からすとこねこ   作:ビーグル

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この作品は、東方Projectの二次創作です。
オリジナル展開、オリジナルキャラの要素を多分に含みます。
それでも良いと言う方は、是非とも一読して下さい。

※今後の展開で残酷な描写も含んできます。予め御了承下さい。

それでは、どうぞ


第一話 「火焔猫」

 姉妹(きょうだい)は居るかって?

 そうだなぁ

 血の繋がったって意味じゃ、いたのかどうかも分からない

 第一、親の顔すら覚えてないんだ

 ”妖怪”ってそういうもんだろう?

 でもさ

 あたいの場合は違うんだ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 赤黒い廊下に軽い足音が響く。

 地の底から響く脈動を抑え付けるが如く

 人為的に発せられた甲高い音。

 廊下の各所に設けられた窓からの光に照らされ

 壁に映し出された影が不規則に揺らめく。

 この光は決して太陽の恩恵によるものではない。

 ましてや月でもない。

 かつてこの地が”地獄”と呼ばれていた頃から

 絶えず罪人を焦がし続けていた火がこの地の奥底を照らす光だった。

 

『お空、お空は居る?』

 

 足音の主は決して大きくは無い声で

 己の従者を呼びつける。

 見目麗しい少女は、自らの体に取り付けられた

 ”三番目の瞳”を揺ら揺らと動かす。

 やがて暗闇の先から羽音が近づき始め

 巨翼を背負った女性が主の下へ降り立った。

 

『お呼びですか、さとり様』

 

 ただ一言。

 片膝を附きながら頭を垂れる姿は

 さながら国王に仕える高潔な騎士を思わせる。

 

『四区の近くに思念を感じたわ。

 迷い人なら街に送ってきなさい。

 侵入者であれば・・分かっているわね』

 

 調子に抑揚の無い独特の話し方。

 それが主なのだと承知している従者は

 前触れも無く与えられた指令に異を唱えない。

 幾年も前から続く関係。

 そしてそれは互いが存命する限り永続するものであった。

 

『御意』

 

 姿勢を正し直立する。

 彼女は主には見上げるほどに大きい。

 お空と呼ばれた従者は上目遣いで見つめてくる主に一礼すると

 その大きな翼を一際はためかせ

 文字通り、風となって廊下を飛び去った。

 

『・・・・羽が散らかるから廊下で飛ばないで』

 

 小さなため息と共に赤い絨毯に散らばった羽根を拾いながら

 既に居なくなった従者に苦言を呈した。

 

 

 

 

 

 

-------

 

 

 

 

 人間界より遥か地の深きにあり

 古来より諸罪を抱えた卑しき者を苦しめてきた地獄

 そこから切り離された僻地、”旧地獄”

 罪人が送り込まれる事の無くなったこの地には

 地上を追われた鬼や妖怪からも忌み嫌われた存在が

 挙って集まる見放された地として、俗世の影に在った。

 その地で特に不可侵とされる領域がある

 

  地霊殿

   人妖問わず他者の思考を読む妖怪、古明地さとりの居城

   その能力故に地底の妖怪や地霊からも敬遠され

   その能力故に言葉無き動物たちに慕われ

   多くのペットたちに塗れた動物屋敷

 

 さらに輪を掛けて異能なさとりの妹も合わせて

 この屋敷に嫌悪を抱く者は多く居た。

 しかし同時に畏怖と敬意を向ける者も少なくはなかった。

 

 その原因となったのが、霊烏路 空と名乗る地獄烏。

 さとりのペットの中で最も従順で、最も力有る従者だった。

 一度翼を広げればその速さに追いつける者は無く

 振るう拳は、巨岩さえ容易く砕いた

 かつて地上よりやってきた鬼の一団に対し

 たった一羽で迎え撃ち、遂に倒れなかった者として

 彼女の評価は地底で不動の物となっていた。

 

 

 

 

-------------------------------

 

 

 

 

『この辺りか・・』

 

 件の第四区へ差し掛かった

 焦熱地獄の中でも、特に炎と血泥の濃い一帯

 地底の者からは“血ノ池”と呼ばれている場所だ

 

 地底に住む者で無くとも、ここがどういう所かはわかるだろう

 つまりその思念を発している者は

 

『刺客に襲われた哀れな妖怪か・・

 もしくは相当の馬鹿だな』

 

 前者であることを祈ろう

 他でもない私が、惨めになる

 さらに高度を落として探るがそれらしい異変は見当たらない

 己の主を疑うわけではないが

 今度ばかりはさとり様の思い違い・・

 

『ん・・、あれは・・』

 

 それは、普段なら見落としがちな小さな変化

 人妖問わずありとあらゆる生命が燃え尽きるこの場所で

 ”ソレ”は今、正に燃え尽きんとしていた

 

『猫又・・いや、火車か? 何故こんな所に』

 

 化け猫としては異端に位置する火車

 人間に対して妖術でもって罠に掛け、その生き血を啜るものと違い

 骸を好み、時には葬列へ紛れ込んで死体を奪う

 地獄の使者とも噂される妖怪、それが火車だ

 しかし

 

『地獄の使者と謳われた者が

 灼熱地獄の炎如きで命を落とすか?』

 

 やはり何者かに謀殺されたと言うのか

 この地底でそんな大それた、もとい卑怯な手段を講じる者がいようとは

 世も末と言うものだ

 

 既に炭となりかけた火車の元へ降り立つ

 まるで魂を思わせる白い煙が一筋

 細く長く、崩壊しかけた身体から立ち上る

 思念を送っていたのがこの火車であったとするなら

 この場合は手遅れであったと言うべきだろう

 あとは、事の次第を主に報告するだけだ

 

 

──!

 

 

 気配?

 どこから?

 この火車からわずかな反応が・・?

 

『未だ生きていると言うのか?』

 

 そんなはずはない

 自慢の尾も既に崩れ去り、四肢も端から粉と化しているこの状態で

 息があるはずが・・

 いや、待て

 コレは何だ?

 火車の股座の辺りに何か・・排泄物とは違う

 

『まさか・・子供か?』

 

 ”母親”の臀部の直ぐ下に寄り添うように固まった炭の欠片

 それは辛うじて、猫の形をしていた

 生まれて間もなくか、それとも母親が死んでから這い出たのか

 

 母猫の傍らには、既に産み落とされた五匹の子猫がいた

 いずれも母親と同じく、炎に焼かれて息絶えている

 だが、妙なことに 母猫の腹は、未だ僅かに膨らんでいる

 すべての子を産み終えた身体には見えなかった

 

 ─ともかく

 

『ここに来てまで死を運ぶとは・・傍迷惑な

 死ぬのなら手前独りで十分だろうに』

 

 自分には親と言うものがない

 単に知らないだけかもしれない

 だからとは言わないが、子を道連れに死んだ母猫の気持ちなど

 到底理解しようがなかった

 なるほど、思念はこの子たちのものだったか

 焼け死ぬ間際の悲痛な叫びが、我が主の元へ届いたのか

 

『ではせめて灰になるまで処理してやらねばな・・

 ・・むっ?』

 

 何だ?

 炎が・・急に・・

 

『死体から火が?

 いや、火車の残り火ではない。この炎は母猫の胎内から噴き出している』

 

 いや、違う・・

 この炎は母猫の胎内から噴出している

 まさか・・!

 

 炎を翼で払い、炭化した母猫の腹部へ慎重に手を掛けた

 既に崩れかけた皮膚を開くと

 その奥から、さらに強い炎が噴き上がった

 

『子猫が・・燃えている

 いや、こいつが炎を吹き出していたのか?

 ではこいつらはこの炎に・・』

 

 何と言うことだ

 まさかこんな赤ん坊の頃に火車として覚醒するとは・・

 火車が炎を操る妖怪であることは知られている

 死体を埋葬する一団に近づいて持ち去る際に

 己を火で包み本来の姿を覆い隠すのは火車の常套手段だ

 だが生まれて間もない・・、いやこの者の場合

 生まれてすら居ない

 母親の胎内に居るうちに火車として開眼し

 その炎を制御出来ないまま、周囲を焼いたのか

 

 もしそうなら

 母猫と子らを包んだ炎も、この子が生んだものなのだろう

 

 何と惨い話だ

 この子はその事実を知らずに、私の手の中で泣き続けている

 それとも知っているのか?

 その涙は悲しみ故か?

 

『これも何かの縁だ

 お前を我が主の下へ連れて行こう

  だが、それからの事はさとり様次第だ』

 

 幸いな事に、ペット達の中には未だ火車はいない

 そもそも火車というものは群れることはせず

 常に一匹狼で行動するものだ

 ・・・猫に狼というのもシャレてはいるが

 

 ようやく炎が落ち着いた子猫を拾い上げると

 母猫は役目を終えたように、灰となって地底の彼方へ散っていった

 それを感じ取ったのか、子猫も今は静かな寝息を立てている

 

『・・行こう

 お前は今日から独り。

  我れらが地霊殿は孤独な者を拒まぬ』

 

 

 

 

 

----------------------------------------

 

 

 

 

 どうしよう、非常にマズイわ

 まさかトイレからそのままスリッパを履いたままうろついていたなんて

 しかも、雰囲気バリバリでお空に命令まで出しちゃったわ

 ・・・バレてないでしょうね?

 あの子は結構目ざとい所があるから、すぐに部屋用とトイレ用の違いなんて

 見分けられるはず

 いや、でもカラスだし

 賢い妖怪と言えど、所詮鳥だし

 仮に見分けが付いたとしてもすぐに忘れてるわよね

 ・・よね?

 大丈夫よ、私

 自信を持ちなさい

 地底であれだけ蔑まれようとポーカーフェイスを崩さない私なら

 きっと大丈夫

 大丈夫

 ・・・・

 ・・・

 ・・

 よし、落ち着いた

 丁度お空も帰ってきたみたいだし、私が忘れてしまえば無問題よ

 

 

 

 

 

『おかえりなさい、お空

 首尾は・・そう・・

 それで、その子を連れてきたのね』

 

 第三の目で、お空の思考へ触れる

 

 子猫を見つけた時の光景

 母猫の腹から噴き出した炎

 自らの腕へ抱き上げた、小さな命

 

 お空が今も鮮明に思い浮かべている情景が

 言葉より先に、さとりの心へ流れ込んできた

 

 

 子猫はいまも、お空の腕の中で静かに眠っている

 あれだけ不安定だった心も

 今はこの地獄烏の妖力へ包まれ、僅かに落ち着いていた

 ならば、無理に引き離す必要はないだろう

 

 

『その子は、今のところ貴女の傍が一番落ち着くようね

 お空。

 その子の世話を、貴女に任せます。

 

 ただし、一人ですべてを抱え込む必要はありません

 分からないことがあれば、必ず私へ相談しなさい、いいわね?』

 

─畏まりました

 

 "良い子"のお空はいつもの調子で頭を下げてくる

 お空は、本当によく出来た子だ

 

 命じられたことを疑わず

 己の責任として受け止めようとする

 

 だからこそ、気を付けなければならない

 

 この子は、自分に課せられた役目を重く受け止め過ぎる

 任せれば、出来ないとは言わない

 傷ついても、助けを求めようとしない

 

 あの子猫の世話を任せることが

 お空にとって良い変化になるかもしれない

 

 力で守るだけではなく

 小さな命の歩みを待ち、育てることを知る

 

 もちろん、全てをお空一人へ押し付けるつもりはない

 必要なら私も、地霊殿の皆も手を貸せばいい

 

 ただ、最初にこの子を抱いたのがお空なら

 その腕の中が、今は一番安全でしょう

 

 

 

 

--------------------------------

 

 

 

 

 半ば無茶だと思っていた提案は

 予想外にもあっさりと承諾された

 ”地底の王”と多くの妖怪や地霊に恐れられていながらも

 動物たちには心優しいお方だ

 少々難色を示しつつも、最終的には首を縦に振るだろうと踏んでいただけに

 この即決は余りに拍子抜けだったが、それもさとり様の器量の良さ有っての事だ

 私には到底真似できるものでは無い

 

 この薄暗い地の底で、唯々力任せに生きてきた私を諭し

 自らの屋敷に招き入れてくれた日の事は昨日のように覚えている

 身も心も擦れきっていた私に手を差し伸べてくれた時の

 あの穏やかな笑顔は、私の宝物だ

 

『その子の世話は貴女に一任する

 どうするかは全て任せるわ』

 

 主は私をこの火車の教育係に指名した

 はっきり言ってしまえば、全く自信が無い

 これまで自分自身のこと、若しくはさとり様のことだけを考えてきた身として

 他種族の、それも赤ん坊を育てる事など正に筋違い

 餅の事を桶屋に頼むような物だ

 誰も儲からない

 なのに、主は私を選んだ

 

 ・・選んだ?

 試しているのか?

 これまで力こそ全てと言わんばかりに

 辺り構わず勝負を仕掛けて生きていた私に

 命を育むように仕向けたのは

 破壊することだけでなく、創造することも学べと

 そう仰っているのか?

 

『いいわね?』

 

 念を押すように付け加える主

 それならば、その御命令に全霊をもって応えなければならない

 それが地霊殿に住まう者として

 古明地さとり様に仕える従者としての務めなのだ

 

『畏まりました

 この霊烏路空 この火車を立派な従者に育て上げて見せます』

 

 覚悟は完了した

 あとは行動あるのみ

 

 さとり様は口元に手を当ててこちらを見つめていた

 この仕草は何かしら考えを模索している時のものだ

 さぁ、何でもお申し付け下さい

 私はその命を、必ず叶えてみせましょう

 

 

 

『その子はこの地霊殿の一員となる

 新たな”家族”として名が必要だわ』

 

 思考を完了させたさとり様が、そう切り出してきた

 

 名前─

 妖怪にとって、元より必要不可欠なものではない

 人間たちの認識を借りるならば

 現象、災害、人智の及ばぬ力の権化を指して妖怪と呼ぶ

 それはすなわち、総称に他ならない

 故に個を表す名は必要ない

 しかし、それでも主は私に名を与えてくれた

 理由は今でも教わっていない

 それを知るにはまだ早いと、主には窘められたこともある

 

 だが、今ならばそれが判る気がする

 

『お空、貴女が付けてあげて頂戴』

 

 その言葉にさえ驚愕せずにいられるのは、先程の覚悟があってこそ

 私がこの子を育て上げると約束した

 決意した

 ならばその名も、私が与えるのは道理

 

 ─焦熱地獄の火焔の中で産まれ

 ─己の内から溢れた炎に包まれながら

 ─それでも命を失わず、力強い産声を轟かせた

 

『この子の名は、燐・・ ”火焔猫 燐”』

 

 主はその名にゆっくりと頷いた

 そして私の腕の中で眠る子猫も、かすかに手を動かし

 それがまるで与えられた己の名を喜んでいるようにも見えた

 

 ─約束しよう

  私はお前が一人前となり、この手を離れるその日まで

  決してひとりにはしない と

 

 

 

 

 

 

 

 




「もしもお空が、昔は凄い賢い妖怪だったら」
という妄想から生まれた今作品。
しかしそれでは物足りず、お燐も混ぜてみたいと思い
このような内容になりました。

『巫女が二人で幻想入り』の方も平行作成していくので
少々ペースが落ちる事になりますが、
こちらの話も是非書いていきたいので御了承下さいませ
                
                 (よければ、次もドウゾ。)
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