彼の表向きの経歴説明です。
彼がやってきてから一ヶ月が過ぎ、ファリンさんの報告を受けましたが失敗らしい失敗はありませんでした。
料理は家庭料理ながら桃子さん並の腕前、デザートは和菓子に関しては桃子さん以上です。
掃除も業者顔負けの手際でこなし、ファリンさんのドジがない分これまた優秀でした。
執事としての振る舞いは貴族に仕えていただけあって完璧です。
小学校の頃のように嫌らしく言い寄ってくるかと思えば、そんな素振りは全くありません。
寧ろ使用人の一線を越えないよう扱いつつも、私が過し易い様に先回りで世話をしてくれています。
ファリンさんにいたってはすでに彼を家令扱いで接しています。
小学校一年生から四年生まで彼の被害に遭い続けた私の印象からかけ離れすぎています。
再会までの6年間で彼に何があったのか・・・
先日、アリサちゃんが遊びに来てくれた時のことです。
さすがに彼に対応をさせるわけにもいかずファリンさんにお茶会のお世話をお願いしていたのです。
お茶請けに彼が腕を奮ったケーキいただきながらお話に花が咲きます。
アリサちゃんが少し席をはずすということで手持ち無沙汰となって数分、アリサちゃんの怒鳴り声が響き渡りました。
私は、急いで廊下に移動しました。
「ちょっと!何であんたが此処にいるのよ!!」
「これは挨拶が送れ大変失礼いたしました、バニングス様。
私は月村家の臨時執事としてお勤めさせていただいております。
本日は私が視界に入りますとご気分を害されるかと思い、席を外させて頂いておりました。
すぐに外せていただきますので、どうぞごゆるりとお茶会をお楽しみください。
それでは失礼させていただきます。」
彼はそのまま奥に去って行きかけましたが、
「ちょっと待ちなさい。すずか詳しい話はお茶を飲みながら聞くわ!」
「かしこまりました。バニングス様。」
「ハァァァ、こうなると思ったから奥に隠れてもらってたのに・・・」
私達は彼を引きつれテラスへと戻ります。
「さてアンタの顔を見るのも嫌なんだけど、すずかと一緒にいる以上いろいろ聞かせてもらうわ!」
「かしこまりました。バニングス様、少々お話が長くなりますので紅茶を入れなおしてまいります。」
そう言って彼は一時退席して行きました。
「さてすずか。何であんなのが月村家で執事をしているのかしら?
事情を知っているのでしょ?
洗いざらい白状しなさい!」
「う~ん、事情といわれても多くは知らないのだけど。
私がファリンさんと二人暮しになると屋敷の維持が大変だろうと、お姉ちゃんが新しいお手伝いさんを雇ってくれたの。」
私は事の顛末をかいつまんでアリサちゃんに教えました。
「う~ん不思議ね。忍さんに恭也さん、士郎さんだって小学校の頃のことは承知しているはずなのに?
しかも、士郎さんに至っては彼を推薦しているとか理解不能だわ。
いったい、私達の知らないところで何があったのやら・・・」
「そうなんだよね。お姉ちゃんの話を聞く限りでは、その道のエキスパートなんだって。」
「ますます持って謎ね。取り合えずアイツに問いただしてみるわ。」
そして丁度よく彼がワゴンを押して戻ってきました。
「お待たせいたしました。紅茶を取り替えさせていただきます。」
「わかったわ。」
「お願いします。」
そして、アリサちゃんの質問が始まりました。
「あなた、あの大道寺砕牙よね?」
「バニングス様が指摘されているのが同級生であった大道寺砕牙なのであれば私です。」
「さっきからなに?その似合っていないしゃべり方、普通にしゃべりなさいよ!」
「アリサちゃん、彼は執事の仕事初めてからずっとその喋りを変えてくれないのよ。」
「私は月村家に仕える執事でございますので、お客様やお嬢様に馴れ馴れしく話すわけには参りません。ご容赦願います。」
「まぁいいわ。じゃあアンタは何で月村家に執事として仕えているのよ!
小学校の頃私達にした嫌がらせを忘れたとは言わせないわよ!」
「ご当主である忍様より私が所属する会社へご依頼がありまして、ご提示された条件に合う私が派遣されました。
小学校の頃のことは若気の至りでございます。お美しいお嬢様方への興味がああいった形で暴走いたしました。
その節は大変ご迷惑をおかけし、申し訳ございませんでした。」
「ふん!いまさらゴマすったところで評価は上がらないわよ。」
「重々承知しております。」
「ところで、さっき提示された条件っていったわよね。どういった内容なの?」
「はい、
私はヨーロッパのさる貴族にお勤めさせていただいた経験があり、会社の指示により、こちらへ勤めさせていただいています。」
「マテ、いま貴族に仕えたといった?
そんなわけ無いじゃない!
中学生とか普通雇わないわよ!」
「アリサちゃん、そのことについてはおねえちゃんが全て調査済みだって言ってたわ。
実際彼が来て一ヶ月だけど、仕事に関しては完璧よ・・・
ちなみに今日のお茶会用のお茶菓子は全て彼の手製よ。」
「ちょっと!なんてもの私に食べさせてるのよ!」
「申し訳ありません。お口に合いませんでしたか。
すぐに次のお茶菓子を準備いたします。」
「・・・いや、絶品だったわ。翠屋に負けないぐらい。それが無性に悔しい!」
「それは恐悦至極にございます。」
「そういえば、小学校4年から見かけなかったけど、そのときから執事をしていたの?」
「いえ三年生の年末に事故に会いましてその治療と
リハビリを終えた後、さる貴族の方と縁できまして見習い執事としてお仕えいたしました。
その後日本に戻りまして普通の中学生をさせていただいて、バイト先として入った会社からこちらに派遣されたのです。」
「いろいろ突っ込み所満載ね・・・
突っ込まないけど。
まぁ事情はわかったわ、納得いかないけど!」
そういってアリサちゃんは紅茶を飲み干し、彼は一礼してから退出し、私達は普段どおりおしゃべりを再開しました。
その晩、私が心配だからとアリサちゃんはお泊り宣言をし、夕食でまた「納得がいかない!」と叫ぶのは別のおはなし。
こうして彼は月村家の執事として日々をすごし、私は徐々に彼の悪行は許さないまでも割り切っていきました。
やっとプロローグ執筆の終わりが見えてきました。
本番は執筆に向けて英気を養っております。
次回からは意外な人が出てきたりしますのでよろしくです。
誤字修正しました。