序章1
4月某日。
『今のが最後の近界民だよ』
志岐からの通信が入り、一息ついた。
夜中の防衛任務も楽じゃないな。眠いし。そう考えながら合流地点に向かう。
現在千葉県三門市には、界境防衛組織『ボーダー』という組織が存在する。主な目的はこの世界を近界民から守る事。近界民とは、およそ4年前から現れた異世界からの侵略者のことだ。俺、比企谷八幡もそのボーダーに所属している。
ボーダーではB級以上の隊員でシフトを組み、24時間体制で三門市を防衛している。今はその深夜防衛が終わったところだ。
さて先程俺に通信をくれた志岐は那須隊のオペレーターである。
那須隊は女性だけで組まれた隊であり、何故そんな隊とぼっちの俺が一緒かと言えば、とある事情により俺をオペレートすることが出来るのが志岐しかいないからだ。後は裏技で宇佐美か。
オペレートぐらい誰でも一緒だろうと思われるだろうが、こと俺に関してはそうはいかないのだ。
「比企谷君、お疲れ様」
ボケっと身の上を考えていたらいつの間にか那須隊と合流していた。俺に挨拶をしに近付いてきたのは那須隊の隊長、那須玲。
「玲、そいつにあんま近付いちゃダメだって!」
そして那須を引き止めるようにその腕を掴んでいるのが、熊谷友子。こいつの反応を見れば、俺の抱える厄介な事情がわかる。
「熊ちゃん、比企谷君は本当は怖く無いから大丈夫だよ? 怖く見えるのはサイドエフェクトの所為なんだから」
「そのサイドエフェクトの所為っていうのも私は納得出来てない。こいつに対して感じる嫌悪感が偽物なんて、私は信じられない」
そう。サイドエフェクト。トリオン能力が高いものが稀に発症する能力。
サイドエフェクトには、強化聴覚、強化睡眠記憶、未来予知など、大抵はメリットになるものが発症する。だが俺にはサイドエフェクトが偶然にも二つ発症し、そのうち一つが、
『嫌悪誘発体質』
これだった。
これが俺の人生の難易度をルナティックに跳ね上げている原因である。
概要を簡単に、かつオブラートに包んだ表現で言えば、『生身の目を見た者に超嫌われる』というものだ。生身の、と付いているのはトリオン体だと効果が現れないからだ。ただし、一度でも生身の目を見た場合嫌悪感は俺がトリオン体になっても続く。
今はお互いトリオン体なのに熊谷が嫌悪感剥き出しなのはそういうことだ。
うっかり生身のタイミングで那須隊全員に目を見られてしまったからな。
そもそも基本的には誰にでも気さくに接する熊谷がこうなってしまう辺り、効果の程が窺える。
因みに那須隊の中学生スナイパーである日浦は、一応見える位置に居るものの決して近付いては来ない。
さて、ここらで疑問に思われるだろう。あれ、じゃあ那須は? と。それは、
「トリオン能力が高いと効果が無いとか意味わかんないし」
今熊谷が言った通りだ。
俺の嫌悪誘発体質は、ボーダーで調べた結果トリオン能力が一定以上の者には効果が無い、もしくは薄いようだ。最低でもサイドエフェクトが発症しかねないレベルのトリオンは必要らしいが。
「現に私は大丈夫だから。比企谷君、熊ちゃんがごめんね?」
「いやいい。これに関しては俺のコレが悪いからな。熊谷は悪く無い。だから謝る必要もない」
むしろ原因がサイドエフェクトだと判明している分、昔より気が楽である。
さらに言えば熊谷としては真っ当な感性に従って那須を止めているのだ。良い奴である。
「んじゃ、俺は帰る」
俺は那須隊に背を向けて歩き出す。集まったのは人数確認の為だしな。
「またね、比企谷君」
と那須。その後熊谷が、
「出来ればもう会いたくないわね」
と続けた。
悪いな。
俺と会話がまともに成立するオペレーターが他に現れるまでそりゃ難しいわ。
帰り道、周囲に誰も居ないことを確認してからトリオン体を解除する。やはり生身の方が空気が美味いな。ボーダーに入り、俺のサイドエフェクトが判明してからは食事時などを除いて基本的にトリオン体で過ごしている。しかし生身でしかわからない僅かな差異は存在するため、時折解除して生身を楽しむのだ。
……周りをしっかり確認してからじゃないとうっかり誰かに目を見られてしまう危険があるが。たまに嫌悪感を危機感に直結させて殴りかかってくる奴いるし。だから昔は生傷が絶えなかったなぁ。トリオン体のある今とか天国だね。
遠くの空が白んでる。
今は、もう明け方か。眠いわけだ。
BBFにあるようなトリオン数値自体は原作通り言及しない方向で。