オリジナル展開、オリジナルキャラの要素を多分に含みます。
それでも良いと言う方は、是非一読下さい。
5年以上振りの更新なのにそんな気がしない・・不思議である。
それでは、どうぞ
- 地底には鬼がいる
人ならざる者-妖なるモノ達に実しやかに囁かれる様になってから
どれ程の年月が経ったであろうか。
我らが天下はとうに過ぎ去った。
古来より闇を統べ、人の世さえも統べんと猛威を振るも今は昔。
時に、人を欺き首を刈り
時に、子女を攫いて血を啜り
時に、闇に潜みて世を乱した
しかし今や地上にその禍々しき姿は一片としてなく
ただ語られる全てが其の末路
だが知っているだろうか 皆よ。
我等、鬼と呼ばれる者達が
かつては陽の下に暮らし、人の世の只中に存在していた事を。
憶えているだろうか
陽の光を忘れ、地の底に下るより他に無かった我等を
烈火の如く迎えてくれた
なんてこった ツイてない。
本当は、そんなつもりなんて無かった。
ここは酒と怒号が飛び交う旧地獄街。
そうだ、何てことは無い。
何時もの事だった。
宴会に集った者では飽き足らず、表を歩いている奴を
半ば無理矢理引き擦り込んで共に酒を飲む。
かつてあった私らの"人攫い"の風習をせめて形だけでも残そうと
一種の
連れて来られた者にとってはいい迷惑であろうが
それが
多少強引ではあるが、そこには確かに意味のある オフザケだった。
だが、今回は勝手が違った。
下の者共が連れてきたのは一匹の子猫。
生まれて数年ほどしか経っていない、赤子同然の幼子だ。
しかも在ろう事かこの女児というのが、
そう
ああ、まずいな・・
普段のあいつは物事に執着しない性格だが、例外は存在する。
古明地の姉と、この火車だ。
”家族”という概念がほとんどない私たちからすれば信じがたい感覚だが
これを”仲間”として置き換えるのならば、なるほど。 確かに拘る気持ちも判る。
だからこそ それを認められなかった
あいつは自分の身体すら犠牲とする戦い方に躊躇しない。
どれだけ傷を負い、血を流し、肉が抉れようと 絶対に負けを認めないのだ。
一度始まった勝負に、ただひたすら”勝つ”事だけに拘った
私の知る限り 尤も”負けず嫌い”というものを地でいく奴だ。
どこまでも純粋だった。
どこまでも素直だった。
自分が「戦いたい」と思った相手とは、とことん
この地底のみならず、鬼の中でもそこまでやれる奴は 今では珍しい。
そしてそれを一番理解しているのは、他でもなく自分であるという自負もある。
そら、もう来たぞ。
思っていたよりもずっと早い。
時刻からして奴が仕事を終らせてきたのは明白。
其の後でこの娘を迎えに行っていることも知っていた。
それだけ大事にしているという事か。
『邪魔する』
空の貌が明らかに、いつもの其れとは違う。
所謂、
決して「仲間」のいる場に入るモノではない。
酒の席では笑顔を絶やすことのなかった、奴の性格をよく知る者は
穏やかでないその表情を見て固まった。
無理も無い。
ただ来ただけ というにはあまりにも尖り過ぎている。
口を閉じ、一切の雑談を中止する。
そうしないと殺される、そんな気配さえ辺りに満ちている。
- 騒いだら 死ぬ
- 近づいたら 殺される
地底の妖怪たち、鬼の連中も含め その場に居た誰もが
同様の表情を浮かべている。
私はおもむろに席を立った。
火車の娘は直ぐ隣で横になっている。
空はそれを見据えた上で、私の目を見た。
”疑念”
そこに内包された ”殺気”
良いな、堪らない。
そんな顔をされるとこっちまで「その気」になっちまいそうだ。
「久しぶりだな、空。
どうした? 今日はやけに早いじゃないか」
奴のこんな貌を見たからだろうか。
私は体が疼くのを隠し切る自信が無い。
いつも通りの口調を保つことが、こんなに難しいとは。
だが空の表情は変わらない。
『生憎だが呑みに来たわけじゃない。
定時過ぎでも同僚がまだ戻らなかったので迎えに来た』
普段の砕けた話し方ではない。
あくまで事務的で、他人に話すような口調。
此処に来た目的が火車の娘を迎えに来た、唯それだけであると断言し
それ以上の意味は無いと、こちらを拒絶した抑揚の無い声。
どうやらこの娘に御執心なのは確かのようだ。
それ以外の存在は 全く眼中に無いっていう訳だ。
あぁ・・
失望した。
こいつは何時からこんな腑抜けになっちまったんだ。
我ら鬼を蹂躙した大妖怪が、今じゃ歯牙無い子連れ烏に成り果てた。
それまで高揚していた気分は消沈し、ただ捻くれた感情だけが渦巻きだした。
「こいつは"私が"攫ったんだ。
取り返したきゃ段取りってもんがあるだろ」
女を攫われた武士が鬼を討つ様に。
己が溺愛する娘を攫われた烏が鬼を討つ。
理に適っている。
何の間違いも無い。
だが武士と違うのは、互いが知り合いという事だ。
顔を合わせれば声を交わし、都合が合えば酒を交わす。
友人同士の烏と鬼。
だからこれは一つの賭けでもあった。
ここで奴がどう出るのか。
私との関係をとり、ここで引くか。
娘への愛情をとり、皆に牙を向くか。
空は静かに目を閉じ、こちらへの返答を探していた。
ほんの数秒の間。
それが途轍もなく長いものに感じた。
そして─
『・・・わかった』
直後、周りにあった木台や椅子、そこに居た者もろとも吹き飛ばして
地獄烏が黒翼を広げた。
中には奴の倍はあろうかと云う巨躯の鬼もいたが
翼の殴打を喰らい、事態を把握する間も無く床に転がった。
それまで抑えていたであろう莫大な妖力が一気に開放され
数人の若い鬼達は我先にと店を飛び出してく。
「阿呆が・・ 情けない」
悪態をついたは良いが、正直 奴の反応には衝撃だった。
どんな事があっても鉄仮面を決め込んでいた空が
一匹の娘相手にこうも感情を露にするとは思わなかった。
だからこそ、余計に残念だ。
一気に興が醒め、畳に突っ伏していた火車の娘を掴み上げ空に手渡す。
「早く連れて行け。店の片付けはこっちでしておく」
余りにあっさりと引き渡したのが意外だったのか
空は一瞬考え込んだ後、こちらの手から娘を受け取った。
・・クソが。
悪漢は容赦なく蹴り殺してきたくせに、娘は随分と優しく抱きやがる。
しかも火車の身体に傷が無いかと、真剣に確認までして。
こいつのこんな顔をこれ以上見ていられない。
私は背を向けて、事の収束とした。
『勇儀、済まない。 迷惑をかけた』
「いい。また飲みに来い」
『・・考えておく』
それだけのやり取りの後、空は火車を連れて店を出て行った。
「っはぁぁあ~~」
大きな溜息。
これが私の今の心情だ。
残念で仕方ない。
この地底の暮らしに対し感じていた魅力の、半分は失った気分だ。
『随分あっさり返したじゃない。珍しい』
何時の間に来ていたのか、パルスィがいつもの顔で座っていた。
その向こうでは砕けた木台や散らばった黒羽を片付ける鬼たちの姿が見える。
「こいつを見ろよ。
散らかすだけ散らかして帰りやがった。あいつは本当に空か?
地霊あたりが化けた偽物じゃなかったのか」
『よく言うわ。
彼女が店に入って来たとき、嬉しそうな顔をしていたクセに』
バレていた。
そりゃそうだ。
あいつがあんだけ殺気を向けてくるなんて何時振りか。
それこそ私らが地底に降りてきた時以来─
- って事は なんだ?
- 私らは あの時のように
- "敵"と見做されたって…
すぐさま立ち上がり、店の入口に向かった。
余程の
パルスィは特に慌てる様子も無く、こちらを見つめていた。
『橋の近くではやらないでよ』
「・・判ってら」
嗚呼、ヤベぇ。
邪魔な岩山の、二つ三つは消し飛ばしちまいそうだ。
…いや
消し飛ばそう
やってらんねェ
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遠くで姐さんが暴れている音を聞きながら
私はキスメと一緒に店を出た。
不完全燃焼だと言いながら、大人しそうな鬼に舌なめずりを始めたパルスィを置いて。
正直に言うと、姐さんと一緒に暴れたかった。
空に誘いを断られた憂さ晴らしに飲んでたってのに
それを他ならぬ空にぶち壊されたんだ。
腹が立たない方がおかしい。
でもそうしなかったのは、罪悪感があったからだ。
直接的ではないが、まだまだ子供である火車の娘を傷つけてしまった。
怪我は特に無いだろうが、嫌な気持ちにさせてしまったのは間違いない。
いくら空が連れて来ようとしても、もうあの店には来たがらないだろう。
情けないじゃないか。
大人げないじゃないか。
一時の感情に流されて、友人をひとり失ってしまったんだ。
飲み直しもかねて、二人して手頃な屋台に入り込む。
「悪いね、付き合わせちまってさ」
キスメは小さく首を振った。
微塵も気にしていなさそうな表情に思わず笑みがこぼれ
桶からはみ出た頭を、軽く撫でた。
店主は二人に酒と肴を出すと、まだ途中だったらしい仕込みを再開した。
二人分のお猪口に酒を注ぎ、すぐに一杯目を飲み干した。
「私はさぁ、空の事を結構気に入ってたんだわ。
コレが好きって感情だってんなら、まァそれでも良いや」
穴コウモリの串焼きを取り、片羽を食いちぎると
短い指の一本が屋台の下の方へ転がっていった。
拾おうとも考えたが、余計に侘しくなりそうで小さく舌打ちした。
「姐さんだって同じように思ってたはずさ。
だからあの時の空の反応は、正直驚いたよ。
私らの付き合いよりずっと若い、娘の方をとったんだから」
ちびちびと酒を煽るキスメの方を向く。
「でもあの火車の事を悪く言うつもりは無いんだ。
アイツには罪は無いし、今回の事だって私らが悪いと思ってる。
それだけは判ってもらいたくてね」
キスメは一度だけ頷いた。
それを見ていくらか気持ちが楽になった気がした。
「キスメも判ってたんだろ。私が良からぬことを考えてたって。
・・そりゃあ考えもするさ、そうじゃなきゃ妖怪なんてやってないよ」
お猪口の中身を一気に飲み干し、眉間を押えた腕に頭を預けた。
何に苛立ちを覚えていたのか
こちらが前後に体を揺らす様子を、キスメは何も言わずに見ていた。
「あの娘が空の何もかもを奪っていっちまった。そう考えちまうんだ。
だけどそうじゃない・・あの空が変わったんだって。
仲間たちの事を第一に ─あぁ、第一は古明地だったな─
とにかく大事に思っていた奴が、あの態度だ。変わり身が早すぎるんだよ。
何か他に原因があるんじゃないかって思っちまうだろ? 違うか?」
キスメは静かに首を振った。
「判ってるんだよ・・判ってるんだ。
でも判りたくも無かったよ。 私がさもしいだけなのか?
オヤジぃ 酒、追加」
店主は何も言わず、空になった徳利を下げ
新たに二本置いた。
キスメがお猪口に注いでくれたので、さらに呷る。
ぬるい溜息が洩れ、さらに顔が熱を帯びるのが分かった。
「キスメぇ・・ 私はどぉしたらいいんだぁ。
このままじゃパルスィみたいになっちまうよぉ・・そりゃ勘弁だわ」
桶の中の顔は、少し困ったように笑っている。
ここに本人がいなくて良かったと思っているのだろう。
本当に良かった。
「えぇ?
あの娘と一度話をしてみろって? マジかぁ~それっきゃないかぁ~・・
じゃあ空とも、話さない・・と」
顎を支えていた手がずれ、板に頭を打ち付けると
そこで意識は途切れた。
◆
共に飲んでいた友人が少し荒い寝息を立て始めたのを見て
釣瓶落としの妖怪は自分の酒を呷った。
視線を向ける相手もいないため、その眼は細く、ただ杯だけを見ている。
『失恋ですかい』
それまで黙りこくっていた店主は、岩鼠の炙りを出しながら尋ねてきた。
もう一方の手には既に半分近くに減った酒瓶が握られている。
「…似たようなもの」
キスメはそう言いながらヤマメの髪を撫でた。
顔に掛った毛を耳の後ろに除けてやると、寝ているはずの顔に笑みが浮かぶ。
その様子にキスメの頬も一瞬緩んだかに見えるも、すぐに物憂げな表情に変わる。
『烏のカシラはたまに見かけるんですがね。時折、別人に見えることもあるんでさ。
ありゃァまるで─』
「店主」
幼い顔つきに似合わぬ怒気に、店主の酔いが醒めた。
この店主は生前は人間であり、地獄での振る舞いを評価され
また本人の希望により低級ながら妖怪として転生した者であった。
それ故に地底に棲むモノたちの力には、"ヒト"一倍敏感であった。
『も、申し訳ねェ! つい出来心でっ』
「・・勘定を」
示された額を出すと、キスメは桶の中から小さな腕を伸ばし
その体躯に似合わぬ力で以てヤマメの身体を担ぎ上げた。
虚空に浮かぶ妖怪は最後に店主の方へ一瞥すると、揺れる友人と共に夜道に消えた。
屋台の店主はその姿が見えなくなるまで深々と頭を下げ続けていた。
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お燐を抱えて戻ってきた所へ、さとり様が顔を出してきた。
あまりに到着と同時であったため事前にこちらの様子を察知してらしたのだと分かる。
「さとり様、只今戻りました」
『ええ、おかえりなさい。
・・だいたい判ったわ。お燐を部屋へ運んで寝かせておきなさい』
こちらの思考を読み、すぐに指示を下さる。
殊更急ぎである時は本当に有り難い。
『貴女も今日はお休みなさい。また明日にでも話をしましょう』
「はっ、ありがとうございます。失礼致します」
折角のご厚意を無碍には出来ない。
言葉でも、思考でもさとり様への感謝を述べ、すぐにお燐の部屋へ向かった。
ランプに小さく火を灯し、備え付けのベッドへお燐を寝かせる。
水を飲ませてやりたいが未だ意識がはっきりしないため無理強いも出来ない。
目が覚めてすぐに飲めるよう、水差しを置いておくことにしよう。
顔の赤みは引いたように見えるが、呼吸は荒いままだ。
無理もない。お燐はまだ子供。
しかも口にしたのは強力な鬼の酒だ。
この様子からして相当な量を飲まされたに違いない。
「怖かっただろう。ごめんな」
眠りを妨げないよう軽く前髪を撫でてやる。
ふと空いていた方の手を見ると、お燐が掴んでいるのに気付いた。
その手をそっと握り返した。
次第に落ち着き始めたお燐の寝顔見て、先程の事を思い返した。
- 星熊勇儀
四天王の一人と謂れ、力の称号を冠する者。
旧地獄街の中で鬼たちを束ねる頭領的存在。
そして、あたいの親友
あの場に勇儀たちが居て、お燐が酔いつぶれていた事から大体察しはついていた。
鬼たちのいつものお遊びだ。
自分も何度か見ているし、何なら攫う役をやった事だってある。
店の中にはヤマメもキスメも、パルスィも居た。
よく飲み交わした者たち。
いつもの情景だった。
なのに、どうしてなのか。
そうなった経緯だって判る。あいつらに悪気が無い事だって判ってた。
それなのに
どうしてあたいは
あの時は何の疑問も抱かなかった。
お燐が居なくなったと知り、その居場所があの店だと判り
店の中で力なく横たわるお燐を見たとき 感情が一気に高ぶった。
何度か勇儀が話しかけてくれていたから良かった。
あのままだと店の奴らを皆殺しにしてでも、お燐を連れ帰ろうとさえしていた。
そこへ"いつもの"挑発するような勇儀の言葉に、翼を広げてしまったんだ。
「あんな事、今までなかったのに…」
そのあとの事はよく覚えていない。
一刻も早くお燐を連れ帰りたかった一心であったからだろう。
最後に勇儀と何を話したかも思い出せない。
「お前は変わった」と誰かに言われたことが有る。
自分ではそんなつもりはなかった。
お燐のために普段は気にしていなかった事に気を付けるようになり
無為に過ごしていた時間をこの子に費やすようになった。
それだけだ。
しかし自分にとってみればいい傾向だ。
変わってきている事が他人にも判るようになっている。
お燐が来てくれたことで色々な事に気付かされた。
お燐と触れ合う程に、あたいは成長できているんだ。
勇儀たちには悪いと思っている。
前のように遊び惚けることが出来ないのは寂しいが
あたいと、そしてお燐にとって今は大切な時間だ。
お互いに成長できるように。共にさとり様の従者として励む時間なんだ。
今日の出来事だっていつかは、皆と笑って話せるようになる。
その為ならば、あたいは─
今(現状)を大事にしたい者、先(未来)を見据えて生きる者
妖怪の場合は、人間以上に溝が深まり易い傾向にあると思います。(※独自設定)
さとり様が一番楽そうに見えるという状態。
本人は否定しそうですが。
(よければ、次もドウゾ。)