桜ちゃん、光の戦士を召喚する   作:ウィリアム・スミス

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桜ちゃん、お家に帰る

 帰ってくる──

 

 

 戦士たちが帰ってくる。数多の時空を超えて、幾多の世界を超えて、英雄たちが帰ってくる。

 

 魔術師(キャスター)が、暗殺者(アサシン)が、槍兵(ランサー)が、弓兵(アーチャー)が、騎兵(ライダー)が、狂戦士(バーサーカー)が、剣兵(セイバー)が、一同に会し帰ってくる。

 

 彼らは此度の戦争を闘った人類の精鋭たち。彼らが残した聖石を介し、彼女に喚び出された兵ども──皆々が彼女を見下ろし、問いかけます。

 

 ──あなたが、我らのマスターか?──

 

 桜ちゃんは答えました。

 

「いいえ、PTメンバーです。よろしくお願いします」

 

 

 

 

×       ×
 

 

 

 

 その戦いはもはや神話の再現ではなく、新たな神話の創造でした。

 

 この世全ての悪と、七騎と一人の女の子の戦い。人類史に刻まれる伝説となったこの戦いは、しかし断片的にしかその軌跡は残されませんでした。

 

 かくも壮絶なその決戦は、あまりにも巨大で強力すぎて、その記憶も記録も彼方へと吹き飛ばされてしまったのかもしれません。ただ当事者であった一人の女の子には、断片的にですが、確かにその戦いの記憶は刻まれていました。

 

 暗闇の雲に浮かぶ不気味な目玉の化け物に、次々と挑んでいく英雄たち。

 

 魔術師が巨大な海魔を召喚し、『この世全ての悪』を拘束しました。触手をつたい、『この世全ての悪』に飛びかかっていく戦士たち。『この世全ての悪』の周囲から、空を覆うばかりの夥しい数の化け物たちが出現しました。

 

 それを迎え撃つは、百を超える暗殺者と騎兵の軍勢たち。彼らが纏うのは弓兵から賜った輝ける財宝たちです。

 

 その中で、たった一人だけ他とは違う宝物を身に着けている者がいます。女の子はその人を見て微笑みました。仮面で覆い隠されていて見えませんでしたが、きっと彼女も微笑んでいてくれるはずです。

 

 戦士たちの行く手を、『この世全ての悪』の障壁が阻みます。幾重も折り重なったその防壁は、しかし槍兵の魔槍によって切り裂かれました。

 

『この世全ての悪』へと迫る戦士たち。

 

 遂に本領を発揮した狂戦士の聖剣が唸りを上げます。籠められた湖光をそのまま叩きつけ、『この世全ての悪』を激しく揺さぶりました。

 

 剣兵も負けじとその極光で斬りつけます。槍兵の不治癒の刺突が『この世全ての悪』を苦しめました。弓兵から放たれた流星群が、『この世全ての悪』に直撃し苦悶の呻きをあげさせます。騎兵の稲妻が悪を焼き焦がし、海魔の触手が悪を打ち落としました。怯んだ『この世全ての悪』に暗殺者たちが殺到します。

 

 その中で女の子は、『この世全ての悪』と真正面から闘っていました。“この世全ての悪”に対し、“この世全ての光”で抗いながら。彼の者の攻撃は、彼女にしか防ぎようがなかったのです。

 

 悪が世界を席巻し、光がそれを押し返します。かくも凄まじき『この世全ての悪』と『この世全ての光たち』の戦いは、しかしここに至るまでの道程を考えれば、驚くべきほど早く、そして呆気なく終わりました。

 

 弓兵が“何か”を叫びました。剣兵が“ある言霊”を咆哮します。

 

 それは、彼らを喚び出した女の子にしか知り得ませんでしたが、限界を超えた先にある“極限の力”でした。

 

 弓兵と剣兵が撃ち放った、その天地開闢の如き一撃と黄極光の奔流は、互いに混ざりあって“究極の幻想”となり、それに飲み込まれて『この世全ての悪』はあっさりと“無”へと消えていきました。

 

 戦いは終わりました。暁の光とともに終わりました。黒い太陽は消滅し、輝ける日輪が昇っていきました。

 

 役目を終えた戦士たちが還っていきます。彼らが本来在るべきところへと、光の粒子となって還っていきます。

 

 ニヤリと薄気味悪く嗤って魔術師が。

 女の子の頭をポンポンと叩いて暗殺者が。

 爽やかに後ろ向きでVサインをして槍兵が。

 愉快そうに高らかに嘲笑って弓兵が。

 豪快に笑顔を向けて騎兵が。

 そっと静かに敬礼して狂戦士が。

 礼儀正しくお辞儀をして剣兵が。

 

 それぞれの場所に還っていきます。

 

 それを最後まで見送ると、女の子の体から光の雫が溢れてきて、しだいに人の形をとりました。

 

 それは男の人や女の人、角の生えた人や尻尾の生えた人、手足の長い人や体の大きな人、そして小さな小さな“女の子”の姿になると、ゆっくりと女の子と向き合って、そしてそのまま何も言わず踵を返すと、振り返ることなく彼女の在るべき世界へと旅立っていきました。

 

 彼女は、いつかの時代、どこかの世界にいた、顔も名前も姿もない英雄。声もなく、言葉も持たない、形だけの存在。けれどもお別れの瞬間、桜ちゃんは確かに彼女の声を聞いた気がしました。

 

 お疲れさまでした

 

 うん お疲れさま そして──

 

 

 またね

 

 

 

 

×       ×
 

 

 

 

 結局その後、桜ちゃんは自分のお家である間桐さんちに帰ってきていました。

 

 大きく高く聳える鉄の門を見上げ、桜ちゃんは物思いに耽ります。

 

 随分と長くこのお家を留守にしてしまいました。もう何ヶ月も帰ってきていない気がします。間桐さんちの人たちは怒っていないでしょうか? もしかしたらまた、怖い蟲蔵に突っ込まれてしまうかもしれません。

 

 このお家には、良い思い出がありません。幸せだった思い出など、何一つありませんでした。イヤな思い出や、辛く苦しかった思い出しかありません。

 

 でも、ちゃんと帰ってきました。

 

 これからどんなお仕置きをされるか分かったもんじゃありません。しかし、この数日間で様々な経験をして、色々な仲間を得て、立派に成長してきた桜ちゃんには、もうそんなこと恐ろしくありませんでした。ムシでもクラでもドンッと来いってもんです。

 

 だから桜ちゃんは元気よく門を押し開けると、大きな声をあげてお家の中に入っていくのでした。

 

「ただいまー!」

 

 こうして小さな小さな女の子の、ある冬のある日に始まった初めての家出は、終りを迎えたのです。

 

 そして──運命のカウントダウンも“ゼロ”になりました。

 

 

 

 

 

 

 




 00:00:00


 あともうちょっとだけ続くんじゃ。2時間後、エピローグ更新します。
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