001
「はあ、困った・・・」
砂漠のど真ん中を突っ切る大きな道路で一人ため息を付いていた。
「世の中全てが金じゃない。なんて綺麗事だな・・・全く。」
愚痴をこぼしつつ彼は端末の地図機能を使う。
以前軍かはたまた民間のか、放棄された車両の中から運良く見つけた稼働する端末だ。
「ここらから一番近い宿場はっと・・。」
検索し結果が表示される。
「マジか、・・・。」
徒歩で行くにはありえない距離が表示され下がり気味なテンションをさらに下げて言った。
ここは広大な砂漠のど真ん中、道路はあるとはいえこんな砂漠だ。
車なんて殆ど通っていない。
「グダグダ言ってたって仕方ない。 ここは素直に歩くしかない、か。幸い食料は結構あるし。」
と言ってバックパックを背負い直し、自分を無理やり励まし足を進める。
ただ、砂漠の恐ろしいところは何といっても夜。
気温は極度に冷え風が強くなる。暖を取らずに外にいたらどうなるか、想像に難くないだろう。
彼にもそれくらいは分かっている。彼は日も暮れてきたところで今夜の寝床を探し始めた。
「まあ、固形燃料はあるから焚き火はどうにかなる。問題は風よけが出来るお手頃な岩場か何かが見つかるかどうかだな。」
テントはあるが如何せんそれだけでは心もとない。
しかしそうそう、うまくいくはずも無く。寝床探しにはかなりの時間を費やしてしまい、岩場が見つかった頃にはもう日が沈んでいた。
場所はあの大きな道路からちょっと離れた所だ。
「だいぶ時間食っちまったな。」
既に日は暮れて辺は真っ暗になってしまった。
「さて、火を焚いてメシ食ってさっさと寝るか。 明日だって歩くんだし。 まだまだ先は長いな。」
結局、一番近い宿場街まで5分の1進めばいいところだ。
その日その日の行き辺ばったりな放浪生活。
しかし思いの外この放浪生活を楽しんでいた。
特にこれといった理由もなかったがそれでも気に入っている。
翌日、朝早くに目が覚める。
正直どこでも寝られる自信がある彼だったが昨晩にいたっては珍しく眠れなかった。
理由は余りほめられた内容ではない夢、いわゆる悪夢というやつだ。
少々彼は過去が複雑故に稀にだがその頃の夢を見る。
「最近はめっきり見てなかったんだがな・・・。」
疲労回復どころか疲れきった顔色で起きる。
「朝から、最悪だ・・・。」
愚痴をこぼしつつ朝食をとりテントを畳む。
「出来りゃ今日は半分までは行きたいね。」
あれからだいぶ歩いた。
ちょくちょく休憩は入れていたが出発が早かったためかかなり順調に進んでいる。
珍しく天候も動きやすいこともあったろう。
「今日はツイてるな、昔から余り運は良いとはいえなかったんだが助かる。」
と言いつつ歩みを進めているとだいぶ先にトレーラーらしきものが停車していた。
双眼鏡を覗いてみてみると何人かがトレーラーのサイドパネルを開け作業をしているようだった。
「故障か・・・?」
「困ったなぁ。」
俺達の旅団の副長がぼやく
「全くっすね。まさかこんな砂漠のど真ん中でぶっ壊れるなんて。」
お陰で本隊とは逸れっちまうし。
そりゃぼやきたくなるってもんだ。
「アッシュ、どれくらい掛かりそうだい?」
副長が新人メカニックのアッシュに尋ねている。
「まだ掛かりそうです。・・・すみません、半人前で。」
半人前、と本人は言ってるが正直ここに居る連中では一番機械にゃ強い。
「こりゃ、もう一晩っすかね?」
「そうだね・・・、一応本隊とは連絡取れたんだよね?」
「はい、ついさっき。 ただ今からじゃ合流は難しいようで。」
「なら、仕方ないか。」
そうっすね、と返そうとした時。
「副長!! 誰か歩いてきますよ!!」
見張り役だったタリアからだった。
「歩き・・・!? 数は?」
「一人です。 ゲリラとかそういうのでも無さそうですけど・・・。」
「どうします?」
アッシュが不安そうに声をかけ、報告を聞いていた俺たち三人は顔を見合わせる。
普通こんな砂漠を一人、しかも徒歩で来るなんて正直尋常じゃない。
「とりあえず、最低限の武装はしておいて。」
いつもは温厚な性格の副長からは想像できないような真剣な顔つきで言う。
「「了解っす(です)」」
「それとゲイル、君はついてきて。」
「うぃっす。」
「さて、まずは軽く自己紹介かな。 一応僕が現状リーダーのエイブラム。それでこっちが・・・。」
「ゲイルだ。」
トレーラーから来た二人の男がそれぞれ口にする。
リーダーの若い男が右手を差し出してくる。
どっかで聞いた声だな。
「よろしく。」
「こちらこそよろしく、っていうのもアレだけれど。 こっちのこの武装は許してもらえると助かる。」
握手をして苦笑いでそう断りを入れてくる。
温厚な見た目に違わない性格のようだ。
「いや、気にしないでくれ。状況が状況だからな。そちらの反応は正しいだろう。」
砂漠のど真ん中をたった一人で歩いてきた人間を疑うのはしかたのない事だろう。
「そう言ってくれると助かるよ。・・・一応懐の銃は預かっておきたいんだけど?」
――ッ!?――
訂正、コイツ見た目によらず切れ者の様だ。
内心少し驚きながら隠し持っていたハンドガンを予備弾倉ごと渡す。
「――確かに預かった。 それと失礼だけれど荷物のチェックさせてもらうよ?」
「了解だ。」
「副長、どうでした?」
彼の荷物をチェックし終えるとアッシュが聞いてくる。
ちなみにゲイルは彼の監視。
悪い人じゃ無さそうだけれど中々“やる”人そうだったし。
「うん、特に不審なものは無かったね。 テントに食料、GPS端末・・・、ただの旅人みたいだ。」
あの拳銃はどうやら護身用みたいだね。
「そうですか・・・、良かった。」
「さすがに一人でノコノコ堂々と襲撃に来るゲリラはいないと思うよ。」
「それもそうですね。」
苦笑いで彼に答えると向こうも苦笑いで返す。
「やぁ先程はどうも、気分はどうです?」
彼がいる部屋に入る。
「上々だな。 これから俺をどうする?」
少々おどけたように方をすくませて答える。
「どうやら見たところただの旅人みたいだし、特にコレといって貴方にすることは無いですよ。」
「そうか、そりゃ助かる。 それで物は相談なんだがここから一番近い街まで乗せってってもらえないか? もちろん雑用やら何やら仕事はする。」
「それくらいならお安い御用、と言いたいところなんですけど少々問題があって・・・。」
「このトレーラーか?」
どうやら故障しているのはわかっていたみたいだ。
「そう、ちょっと調子悪くてね。 今身動き取れないんですよ。」
ふむ、そう言って少々考え込んでいる彼。
「なら、ちょっと見せてもらえないか?・・・ああいや、コレでも機械いじりは得意な方なんでな。」
今度はこっちが考える。
アッシュがいるけれど確かに人手は多いほうがいいだろうし、手伝ってくれるなら何かと助かる。
それにこのままじゃこっちも困るし・・・。
「分かりました、ちょっとついてきてください。」
「ああ、コイツがこうなって・・・。」
「そうだ、んでコイツがこっち来て・・・。」
「結構捗ってるみたいっすね。」
さっきの男が整備の連中に支持を出している。
こりゃ、ある意味ラッキーだな。
「そうだね、どうにかなりそうだ。良かった。」
「とは言え。さすがに今日は無理っすね。」
元々こっちに同行していたメカニックも少ない。
それにもうそろそろ日没だ。さすがにコレ以上は・・・。
「ん、どうやら終わったみたいだよ。」
はぁっ!? 嘘だろ・・・。
「なんて奴だ・・・。」
「ホントついてたね。」