桜ちゃん、光の戦士を召喚する   作:ウィリアム・スミス

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桜ちゃん、濡れ衣を着せられる

 アンノウン討伐の指令が下り、各陣営はそれぞれ独自に動き始めていました。

 

 全てを失った『剣』の主従。恋人を奪われた『槍』の主従。欲望を追い求める『弓』の主従。彷徨える『狂』の主従。我が道を行く『騎』の主従。様々な思惑と策謀が入り混じり、戦いは混沌の最中へと突入していきます。

 

 まず真っ先に行動を起こしたのは、ここアインツベルン城の主たちでした。

 

「──やはり、使っていたホテルは既に襲撃された後でした」

 

 薄闇に包まれるお城で、舞弥さんが淡々とした声で事務的に報告します。

 

 ここにいる全ての人たちには、明らかな疲労が見て取れていました。しかし、立ち止まるわけにはいきません。こういった時にこそ、行動し続けるのが重要なのだと彼らは知っているのですから……。

 

「保管してあった装備品はほぼ喪失──特に武器弾薬類に関しては全失です。無事だったのは予備の携帯電話や探知機などの僅かな通信機器と電子機器、それから持ち込んでいた現金や偽造パスポートなどのみ。軍資金が全くの手付かずだったのは、不幸中の幸いでした。念のため全て回収してきましたが、状況からして、強盗の類いだとは考えづらいでしょう」

「笑えるくらいに徹底的だな」

「……すみません。私がもっと早くに“彼女”の存在に気が付いていれば、こんな事には……」

 

 いっそ清々しいと言わんばかりに笑みを浮かべる切嗣くんに、舞弥さんは口惜しいと言わんばかりに答えます。なんとか偵察から帰還し、お城の監視カメラの映像を見た時、舞弥さんは愕然としました。そこに映っていた少女は、なんと数日前にビジネスホテルですれ違った少女だったのです。舞弥さんの驚愕は当然のものでした。

 

「いや、あの時点でアンノウンの存在に気付けというのは無理がある。それよりも、装備品の補充に関してはどうだ?」

「はい……補充に関してですが、ナイフなどの刃物類ならば、街のミリタリーショップなどで充分補給可能ですが、時間的に何処も閉まっていました」

 

 現在の時刻は二十四時を少し回った頃──既に日付は変わってしまっています。何処のお店も閉店しているのは自明の理でした。隠しきれない疲れを感じながら、舞弥さんは続けます。

 

「──銃火器などに関しても今すぐにとは……今からでは、最速でも二日は掛かるでしょう」

「そうだろうな……」

 

 指を交差しアゴを乗せ、切嗣くんが答えました。

 

 今回に限っては、聖杯戦争開催地が規制や取り締まりの厳しい日本であったのが、仇になったと言えるでしょう。武器弾薬の緊急補充が、思うように出来ません。そういった問題をあらかじめ回避するために、事前に舞弥さんを送り込んで色々と下準備をしてきたのですが、今となってはその苦労も水の泡でした。

 

「現状残っている武器は、舞弥が所持していたステアーAUGとキャレコに、手榴弾が幾つか、か……ままならないな。セイバーに渡す武器もアテはないか……」

「博物館や史料館などに潜り込んで、保存されている日本刀でも盗んでくれば話は別ですが……そのリスクを犯すには危険すぎるでしょう」

 

 切嗣くんの言葉を引き継いで、舞弥さんが続けます。

 

 古来の霊剣、宝剣が数多く現存する日本では、サーヴァントに対抗できるほどの神秘を宿した刀剣を見つけるのは比較的容易ですが、それ故に管理や保管も厳重であるのが通例でした。考えなしに手を出せるほど、簡単な話ではありません。下手をすればアンノウンどころか、日本中の術者が敵に回ることになってしまいます。

 

「……だが、現段階で僕たちの最高戦力はセイバーであることには変わりない。武器も弾薬も直ぐに底を突く。今の僕たちが最優先すべきなのは、セイバーの武器調達、戦力の回復だろう」

 

 現状の戦力では、アンノウンどころか他のサーヴァントにさえも切嗣くんたちは太刀打ち出来ないでしょう。アイリスフィールさんの安否は気になるところですが、暫くの間は安全は保証されていました。とはいえその時間もあまり長くはありません。速やかな奪還のためには、アルトリアさんの戦力回復は急務でした。

 

「ですが切嗣、アテはあるのですか? 状況からして、エクスカリバーを奪ったのもアンノウンに違いありません。アンノウンと戦うにはエクスカリバーが不可欠ですが、エクスカリバーを取り戻すには、アンノウンと戦う必要があります」

 

 バーサーカー出現の直前に気を失ったアルトリアさんは、バーサーカーがアルトリアさんのエクスカリバーを奪ったことを知りませんでした。『鶏が先か卵が先か』と似たような問題に、アルトリアさんは頭を悩ませます。

 

「ああ、確かにそうだ……だが、必ずしも君が担うのは『聖剣』である必要もないのだろう?」

 

 試すような口調で、切嗣くんはアルトリアさんに問いかけました。

 

「確かに、この身は『剣の英霊』であれど“剣”ばかりが取り柄という訳ではありません。我が手に握られるのが何であろうが、私は最優のサーヴァントの名に恥じぬ働きをしよう」

「だったら話は早い──」

 

 そう言った時の切嗣くんの顔は、実に冷徹で、酷い悪巧みを思いついた表情をしていました。

 

「舞弥、()()の様子は?」

「城の地下室で眠らせています」

「情報はもう聞き出せているな?」

「はい、抜かりありません」

 

 はきはきと良く透る声で、舞弥さんがテキパキと答えます。

 

「舞弥が彼女──ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリを誘拐して、既に十時間以上が経過している。舞弥の誤報告から、その事に“ヤツ”が気付いていないことは考えられない。舞弥と僕たちの関係に気付いていないのも考えづらいだろう。なのに未だに、ここにもポイント:15.48にもアンノウンの襲撃はない──」

「我々は見逃されている?」

 

 アルトリアさんが心当たりを投げかけます。

 

「あるいは、それ以外に優先すべき“何か”が起きたのか……アイリを誘拐したことが、何か関係しているのかもしれない。何れにせよ、このチャンスを利用しない手はないだろう」

 

 切嗣くんのホテル爆破に恐るべき速さで動いたアンノウンが、この誘拐を見逃すと思えません。しかし、まだ動く気配が無いというのであれば、次の行動を打つのは今しかないでしょう。アルトリアさんの戦力を回復させ、こちらの戦力を増強させる、起死回生の一手を……。

 

 切嗣くんは素早く立ち上がると、矢継ぎ早に指示を飛ばしました。

 

「舞弥、今から伝言用の使い魔を飛ばしてくれ。飛ばす先は──ケイネス・エルメロイ・アーチボルトの拠点。僕はこれから少し準備をしてくる」

 

 漆黒の狩人の戦いが、再び始まりました。

 

 

 

×       ×

 

 

 

 ケイネスさんが過ちを犯したのが何時からだったのかと問われれば、それはそもそもこの聖杯戦争に参加したこと自体が間違いであったと言えました。

 

 なんの夢も希望もなく、なんの叶えたい欲望も願いもなく、ただの名声と承認欲求だけでこの戦いに挑んだケイネスさんは、言ってしまえば、どうしようもなく場違いな存在だったのです。

 

 だからこそ、何よりも大切な婚約者をこんな戦場に連れてきてしまいますし、呼び出した英霊に対しても疑心暗鬼になってしまうのでした。

 

 色々とアクシデントがあったため仕方なかったとはいえ、なぜよりにもよって()()()逸話を持つ英霊を喚び出してしまったのか……よっぽど自分の魅力に自信があったのか、あるいは顔に似合わず変わらぬ愛だとかを信じていたのか……その自意識過剰さもケイネスさんの過ちの一つでした。

 

 彼ら槍の主従は、()()()()()()()()()という心中はそっくりでしたが、それ故に反目し合う運命にありました。『婚約者に認められたい』『今度こそ正しく主に認められたい』。求める場所は同じでも、向いている方向が別々であったがために、ドロドロでネチネチとした三角関係みたいにギスギスしてしまったのです。

 

 切嗣くんのイヤらしい罠に嵌まるのは、当然の結果でした。

 

 草木も眠る宵の頃──アインツベルン城でケイネスさんとランサーは剣の主従と相対します。もはや廃墟と化したお城で、比較的被害が少なかった一室を利用し、月明かりと蝋燭の灯り火の中、密かな会談が始まりました。

 

「此度はこちらの要請に答えて頂き、まずは感謝を述べさせて頂きたい。ケイネス・エルメロイ・アーチボルト卿。私はアイリスフィール・フォン・アインツベルンの代理である衛宮──」

「下らない御託は結構だ。今は時間が惜しい。さっさと本題に入って貰おうか?」

 

 恭しく形式ばった言い方をする切嗣くんに、高圧的な態度と苛立ちを隠そうともせず、ケイネスさんは言いました。

 

 アインツベルンの内情は、ここに来るまでにもう大方把握しています。教会の発表とこの惨状を鑑みれば、どうせこちらと共同戦線でも張ろうという腹積もりなのでしょう。

 

 しかしケイネスさんはそんなお話をするために態々こんな僻地まで来たのではありませんでした。今のケイネスさんには何よりも優先すべきことがあるのです。その確認と調査をするために、ケイネスさんはここまで来ていたのでした。

 

 無駄な労力や時間は出来る限り省くべきです。急かすようにケイネスさんは話を促します。

 

()()()()()()()()()()()()()。このメッセージの意味を、私は問いただしにはるばる来たのだ。これはどういう意味だ? アインツベルンの狗。返答によっては……」

 

 ケイネスさんがそう言うと同時に、槍の主従から鋭い敵視が放たれてきました。ピリピリと緊迫した空気が辺りを支配していきます。

 

「……どういう意味もなにも、そのままの意味だが?」

 

 しかし切嗣くんはケイネスさんとランサーから放たれる強烈なプレッシャーを物ともせず、平然と答えました。アルトリアさんが傍らに控えているからと言うのもありますが、この程度のプレッシャー、“アレ”と対峙した時と比べれば屁でもありません。

 

 実に平静な精神のまま、切嗣くんは続けます。

 

「我々は貴君の()()()()()()()()()()()()()。そして、貴君が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。だからこそ、この会談を開くことにしたのだ。知っての通り、我々アインツベルン陣営は現在窮地に陥っている。そしてそちらは行方不明の婚約者の居場所を知りたい。交渉の余地は、充分にあると思うが?」

 

 薄闇の中、やや俯きかげんで切嗣くんは言ったため、ケイネスさんの方からはその表情は上手く読み取れませんでした。しかし目の前の男からは、異様なまでの気配が放たれています。

 

 切嗣くんの異質な雰囲気に若干気圧され、ケイネスさんは答えました。

 

「……良いだろう。ならば取り敢えず、そちらの要求を言ってみるが良い」

「では遠慮なく──」

 

 そう一言前置きしてから、切嗣くんはケイネスさんへの要求を言いました。  

 

「こちらの要求は、アンノウン討伐とアイリスフィール奪還のための同盟だ。期間は『討伐』か『奪還』のどちらかが成るまで──そして同盟の証として、ランサーの宝具を一槍、譲り受けたい」

「貴様、正気か? 貴様ごときに、我が魔槍を扱いきれるとでも?」

 

 今まで静かに押し黙っていたランサーが、切嗣くんのあまり傍若無人な要求に思わず発言しました。サーヴァントの宝具はただのマジックアイテムではありません。サーヴァント個人の専用装備とも言えるものであり、そうホイホイと他人に扱えるものでもありませんでした。切嗣くんの要求は、ランサーにしてみればあまりにも荒唐無稽な要求です。

 

 しかし切嗣くんはそんなこと気にした素振りも見せず、更に続けました。

 

「それから、セイバーに負わせている不治癒の傷も治して頂こう」

「ハッ、何を言い出すかと思えば馬鹿馬鹿しい。我々がそんな要求を呑むとでも──」

「では、誘拐された婚約者がどうなっても良いと?」

 

 脅すように切嗣くんは言います。事実、これは要求と見せかけた脅しでした。

 

「ぐっ……」

 

 痛いところを突かれて、ケイネスさんは言い淀みます。

 

 切嗣くんはランサー陣営の、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトさんのアキレス腱が何処にあるのかを既に熟知していました。共に愛する人を戦場に連れてきた者同士、その思いその心情は嫌というほど理解出来ていたのです。

 

 僅かに動揺したケイネスさんの反応を見て、切嗣くんは内心ほくそ笑みました。

 

 聞いていた通り、ケイネスさんは婚約者にかなりご執心のようです。その婚約者ご本人からの太鼓判とはいえ、こうまで御しやすいとは片腹が痛くなる思いでした。愛する人を失う覚悟もせずこの戦いに挑むなんて、切嗣くんにしてみれば愚の骨頂です。そんな程度の覚悟だから、こんなにも簡単に他人に付け入れられてしまうのでしょう。

 

「愛する人の一刻も早い安否か、自身のサーヴァントの多少の戦力低下か……考えるまでもないと僕は思うがね。少なくとも僕なら、迷わず前者を取る」

「知ったような口を……」

「ああ、知っているさ。かくいう僕も同じように、愛する人を奪われた……アンノウンに拐われたアイリスフィール・フォン・アインツベルンは……僕の“妻”だ」

 

 いっそ清々しいほどに白々しく、これみよがしに悲哀そうな顔を浮かべて切嗣くんは言いました。ずっと変化の無かった切嗣くんの表情に、傍目でわかるほどに哀愁と焦燥が浮かび上がります。

 

 鉄仮面のように無表情だった男の突然の変化に、ケイネスさんの心が少しばかり揺れ動きました。同じような境遇に立たされた男同士、僅かでも同情してしまったのは致し方ないことでしょう。

 

「……なるほど、それ故の同盟という訳か」

 

 何かを悟ったように、したり顔でケイネスさんが言います。ケイネスさんは今、人生の分水嶺に立たされていました。愛する人の運命か、あるいは自らのサーヴァントの戦力か……。確かに、考えるまでもありませんでした。ケイネスさんの心の天秤が傾くのは、当然──

 

「ソラウの……我が婚約者の居場所を知っているのは確かだろうな?」

「あぁ、勿論だとも」

「何故、それを貴様らは知りえた?」

「我々の監視役が一部始終を見ていたのだ。勿論、現在も継続して追跡している。我々は貴殿の陣営を最大脅威と見なし、それ故に監視は最優先にかつ慎重に行っていた。他の陣営は穴熊か二流のマスターばかりなのだから、当然だろう。だからこそ、このような凶行も知ることが出来たのだ……」

 

 苦虫を噛み潰した表情でそう言って、切嗣くんがテーブルを滑らせてケイネスさんに渡したのは、十数枚にわたるソラウさん誘拐の証拠写真でした。

 

「こ、これはッ!!」

 

 そこに写っていたのはケイネスさんの拠点である廃墟と、ぐったりと眠るソラウさん、そしてソラウさんを引きずる“謎の少女”の姿でした。それは見る人から見れば直ぐに分かる合成写真でしたが、巧みに偽造された証拠写真は、近代技術に疎いケイネスさんを騙すには充分な説得力を持っています。

 

「ここに写っている少女こそ、僕の妻とアーチボルト卿のフィアンセを誘拐した……アンノウンだ」

「こいつが……こいつが、我が愛しのソラウを……」

 

 ワナワナと怒りに震えながらケイネスが呟きます。

 

「これで我々がケイネス卿に頼ったのも理解して頂けるだろう。我々の敵は共通している。大切な人を誘拐された者同士、手を──」

「ソラウの、ソラウの居場所は何処だ!?」

 

 切嗣くんの言葉が聞こえていなかったのか、ケイネスさんは思わず詰め寄りました。

 

「それは同盟を結ばぬ限り、教えられないな」

「良いだろう、同盟でも連盟でも何でも組んでやる。だから、ソラウの居場所を教えろ!」

 

 ケイネスさんの発言を聞いて、切嗣くんは僅かにニヤリと口端を上げます。

 

「ならば、令呪で以ってランサーに命じて貰おうか。“ランサーよ、セイバーの傷を癒し、宝具をあけ渡せ”と……」

「あぁ、分かった……分かったが……だが、しかし……」

 

 そう呟くと、ケイネスさんは気まずそうにチラリとランサーに目配せしました。ここにきてケイネスさんは一瞬、躊躇したのです。はたしてこれは正しい選択なのかと、判断に迷ったのでした。その咄嗟の逡巡は、流石稀代の魔術師であると言えるでしょう。

 

 これは「見事、婚約者を救い出せば、きっと貴方の株も爆上げ間違いなしですよ!」とでも言ってあと一押しするべきか? と切嗣くんが思ったところ、最後の一押しを押したのは、まさかまさかの彼のサーヴァントでした。

 

「我が主よ、迷うことはありません! どうかこのディルムッドに遠慮なく申し付けて下さい。奥方を救うため、致し方ない犠牲です!」

 

 宝具を差し出すだなんてきっと断腸の思いだろうに、きっぱりと正義漢らしい口調で、ランサーは堂々と言いました。そして、その決意を聞いてケイネスさんは決断します。

 

「……分かった。その同盟、受けるとしよう。ただし、アインツベルンの魔術師よ。こちら側からも一つ条件がある──事が済んだら、然るべき“場所”、然るべき“条件”でセイバーとランサーの決闘を執り行う、それがこちらの要求だ」

「……決闘の条件はそちらが?」

「当然だ。だが、アーチボルト家の誇りに賭けて、決して卑怯な真似はしないと誓おう」

 

 唯一無二の戦力である宝具を手放すのですから、ケイネスさんが出した条件は、まあ妥当であると言えました。

 

「わ、我が主よ!」

 

 ケイネスさんが出した条件に最も意外そうで嬉しそうな反応をしたのは、まさかのディルムッドくんです。朗らかに爽やかな笑みを浮かべて喜びを露わにしました。ソラウさんが誘拐されて以降、ずっと罵詈雑言を浴びせられ続けてきたのですから、その感動もかくやというものでしょう。

 

「これだけお膳立てをしてやるのだ。必ずやソラウを救出し、セイバーの首級を挙げるのだぞ、ランサー……」

「ハッ、仰せのままに!」

 

 初めて主の信頼を勝ち取ったような気がして、ディルムッドくんは歓喜に震えながら答えました。

 

「……それで、こちらの返答だが──」 

 

 切嗣くんはそう言うと、傍らに控えるアルトリアさんに視線を移し、目線で訴えかけます。なんやかんや綺麗事を言っていましたが、この決闘を受ければ悪条件を突き付けられるのは間違いありません。それでも負けぬ自信は、勝つ自信はあるのかと……。

 

 判断を委ねられたアルトリアさんは透き通るような曇りなき闘志を燃やし、槍の主従に向け返答しました。

 

「あぁ、こちらも異存は無い。いずれ時が来ればその決闘、必ずや受けて立ちましょう」

 

 かくしてここに、“剣”と“槍”の同盟は成ったのです。

 

 

 

 

×       ×

 

 

 

 ケイネスさんたちも去り、アルトリアさんと切嗣くんだけになった部屋で、剣の主従は静かに会話を交わしていました。

 

「──さて、これが僕の()()()だ。何か感想でもあるかい?」

 

 とは言ったものの、切嗣くんとしては出来れば捕まえたソラウさんを骨の髄まで利用し尽して、ケイネスさんの精神も肉体も魔術回路も魔術刻印もズタズタにし、ランサーを令呪で自害させ、そのあと婚約者もろとも射殺するまでやりたかったので、今回の場合は相当ヌルい()()()であったと言えました。

 

「……一つだけ、言っても良いですか?」

 

 ブンブンと()()で“紅き魔槍”を巧みに操り、アルトリアさんは切嗣くんに言います。セイバーが長槍を振るう度に、切嗣くんの頬には鋭い風斬りが伝ってきました。初めて握ったはずなのに、もう自身の手足の様に扱っています。流石としか言い様がないでしょう。

 

「ああ、勿論」

 

 短く答えて、切嗣は了承しました。

 

「貴方のやり方は否定しませんし、他に手段が無かったことも理解しています。それも分かった上で、敢えて言わせてもらいますが──」

 

 アルトリアさんは目にも留まらぬ素振りをいったん止めると、くるりと切嗣くんに向き合います。

 

()()()()()()、マスター」

「ふっ、それは最高の誉め言葉だ、セイバー」

 

 長かった夜は、もう明け始めていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 だいたいの偽装工作は、舞弥さんが一晩でやりました。

 何時もよりちょっと遅れたのは、PLLとスターウォーズのせい……
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