俺が目を覚ますと、気絶していた間に話し合ったことを聞かされた。
まず、俺達と合流した女性サーヴァントがジャンヌ・ダルクであったこと。彼女の霊基は欠損した状態で、宝具やスキル諸々が不完全な状態での現界であること。そして、敵の首魁も同じく「ジャンヌ・ダルク」であること。
ドクターやダ・ヴィンチちゃんが言うには、サーヴァントというのは逸話や宝具によって複数クラスに跨って召喚が可能な者もいるらしい。
たとえば、今カルデアにいるクー・フーリン。
彼は「キャスター」のサーヴァントとしてカルデアに現界しているが、本来はその武勇や語られる武具から「セイバー」「ランサー」。その逸話から「バーサーカー」などにも適性を持つとされているらしい。
クラス別に性質が左右され、表面上の性格が変わって見えたりするが、根本は決して揺るぐことなく「クー・フーリン」であるという。
いまいちピンと来なかったところ、ダ・ヴィンチちゃんはもっと簡単に説明してくれた。
『一言にパスタと言っても様々な種類があるね。スパゲッティ、ペンネ、ラザーニャ、ニョッキ、エトセトラ……。英霊とはパスタであり、サーヴァントはスパゲッティやペンネ、ラザーニャである、ということだね』
「おお、わかりやすい!」
「そ、そうでしょうか……?」
その説明を横で聞いていたジャンヌさんは呆れたようななんとも言えない表情を浮かべていたけれど、俺にとってそれが一番ピンとくる説明だったので仕方ない。ドクターも「厳密には違うけど……」と苦々しく呟いてはいたけど、仕方ないんだってば!
そして、それの何が問題か、という話に転じる。
ジャンヌ・ダルクのクラスは「ルーラー」。
はて、と俺は首を傾げた。事前の説明では聞かなかったクラスだ。すわ、またしてもレムってしまっていたかと心配になってマシュへと視線を投げると、彼女は大丈夫でしたよ、と頷いてくれたので居眠りしていたせいで聞き逃していたわけではなかったようだ。
曰く、エクストラクラス。
セイバー、アーチャー、ランサー、ライダー、キャスター、アサシン、バーサーカー。
この七クラスには分類されない特例中の特例。日本語訳を当て嵌めれば「裁定者」であるという。本来なら呼び出すことはできないクラスであるとも説明された。特にルーラーは聖杯直属の使徒、のようなものであるらしい。
本質的に「聖杯への願望」を持たず、聖杯戦争の監督者である、ということだ。
聖人として名を連ねる彼女らしいクラスだ、とはドクター&ダ・ヴィンチちゃん。
話の腰を折ってしまったが、閑話休題、つまり、ジャンヌ・ダルクには「別側面」が存在し得ないのだという。戦争に参加していたとはいえ、彼女は剣や槍で武勇を打ち立てたわけではなく、いわんや弓矢や鉄砲を用いたわけでもない。
神からの託宣によって軍を導き、百年戦争の趨勢を傾けた「聖女」なのだ。
『つまり、竜の魔女を名乗るジャンヌ・ダルクは存在し得ないはずなんだ。そもそも、ジャンヌ・ダルクが竜を従えた、なんて逸話はどこを探しても出てこない。それに、僕の口から言うのも憚られるけれど、彼女は火刑に処される最中でさえ、呪詛を残していない。その身の処遇に対しては苛烈に怒りを向けてはいたけど、それもあくまで「捕虜としての扱いがなっていない」という話だった』
ちらりと横の女性を盗み見る。
この優しそうな、おおよそ怒ったりしなさそうな人が?
ふと目が合い、にこりと微笑まれる。若干眉根の下がったそれはドクターの話を「まあそんなところです」と肯定するものだったのだろうけど、俺には「これ以上詮索しないように」と釘を刺されたようにしか思えなかった。
『国への復讐心はなく、竜を従えず、類似した逸話も武具も所有していない。つまり――』
『つまり、鏡合わせのパスタなのさ』
「納得。めっちゃわかりやすい」
「……まさかこの身をパスタに例えられる日が来るとは思いませんでしたが」
今度こそ呆れ100%の苦笑だった。
それに若干申し訳なさを感じつつも、わかりやすいので仕方がない。
『それで、藤丸クンが起きるまで待ってほしいと言われてね』
「え? なにがですか」
『キャスターちゃんにさ。なんでも、思うところがあるらしいんだが』
「そうなの?」
「うん、違和感があるの」
そうしてキャスターが話し始めたのは、まず、俺達の目的と、目下の目標だ。目的といえば、聖杯の所有者、あるいは現在地を特定しての回収・破壊による特異点の修復だ。そして「現地民からの情報収集によって得た本来の歴史には存在しない『竜の魔女・ジャンヌ』が聖杯の所有者である可能性が高い」という考察結果を基礎とした彼女の打倒だ。
それには全員が頷く。ほとんど確認のようなものだった。
「だけどね、サーヴァントの性質――さっきまでの会話内容を照らし合わせると、竜の魔女が二重の意味で存在しないはずの存在になるんじゃないかなって思ったんだ。『竜が存在しないフランスで、竜を従えるジャンヌ・ダルクが国落としをしている』という私たちの目的・目標と合致する意味で存在しないはずのジャンヌ・ダルクがひとつ」
「先ほどまでの会話内容というと」キャスターの考察をマシュが引き継ぐ。「つまり『別側面が存在しないはずのジャンヌ・ダルクがまるで正反対の性質を持ったサーヴァントとして現界している』という事実がもうひとつ、ですよね?」
「そう。しかも彼女の中に存在しないはずの復讐心が宿ってる」
もう一度、横にいるジャンヌさんの表情を窺う。
彼女はキャスターの考察に真摯に耳を傾けている様子だった。
キャスターも、画面の向こうでよく見た思考に没頭しているときとまったく同じ様子だった。様々な権謀術数に揉まれながらも一歩一歩を確実に進んできた彼女が、現状に違和感を抱いているのなら、それはおそらく真実だ。
「サーヴァントっていうのは、つまりパスタっていう料理の中のさらに細分化された分類なわけだけど、ジャンヌさんは別側面を持ちえないはずなんだから、極めてパスタに近い存在なわけだよね。そうすると、竜の魔女から受ける印象って、たとえばピザみたいなものなんだよね」
『アッハッハッハッハ!』
『レオナルド、今真面目な話をしてるんだけど』
ダ・ヴィンチちゃんの大笑も気にする風ではなく、キャスターは冷静に自分の考えを述べ続ける。
「原材料――ジャンヌ・ダルクっていう小麦の銘柄は一緒だけど、出来上がった……つまり調理過程、それまでに辿ってきたもの、いわゆる、人生。それが決定的にズレてしまっていて、英霊の座に登録されたはずのパスタというメニューじゃなくて、ピザになっちゃってる……」
キャスターの思考が深化する。
欠片ほどの違和感を頼りに、かすかな真実へと到達する気配がする。
希望的漸進。それは、彼女がずっとしてきたことだ。絶望へ立ち向かうのではなく、いつだって、その小さな勇気を抱いて、少しでも善い未来を紡ぐための歩み。その歩みを、誰も止めることは叶わなかった。
「聖杯への願望を持たないことが条件のクラス、ルーラーであることも違和感を増してる。それってつまり、【自分の人生を顧みることもしなかった】ってことだよね。うん、すっごくカッコいい……。だから、竜の魔女になった彼女は、竜の魔女である時点で歪み過ぎてるんだ……まるで【創作された】みたいに」
『アハッ! そりゃ盲点だったな、素晴らしいよ、キャスターちゃん!!』
『ど、どういうことだい!? 創作!? 誰が、誰を!?』
かくして、真実は撃ち抜かれた。
三度、ジャンヌさんへと視線を向ける。
この真実は、彼女をして動揺するに足るもののはずだ。
この真実は、ただの創作じゃない。聖杯へも縋るほどの切なる願いなのだから。
神託の乙女ジャンヌ・ダルクを穢した国への復讐を。
それも
そして、この願いを抱くのは、彼女の傍にいた者以外ではあり得ない。
国のために命を賭した彼女にとって、この真実はあまりにも――……。
「え?」
思わず、声を出していた。
木漏れ日に揺れる実り豊かな稲穂色の長髪。
蒼天を閉じ込めたような青玉の瞳。
絹の肌。たおやかな鼻筋。うすく色づく唇。
「ジル……、あなたなのですね」
それは紛れもない。
英雄の顔。決意の顔。
人はここまでまばゆい決意を表情として浮かべられるのかと。
俺とそう変わらない歳で、戦争に向かった。神の託宣によって、己を奮い立たせて。
無視することもできたはずだ。ゆっくりと、そのまま、農村の娘として生きる道もあったはずだ。人並みに食べて、寝て、年頃になれば恋もして、結ばれて、子供もできて、見守って、育てて、大きくなった子供にもまた愛する人ができて……。
ジャンヌ・ダルクは、そうした一切を、後悔などなく、私は私を生きたと胸を張った人なんだ。総身を焼かれる中でさえ、その想いに、決意に、人生の歩みに濁りなどはなく、進み続けた人なんだ。
喉が熱い。
目が熱い。
口元が震えて、どうしようもない。
「マスター?」
マシュの声が聞こえる。
「マスター、泣いているのですか?」
ああ、そうなんだ。
こんなの、泣いちゃうだろ。
この人は、ジャンヌ・ダルクは――!
バチン、と両手で頬を思いっきり叩く。
何度も、何度も。痺れるくらい痛くなるまで叩いた。
痛くて泣いてるのかもわからなくなるくらい、叩きまくった。
「行かなくちゃ」
涙で滲む視界に、みんなが映る。
「マシュ。行こう」
「はい、もちろんです」
「キャスター。行こう」
「……うん、行こう!」
「ジャンヌさん」
「はい」
「あなたの想いを、伝えに行きましょう!」
「……、ええ。ええ、もちろん。ありがとう、リツカ」
わざとらしいくらいに、歯を見せて笑う。笑ってみせた。
サムズアップ。頬は赤くて、涙で目元はぐしゃぐしゃで、鼻水もちょっと出てて、声もしゃくりあげてて、全然格好つかないけど。
俺は、この人の想いが届くところを、見てみたいと思ったんだ。
§
君は、なんて強い瞳をしているのだろう。
ばちりと火花が弾けるような、瞳の芯に星を宿すような。
藤丸立香。人類最後のマスター。人類終焉の引鉄。彼が死ねば、この世界における人類の歴史は実質的に消えてなくなる。それでもなお、それを背負わされてなお、ただひたすらに今を生きたいと叫ぶ命。
英雄ジャンヌ・ダルクは、間違いなく彼を認めたはずだ。
少なくとも、ただ後ろで隠れているだけのマスターだとは思っていられない。
行こう、と胸を張ったのだ。
小さな命。ちっぽけな力。でも、藤丸立香がそこにいるのなら、藤丸立香がそこにいなければならないのだと、そう思わせるだけの決意と意志を、彼はまばゆいくらいに魅せつけたのだ。
国をひとつ救ったとされる英雄にさえ微笑みを浮かべさせた、言葉と想いで。
とくん、と凍っていたこころが波打つ。
それが、黒く澱む泥濘に清水が一滴だけ落ちるようなものであったとしても。
――その清水を受け止めたい手と。
――その清水に泥濘を被せる手が。
今更、それがなんになると、自暴自棄になった自分が叫ぶ。
私はもう死んでいる。死んで、英霊の座とやらに刻まれたのだ。
死んだのだ。
死んだのだ!
何度も何度も、刃を手にしたことがあった。
生きることそのものがつらくて、遠くの記憶になっていく事実が憎くて。
ならいっそ、美しい思い出を抱いたまま消えてしまった方がいい、と。
なぜ、生きた。
なぜ死ななかった。
〝あなた〟のいなくなった世界で、色褪せた世界で、どうして生に縋ったのか!
どうして、その生をまっとうしたのか。
泥に沈んでいくその身で、穢すことを許さなかった想い出を口より高く掲げて。
――聖女と呼ばれたジャンヌ・ダルクは言った。
私は独りではないのだと。
その想いを抱く限り、彼を忘れ得ぬ限り、私の傍に在るのだから、と。
もう一度、私も歩き出さなくちゃいけない。
悩み、迷い、悲しみ、苦しみ、それでも歩むことは止めなかった。
知っていたからだ。輝く命を。触れたからだ。優しいこころに。
私は死んだ。
死んだのだ。
生をまっとうして、死んだのだ。
万能の願望機なんて眉唾物の玩具にさえ縋るほどに願いながら、死んだのだ。
なぜ?
なぜ生きた。
死にたくなるほど恋い焦がれながらも、それでも生をまっとうしたのはなぜ?
もう会えないのに。〝あなた〟がいない生を、それでも歩んだのはなぜ?
確かめなくてはならない。
死んだから。死してなお、ここに立つ命としてあるのだから。
死してなおここに立つのなら、死という過去すら想いになるはずなのだから。
私は、ジャンヌさんのようにまっすぐに歩いていくことはできない。
私はいつだって、悩み、恐れ、戸惑いながらだった。後悔は多い。あの時、ああしていれば、こうしていれば、なにか違ったのではないかといつだって思い返す。
今だってそうだ。
どうしようもない不良サーヴァントだと思う。
私のしがらみを、世界の命運を決める聖杯探索と天秤にかけている。
私の心はともかくとして、今を生きる命たちへ死した私は報いなければならないのだろう。きっと、私を知る星の民たちもそう願うに違いない。『かつて星を産んだように、もう一度、その奇跡の詩を謳うのだ』と。
そうありたいと願う私も、確かにいる。
そうはなれないと涙を流す私も、いる。
贅沢な悩みだと、今更思う。
これまでを振り返って、嘆いて、不満げで。
これからを憂いて、恐れて、そして最後に後悔に沈む。
まるで生者のようだ。死んだはずの私にとって、この懊悩は贅沢すぎる。
でも、だからといって、心を殺してはいけない。
考え続けなければいけない。これは、死して英霊となった私の義務だ。
――そして、答えがないなら、前へ進むしかない。
痛みを抱えて、苦しみを抱えて、悩みながら、悔やみながら――!
悲しみを越えて、怒りを受け止めて、恨まれながら、憎まれながら――!
応えたのなら、歩まねば。
§
ラ・シャリテ=シュル=ロワール。
ロワール川に寄り添う街で、ヴォークルール城塞より南西に直線で約250kmの距離にある。俺達はひとまずヴォークルールを離れ、他の街に避難している住人や兵士たちへ「ヴォークルールへ避難するといい」と伝えて回るのを副次的な目的として、行動を開始した。
目的地を設定した主な理由は、この時代において一番近くて大きな街というのが、ラ・シャリテであったこと。かつ、ジャンヌ・ダルクが包囲戦を行った場所として有名(なお失敗した模様)で、なにかしらの手掛かりがあるのではないかという希望的観測からだった。
今の俺達にはとにかく、敵の情報が足りていない。
そもそも敵らしい相手もワイバーンしか直に会ったことはない。
轍道を頼りに徒歩で、遠回りをしてしまいそうな場所はマシュにはキャスターを、ジャンヌさんには俺を担いでもらって直線でショートカットを繰り返すこと一週間。徒歩での移動にもさすがに慣れてきたけど、疲労がもう隠せるものではなくなってきている。
というのも、道中腰を据えて休もうにもワイバーンの襲撃の爪痕は多く、宿場町の多くは焼け跡となっていたからだ。野宿よりはマシといった風で、一応、一度だけ長めに休息をとった日もあるが……。
俺は肉体的には男子高校生の平均程度でしかない。
このままのペースなら明日の午前中にはラ・シャリテに到着する位置に来たところで、ジャンヌさんが昼前には野宿の準備を進めて、少しでも休息をとって疲労の回復に努めるべきだと提案してくれた。
到着が昼過ぎにまでズレ込むことになるが、正直助かる。
弱音は言えないけれど、身体が音を上げ始めているのも確かなのだ。
「マスター、大丈夫?」
「うん、まあ、なんとか」
情けないが、野宿の準備はジャンヌさんとマシュ、キャスターに任せっきりになってしまっている。そういうのもあってへこんでいるところに、キャスターが声をかけてくれた。
苦笑いでしか返せていなかったからか、キャスターはそのまま俺の隣に座るとこてんと首を傾げてこちらの顔を覗き込んできた。
「無理はしちゃだめだよ。初めにも言ったけど」
「まだ無理はしてないよ。正直キツいけどさ……」
「ジャンヌさんがいて良かったね」
「それはそうかも。行軍じゃないけど、たぶん俺の疲れギリギリを見極めてくれてると思うんだよね。俺達だけだったら強行軍になってたよ、絶対」
「私たちを担げるのがマシュちゃんだけだもんね」
少し自嘲した言い方だった。
サーヴァントではあるものの、キャスターの身体能力は決して高くない。
本当に年相応の機能しか有していないらしい。ドクターやダ・ヴィンチちゃんが言うには決してありえないケースではないらしく、特にキャスタークラスにおいては顕著に見られる可能性が高いらしい。
「キャスターは、その……」
言い淀んでしまう。
機会がなくて聞けず仕舞いだったけれど、詩を詠うことはつらいのか、と、聞いてみようと思ったのだけど……。言葉はそれ以上続かず、いやな沈黙だけが俺とキャスターの間に流れ始めた。
「マスターはさ」
「ん、あ、うん」
「つらくない?」
「え」
そんな質問をされるなんて、思ってもなかった。
それは、現状のこと?
それとも、人理修復そのもの?
それとも……。
「……足は痛いし、つらいよ」
「ううん、そうじゃない」
「……怖いよ。全人類を背負ってるなんて、考えたくもないくらいだ」
「それも、違うかな。私が聞きたいのは――」
「つらいよ。お母さんも、お父さんも、学校の友達も――俺がわかってないだけで皆死んだなんて、信じられない。もう、二度と、会えないのは……」
そこまで言って、きゅうっと喉が絞まるのを感じた。
言葉が出ない。頭の片隅に、なにかが引っかかる。
どうにかしてかたちにしたいのに、いやに焦った頭ではまとまらない。
「それ。聞けて良かった」
「キャスター……」
「……ちょっといじわるだけど、ねえ、それでも君が今、前に進むのはなんで?」
膝を抱えて、そこに顔を埋めて、キャスターは俺に問う。
つらい。怖い。信じられない。
それでも、俺がなんでこうして歩いていられるのか。
知っているからだ。キャスター、君を知っているから。
なにもかもを放り出して逃げ出すことができたのは、キャスターだって一緒だ。それでも君は歩き続けた。星を旅して、想いを繋げ、絆を詩に、祈りを捧げた。その姿が、俺にはまぶしくて、その隣を歩くことができたのは、本当に嬉しくて。
ずっと、ずっと――。
「つらいから。ごめん、こうして話してると、考えちゃうんだ。つらくて、怖くて、信じられなくてさ、そんなことばっかり考えてる」知らず、震えはじめていた手を握りしめて、震えを誤魔化した。「普通、こういうときってなにがなんでもどうにかしなきゃいけないんだろうけど、でも、やっぱり、俺、駄目なんだよなあ。ヴォークルールでも、ダ・ヴィンチちゃんの言う通り、普通ならあそこの人たち全員見捨てて逃げれば良かったんだろうけど、そんなこと、俺にはできないよ」
独白してしまう。
ヴォークルールのあのとき、ダ・ヴィンチちゃんには「言い訳したくない」と啖呵を切ったわけだけど、あれはどっちかといえば屁理屈に近い。いや、それも間違いなく俺の想いではあるんだけども。
もっと単純だ。
「ドクターやダ・ヴィンチちゃんには面と向かって言えないけど」
隣に座るキャスターを見た。
ふわりと風に溶けそうな淡い小麦色の髪。
青空を閉じ込めたような天色の瞳。
胸が苦しくなるくらい可憐な表情で微笑んで、俺を見てくれている。
「壊れた世界にいるからって、俺まで壊れる必要なんてないからさ」
俺が俺じゃなくなること。
助けられる人は助けたい。見捨てたら、諦めてしまったら、俺はきっと壊れてしまう。その先に待っているものが俺の死だとしても、伸ばした手を引っ込めるなんてこと、したくない。
俺にしては皮肉が利きすぎているような気もする。
まるでドクターやダ・ヴィンチちゃんを非人間扱いしているような気が、自分でもする。そんな意図はないんだけども、まあ、ちょっとした反抗のしたい少年心ってところなのかもだ。
そもそも、思い返してみればほぼ拉致同然にカルデアに連れて来られた気もするし。
そうしたら人類が滅亡の危機に瀕して、俺が最後の
「どうしようもないくらいつらくて、怖くて、信じられなくて、でも、俺がそれでも前に向かって歩けてるっていうんなら、たぶん、それは、不謹慎なんだけどさ、……楽しいんだ、俺」
「楽しい?」
「そう、楽しいんだ。地平線まで続いてるような平原を歩いたりだとか、夜空を見上げたら数え切れないくらいの星があったりさ、マシュやジャンヌさんに抱えられるのはカッコ悪いけど、でも、気持ちいいくらい速くてさ」
「うん」
「俺が知らなかったこと……、きっと、たぶん、普通なら俺が知らないままで終わったことだよ。震えるほど怖くても、それでも前に進んでいられるのは、まだ俺が死んでないし、壊れてないから。明日がやってくるから。キャスター、きっと、明日の朝、ここから見る朝焼けは、泣いちゃうくらい綺麗なんだ」
「……うん、それはちょっと、楽しみかも」
俺が今まで生きてきた中で、日が昇る前に起きるなんてこと、この特異点に来てからが初めてだった。部活にも入ってないから朝練とかって早くに家を出ることもなく、いつだって通勤・通学ラッシュの只中をもみくちゃにされながらが俺の朝だった。
それが、今は。
目を覚ませば草や地面が真っ先に映り込んで、上を見れば淡く暖かな光の差す空が見える。鼻に入ってくるのは生活臭ではなく、青臭かったり、土臭かったりする自然のにおいだ。深呼吸のひとつもすれば、否が応でも脳が覚めるキンと冷たい空気が肺一杯に満ちる。
そりゃ、歩き続けるのはしんどい。
ベッドで眠れないのもつらい。
でも、それ以上に、朝を迎えることが楽しいんだ。
「俺はさ、きっと誰かのためとかそんな立派な理由じゃなくて、いつもの日常に戻りたくてこうしてるんだと思うんだ。だからってわけじゃないけど、そんな俺が壊れるようなことしてちゃ、意味ないだろ?」
「非日常を日常にはしたくないんだね」
「そんな感じかも」
キャスターのそのたとえは、しっくりくる言葉だった。
俺にとっての日常を、非日常にしてはいけない――と、ぼんやりとだけど、そう確信している自分がいる。今この瞬間を「楽しい」と思えていることを大事にしなければ、俺はきっと
「ありがとう、キャスター。なんだか、心の整理ができた気がする」
「うん。私も、君と話せて良かった。また、なんでもないこと話そうね」
「あ、え、と、うん。あ、ありがとう、キャスター」
思わずどもってしまった。
なんでそんなに綺麗な笑顔で、なんでそんな魅力的なことを言っちゃうんだ。
そんなの、こっちがどうにかならないわけがない。
そんな俺には構わずにキャスターはさっと立ち上がると、夕食を用意しているマシュの方へと駆けて行った。
思えば、彼女としっかりと、なんでもないようなことを話したのはこれが初めてだったかもしれない。端末ではなく、俺として、藤丸立香として話したのは。ちょっとだけでも、仲良くなれたのだろうか。
もしそうだったのなら、嬉しいのだけど。
§
「――本ッ当に気持ち悪い。あれなら、殺してあげた方がいいじゃない」
§
その報告を受けた後、ジャンヌ・ダルクは大きく、わざとらしく、それはもう演技くさく、息を吐いた。病的に白い肌に影を落としながら、作り物じみた指先で肘置きを叩く。
その音だけが数分も続いた。
組んでいた足を丁寧に解きながら、ジャンヌ・ダルクは立ち上がる。
霊体化させていた煤けた外套を纏い、高いヒールで焦げ付いた絨毯を刻むようにして歩く。
彼女の眼下に広がるオルレアンの街は今では瓦礫の山と化し、ワイバーンらの巣となっている。
パリとの距離も近く、危険なロワール流域において数少ない橋のかかった街であったため、中世フランスにおいてもっとも豊かな都市のひとつとして数えられるほどの戦略的要所であった街が、だ。
ほんの数日前には豪奢な天井を持っていた大聖堂も、今では青天井、パノラマの廃墟だ。
ジャンヌ・ダルクは音高に歩く中で手に旗を現し、その柄で石畳を割るように二度突いた。その音に反応してオルレアンの街中から、波のさざめきの如くワイバーンの咆哮があがっていく。
パノラマビューとなった壁に向かって、ジャンヌ・ダルクは無言で歩く。
歩みの速度を欠片も衰えさせず、中空へと踏み出した瞬間、床を叩いていたヒールはワイバーンの硬い鱗を叩いた。不安定な足場に舌打ちをひとつ打ちながら、ワイバーンの肩に旗の柄を浅く突き刺し、姿勢を支えるための柱とする。
ワイバーンはそれに文句をこぼすこともなく、羽ばたき、高度を徐々に上げていく。
街中を覆うワイバーンの群れはジャンヌ・ダルクを先頭に、鎌首をもたげるように黒い龍となってオルレアンから起き上がる。無数の羽ばたきはおろちじみた龍雲のうねりとなって東南東を向く。
その視線のずっと先にあるのは、ヴォークルール。
藤の花冠を戴く、聖女に祀り上げられた少女の加護が残る城塞。
遠方を睨むジャンヌ・ダルクを追うようにして、背に人影を背負うワイバーンが続々と昇ってくる。そしてその人影すべてが、凶悪なほどの魔力と狂的なほどの戦闘欲を内包した人形共――バーサーク・サーヴァントだった。
崩壊した街の影をそのまま剥がしたようなおどろおどろしい群れ。敵意の群れだ。
ジャンヌ・ダルクが旗を前方に向け振るうと、空を埋め尽くすワイバーンらは迷わず従って飛び立つ。龍雲の如き群体が、空を征く。絶望の群れが、ジャンヌ・ダルクという敵意の核に撃ち出され、爪牙となってヴォークルールへ突き立つ。
その群れを見送るように、大聖堂をぐるりと囲うほどの巨体が起き上がる。
ただ佇むだけで、ジャンヌ・ダルクの乗るワイバーンの位置まで頭が届く。
「あなたにはこの街の留守を任せます」
それだけを告げると、ジャンヌ・ダルクとバーサーク・サーヴァントたちを乗せたワイバーンも龍雲に続くように飛び立った。
それを気怠そうに見送った命は、もう一度眠りにつく。
ここには宝物がなさすぎる。餓えだけがある。満たされぬ憎悪だけがある。
あれは、うまれながらに「正しい」のだ。それが、どれほど歪んだものであろうとも。
なんと残酷な所業だろうか、と命は憐れむ。
正しくなくては生きていけないものなど、それは当然、満たされない。
きっと、この国を呑み込んだところで満たされはすまい。己であり、己でないものを殺そうとも、あの命が満たされる日は終ぞ来ない。
残念だが。
悪竜現象――ファヴニールはそう思考する。
しかし、とも考える。
それが崩れた時、奈落へ落ちるか、血反吐を散らして叫び立ち上がるか。
あの「正しい」だけの命の真価が問われるのは、その時だろう、と。
詮無い話だった。ファヴニールには関係のないあれやこれやだ。
それでもファヴニールが何かを想うことをやめないのは、簡単な話だ。
何かを想っておらねば、ファヴニールなぞやっていられないだけだ。
§
清姫とエリザベートは比較的近くに現界し、早いうちに合流していた。
それから流れで一緒にフランス特異点を回るうち、耳にした数々の噂があった。「聖女の復活」「竜の魔女への変貌」「翼竜の猛威」……。このうち翼竜――ワイバーンとは早期に遭遇した。とはいえ群れからはぐれたような烏合を相手に、この二騎が遅れをとることはなかったが。
その途中、敗残兵や負傷した村民を多く見た。エリザベートとしては食指が動くような少女もいたのだが、この惨状を目の前にしては食欲も失せた。清姫の前で嘘ならずとも妄想を垂れ流すような輩も多くいた。焼かなかったのは、その炎すら惜しいと思ってしまう愚か者どもだったからだ。
そうした理由で彼女らの悪側面が発露せずにいたのは、フランス特異点の民たちにとっては幸運だったといえる。竜の尾や角を持つ彼女らの外見ゆえに、助けられても近付かれなかったことも要因のひとつだろう。
そんな数日を過ごすうち、彼女らの耳に新たな噂が飛び込んできた。
――ヴォークルール城塞に聖女の加護あり。
それほど上等ともいえぬ霊基とはいえ、一定以上の戦闘力を持つサーヴァントの足を以てすれば数百キロの距離など一両日で走破できる。論より証拠とばかりにヴォークルールに急行した二騎は、すぐさまそれが真実であったことを知る。
ヴォークルール城塞を覆う、巨大な藤の花。
あれが聖女と呼ばれる何者かによってもたらされた加護、ということなのだろう。
さてどうしたものかと遠目に見ていた二騎だったが、エリザベートの「考えたって仕方なくない?」という言葉と「そもそもなにも考えてすらなかったでしょう」と清姫の呆れが交わり、無策にも歩いて近付くことになったのだった。
どうせ途中で誰何されるに決まっている。
ワイバーンに襲われている最中でもなければ、物見櫓に登った兵士が城塞に近付く二騎を見咎め、弓を構えるなり、残存する兵力を門前に呼び出すなり、相応の対応をするだろうと。
だが、二騎の考えは外れることになる。
誰に誰何されるでもなく、誰が出てくるでもなく、二騎は門前まで到着したのだ。
拍子抜けというか、ここまでくるといっそ不気味ですらある、と顔を見合わせるほどだった。
門から中を覗いてみれば、そこには空を覆う藤の花へと祈る兵士と避難民の姿があった。エリザベートはそれに一定の理解を示したが、清姫は汚らわしいと言って目を逸らした。
「まあ、そういうこともあるんじゃない?」
「あれは自分自身を偽り、盲目的になることで保身するだけの現実逃避です」
嘘と逃避。清姫の地雷をしっかりと踏んでいる光景だった。
じり、と清姫の周囲が焦げついたところで、エリザベートは慌てて止めた。
「ちょ、待ちなさいって! せっかくの手掛かりをこんがり焼かれちゃ困るわよ!?」
「見るに堪えません。いっそこの城塞ごと――」
「えっ!?」
音もなく、清姫が吹き飛ばされた。
驚いたエリザベートが振り向けば、十数メートルは離れた位置に着地する清姫の姿があった。エリザベートが見るかぎり、清姫は眉根をキュッと締めた訝し気な表情を浮かべるばかりだったのでダメージはない様子だ。
「ど、どうしたの?」
「いえ、なにかに……」
言い淀みつつ、足元を確かめるように門へと一歩一歩戻ってくる清姫。
途中から手を前にかざして、見えない何かを探るような様子も見せ始めた。
エリザベートの隣にまで戻ってきたところで、清姫の手がぐぐっと何かに当たった。
「え? な、なにもないわよね?」
「結界? おそらく、敵意や害意を持つ人物や攻撃だけを判別してるようですが……」
「私、魔術には詳しくないけど魔力的なモノはなんにも感じないわよ」
「ええ」
エリザベートもクラスとしてなら三騎士のひとつ、ランサークラスではある。
違う世界線であるとマスターや境遇によって持っていたり持っていなかったりするが、今回の現界においては少なくない対魔力を一応宿している彼女なので、魔術的な結界があるのならば「何かあるな」くらいの勘働きはするはずなのだ。
だが、それがない。
つまり「敵意・害意を遮断する」という概念を持つ「結界」という魔術・呪術的守りが目の前にあるはずであるのに、そこに魔力は関わっていない――という話になる。
「どういうこと?」
結界と見紛う純粋なエネルギーが、人の心を判別している、などと。
だが、事実として城塞ごと焼いてしまおうかと本気で考えた清姫を弾き、今も彼女を拒む障壁がある。エリザベートも清姫と同じく手をかざしてみるが、しかし一向になにかが触れる気配はない。
「……んんんんもう! 痛い痛い! 考えてもわかんないものはわからないわ! 考えるだけ頭痛の種が増えるのに、考えてわからないことなんて考えるだけ無駄じゃない。私は入れる。アンタは入れない。ふふん、なぜなら私がアイドルだから! それでいいのよ」
「その結論には私も頭痛を覚えますけど、話が進まないのでそれでいいでしょう」
「……あれ、今私、馬鹿にされた?」
「まあ、私が入ったところでところかまわず火を回すだけでしょうし、私は外で待機していますので、エリザベートさんが中を見て来ていただいても?」
「それはいいけど……ねえ、馬鹿にしなかった?」
「私はぐるりとこの城塞を外から見て回りますから、よろしくお願いしますね」
「あ、うん……」
清姫がヴォークルール城塞をぐるりと一周してわかったことと言えば、どこにも隙間なく、結界らしき障壁が展開されているということだった。
どこで力を入れようと結果は同じ。そして物見櫓を見上げれば、誰もいない。
中にいる避難民や兵士たちはこの藤の花を妄信しているのだなと、ため息をひとつ。
試しに炎を当ててみても結果は同じ。――とも言い切れなかった。
「……なるほど」
草原が焼け、燎原となった途端に清姫の炎は障壁の向こうへと渡ったのだ。
今度は己の炎ではなく、ぽっくりで地面を蹴りつけて土塊を障壁へとぶつけてみる。もちろん、中空で弾けてばらばらになった。では、と障壁のすぐそばまで近寄り、今度は地面を強く踏みしめた。
バーサーカーの膂力もあって、地面に亀裂が走る。
もちろん騒ぎにならない程度には力と音を抑えたものだったが、亀裂は障壁の向こう側へと走っていた。
「なるほど。絶対的というわけでもない……」
そんなことを確認しつつ、半刻もかけて一周すると、入り口には疲れた顔のエリザベートが待っていた。騒ぎを起こしていないことは褒めてやってもいいが、その様子に思うところがないわけではない。
「ずいぶんお疲れですね」
「あ、おかえり。も~、ホントやんなっちゃうわ……」
「歌でも歌ったら怒られましたか」
「えっ、どっかで見てたの!?」
「そんなわけないでしょうに」
相変わらず一定の距離からは城塞に近付けない清姫は、遠目から門の向こうを覗く。
そこには先ほどと変わらない景色があるだけだった。膝を折り、手を結び、空を仰ぎ、一心に祈る人間。清姫の目には、誰も彼もが腐って見えていた。
「この結界は大したものです。下手な英霊の宝具であれば何十騎、何百騎と集まっても突破することは叶わないでしょう」
「ん~、私にはよくわかんないけど……」
「いくらか試してみたのですが、そのあたりが抜け道だと感じましたよ」
「そのあたりってどのあたり?」
「よくわからない……というところです。あなたが砦の中で歌ってもまだ弾き出されてないことを考えると、この考察は当たらずとも遠からずといったところでしょう」
「ふむふむ」
「わからないなら無理に相槌も打たなくていいですよ?」
「なっ、なによう! いいじゃない!」
わからないことは否定しないんだな、と清姫。
理解していれば彼女の皮肉に突っかかっていただろうから、面倒がなくていいか、とも。
とはいえ、清姫は締め出され、エリザベートは聞き込みに向いておらず、そもそも中の人間は聞く耳持たない……。なにがしかの手かがりや進展がないかとここまでやってきた意味がない。なにより長居をしすぎるのは危険だ。
敵の首魁がこのヴォークルールをずっと無視し続ける保証はない。
清姫が検証したこともあって、この場所が絶対に安全とも言い切れない。
中の人間はそう思っている様子だが。
「あなたはどう思います? この砦」
「どうって、そうねえ……」顎に指を当てて首を傾げる様はなるほどアイドルを自称するだけはある可愛さだった。「私のオーディエンスとしては最低ね。でも、熱狂的なのはいいわ。やっぱり推し一筋っていうのが理想のファンってやつかしら。まあここの人たちはちょっと怖いくらいだけど。……ていうか、そのアイドルがいないのもそれが理由じゃない?」
「……あなたにしてはまともな意見が最後に出ましたね」
「ふふん、なんてったってアイドルですもの。キメるときはキメるわ当然よ!」
ふんす、と鼻を鳴らすエリザベートに構うことなく、清姫はさてと空を仰ぐ。
これ以上はここに留まる意味がない。大量のワイバーンをけしかけられる前に離れるのが上策だ。
……しかし、と清姫は決めかねていた。
離れるといっても一体どこへ? たった二人でオルレアンへ踏み込むと?
あてもなく彷徨うのは、そろそろ止めにしたいところだった。
「あら?」
「ん……?」
サーヴァントの持つ尋常を超えた五感が、人間の集団が近付いてくることを察知した。
丘の向こうに、数十人にも及ぶ避難民や敗残兵が押しかけてきているようだった。ヴォークルール城塞の噂を聞きつければ、それもやむなしではある。人心とはそういうものだろうと、清姫もエリザベートも思う。
さて、しかし。
その集団に混ざって、二騎のサーヴァントがいるとなれば話は別だ。
もちろん、向こうも清姫とエリザベートの反応を掴んでいるだろう。
難民を引き連れていることから魔女側のサーヴァントではないのだろうが、それが決して好意的な関係を築けるかどうかの指標にはならない。清姫は心の温度をすうっと低くする。
だが、清姫のその反応とは裏腹に、難民側のサーヴァントに動きがあった。
うち一騎が、先行して近付いてきたのだ。それほど離れているわけでもないので、すぐにも丘を越えてその姿が見えた。
極上の絹糸を思わせる髪に、輝かんばかりのかんばせ。瞳は青水晶の如く透き通り、洗練された肌艶は光を水のように変えて見せてしまう。鮮やかな韓紅の装いはいかにも高貴な身分を想像させた。
無邪気な少女のように笑いながら、ガラスの馬に横乗りで疾走してくる。
一体どんな体幹をしているのか、ぶんぶんと片手を上げて振るなんてことまでしている。
清姫の身体から緊張がほぐれていく。あれは警戒する方が馬鹿をみるタイプだ。
「Vive La France!」
たからかに、ほがらかに、少女は笑った。
とうだいもりのキャスター
◆スキル◆
●無辜の聖女:EX
「そうに違いない」「そうあってほしい」「未来に導いてほしい」といった希望の集約的存在である証。幸運のステータスが向上し、彼女の行う希望的漸進に常にブーストがかけられる。
彼女がこの特異点における黒幕の真実に辿り着けたのは「想い」という分野によるところに加えて、このスキルによって幸運と思考、閃きに関してブーストがかかっていたから。違和感を紐解き、ロジカルシンキングによって思い込みや盲点を振り払った名探偵ばりの推理。
藤丸クンも超速理解を示していますが、つまり「ルーラーというクラスは【聖杯への願望がない】英霊がなるクラス。なのに魔女ジャンヌは【祖国への復讐】を謳って暴れている。サーヴァントである以上、それはありえない。ありえないのならば、彼女は【厳密にはジャンヌ・ダルクではない】はず。まるで【そうあってくれ】という誰かの想いから生まれた【創作】のように歪められたジャンヌ・ダルクだ」という理論立て。「では、その誰かとは誰なのか。誰が聖杯に願ったのか」「己の手で復讐するのではなく、ジャンヌ・ダルクが復讐心を抱いてあれと願った誰かとは誰なのか」「そしてそれは、誰よりもジャンヌ・ダルクを傍で見ていた誰かであるはずだ」
ここに前提は揃い、ジャンヌ本人より心当たりのある一人の名が浮かびます。
……にしてもぜんぜんお話が進まない。
FGOのテキスト量を今更ながらに実感してしまいます。
数万文字書いてようやくエリチャンと清姫、マリーの登場です。
お気づきの方もいるとは思いますが、
漫画版を基礎にほぼ一からオリジナル展開してます。
そんなんだからお話が進まないんだ。