桜ちゃん、光の戦士を召喚する   作:ウィリアム・スミス

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桜ちゃん、疾走する

 “ソレ”を見た綺礼くんは、唐突に理解しました。

 

 “このために、私は選ばれたのだ”と。

 

『アレ』を守るためにここまで来たのだと、『アレ』を生み出すためにここにいるのだと、理解したのです。

 

 だから、もはや執着も躊躇いもなく、あれだけ求めていたはずの男をくし刺しにしました。

 

 後悔など微塵もありはしません。答えはもう得ていたのですから……。

 

 

 

 

×       ×

 

 

 

 突如、雷鳴と共に舞い降りたイスカンダルさんは、その威容もさることながら、王さまらしい堂々とした佇まいをしていました。

 

 彼の覇気に圧され、戦場に暫しの静寂が訪れます。最後に登場したというのに、もうこの戦場を支配していました。いまこの戦いの中心にいるのは、間違いなく征服王イスカンダルさんです。

 

 これで三対一。形勢は圧倒的に不利になってしまいました。敗北は必定。桜ちゃんに諦めと達観が溢れてきます。しかしまだ、挫けてはいませんでした。これはまだ、たった()()()です。むしろ二回でここまで“見れた”のですから、申し分ない結果でした。

 

 桜ちゃんは無意識に思います。“次こそは()()()()()”と、“そのためにもまだ足掻く必要がある”と。桜ちゃんの意識は、既に『今回』から『次回』へと移り変わっていました。しかし、みすみすと負けるわけにもいきません。“次”で勝つために、“今”の戦いを少しでも長引かせる必要があるでしょう。桜ちゃんの覚悟は決まりました。大きく盾を構えて身構えます。

 

 ところが、何時まで待っても攻撃はやってきませんでした。“槍”も“剣”も“戦車”の突撃も、桜ちゃんには飛んで来ません。

 

 きょとんとする桜ちゃん。どうしたのかと桜ちゃんが目の前のイスカンダルさんを見上げると、“彼”のネームカラーが揺らいでいることが分かりました。緑から赤へ、赤から緑へ、まるで波打つように変わっています。もしかするともしかしたら、『今回』はもう“ダメ”だと判断するのは、早計だったのかもしれません。

 

 桜ちゃんがイスカンダルさんを見つめると、イスカンダルさんも桜ちゃんを見下ろしていました。桜ちゃんとイスカンダルさんの視線が交差します。

 

 ちょうど桜ちゃんとサーヴァントたちを遮るように立ち塞がったイスカンダルさんは、ただ仁王立ちのまま、じっと桜ちゃんを鋭い眼光で観察していました。そしてややあってから、その口から重くて低い声を吐き出します。それは戸惑うように紡がれた囁き声でした。

 

「……貴様が、余の居城を侵し、書物を奪った『サクラ』とかいうヤツか?」

 

 巌の如く低いイスカンダルさんの声は有無を言わさぬ圧倒的な迫力で、しかしどこか暖かみのある音色を含み、桜ちゃんの鼓膜に響きました。大きな体のイスカンダルさんに問い詰められて、桜ちゃんは少しだけ怖気づきましたが、そんな様子はおくびにも見せず平然とした無表情で答えます。

 

「はい、そうです」

 

 桜ちゃんのその透き通る声は、さっきまでの激戦を全く感じさせることなく、全然乱れていませんでした。サーヴァント二騎の猛攻を相手にして、これっぽっちも(こた)えた様子をみせない桜ちゃんに、イスカンダルさんは内心で舌を巻きます。その驚きが残ったまま、イスカンダルさんはさらに問いかけました。

 

「……そうか。どうやって部屋に侵入したのだ?」

「マーサさんに入れて貰いました」

「どうやって婦人に取り入った?」

「お買い物を手伝いました」

「何故、手伝った?」

「手伝って欲しそうにしていたからです」

 

 矢継ぎ早に繰り出されるイスカンダルさんの問いかけに、淀みなく答える桜ちゃん。

 

 イスカンダルさんはウムムと唸ります。明らかにイスカンダルさんは戸惑っていました。桜ちゃんの態度から、後ろめたさや後悔などといった気配がないのです。100%自分がやったことを、正しいと思っているかのようです。それは、イスカンダルさんが『征服』をする時に似ていて、はたしてイスカンダルさんは、この少女が『罪人』なのか『征服者』なのか判断に迷っていました。

 

『罪人』ならば迷いなく断罪するべきですし、『征服者』であるならば、『征服王』としてそれなりの度量を示すべきです。それこそが『王』たる彼の務めでした。それを見極めるために、イスカンダルさんは更に詰問します。それはまるで桜ちゃんに問いかけるというよりも、自らに対して自問するかのようでした。

 

「……何故……何故、余の書物を奪ったのだ? そうだ、それが解せぬ。金目のものや貴重な品は、もっと他にもあったはずだ。坊主の魔術品などがその最たるものだろう。それなのに貴様はただの書物だけ奪っていった。なんの魔力も神秘も持たぬ、()()()()をだ。貴様の目的は、金品の類いでは無かったはずだ」

 

 もはや呟きごえとなって奏でられたイスカンダルさんの質問に、桜ちゃんは当たり前のような顔をして答えます。

 

「だってあれは、図書館から盗んできたものでしょう?」

 

 桜ちゃんの言い分を、イスカンダルさんは否定しました。

 

「いや、それは違う。隠れ潜んで奪えば『盗人』であるが、正面から堂々と勝ち名乗りをあげ凱旋したならば、これ『征服』なり」

 

 イスカンダルさんの理論は、現代人の倫理観からしてみれば滅茶苦茶もいいところでしたが、まあ桜ちゃんには納得できなくもない部分もありました。そしてそれは、同時に使()()()理論でもありました。隠れ潜んで奪うのはダメで、堂々と凱旋するのであれば良いと言い張るのであれば、桜ちゃんの言い分もまた正道になるはずなのですから……。

 

「なら、私も同じです。マーサさんのお家に()()と入って、()()とお部屋に入って、()()と本を取って、()()とお家を出て、()()と本を返しました。よってこれはつまり、『征服』です」

 

 何か文句でもありますか? とでも言わんばかりに桜ちゃんは言いました。

 

 一瞬、イスカンダルさんは唖然とした表情をしましたが、突然、ガハハハと笑いだし納得したように桜ちゃんの頭をポンポンと叩きました。なるほどこれは、『罪人』ではなく『征服者』の理論です。『征服王』であるイスカンダルさんがそれを、否定するわけにはいかないでしょう。

 

「ガハハハハ! 確かに貴様が余にしたことは征服であったわ! こりゃあ一本とられたな! よもやこの現し世に、そんな事を余に(のたま)う剛胆の持ち主がおろうとは……それもこんな小さな幼子と来たものだ! 愉快過ぎて笑いが止まらぬわ!!」

 

 心底愉快そうに笑うイスカンダルさん。その様子からは、さっきまでの重く鋭い圧迫感は感じられません。むしろ清々しく、透き通るような雰囲気です。

 

「なぁ、おいウェイバー! 余は気が変わったぞ! ただの『盗人』であるならば生かすつもりは毛頭無かったが、『征服』と言われてしまえば甘んじて受け入れるしかない。こんな愉快なヤツ、死なすには惜し過ぎるだろう。是非とも余の配下に加えたい!」

「はぁああ!? ちょっ、おい、お前! また勝手に──」

 

 しかしウェイバーくんの抗議は、虚しくイスカンダルさんの大声にかき消されてしまいました。少なくない経験から、ウェイバーくんは学んでいます。こうなったイスカンダルさんには、もう聞く耳などありはしません。

 

「それに元々、この様なやり方はあまり乗り気では無かったのだ。いくら一大事だからと言って、大の男たちが揃いも揃ってこんな幼子に、よってたかって無理矢理と……」

 

 最後の方は意図的にみんなに聞こえるように大きな声で呟いて、そこでイスカンダルさんは桜ちゃんの頭から手を離し、クルっと戦車を翻させ振り返りました。未だ油断なく構えるサーヴァントたちがソコにはいます。歴戦の勇者とも言える、(つもわの)どもが……。

 

「決めたぞ。余は、このサクラの方に付く!」

 

 両手を振り上げ高らかに、イスカンダルさんはそう宣言しました。「はぁああああああ!?」誰かがそう叫びました。

 

『裏切るつもりかね? 征服王イスカンダル?』

 

 何処からか、男の声が聞こえてきます。

 

 その口調はあからさまにイライラしていて、敵意に溢れていました。事実、ケイネスさんは怒っていました。形勢的にも状況的にも、敵対するメリットなどありはしないのですから。それはまるで現実を理解していない愚か者(ウェイバー)のようで、それはまるで彼の者のマスターのようでした。

 

「裏切るとはこれは異なことを言う。そもそも余たちには、教会の意向に従う道理などこれっぽっちも有りはしないのだ。余は征服王! 我が行く先を決めれるのは、余において他に無かろうて!」

 

 青き稲妻が迸り、空気が張りつめていきます。イスカンダルさんは本気でした。本気と書いてマジで桜ちゃんの味方をするつもりでした。こんな正体不明で得体の知れない謎の幼女のために、明らかな有利を投げ捨てて、援護するつもりです。

 

『貴様はそれで良いのだろうが、貴様のマスターはどうだろうな? ウェイバー・ベルベットくん。君は目の前にある勝利を、みすみす逃せるのかね?』

 

 それはウェイバーくんにとって、とても甘くて美味しそうな甘言でした。

 

 ウェイバーくんにとってこの戦争は自尊心と虚栄心を満たすだけの戦いであるので、英雄たちの誇りや矜恃に付き合う道理は全くありません。彼が彼を従わせるのは容易でした。ですがウェイバーくんの中にある反骨心が、その意見を拒絶しました。サーヴァントに好き勝手されるのは気に入りませんが、それ以上に“アイツ”の言う通りにするのは気に入りません。

 

「ううう、うっせー! 味方するって言ったら味方すんだよ!! あぁ、クソ! これで満足かッ!? ライダー!!」

「そうでなくてはな、我がマスターよッ!」

 

 騎の主従の意は決しました。

 

 もはや完全にイスカンダルさんのネームカラーは緑色になり、そうであるならば、もはや桜ちゃんに異はありません。味方になってくれるのであれば、敵だろうが、英雄だろうが、亡霊だろうが、妖異だろうが、誰でもウェルカムでした。

 

『後悔するぞ、ウェイバー・ベルベット』

 

 その捨て台詞以降、ケイネスさんの声は聞こえてきませんでした。もう言葉は不要だと、分かっていたのです。

 

 桜ちゃんがイスカンダルさんの背後から姿を現し、共に並び立ちます。そしてその瞬間──突然、桜ちゃんに猛烈な()()()()が襲いかかりました。でもそれはここではなく何処か別の場所で、桜ちゃんにではない“誰か”に襲い来る脅威でした。桜ちゃんの顔がこれまで見たこともないくらい真っ青になり、僅かに唇が震え始めます。

 

 “今すぐここから離れないと……”

 

 兎にも角にも、今はそれを優先する必要がありました。そうするべきだと、直感よりも上位にある“何か”が訴えかけてきます。

 

「……何かあったのか?」

 

 恐るべき察しの良さで桜ちゃんの異変を感じ取ったイスカンダルさんが、優しく呟きました。桜ちゃんは素早く答えます。

 

「……今すぐここから離れないと」

 

 イスカンダルさんは一瞬怪訝な顔をしましたが、すぐに合点がいった顔をし、素早く作戦を変更しました。敵を一網打尽にする絶好のチャンスでしたが、“彼女”がその気でないのならそれも無理な話です。

 

「なら、“コレ”に乗るがいい」

 

 イスカンダルは顎で『神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)』を指し示し、小声で言いました。

 

「ありがとうございます。でも大丈夫です」

 

 そう言うと桜ちゃんは指笛を吹き、“彼”を呼び出します。

 

 本来であれば乗り物(マウント)は、戦闘中絶対に呼び出せないはずですが、今ならそれが出来ると確信していました。もしかしたら征服王(アレキサンダー)が味方についたことで、“彼”も久々にやる気が出てきたのかもしれません。

 

 偶然か必然か、ガシャンゴションと喚び出されたのは、奇妙な形をした機械人形でした。下半身は大きな球体になっており、そこから胴体と、そして煙突のような謎の円柱が生えています。桜ちゃんががっしり掴まっているのは、その謎の円柱でした。どんな原理か不明ですが、“彼”はフワフワと宙に浮いています。

 

 その不思議な機械(アリダイオス)を見て、イスカンダルさんはどこか懐かしい思いを感じました。あんなもの見たこともないのに、なぜだか不思議な“縁”を感じます。そして、彼はしたり顔でニヤリと笑いました。どうやら桜ちゃんは、彼が想像していた以上に面白いヤツのようです。

 

 イスカンダルさんが英雄たちに向かって吼えます。

 

「さぁ、これで形勢は二体二となった! では、槍の英雄と狂の英雄たちよ! 我らが征服者の()()──阻めるかな?」

 

 その声がサーヴァントたちに届く頃には、イスカンダルさんと桜ちゃんの電撃的疾走は始まっていました。

 

 それはまるで()()()()()()()かのように素早いスピードで行われ、目にも留まらぬ速さで駆け巡り、蹂躙し、征服し、気付けばサーヴァントたちの前には、桜ちゃんたちの姿はありませんでした。

 

 

 

 

×       ×

 

 

 

 気づけば戦いは、階段ではなく山頂へと移っていました。

 

 契約により結ばれたマスターとサーヴァントは、たとえ遠く離れていたとしてもお互いの異変を感じ取ることが出来ます。激戦が続く中、アルトリアさんが切嗣くんの異変を察知すると、彼女の目標は瞬時に『撃破』から『救助』に変わりました。

 

「はあああ!!」

 

 強引な魔力放出でアサシンを抜き去り、突破を試みます。

 

「いかせるか!」

 

 当然、ハサンさんはアルトリアさんを阻もうとしましたが、それは明後日の方向から飛来してきた宝剣に防がれてしまいました。途端に襲い掛かってくる圧倒的な重圧(プレッシャー)。この気配、この存在感。誰だと問うまでもありません。ハサンさんは夜空を見上げ、威容高々に佇む彼を睨みつけました。

 

 満点の夜空に輝く月光を背後に、超常とした態度で王立ちする英雄王の姿を……。

 

 

 

 

×       ×

 

 

 

「この気配……アーチャーですか……」

 

 アサシンの追跡を当然のものとして身構えていたアルトリアさんですが、どうにもその様子はありませんでした。僅かに訝しむアルトリアさんですが、その理由はすぐに分かります。この気配、この魔力。間違いありません。あの黄金のサーヴァントに他ならないでしょう。

 

 都合の良いことに、どうやらアーチャーはアサシンとの戦闘に入ったようです。それはアルトリアさんにとっては福音でした。アーチャーもアサシンも並のサーヴァントではありません。どちらが勝つにしろ、時間はまだかかるでしょう。切嗣くんの事態が緊迫している以上、それは歓迎すべきものでした。

 

 切嗣くんのところに向かうなら今がチャンスです。アルトリアさんは切嗣くんの気配を辿りながら、彼の元に急いでいきました。アルトリアさんが感じた限りでは、切嗣くんの容態は予断を許さない事態になっているようです。しかし、まだ契約の糸が切れていない以上、助けるチャンスはあるはずです。アルトリアさんは風よりも速くなって、切嗣くんまでの道のりを踏破していきました。

 

「切嗣、どうか、はやく、()()()私を……」

 

 アルトリアさんがそう必死に訴えかけても、切嗣くんからの令呪による呼び声は一向に聞こえてきません。あの切嗣くんが判断を間違うとは思えません。ここに来て、令呪によるアルトリアさんの強制転移を渋るとは思えませんでした。ならばそう、今の彼は()()()()()状況にいるということなのでしょう。

 

「切嗣、どうか、どうか……」

 

 しかし、アルトリアさんの願い虚しく、彼女が切嗣くんの元に辿り着いたころには、もはや致命的な事態になっていました。

 

 弾丸の如く飛び込んできたアルトリアさんが最初に見たのは、異常な邪気に包まれる謎の球体、血溜まりに倒れ伏すマスター、それを口端を歪め眺めるカソック姿の男、そして、その男に拘束されるアイリスフィールさんです。一目見て、アルトリアさんは事態を察しました。

 

「アイリスフィール!」

 

 アルトリアさんは叫びました。しかし、それは過ちだったとすぐに後悔します。アルトリアさんの存在を認めた途端、カソック姿の男──言峰綺礼くん──が素早く身を翻し、手に持つ黒鍵をアイリスフィールさんの喉笛にあてがったのです。

 

「貴様ッ!」

 

 アルトリアさんは激昂しますが、しかし出来たのはそれだけでした。

 

「ダメよ、セイバー!」

 

 今にも飛び出して来そうなアルトリアさんを制したのは、アイリスフィールさんです。彼女は懇願するようにアルトリアさんに言いました。

 

「ダメよ、セイバー。いま貴方がするべきことは、()()じゃないわ」

「くっ……」

 

 アルトリアさんは踏みとどまりました。そしてその代わりにと言わんばかりに綺礼くんを睨みつけます。

 

「何故、貴様がここにいる」

 

 ともすれば視線だけで射殺せるレベルの敵意に晒されても、綺礼くんは平然と答えました。

 

「知れたことだ。不甲斐ない『器の守人』達に代わり、私たち教会の人間が、『器』を保護しに来たのだ……」

「戯れ事をッ!」

 

 アルトリアさんは綺礼くんの言い分を一刀両断にしました。しかし、やはり彼女ができることはそれだけです。アイリスフィールさんを人質に取られては手の出しようがありません。

 

「……取引だ、サーヴァント」

 

 綺礼くんは淡々と、低い声で言いました。冷静で、冷徹で、氷のように冷たい声です。

 

「私をこのまま見逃せ。そうすれば、()()は返してやる」

 

 綺礼くんは倒れ伏す切嗣くんに目を向けました。血溜まりに倒れ伏す彼は、もう既に死んでしまっているかのように見えます。しかし、未だアルトリアさんが健在な以上、息があるのは確かです。ですがそれも何時まで持つかは分かりません。少なくともあの出血量では、もはや幾ばくもないのは確かでしょう。

 

「あるいは──」

 

 綺礼くんが拘束するアイリスフィールの首筋に、黒鍵で僅かに切り傷を入れると、血を滴らせました。

 

「この女の命が惜しければ──とでも言ったほうが良いかな?」

「……」

 

 アルトリアさんに残された選択肢は多くはありません。綺礼くんを斬り伏せるのは、赤子の手をひねるくらいに簡単です。しかし、それをしたらアイリスフィールさんの命は保証出来ませんでした。玉砕覚悟で自棄になって鏖殺するのは、軽率だと言わざるを得ないでしょう。

 

「セイバー……お願い。私のことは心配しなくて良いわ。だから──」

 

 皆まで言わなくても、アルトリアさんはアイリスフィールさんの言いたいことは分かりました。彼女は自分の命が惜しいのではありません。ただ愛する夫の身を案じ、自らを差し出そうとしていたのです。

 

「……アイリスフィールを、彼女を、どうするつもりです?」

「“コレ”は私が持ち帰り、保護する。丁重に扱うことは保証しよう」

「その言葉を信じろとでも?」

「信じる信じないは好きにしろ。どちらにせよ、今のお前に選択肢など無いと思うが?」

 

 綺礼くんの言う通り、事実上二人の仲間を人質に取られては、アルトリアさんの選択肢はあってないようなものでした。もちろん、切嗣くんの命もアイリスフィールさんの命も無視すればこんな男など障害にもなりませんが、今はただ断腸の思いでこの苦渋を飲むしかありません。

 

「私は大丈夫だから、貴方は切嗣の()()()()あげて……」

「……分かりました。ここは貴様の言う通りにしましょう。ただし努々(ゆめゆめ)忘れるな。必ずやアイリスフィールは丁重に扱うと」

「肝に命じておこう」

 

 綺礼くんの言葉が本当であるかどうかアルトリアさんには分かりませんでしたが、少なくとも今は彼の言葉を信じるしかありませんでした。

 

「では行くぞ、女……」

 

 綺礼くんが慎重に後退り、姿を消していきます。彼の姿が完全に消え去るまでアルトリアさんは睨み付け、完全に見えなくなると、アルトリアさんは切嗣くんへと駆け寄っていくのでした。

 

 その上空で悠然と佇む“球体”が何であるかを、知らぬまま……。

 

 

 

 

 

 

 




 年明けは更新が遅れると言ったな? ありゃ嘘だ。

 何やかんやで更新できました。明けましておめでとうございます。今年も『桜ちゃん、光の戦士を召喚する』を、よろしくお願いします。
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