桜ちゃん、光の戦士を召喚する   作:ウィリアム・スミス

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桜ちゃん、探索する

 しばらく時間を忘れて冬木の夜景を眺めていた桜ちゃんですが、おもむろに立ち上がると階段を下り始めました。辺りはまだ真っ暗で、人の気配もありませんでしたが、何時までもここに居るわけにはいきません。

 

 お寺のお坊さんにでも見つかってしまったら、きっと桜ちゃんは間桐さんちに逆戻りです。

 せっかく解放されたというのにそれだけは絶対にイヤだったので、桜ちゃんは早々にお寺から立ち去ることにしました。

 

 軽い足取りで石の階段を下りていきます。

 間桐さんちに行ってから録に外出も出来ず体力はゼロに等しい桜ちゃんでしたが、今はそれを全く感じさせません。まるで体が羽になったかの様です。

 

 るんるん気分で弾むように下りていた桜ちゃんですが、ふと不思議な感覚を感じました。そこはちょうど階段の中腹辺りです。

 何やら不思議な違和感が、階段の脇にある雑木林から発せられています。何だろうと桜ちゃんがその違和感のもとへ近づくと、実に巧妙に隠された脇道を発見しました。

 

 脇道は録に手入れもされていない山道で、どちらかと言えば獣道と言ってもいい小さな通り道です。脇道全体が、何やら怪しい気配を醸し出しています。

 

 昨日までの桜ちゃんでしたら、きっと怖がって引き返していたでしょうが、今日の桜ちゃんは一味違います。

 溢れんばかりの好奇心と探求心に後押しされ、桜ちゃんは脇道へと飛び込んで行きました。初めて体験する冒険への期待に胸を踊らせながら……。

 

 

 

×       ×

 

 

 

 脇道は草木がぼうぼうに生え、薄暗い上に狭く、地面はデコボコしていて最悪でしたが、桜ちゃんはそんなこと微塵も感じさせない軽快さで脇道を突き進んでいきました。

 

 昨日まで完全なインドア派だった桜ちゃんが、こんなにもアクティブに行動出来ているのは、桜ちゃんの中にいる“女の子”のお陰でしょう。

 

 何故だか分かりませんが、そう考えなくてはこの急激な変化に説明が出来ません。桜ちゃんも自分の体力の無さには自覚があったので、「そうなんだろうなぁ」っとなんとなくですが理解していました。

 

 さて、順調に脇道を進んでいく桜ちゃんですが、しばらくすると大きな洞窟へと辿り着きました。洞窟が大きく口を開けている様は、まるで獲物を待ち構えるクジラの様です。どうやら脇道はこの洞窟への通り道だったみたいです。

 

 お寺のお坊さんたちが修行か何かに使う場所なのでしょうか? 入り口にはびっしりとお札の様なものが張り巡らされています。他にも古くなってくすんだ宝石や、干からびた虫、錆び付いた金属片などが散らばっています。

 

 随分と物々しい不気味な光景です。まるで近づくものを遠ざける為にわざとそうしているようにも見えます。実際、それに近い魔力の波動を感じます。

 

 ですがこの程度の事で引き返すほど、今の桜ちゃんは軟弱ではありません。ムキムキマッチョマンのスーパー幼女です。“女の子”の後押しもあってか、むしろ更なる好奇心を加速させて、桜ちゃんは迷うこと無く洞窟の中へと入って行きました。

 

 洞窟の中は真っ暗で、外よりも肌寒いです。ですが桜ちゃんはあまり気になりませんでした。多分、つま先から頭のてっぺんまで真っ黒な衣装に覆われているからでしょう。また、地面は湿気のせいか滑りやすく、岩もゴツゴツしていて足元は非常に悪いです。ですがそんな状態でも桜ちゃんは悠々と前へと進んでいきます。

 

 桜ちゃんはこういった洞窟に入るのは生まれて始めての経験でしたが、桜ちゃんの中にいる“女の子”はどうやら飽きるほどにこういった洞窟に入った経験があるようです。

 

 未整備の自然のままの洞窟内を、まるで舗装された道路を歩くかのように前進していく桜ちゃん。肌寒い気温も全く気になりません。時折流れる水の音や、動物たちの鳴き声、風の音すらも桜ちゃんを楽しませる要因にしかなりませんでした。

 

 薄暗く不気味な空気が漂う洞窟内ですから、お化けや妖怪が出てきても不思議じゃありませんが、そういった異形が出てくる様子もありません。

 

 ちょっぴり期待はずれだったというのは偽らざる本音です。内心そういった展開を、半ば当然起きるとして期待していた桜ちゃんですから、その心中たるや推して知るべしでしょう。

 宝箱すらないのですから余計に、です。あれだけ仰々しい入り口を作り上げたのですから、中身もちゃんと演出して欲しいというのは、ワガママな感想でしょうか。

 

 そんな調子で先へ先へ進んでいると、大きく開けたフロアに出ました。不自然に整地され、洞窟内なのにやけに明るく、急激に周囲が開けた事から、このフロアは自然に出来たものではなく、人の手によって作られたものだというのが分かります。

 恐らく、入り口の光景を作り上げた人たちと同一人物の仕業でしょう。

 

 ともすれば巨大なモンスターが現れそうな雰囲気です。“女の子”の知識でもそういったパターンが殆どのようです。これは期待が高まります。

 

 フロアの中央にはお誂え向きに巨大な角の様な塔と、頂上には禍々しい色をした丸い球体が浮かんでいました。とても大きな球体です。遠目から見ても、桜ちゃんよりも遥かに大きな球体みたいです。

 

 桜ちゃんは球体から目を離さずにトコトコと近づいていくと、更に良く観察してみました。

 

 球体は金属の様な、或いは生物の様な、そんな得体の知れない存在の様です。あえて言葉にするのであれば、まるで『卵』の様でした。何かが生まれ出るための、あの世とこの世を別つ『殻』の様でした。

 

 球体に近づくにつれ、だんだん不穏な気配が強まり、遂には明確な敵視を発するまでになりました。敵視は、あの球体から放たれているようです。理由は分かりませんがどうやら“アレ”は敵という事らしいです。

 

 直ぐ様、桜ちゃんは杖を構えました。桜ちゃんの頭に“女の子”の知識が急速に流れ込んできます。これから何をすればいいのか、どう行動を取ればいいのか、手に取るように分かりました。

 “女の子”の知識に従い、桜ちゃんは球体に向かって杖を振りかざします。すると杖先から真っ赤に燃える火球が放たれ、高速で球体に迫っていったのです。

 

 さしたる抵抗も反撃も無く火球は球体に直撃し、その秘めたる威力を顕現させました。ですが、どうやら大したダメージは与えられなかったようです。傷一つ無く、依然として球体は宙にプカプカと浮いています。

 

 しかし桜ちゃんとて、これはまだまだ序盤に過ぎません。流れるように杖を翻し、続く第二撃を解き放ちます。

 先ほどの火球よりも三倍近い爆炎が轟き、さらに休むこと無く第三、第四の攻撃を叩き込みます。

 

 一、二撃目よりも遥かに強力で高威力な火炎魔法が球体に迫ります。しかし、これでも球体には大した損傷は与えられていないようです。“女の子”が、まるで『木人』を殴っているようだ、と囁きました。

 

 それでも、桜ちゃんは絶え間なく攻撃魔法を繰り出していきます。こういった動かない上に反撃もしてこない相手には、この黒の魔法使いは最大効率の火力を叩き出します。戦況はがぜん桜ちゃんに有利と言えるでしょう。

 

 火炎、冷気、電撃、そして無属性魔法と馴染み深い攻撃を冷静に繰り返していきます。ですが、そのどれもが球体に決定的なダメージを与える事は出来ませんでした。

 

(無効化されてる? でも何か違う気が……回復されている訳でもないみたいだし、ただ単に物凄く堅いだけ……のかな? だったら──)

 

 そう考察した桜ちゃんは、いったん攻撃を中断し()()()()()()()()()、敵視が収まるのを確認してから次の一手を打ちました。

 

(魔法がダメなら、物理で──)

 

 頭の片隅で桜ちゃんはイメージします。想像するのは遠隔物理職。弓を持ち、歌いながら戦場を駆け抜ける『吟遊詩人』の“女の子”。

 

 すると桜ちゃんの姿は一瞬にしてさっきまでの黒い魔法使い姿から、竪琴に似た弓を持った吟遊詩人の姿に変わっていました。大きく胸元が開かれたピンク色のお洋服がとてもセクシーです。尤も、それは十年後の桜ちゃんが着たらの話ですが。

 

 やたらと露出の激しいちょっとエッチな服装でしたが、今は周りには誰もいません。恥ずかしさなど微塵も感じさせずに、桜ちゃんは駆け出しました。

 

 ぐいぐいと球体に迫り、全力で疾走しながらも射程圏内に入ると、足を止めず次々と矢を射っていきます。烈風の如き弓矢に、猛毒の弓矢、一直線に打ち出される速矢に、強力な威力を籠められた剛矢、時折歌声を響かせながら手数にものを言わせてドンドン攻撃していきます。

 

 しかし、それでも球体にはさしたるダメージは与えられないようです。

 

(これもダメ……みたい)

 

 となると桜ちゃんには打つ手がありません。“女の子”の知識には戦闘だけでなく、生産や採集などの知識もありますが、流石にこの手の巨大な建造物を一人でどうにかするには人手不足です。最低でもあと三人は協力者が必要でしょう。カンパニークラフト的に。

 

 ですが生憎、桜ちゃんにはお友達は一人もいません。完全ボッチ勢のソロプレイヤーです。一人でどうにかする方法を見つけないといけないでしょう。

 

(せめてもう少しだけ近くで……)

 

 これまで桜ちゃんは球体からの敵視を警戒して、射程距離ギリギリの位置で攻撃を繰り出していました。ですが、このままでは埒があかないと、意を決して球体に接近します。

 

 じりじりと慎重に間合いを詰めて行きますが、予想された反撃や迎撃は飛んできません。ビームくらい飛んでくるもんだと思っていた桜ちゃんですが、そういった様子は見られません。それでも気を抜かず少しずつ様子を見ながら近づいていきます。

 

 やがて何事もなく桜ちゃんは球体の真下にまで辿り着きました。目の前には巨大な塔。まるで祭壇の様な威容です。都合の良いことに、その中央には頂上まで続く階段まで存在していました。

 

 桜ちゃんは臆すること無く階段を上っていきます。頂上に至るまでも特に球体からの反応はありません。

 大きな障害も無く頂上に辿り着いた桜ちゃんは、更に上に浮かぶ球体を見上げて観察をします。

 

(強力な結界に複雑な防御術式……それから何重にも掛けられた封印? みたいなもの。もしかして何か中にある“ナニカ”を守っているのかな?)

 

 桜ちゃんは魔術師の家系に生まれた子ですが、魔術の知識に関してはからっきしでした。ですが今は心強い味方がいます。桜ちゃんの中にいる“女の子”です。

 

 “女の子”の知識から、桜ちゃんはこの球体に籠められている術式を、ある程度ですが読み取る事が出来ていました。そして、同時にその中に潜んでいる禍々しい気配も。

 

(ものすごい魔力が中に籠められてる……それにすごく暗くて、歪んだ“ナニカ”も……)

 

 その禍々しさに似たものを桜ちゃんは知っていました。いえ、正確には桜ちゃんの中にいる“女の子”が知っていました。

 

 それは、ただ破壊のために生み出された神話なき神。数多くの絶望と怨念が折り重なって産まれたあの神のごとき龍にそっくりです。

 

 この中にいるモノはそういったものなのでしょう。ただ破壊を振り撒く、生きとし生けるもの全ての者の敵対者……()()()()()()()()

 

 もし、こんなモノが解き放たれたらどうなることでしょうか? きっと想像を絶する大惨事になるに決まっています。

 

 桜ちゃんは特別この街に愛着があるわけではありません。むしろイヤな思い出ばかりです。いっそ無くなってしまった方が清々するとも思っていました。冬木の地は桜ちゃんにとって、あまりにも辛い記憶しかなかったのです。

 

(それでも……)

 

 桜ちゃんはあの時──自由になったあの時に、あの場所で見た夜景を思い出していました。生まれて初めて綺麗だと思ったあの光景を、桜ちゃんは自然と“守りたい”と思います。

 

 それは一人では決して不可能な話でしょう。ですが、今の桜ちゃんは一人ではありません。桜ちゃんの中には“女の子”がいます。神のごとき龍も打ち倒した、“英雄”とも呼べる存在が……。

 

(外からの攻撃だとあまり効果はないみたい。むしろ刺激して逆効果になるかも……でも内側に入るスキマもない……だったら──)

 

 外側も内側もダメ。そうなってくるともう取れる手段は限られてきます。

 桜ちゃんは思い付いた手段の中で、最も“女の子”好みの手段を選択しました。それは要するに、()()()()()()()()()()()()()()、という方法です。

 

(魔力が満ちてきているとはいえ、まだ満杯じゃない。それに、綻んできているとはいえ封印自体はまだしっかりしている。猶予はまだ、結構ある……はず)

 

 ですがその作戦には一つ致命的な問題がありました。

 

(でも、そもそも封印って何時、解けるんだろう?)

 

 根本的な問題に気づき、桜ちゃんは呆然とした面持ちで、球体を眺めました。

 

 流石にこのままずっとここに居座って待っている訳にもいきません。他にやりたい事、やってみたい事が桜ちゃんには沢山ありました。たとえ世界滅亡が目前に迫っていても、遊園地で遊ぶくらいの胆力が英雄には必要なのです。

 

 そもそもこの球体が何時からあって、何時頃からこんな危険な状態にあるのか見当もついていません。もしかしたら、随分前からこんな状態で、しばらくは放置しても大丈夫なのかも知れません。なんにせよ、情報が不足しています。

 

(これは、“今”はお手上げかな?)

 

 球体の様子からして、今日明日でどうにかなる状態でもなさそうです。しばらく放置していても問題はないでしょう。

 

 幸い、このフロアに至るまでの道程は特別険しいという訳でもありません。最悪、転移魔法で直ぐにでも飛んでこれそうです。転移の道標として必要な霊脈は、このフロアへと続いているみたいです。

 

(……帰って情報を集めよう)

 

 そうと決まれば桜ちゃんの行動は素早いです。くるっと回れ右をし階段を下りると、来た道を引き返し、洞窟を抜け地上へと戻っていきました。外はお日様も顔を出し、気持ちの良い朝がやって来ていました。

 

 

 

 

 




早速、神様的な存在に引き寄せられる桜ちゃん(ヒカセン憑依)
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