使ったなぁ…。
「[あるべど]、あんまり睨むなよ照れるじゃないの」
「…そんなに死にたいの…?」
「アルベド、止めなさい。
流石だね、よく分かっていらっしゃる。殺意の波動を振り撒くアルベドとは対照的にモモンガさんは冷静だ。冷静過ぎて突き放してくるほどに。
やり過ぎるせいか、たまに凄く冷たいんだよね。とほほ。
「ところで[ももんが]お兄ちゃん」
「急にぶっこむの止めてくれません?…なんですか?」
「そろそろ部屋の掃除っつーか整理しません?」
「「お前が言うなっ!!」」
おお、流石夫婦カッコカリ。婚前から息ぴったりだ。これは早くも期待が持てますな。
思わず二人にサムズアップしてしまった。なんか虚空の向こうでマインドフレイヤーもサムズアップしてる。気のせいだな。
「誰のせいで整理が始まらないと…(ブツブツ)…」
「おいたわしや、モモンガ様…いつも『こんなの』に振り回されておいでなのですね…」
「いや君も結構毒吐くね」
──なんか認知症を発症したみたいになってんぞ、大丈夫かこれ…って、んん?
なんかハゲがこっちに向かって構えだしたぞ。マジで発症したんじゃねーだろうな?アルベド、なんでこっち見てほくそ笑んでるんだお前。
「…こんのアホオオォォ!!──!?」
モモンガさんは振ろうとして落とした剣と空になった手のひらを交互に見つめている。どうやら、クラス適応外の装備で攻撃しようとしたら武器が勝手に滑り落ちたっぽい。玉座のコンソールといい、変なところで
「…で、検証の結果はどうでした?」
「うーん…やっぱり、この世界は妙なところでゲームですね。剣を持つことは出来るみたいですが、攻撃しようとすると勝手に滑り落ちます。装備判定に引っかかるみたいですね」
「…え、と…」
アルベドだけ置いてけぼりだ。まぁ、そりゃそうか。俺に本気で攻撃を当てるつもりなら、あとたっちさんとウルさん連れてこい。本気になったこの三人のコンビネーションはパネェぞ。
それは置いといて、今のはモモンガさんなりのジョークだ。きっと。多分。え、そうですよね?なんで目をそらすんですか?ちょっと?
「ただの悪ふざけだよ、アルベド。この人に本気で攻撃を当てたいなら完璧なコンビネーションで掛からないと掠りもしないよ?」
「それこそ、たっちさんと[うる]さん連れてこないと無理だねぇ」
はっはっは、とお互いに笑い合う。文字通り、目は笑ってないが。
ていうか、どさくさに紛れてモモンガさんが魔王じゃない普通の声で話しているな。もしかして、ただ単に恥ずかしかっただけか?
当のアルベドは恍惚な表情を浮かべて
「…嗚呼。モモンガ様、素敵なお声で御座いますわ…魔王然としたお声も素敵でしたが、そちらのお声も…その優しさで満ち溢れたお声で『愛』を囁かれとう御座います…」
頬を染めながら
《…なんか予想と違い過ぎて…どうしたらいいんですか?コレ》
《本人は楽しそうだから良いんじゃない?ご要望通り『愛』でも囁いてあげては?》
《取り返しがつかなそうなので遠慮しときます…》
頬を染めて、いつまでも体をくねらせるアルベドの対応に困り果てた二人は途方に暮れるのであった。
「ところでご結婚はいつですか?」
「え?なんの話ですか?」
「!!?」
「しっかりしろ[あるべど]!傷はあさ…あれ、意外と深い!?」
「私の遺体は…モモンガ様のベッドで…抱き枕代わりに…くふふー!」
「…ナンダコレ」
──つづく。
アルベドからすれば敬意を払うような人格者でもない。しかも元はただの人間。でも誠意はあるっぽいし、今のところはこの程度の対応で十分ね、みたいな。
━オリ設定補足━
練習モードについて
該当エリアでPvPが始まるとそのキャラは練習モードに移り、決着がつくかモード解除されるまで拠点内ならどこにいようと練習モードのまま。ギルド拠点から出ると強制解除される。因みに名称は非公式。