オレンジ色の太陽が西の水平線に沈みゆく。
(いつもの夢とそっくりだ)
だが、燃えている太陽は四つではない。二つだった。
赤城と蒼龍は燃えながらゆっくりと動いているが、もうあらかた燃え尽きたのか、炎は落ち着いていた。
甲板は多くの整備員とパイロットでごった返していた。
蒼龍と赤城から飛んだ艦載機が加賀と飛龍に着艦しているからだ。
エレベーターは絶え間なく動き、収納と補給をしては艦載機を空へ送り出している。
数時間前に敵空母を発見してから二度出撃と帰還を繰り返しただろうか。
上空の直掩機は敵機を撃墜し続け、敵機の襲来もまばらになっていた。
夜明け前から続いている長い戦いもついに終わりが近づきつつあった。
「米空母一隻、大破!」
指揮所から大きな声が上がった。
続けてワーっと大きな歓声に包まれる。
これで三度目の報告だ。即ち、この海戦における敵空母を全て叩いたことになる。
そしてすぐに追加の報告が入った。
「米機動部隊壊滅!後退中!」
私は艦橋の壁に頭を預けて天を仰いだ。
(ついに・・・ついに!乗り越えたんだ)
長い間、ずっと後悔していた。
あの時、ああしていれば、こうしていればと何度も何度も考えた。
(ようやく、あの時を越えることができた)
胸のつかえが取れ、どこから楽になった気がした。
冷静に考えれば、これは一体どこの世界なのか、現実世界なのかもわからない。
それでも、私は自分が誇らしかった。
自分の力、空母としての力は決して劣っていないと示せた。
しばらくして、攻撃隊が夕暮れの甲板に帰還してくる。
パイロットが艦載機から降りると、周りに興奮気味に話し始める。
「また空母を一隻やったぞ!」
攻撃隊のパイロット達は皆、大声で手柄を話していた。
ふと、燃えている赤城と蒼龍を見て、違和感を感じた。
自分は運命を捻じ曲げた。
恐らく、赤城はこの世界に来ていないのだろう。もし来ていれば、彼女だって同じように動いたはずだ。彼女なら、誰よりもこの海戦を悔いている空母なら、必ず運命を変えたはずだ。
冷静に考えれば、勝利はしたものの、被害も大きい。
赤城と蒼龍の乗組員は大勢失われた。
蒼龍はこの後で大爆発を起こすはずだ。沈むのは免れないだろう。
赤城は曳航するにしてもあの様子では修復に一年以上かかるだろう。
自分の艦に限っても、未帰還の艦載機もある。
今も、負傷者がこの艦にも運び込まれてきているし、海上では救助活動は進行中だ。
(これは、本当に私が望んでいたものなのだろうか)
米軍は今回の敗戦でより強くなるだろう。
言うまでもなく資源・工業力の差は圧倒的だが、彼らの本当の強さは徹底した合理主義、科学的検証力、すぐにフィードバックする学習能力だ。
それに対して私達は、なまじ勝ってしまったため、今回の多くの失敗を学習しないだろう。
ぼんやりとした、気持ち悪いものが新たに胸の奥に取り付いたような気がした。
(それでも・・・私は勝てたんだ)
不安な所もあるが、私は満足することにした。
もう意識を保っていれるのも限界だった。
あまりにも眠かった。
夜明け前からずっと緊張し、動き続け、負傷していた。
私は横になった。
甲板の冷たい感触が気持ちいい。
目を閉じると、船のエンジン音が聞こえてくる気がする。
僅かに一定のリズムで揺れる、私が安心して眠れるゆりかご。
落ち着いて数度呼吸をしただけで、私の意識は心地よい暗闇の中に落ちていった。