アイドルウォーゲーム   作:エステバリス

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唐突に始まるIdola's Life 2

 

 

「アイドルデビューって、ミューズさん頭がぶっ壊れたんですか!?」

 

「いや別にぶっ壊れてないけれど……というか一応神様だと認めたにも関わらず随分な口の利きようね貴女」

 

「あ、すみません」

 

「別にいいわ。突拍子もないのは事実だもの」

 

 ミューズは机の引き出しから複数枚の書類を引っぱり出すと、それをサラスヴァティーに投げ渡す。

 渡されたサラスヴァティ―は心底面倒くさそうな顔でミューズを睨むが、すぐに紙束に親指の腹を押す。

 すると紙束が一斉に飛び交い出し、紙が一つの風景を形成していく。

 

「これがアタシん権能。

 たるいからザックリしか言わんけど、『流れるものの操作と再現』」

 

 本当にザックリとしたほんの僅かな時間の解説だったにも関わらず流れて何かを象る紙は明確に姿を変える。

 それは今の地球にもいくらか存在しているもの。紙の束が再現したのは、一軒の家屋だった。

 

「これは今から大体2000年ぐらい前の地球。紀元前1年、天文学的には西暦0年と称する事の出来る時代の話よ」

 

「で、そこに生まれたのはキミら人間もよく知ってるあの聖主。事の始まりは全て、この男の生誕……いや、この男がこの時に生まれてしまった事だ」

 

「………? えっと、イマイチ話が呑み込めないんですけど」 

 

 何が言いたいのかチンプンカンプン、という風に首を傾げる颯。

 そこで彼女の隣に座るミコが上手い具合に助け船を出す。

 

「つまりかの聖主の生誕が根本的な理由で今こうして颯のアイドルデビューが決まったって事だよ」

 

「嘘でしょ」

 

「それなりにかいつまんだしこれから説明するところも聞かないとわからないけど、本当だよ」

 

 権能とやらで一応は納得した事柄が一気にまた胡散臭くなった。嘘臭いのと胡散臭いので汚臭がプンプンするレベルだ。ゲロ以下、下水道に溜まった汚水以下の臭いだった。

 別に颯は下水道の汚水の臭いを嗅いだ事なんてないし、金輪際嗅ぐつもりもないが。

 

「そこのミコが言う通り本題はここからよ。

 かの男の生誕っていうのは本来なら西暦0年に起こるべきものじゃないの。本来彼が生まれるべきだった年はそれからおよそ3~5年程前の紀元前4~6年。

 それでも彼の生誕は実際は西暦0年だった」

 

「生まれた頃から絶対たる神である三位一体の存在のアイツは存在確立の時象がほんの少し揺らぐだけで世界に強烈な影響をもたらした。それが―――」

 

 同時にサラスヴァティ―の権能によって再現された聖主の時代の模型図が荒れ出し、それまで緑や青に溢れていた湖畔が一瞬にして砂漠へと変貌する。

 

「今颯達人類が大きな問題として直面している環境問題や地震、津波、各国間での紛争の原因に繋がるの」

 

「…………………はい?」

 

 今度こそ「何言ってんのコイツら」という表情で3人を見てしまった颯は決して悪くない。当然、当然、超当然の等身大な反応なのだ。

 

「いや、私のアイドルデビューの理由……は1000歩ぐらい譲って置いておいて、その理由についての話題がなんで聖主生誕の時象のズレやら世界の問題数多に繋がるんですか。2週ぐらい回って最早笑い話ですよ」

 

 決して笑い話などではない事くらい3人――サラスヴァティーは微妙だが――の顔を見ていればわかる。マトモな時間喋った訳ではないにしろ、無神経に嘘を吐くような人ではないと信じられるミコですらそういう顔をしているのだから。

 ただ、それにしたって言ってる事のスケールとこの話の発端が不釣り合い過ぎて困っているのだ。

 

 まさか世界を救う為にアイドルになれとでも言っているのかと。混乱した颯はそのくらいしか考える事が出来なかった。

 

「この話は別に貴女一人に限った話ではないの。今現役で出張ってるトップアイドルや未だ大衆に知られる事なく燻っているアイドル達。

 その多くが貴女と同じ特殊な資質、人類の祖マヌの血統を特別濃く継いだ者よ」

 

「あ、因みにマヌはアタシの子。ブラフマーくんハッスルするから出血大サービス、的な?」

 

 サラスヴァティ―の再現図は洪水の中船にいる8人の人物達へと切り替わる。ご丁寧に船の一番前に立つ男に矢印が引っ張ってあり、『これがマヌ』と書いてあった。

 その説明すら面倒なのかとミューズは言いたくなったが、彼女にしてはしっかりと会話をしてくれている方なので黙っておく。

 

「えっと……で、私がそのマヌの血統を濃く継いでいるから他のアイドル同様その、多くの地球問題を解決する足掛かりになれるって事です?」

 

「そーいうわけ。

 別に西暦428899年を待ってもいいんだけどそんな事ちんたらやってたら人類(キミら)確実にアボンだし、第一さっきの聖主生誕のズレによって起きた『あるべき歴史』の改変でヴィっちゃんが世界の建て直しに失敗する可能性も否定出来ない。

 その理屈で言えば黄昏だって起こす訳にはいかない」

 

 サラスヴァティーの言葉はイマイチ真剣味がない気だるげなものだったが、ミューズがなんの訂正もしない辺り彼女の言葉に齟齬等がある訳ではない事がわかる。

 そして彼女の言葉を更に付け足すようにミコが横から口を出す。

 

「颯は『ノストラダムスの大予言』って知ってる?」

 

「う、うん。一応……

 2()0()1()4()()の元旦に恐怖の大王が降ってきて人類が滅亡するっていうアレだよね」

 

 コクリと返事をする。それなら話が早いと言って風にミコは頷く。

 

「アレね、本当に起こる事なの」

 

「恐怖の大王が降りてくる……っていうのが!?」

 

「そうなの。恐怖の大王っていうのはまさしくノストラダムスが予言した通り降ってくる。

 そしてそれは確実に地球の人類を……ううん。正しくは人類が人類である最たる所以の文明を根こそぎ奪っていくの」

 

「……それって一体……?」

 

 颯が内心で悪い冗談もほどほどにしておいて欲しいと思う反面、既に彼女の人より多少なりともお人よしな人柄が関わってしまったのだから無視する事は許されないという義務的な感情が渦巻いていた。

 彼女はこんな風に不運や不都合を自分から引き付けてしまう性質を持っていたが、今度はまさしく人類と自分の分岐点となる物事を引き付けてしまったようだ。

 ミコは静かに腕からぶら下げた人差し指を持ち上げる。

 指先の指し示すものは地面を越え、体面に座っていたミューズを越え、四人の真上にあるビルの天井すらも通り抜け、ある一点を指し示す。

 

「――月、だよ」

 

「つ、き……!?」

 

「間違いないわ。多くの神話の月神が公転軌道をコントロールしていたのだけれど、その月神は聖主の生誕以降発生した歴史の改変によって皆死に絶え、軌道のズレた月が来年の元旦に降ってくる。

 それの直撃を地球は受けて、地球の文明は文字通り無くなる。

 生き残れるのは恐らく私がさっき貴女にしたように神の権能の一部を持ったマヌの子達だけでしょうね」

 

「もっと言うと人類の文明を終わらせるユガの要素はそれだけじゃない。

 別に月の衝突を阻止したってさっき言った聖主の誕生のズレが起こした各国の紛争や地球環境の悪化が止まる訳がないだろう?

 だから今言った月の衝突阻止はあくまで目下の目標。一番の目的は全ての問題を一挙に解決する『国産みの歌』を再び人の集合無意識に植え付ける事だ」

 

 話のスケールが段々飛びに大きくなり続けている。正直颯の頭は公転軌道のコントロールがズレ出す、という辺りで内容の理解が追い付いていない。

 文系に唐突に公転軌道とか出されても困る。理系が唐突にこの本の著者の心情を書けと問いかけられるぐらい困る。

 

「え、えっと……『国産みの歌』?」

 

「そうよ。人が共通言語を持つ頃、正確にはその更に前。マヌが人類(キミら)の祖となる事が運命づけられた時にアタシら各神話の芸術神達が創り上げた()()の、文明の始点と力点を司る原初の歌。

 これを再び人類全てが共有する集合無意識に打ち込む事で再び人類に発展の力と歌が失われた事によって忘却された文明の始点であり維持という概念を再び人類に根付かせる」

 

「な、なるほど……?」

 

 一般的に広がっている神話の話にプラスアルファの事実を付け加える程度ならまだなんとか追いつける。予備知識はやはり偉大だった。

 

「さっきから彼の生誕のズレがあるべき歴史のズレの始まりって言ったけれど、最初にその影響を受けたのがその『国産みの歌』よ。

 決定的なズレが生んだ時象の綻びが宇宙の『在り得た可能性』に触れ、この世界と元々歌を必要とせずとも発展を為した世界の運行が交差し、片側にあって片側にないものが徐々に、突発的にだったりゆるりとであったり、様々な経緯を辿って消失しているの。因みに『国産みの歌』は地核に溶けて地球の一部になったわ。

 それは何も2000年前の事じゃない。今もなお、消え続けているわよ」

 

 『国産みの歌』が持つ力は文明の始点にして発展を促す力点。そして発展をし続ける事で文明を維持する作用点の役割も担っている。

 始点、力点、作用点。三つ全てを担うそれが消えれば当然その三つは消え、文明は月の落下の有無に関わらず衰退してしまうのだ。

 

「え、じゃあ月の落下っていうのはもしかして――!?」

 

「察しがいいわね。貴女の予想通り交差した世界に『なかった物』の一つよ。月神達が皆死んでしまったのも月がない=月の存在を司る神々が存在しなかったから。

 ノストラダムスの予言に通り地球に恐怖の大王()が落ちればどうなるかはさっきも説明したけれど、もしこの世界に文明が消えれば向こうの世界の文明も当然私達の世界で『なかった物』となる以上消えるのは間違いないわ」

 

「厄介なのはこの性質だ。

 片側が消えればもう片側も消える。しかも消え方がどんな方法を以て消えるかがわからない以上連鎖的に他の何かを巻き込んで消える事がある。

 かくいうアタシも自分の川を連鎖消滅で消されて神威を大幅に削がれたものだ」

 

「貴女の場合はそれだけに留まってないでしょうが。

 ……ともかく、一番の目的は『国産みの歌』を蘇らせて文明の衰退を阻止する事。そしてそれを足掛かりに私達5柱の芸能神が世界をあるべき姿に修正して交差した世界の連鎖消失現象を取り除く事ね」

 

 若干キレ気味に言うミューズ。ともかく、颯でも今この世界に置かれた状況が自分達が平和で呑気に暮らせるのを許容しない事は理解出来た。

 ……のだが、解せない点が一つ。

 

「あれ? でもそれってつまり『国産みの歌』が無い事が根本の理由なら新しくまた『国産みの歌』を創り直せばいいんじゃ……?」

 

 颯の何気ない質問に2人はあー、と言い辛い表情になる。2人が言い辛いならミコに聞けばいいか、と目をミコに移す。

 するとミコはこちらの意思を孕んでくれたようで丁寧に答える。

 

「それが出来ないから復活を目的にしてるんだって。

 私も詳しくは知らないし、聞いても皆様方首を揃えて「黙秘権行使」っていうから、そこはミューズ様達を信じてあげて?」

 

「いやまあ、私も特にこうこうこれこれって疑ってる訳じゃないし……

 あー、それじゃあこれからよろしくお願いします?」

 

 人よりお人よしなのが颯のよくない所だ。個人的にあまり気が進まない事でも「キミにしか出来ない」とか「キミが頼りだ」という言葉に弱い。

 颯は立ち上がって二つのソファに挟まれた机越しにサラスヴァティーに手を伸ばす。よろしくお願いします、という挨拶のつもりだ。

 

 ミューズは彼女が差し伸べた手を見てニコリと笑い、サラスヴァティーはその手を取る。

 

「なら手っ取り早く契約の儀を終わらせよ。

 さっきからブラフマーくんが次の対戦はよってどやすからさ。

 はいついて紡いで」

 

 サラスヴァティーがそう言った瞬間、二人の足元に水色の奇怪な陣が現れる。

 もうそれなりに奇妙なものを見た颯はこのぐらいでは動じない。

 

 足元から吹く風が四人の髪を揺らしている。

 

 サラスヴァティーはとりとめなく、呼吸を思わせるように言葉を流し、紡ぐ。

 

「『我、世界を救済する新たなる五行司りし原初の水也』」

 

「『我、世界を救済する新たなる五行が水を授かりし者也』」

 

 言葉が勝手に出てくる。神と契る契約故だろうか、詳しい理由は颯にはわからない。

 

「『今ここに新たなる力の代行者に我が力を授け、世界の命運を分断(わか)つ』」

 

「『今ここに原初たる力を授かり、力及ばずとも戦い続ける事を此処に誓う』」

 

 意識せずとも口が動く。

 

「『宣誓せよ』」

 

「『宣誓を此処に』」

 

 意識は湧き上がる力の奔流に支配される。

 

「『勝ち抜け』」

 

「『勝ち取れ』」

 

 身体は溢れ出る力が焼き尽くし、異次元のナニカへと再形成される。

 

「「『『頂に登り詰め、紫天の玉座に原初の文明を捧ぐ』』!!」」

 

 意識が完全に肉体から離れ、身体は糸が切れたマリオネットのように倒れる――ところでミコが支える。

 

 その光景を見届けたミューズは自分達の命運を賭けた一世一代の大勝負の第1幕が上がる事にふと笑みを溢し、小さな声で呟いた。

 

「これで今回の参加アイドルは締め切り。

 さあ、偶像戦争遊戯(アイドルウォーゲーム)・ノストラダムス杯の幕開けよ」

 

 

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