桜ちゃん、光の戦士を召喚する   作:ウィリアム・スミス

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桜ちゃん、嵌められる

 丸一日かけてソラウさんを捜索した桜ちゃんですが、未だなんの手がかりも掴めずにいました。

 

 街の人たちにお話を訊いてもなしのつぶてで、マップにもそれらしい手がかりは表示されていません。桜ちゃんが出来ることといえば、フライングマウントでアテもなくソラウさんを探し回ることだけでした。

 

 “もう夜も更けてきたし、一度戻ってアイリスフィールさんの様子でも見てこようかな?”と思い始めた頃──進退窮まった桜ちゃんを救ったのは、一本の着信音でした。

 

 ピロピロピロという音とともに、ブルブルブルと震え始めたのは切嗣くんから没収した携帯電話です。桜ちゃんは少しだけ怪しみますが、他に出来ることもないので臆せず着信を取りました。

 

「もしもし?」

 

 電話の相手は桜ちゃんの問いかけに答えることなく、低く渋い声で矢継ぎ早に言います。

 

『冬木市北西の住宅街にある古い武家屋敷。そこがポイント15.48だ──』

 

 それだけを言い残すと、通話はブッツっと切れてしまいました。ツーツーツーという通話音だけが、むなしく桜ちゃんの耳に届いてきます。桜ちゃんは一瞬呆けた顔をして「何だったんだろう?」っと携帯電話を見つめますが、すぐに頭をふって思い直しました。

 

 なんとも唐突かつ突然にやってきた手がかり──というか、まんま“答え”──ですが、どうにもこれにはあからさまな罠の匂いがします。声質からいって相手は大人の男性──おそらくは切嗣くんでしょうが、誘拐犯一味からの一方的な連絡。怪しい以外の何者でもありません。しかし、桜ちゃんには他にアテもないのも事実でした。

 

「とりあえず、行ってみようかな?」

 

 罠を警戒し避けるか、罠に飛び込むか……。桜ちゃんらしい、あるいは“女の子”らしい選択肢──もっと言えば『事件屋』らしい選択肢とは一つしかないでしょう。

 

『ハサンさん。ちょっと、()()()()()()()()()()です。そちらは大丈夫ですか?』

『──了解した。こちらは特に問題はない。()()()()してくるがいい』

 

 桜ちゃんはPTチャットでハサンさんにそう報告すると、指笛を鳴らしフライングマウントを呼び出して、月明かりの夜空の中、北西の空へと飛び立っていくのでした。

 

 

 

 

×       ×

 

 

 

 どういうわけか、桜ちゃんが武家屋敷に近づくにつれて、どんどんとサーヴァントの気配が強くなっていきました。

 

 しかし、特に驚くべきことではありません。十中八九罠であることは分かっていましたし、当然、サーヴァントが待ち構えていることも予想出来ていたからです。しかし奇妙なことに、感じ取れるサーヴァントの気配は誘拐犯一味のアルトリアさんの気配ではなく、誘拐された側であるはずのディルムッドさんの気配でした。

 

 桜ちゃんの頭のお馴染みとなったあの“声”が響き渡ります。

 

『ランサーはセイバーに弱い。

 ランサーはセイバーに弱い。

 ランサーはセイバーに弱い……』

 

 ずっと押し黙っていたくせにサーヴァントと見たら途端にヤる気を出してくるなんて、この“声”はかなり現金で自分勝手なヤツだなと桜ちゃんは思います。

 

 それにしても、これは一体、どういうことなのでしょう? なぜ、セイバーではなくランサーが? 桜ちゃんは少し不思議に思います。もしかしたら、ディルムッドさんたちも同じようにソラウさんを探していて、同じようなタイミングでソラウさんを見つけたのかもしれません。

 

 先を越されてしまったのは少しばかり悔しいですが、面識のない桜ちゃんが見つけ出すよりも、仲間であるディルムッドさんたちに見つけられる方が、ソラウさん的にも嬉しいはずですから結果はオーライです。

 

 色々と事態を察し、警戒心を僅かに解いた桜ちゃんは、静かに武家屋敷の前に降り立ちました。罠である可能性は殆どなくなりましたし、桜ちゃんは『すっぴん』のままでいます。

 

 桜ちゃんとしてはこのまま回れ右をして帰っても全然構わなかったのですが、頭の中で響く“声”の意見はそうでもないようです。ソラウさんの安否でも気になるのでしょうか? 確かに、事件屋として被害者の安否は気になるところです。頭に響く“声”を黙らせるためにも、桜ちゃんは武家屋敷の中へと入っていく決意をするのでした。

 

「えっ……?」

 

 そして敷地内に一歩足を踏み入れた途端、突然謎の銀色スライムが出現し、ウネウネと奇妙に(うごめ)きながら形を変え、まるで剣山のようにトゲトゲになったかと思うと桜ちゃんに襲いかかり、その鋭く尖ったトゲトゲで体中を串刺しにされた桜ちゃんは、一瞬にして絶命してしまったのです。

 

 

 

 

×       ×

 

 

 

 そして気が付くと桜ちゃんは、武家屋敷の前に立っていました。串刺しにされたはずの身体はなんともありません。しかし、ついさっき何が起こったのか、桜ちゃんは鮮明に覚えていました。

 

 “前にもこんなことがあったなぁ”と桜ちゃんは心の中でほのぼのと思います。

 

 武家屋敷の敷地内に入ってすぐ、どういうわけか桜ちゃんは謎の銀色スライムに奇襲され、成す術もなく体中を串刺しにされてしまいました。似たようなことがハサンさんの時にもありましたが、強烈な痛みと衝撃は、二度目ともなれば、まぁ慣れたものです。

 

 一体全体どういう理由で攻撃を受けたのかはさっぱり不明ですが、どうやら先方はヤる気満々のようです。武家屋敷の中にあるのはディルムッドくんの気配のみ、戦う理由も所以も見当が付きませんが、もしかしたら桜ちゃんのことを誘拐犯だと勘違いしているのかもしれません。

 

 これはなんとかして誤解を解かなくてはいけないでしょうが、そうしようにもディルムッドくんたちは聞く耳をもってくれそうにありません。出来る限り()便()()話し合いをしたいところですが、()()()話し合いになることを覚悟するべきでしょう。さっきからしつこく響く“声”に従い、桜ちゃんは『すっぴん』からジョブチェンジします。

 

『ランサーはセイバーに弱い。

 ランサーはセイバーに弱い。

 ランサーはセイバーに弱い……』

 

 浮かび上がってくる『剣の英雄(セイバー)』の“女の子”のイメージは実にたくさんありましたが、その中でも桜ちゃんは防御力に特化した『ナイト』を選択し、着替えました。これは、あくまでも専守防衛。ガチで積極的に戦う意図は無いという意思表示です。

 

 まあ、“女の子”のことは何も知らないディルムッドくんたちに、そんなこと伝わるはずもありませんし、たとえ伝わったとしても見る人が見れば、「その選択肢はある意味ガチじゃねぇか」と突っ込まれていたでしょうが、少なくとも桜ちゃんとしては“そう”なのです。

 

 準備万端に整えた桜ちゃんは、今度こそはヤられないよう警戒し、武家屋敷の中へと入っていくのでした。

 

 

 

 

×       ×

 

 

 

「くっ……しくじったか……ランサー!」

 

 あらかじめ用意周到に準備し、隠れ潜んでいた『月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)』の必殺の奇襲は、むなしく空振りに終わりました。さらに続けて飛び出してきたディルムッドくんの刺突が桜ちゃんに襲いかかります。

 

「はぁああああああ!!」

 

 姿を隠してでの奇襲など、ディルムッドくんとしては騎士道に反する行為でしたが、相手は見た目は幼女でも、中身は極悪非道の誘拐犯です。かける誇りもありませんし、かける情けもありません。ならば、容赦は無用でしょう。

 

 しかし、ディルムッドくんの渾身の刺突は、桜ちゃんの盾に完璧に防がれてしまいます。華麗に短槍を受け流され、決定的な隙を晒してしまうディルムッドくん。

 

Scaip(斬ッ)!」

 

 ケイネスさんの呪文が響き渡ります。するとディルムッドくんの隙をカバーするかのように、スライムみたいにうねうねとした奇妙な物体が桜ちゃんに襲いかかってきました。

 

「醜態を晒すな、ランサー!」

「かたじけない、マスター」

 

 ディルムッドくんの槍の連撃とケイネスさんの『月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)』の攻撃は、実にナイスコンビネーションと言えましたが、しかし、人外の如き防御力を誇る桜ちゃんには全く効果がありませんでした。盾や鎧で防がれるのであればまだしも、まるで透明人間のようにすり抜けて回避されては、流石の希代の魔術師と英雄といえどもぐうの音も出ません。

 

 どうやら桜ちゃんには、矢よけの加護のような何らかの加護が働いているようです。

 

「ばっ……化け物めッ!」

 

 ケイネスさんの『月霊髄液』は、どうやらほぼ戦力になりそうにありませんでした。

 

 それを示すかのように桜ちゃんは握りしめた片手剣を一振りすると、たった一撃で『月霊髄液』を吹き飛ばしてしまいます。液状で形も固さも自由自在なご自慢の『月霊髄液』を、なんの変哲もないただの剣撃で粉砕されては、流石のケイネスさんも思わず戦慄してしまいます。

 

 ケイネスさんの最高傑作である『月霊髄液』は、なんの成果も挙げられず無為と消えてしまいました。しかし、ケイネスさんの最大最強の切り札は、『月霊髄液』ではありません。他でもない、ディルムッドくんがその切り札なのです。

 

「ランサー!」

 

 ケイネスさんは『月霊髄液』に回していた魔力を、ディルムッドくんへ全力投入します。これまでにない魔力供給に、ディルムッドくんの力はみなぎり、切っ先が消え去るほどの速度で呪いの短槍を振るっていきます。

 

「うぉおおおおおお!!」

 

 ディルムッドくんの宝具『必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)』は、治癒不能の傷を相手に与える呪いの短槍でした。与えられたダメージはディルムッドくんが意図するか、決められた手順を踏まない限り決して癒えることはなく、継続的に相手を蝕みます。一撃必殺の切り札ではありませんが、持久戦や長期戦においては類いまれな戦果を挙げる宝具と言えました。

 

 ディルムッドくんの呪槍の切っ先が、寸分の狂いもなく桜ちゃんへと吸い込まれていきます。

 

 しかし尋常ならざる鉄壁の防御力の前に呪槍が出来たのは、桜ちゃんの鎧に傷一つ与える程度でした。信じられないことですが、どうやら桜ちゃんが身に纏っている鎧や防具は、ディルムッドくんのゲイ・ボウよりも遥かにランクの高い装備のようです。それを頭の上から足の先までびっしりと……もはや規格外という言葉が可愛く思えてきます。

 

「くっ……よもや、これほどとは……」

 

 ディルムッドくんの心の中に焦りが生まれてきます。

 

 ゲイ・ボウの能力は確かに卓越したものがありますが、その特殊効果の故、純粋な攻撃力としては同じランクの宝具と比べても些か以上に見劣りする部分がありました。現状ではディルムッドくんたちに、桜ちゃんの防御力を突破する術がありません。

 

 “せめて、破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)がここにあれば……”

 

 ディルムッドくんはつい、心の中でそんな弱音を吐いてしまいます。ですが、そんなことを今更言っても詮無きことです。セイバーたちは今、アイリスフィールさん奪還のために別行動中、さらに宝具を譲り渡すと言ったのは自分自身です。弱気になってへこたれている場合ではありません。

 

 ディルムッドくんたちは、桜ちゃんの実力を直接その目で見たことはありませんでした。それ故に侮っていたということはありませんが、それでも桜ちゃんの実力を見誤っていたのは確かでした。単独で挑んだのがそもそもの間違いだったのです。

 

 予想を超える桜ちゃんの実力に、徐々に防戦一方となっていくディルムッドくん。なんとか奮起してケイネスさんも窮地を脱しようと色々と足掻きますが、何か手を打つ度に直ぐ様対応され、潰されてしまっていました。

 

「これが……アン、ノウン……」

 

 思わずケイネスさんから、言葉が漏れ出します。

 

 ディルムッドくんの巧みな槍さばきは殆どが盾と鎧に防がれ、()()()()()()で以って繰り出された起死回生の一手は、まるで最初から()()()()()かのように“見て”“感じて”“回避され”、お返しとばかりに、その小さな体から放たれたとは思えない重い剣撃と魔法攻撃が飛んできます。

 

 確かに、桜ちゃんの攻撃力はその防御力に比べると大したことはありませんでしたが、それよりも恐るべきことは、桜ちゃんの攻撃は避けようとしても避けられないところにありました。『事象の固定化』、あるいは『因果の逆転』か……。ただの攻撃一つ一つにそんな概念が篭められているのですから、冗談にも程があります。

 

 そんな理不尽な攻撃に、ディルムッドくんはしだいに窮地に陥っていきました。

 

「グヌヌヌヌヌ……」

 

 それでもこの戦いが依然として拮抗しているのは、ケイネスさんが懸命にディルムッドくんを癒やしているからに他なりません。今、ケイネスさんの魔術回路は、ディルムッドくんの治癒のためにフル回転していました。

 

 これ程までに魔術回路を全身全霊全力で励起させたのは、きっと人生で後にも先にもありはしないでしょう。

 

 それでも状況を全く打開出来ず、ドンドン追い詰められていくディルムッドくん。それを見ても、ケイネスさんは苛立ちもせず、玉のような汗を流しながらただただ無言で支援に徹していました。苛立つ余裕など今は無いのもありますが、ケイネスさんは気付いていたのです。この拮抗は長くは続かないと、この状況を保っていられるのは、ランサーのお陰であるということを……。

 

 先程から桜ちゃんの眼光が、チラチラとケイネスさんに注がれています。隙あらば直にでもケイネスさんに飛びかかってきそうです。それをなんとか塞き止めているのは、ディルムッドさんの努力に他なりませんでした。身を挺して主を守るその献身を、ケイネスさんは初めて痛感します。

 

 しかし、このままでは、いずれケイネスさんは桜ちゃんの毒牙にかかってしまうでしょう。ディルムッドくんはマスターを守るため、ケイネスさんはそのサーヴァントを支援するため、懸命に自らの仕事をこなしていますが、いずれケイネスさんの魔力は尽き、ランサーも倒れてしまいます。

 

 万事休すかと思われた時、そんな絶体絶命の戦況を一変させたのは、耳を裂くような叫び声を放つ乱入者でした。その乱入者の姿は、漆黒の騎士甲冑にどす黒くなった聖剣を持った、狂戦士の姿をしていました。

 

「■■■■■■■■■■■■ーッ!!」

 

 

 

 

×       ×

 

 

 

 武家屋敷での死闘は、そもそも切嗣くんの連絡が切っ掛けで始まりました。

 

 そして、桜ちゃんの実力を他の誰よりもよく知っており、かつ用心深く用意周到な切嗣くんが、ランサー程度の戦力だけで満足するはずがありません。たとえ囮であろうとも、万全を期すのが切嗣くんの流儀でした。切嗣くんは使い魔を通じて教会と全マスターに桜ちゃんの情報を流していたのです。

 

 そうでなくとも、この壮絶な魔力の奔流では、他のマスターたちが姿を現すのは当然であると言えました。それが、桜ちゃんに執着する“狂の主従”であれば尚更でしょう。

 

 

 

 

×       ×

 

 

 

「■■■■■■■■■■■■ーッ!!」

 

 二度あることは三度あると言いますが、その叫び声を聞いた桜ちゃんは、流石に落胆と呆れの色を隠しきれませんでした。ディルムッドくんと桜ちゃんの戦いがいよいよ大詰めとなった時に、図ったかのようなタイミングで姿を現したのは、雁夜おじさんのサーヴァントであるバーサーカーです。

 

 出現するやいなやバーサーカーは、ドス黒くなった聖剣で桜ちゃんに襲いかかります。

 

 突然の思いがけない奇襲でしたが、とはいえこんな増援は良くあることですし、そもそもこうやってバーサーカーが奇襲をしかけてくるのはこれで三度目です。一度目は倉庫街、二度目は御伽の城の森の時です。流石に三度目ともなれば、対処は容易でした。

 

 若干、雁夜おじさんには恩を仇で返された気がしなくもありませんが、あの錯乱ぷりと勘違いぷりは、流石の『永久ステータス異常を治す魔法(エスナ)』でも治療しきれなかったのでしょう。諦めと仕方なさを感じながら、桜ちゃんはバーサーカーを迎え撃ちます。

 

Araaaaaaathurrrrrrr(アァァァァァァァサァァァァァァ)ッッッ!!」

 

 バーサーカーの獰猛さと貪欲さは前回の比ではありません。どういうわけかその狂暴さも本日はマシマシです。バーサーカーは本日、絶好調のノリノリ状態であると言えました。

 

 桜ちゃんが雁夜おじさんを治療してくれたお蔭なのは言うまでもありませんが、それよりも悪かったのは、桜ちゃんの見た目が、その上、彼が執着する“ある人物”と似たような属性だったのが不味かったのでしょう。

 

 いつもより三割ほど強烈になったバーサーカーの猛攻が、目にも留まらぬ速さで繰り出されてきます。

 

 桜ちゃんも持ち前の防御力を武器に、真正面から堂々と応戦します。桜ちゃん──正確には桜ちゃんの中にいる“女の子”ですが──はそういった戦い方しか知りません。真正面から突っ込んでいって切った張ったをする。そういった戦いしか知らないのでした。桜ちゃんの辞書に『逃走』という二文字はありません。もっとも、イベント関係になれば話は別ですが……。

 

『ランサーよ! 何をぼさっとしている。横やりは()()()()()()()ことのはずだ。この千載一遇のチャンスを逃すのではないッ!!』

 

 九死に一生を得て、僅かに呆けていたランサーさんですが、マスターの叱咤に我に返ります。そして幾ばくかの逡巡の後、躊躇いがちにこう言いました。

 

『し、しかし主よ……これではあまりにも……』

『あまりにも、なんだと言うのだ? 卑怯だとでも言いたいのか? 貴様が騎士道などというものに拘っているのは知っているが、時と場合を弁えろ! 貴様のそういった優等生ぶりに、私がどれだけ悩まされてきたか! 貴様が出来ぬと言うのであれば、私が出来るように命令してやろう! ──()()()()()()()()()。ランサーよ、バーサーカーを支援し、アンノウンを討伐せよ!」

『あ、主よ……ぅう……うぉおおおおおお!!」

 

 ディルムッドくんとしては不本意極まりない事態ですが、マスターの命令であれば致し方ありません。

 

 この戦いはそもそも、意地も誇りも関係ない戦いのはずでした。だからこその奇襲、だからこその待ち伏せであったはずです。それにディルムッドくんには、桜ちゃんと一対一で戦うチャンスは与えられていました。仕留めるどころか、敗北寸前だったのはディルムッドくんの力不足に他なりません。マスターの命令は甘んじて受けるべきでした。

 

 令呪の強制力によって突き動かされたディルムッドくんが、桜ちゃんとバーサーカーの戦いに加わっていきます。縦横無尽な槍と剣の暴風雨が、桜ちゃんに襲いかかります。流石の桜ちゃんでも、この二人の攻撃を凌ぐのは実に難題でした。

 

「んん……うぅ……くぅ……」

 

 桜ちゃんの口から苦悶の声が漏れ出します。

 

 二体一となった戦いは、しだいに形勢逆転していきました。令呪のバックアップを受けたランサーに、ノリノリ絶好調のバーサーカー。桜ちゃんが回復魔法を使う回数が増えていき、暗雲が立ち込めていきます。

 

 それでも尚、難攻不落の城塞の如く健在である桜ちゃんに、マスターもサーヴァントも舌を巻きました。恐るべき耐久力です。その様はまるで、不死身の化け物のようでした。

 

 現状は二騎のサーヴァントをもってしてでも互角──千日手です。戦況を打開するには、さらに“もう一手”が必要でしょう。しかし、その“もう一手”は、ランサー陣営にもバーサーカー陣営にもありません。

 

 ですが、問題はありません。全てのマスターとサーヴァントがアンノウン狩りに注視する今、“もう一手”はもう幾ばくもしない内に来るはずなのですから……。そしてその予想はすぐに現実へと変わりました。

 

 二騎のサーヴァントに代わる代わる攻め立てられ、それでも尚、懸命に抵抗し続ける桜ちゃん目掛けて、その“もう一手”は舞い降りてきたのです。

 

 それは、二頭仕立ての戦車に乗り、()()()()()()やって来ました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 よってたかって幼女にボコボコに……
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