異世界は狙撃銃とともに。 作:細◯の兄貴、見ているかい?
しばらく歩くと宿屋「銀月」の看板が見えてきた。三日月のロゴマークが見える。わかりやすい。見た目は三階建ての建物だ。煉瓦と木でできた、けっこうがっしりとした作りに見える。
両開きの扉をくぐると、一階は酒場というか食堂らしき感じになっていて右手にカウンター、左手に階段が見える。
「いらっしゃーい。食事ですか。それともお泊まりで?」
カウンターにいたお姉さん?が声をかけてくる。赤毛のポニーテールがよく似合う、溌剌とした感じの人だ。年齢は二十歳前後というところか。
「えっと、宿泊をお願いしたいんですが、一泊いくらになりますか?」
「ウチは一泊、朝昼晩食事付きで銅貨二枚だよ。あ、前払いでね。で、どうするの?」
「えーっと、じゃあひと月分お願いします」
……世間知らずを偽装する。
「はいよー。ひと月ね。最近お客さんが少なかったから助かるわ。ありがとうございます。ちょっと今、銀貨切らしてるから銅貨でお釣りね」
金貨一枚を受け取ると、お姉さん?はお釣りに銅貨で40枚返してきた。銅貨60枚引かれたってことは、なるほど、ひと月はこっちでも30日か。あまり変わらんな.....
お姉さんはカウンターの奥から宿帳らしきものを取り出して、僕の前に開き、インクのついた羽ペンを差し出してきた。
「じゃあここにサインをお願いしますね」
「あー…すいません。僕、字が書けないんで、代筆お願いできますか?」
.....ヤバイな....
「そうなの? わかったわ。で、お名前は?」
「中嶋です。中嶋雄二」
「ナカジマ? 珍しい名前ね」
「いや、名前が雄二。中嶋は…家の名前です」
「ああ、名前と家名が逆なのね。イーシェンの生まれ?」
「ええ、そうです」
イーシェンとやらがどこかわからないが、面倒なのでそういうことにしておく。
......情報収集は必要だな。まずは、情報コミュニティを構築せんと.....
「じゃあこれが部屋の鍵ね。無くさないように。場所は2階の一番奥。陽当たりが一番いい部屋よ。トイレと浴場は一階、食事はここでね。あ、どうする? お昼食べる?」
「あ、お願いします。朝からなにも食べてないもので…」
「じゃあなにか軽いものを作るから待ってて。今のうちに部屋を確認してひと休みしてきたらいいわ」
「わかりました」
鍵を受け取ると階段を上り、2階の一番奥の部屋の扉を開ける。5畳くらいの部屋で、ベッドと机、椅子とクローゼットが置いてあった。正面の窓を開けると、宿の前の通りが見える。なかなかいい眺めだ。子供たちがはしゃぎながら道を駆けていく。
……狙撃に注意しないとな……
……『耳』(盗聴機)、『目』(盗撮機)はないようだが…...
雄二は、トラップと警戒装置を一応作ってから、部屋に鍵を掛ける。階段を下りるといい匂いがしてきた。
「はいよー。お待たせ」
食堂の席に着くと、トーストらしき物とスープ、そしてサラダが運ばれてきた。パンが少し固かったが、初めて食べる異世界の味は充分満足できる味で、美味かった。
完食。
さて、これからどうするか。
これからしばらくここに滞在するわけだ、この町の様子を見てたり。
......情報コミュニティを構築するか......
「散歩に行ってきます」
「はいよー。言ってらっしゃい」
宿屋のお姉さん?(ミカさんと言うらしい)に見送られて、町を散策に出る。
なにせ異世界の町である。見る物全てが珍しく、興味を引く。気取れないように視線を彷徨わせる。
町を歩く人を見ていて気が付いたのだが、武器を携帯している人が多い。剣や斧、ナイフから鞭まで様々だ。物騒ではあるが、これがこの世界の常識なのかもしれん。俺もなにか武器を買った方がいいのだろうか。
見たところ銃器は無いようだから生身でも何とかなるが......抑止力のために必要か……
……しかし、まずはなんとか稼ぐ方法を見つけないとな。この世界で生きていく以上、金は必要だし
......まさかこんなところで就活する羽目になるとは思わなかったな。
……非合法機関は無理だろう。伝手がないといかんだろうし……
......この世界では傭兵に簡単に成れるのか?....いや、まず、武器がないといかんだろうし....
......土木工事なら何とかなるか?....この世界の土木技術についてはしらんから無理か.....
.......それとも....計算職は?....金を扱うことも多いから...身寄りの無い俺には...無理か....
「ん?」
.....騒がしい。
大通りの外れ、裏路地の方だ。なにか言い争うような声が途切れ途切れに聞こえてくる。
「……行ってみるか」
そうして雄二は裏路地へと足を踏み入れた。