藍と碧   作:藍澤 碧

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2.青い花束

翌朝、無理やりセミダブル程度の狭いベッドで一緒に寝た、シュナさんたちに、おめかしさせられた。

(ちなみに、マコノフさんはラグの上でオトモに囲まれて寝てくれた)

 

ノーメイク派なので、化粧こそされなかったが、服選びに、あーでもない、こーでもないと、たっぷり時間をかけた。

シュナさんが

「いつも防具なんでしょ!?たまにはかわいい恰好してあげなさいよ」

と。

背が高い上に高いヒールを履き、その魅力が引き立っているシュナさんのようにカッコイイ美人でもなく、甘すぎない可愛らしさの引き立つスズナのようにかわいい美人でもない、私。

そんな私が小柄なのを、少しでもすらりと見せようと、2人は、大好きな青で上手くまとめてくれた。

 

結局、おめかしと言うには普通になってしまったけれど、それでもシンプルな服しか持っていない私にはそれが精一杯・・・、というか、自分ひとりじゃこういうコーディネートすらできないかもしれない・・・。

情けない。

 

 

着替えが終るのを、2階で待っていたムァが、外で待っていたマコノフさんと他のオトモたちを呼び、お茶の用意をしてくれる。

戻って来たマコノフさんに、シュナさんが

「じゃ―――ん!どうよ?」

何て言うから、照れくさい・・・。

マコノフさんも、

「おお!いいじゃん!いいじゃん!!」

なんて、ノリノリ。

 

いやいや、滅茶苦茶恥ずかしいから!!!

 

 

と、スズナが、盛り上がっている2人から少し離れたところに私を引っ張っていく。

「ねぇ。メソさん自身の気持ちはどうなの?」

 

スズナらしい気遣いに、嬉しくなりながら、改めて考える。

 

「・・・・・・特別に想われてるかもしれないことも、みんなが楽しそうに力になってくれるのも、素直に嬉しい。・・・からすさんは素敵紳士だと思ってきたから・・・、好意は持ってるけど・・・、そういう意味で特別かどうかは、・・・今は判らない。・・・正直・・・気持ちにも自分自身にも自信はない・・・」

嬉しい気持ちと照れくさい気持ちとが心の大半を占めていて、自分がからすさんをそういう気持ちで想っているのかなんて、わからないままでいた。

 

「からすさん次第では、そうなってもいいって事?」

 

ええ!?

そんな!?

 

「う―――ん・・・。いやじゃない。・・・だめでもない。・・・アリ・・・だとは思う」

 

今は、その程度にしか考えられない・・・。

 

「そっか・・・」

「だからって、いきなり恋人らしくとかはできないよ・・・!」

「あはは!そりゃ、そうだよね。でも、それならいいや」

「ん・・・。ありがとう」

 

うん。後はもう、出たとこ勝負。

そうなった時の自分の気持ちに任せるしかない・・・。

 

 

 

どんどん緊張していく私を和ませようと、みんなでくだらない話をして過ごした。

お昼になろうかという頃、狭い2階で窓から外を見ながら話していたオモチとムァが、

「来たニャ!」

と、小声で叫んだ。

ウチの場所を、飛行船窓口や道々村人に聞きながら、向かって来ているらしい。

 

うわぁ――――――!!!

どうしよう!?

いや・・・、どうしようもこうしようもないのだけれど・・・。

 

 

 

コンコン・・・。

 

ドキッ!

こ・・・、怖い・・・・・・。

 

コンコンコン・・・。

 

「は、はぁ―――い・・・」

緊張で声が上ずる・・・。

ドアに向かいかけてつまずいた私を、ムァが支えてくれる。

 

やっぱり、気が動転している・・・。

 

 

「約束通り、会いに来たよ」

ドアの向こうから、いつもより若干上ずったバリトンボイスが聞こえた。

逃げたい気持ちに駆られながらも、行くしかない!!と自分に言い聞かせる。

ムァを抱き上げ、その毛に半分顔をうずめながらドアに向かう。

ムァのモフモフは、最後の抵抗(?)だった。

 

 

とはいえ、ここは、いつもらしく!

 

「大丈夫だって言ったのにー」

そう言いながら、ドアを開けると、目の前が青くなった。

 

ええ!?

 

「!?」

「はい。藍メソ・・・さん、の好きな青、い花・・・」

背の高いからすさんのバリトンボイスが、頭上から降ってくる。

 

・・・・・・。

喉がつかえる。

胸がざわざわして、苦しい。

 

言葉が出てこない。

 

ムァは、いつの間にか腕から滑り降りていた。

 

何とか、花束を受け取る。

色々な種類の青い花が、集められていた。

 

顔を覆ってくれる花束の大きさがありがたい。

 

 

「やっぱり、大丈夫じゃないんだろう? ・・・!!」

そう言ったからすさんの手から袋が落ちたのを、すかさずミツがキャッチした。

 

え?

 

驚いて見上げると、顔を逸らして口元を片手で押さえたからすさんの顔が赤かった。

それを見て、素の自分が戻る。

涙目のまま、いつもの調子で

「からすさんこそ、大丈夫!?具合悪い?」

と言っていた。

 

 

「・・・いや・・・。そんなことはない。・・・そんな・・・、かわいい姿で、・・・そんな目で、見ないでくれ・・・」

 

一瞬、何を言われているのか解らず、

「?」

と首を傾げた。

そして、困っているからすさんの顔が更に赤くなるのを見て、ぼん!と音がするんじゃないかと思うほど急に顔が熱くなった。

 

そんな・・・!

やだ、恥ずかしい・・・。

 

 

おめかしした効果は抜群だったようだ。

 

玄関先でもじもじしている私たちにしびれを切らしたようで、オトモたちがワザと

「ニャーン」

「ウニャ―――」

「ニャ―――」

「ンニャ―――」

と鳴いた。

 

ハッとして、私は3歩ほど下がり、何とか

「どうぞ」

と言うと、やはりハッとして家の中を見たからすさんがぽかんとして固まった。

 

 

ごめん、からすさん。

中に人がいて、見られているなんて思わなかったよね・・・。

 

失礼なことをしたことに、今更気づいたけれど、これが今の私の精一杯なのだ。

 

家の中を見回していたからすさんは、スズナに気づくと

「え!?スズナさん・・・?・・・てことは、シュナさんにマコノフさん?」

と、何とか言葉にした。

 

呼びかけられたマコノフさんとシュナさんは、もうこっちのもんだと言わんばかりに、

「さぁ、入った!入った!」

「そんなところで、そんなもん、村の人に見せつけてちゃダメよ!」

と、私の横をすり抜けて、からすさんを引っ張り込んでドアを閉めた。

 

 

 

真っ赤になって固まっている私たちにはおかまいなしで、2人は自己紹介を始める。

「藍メソの先輩ハンターのシュナでーす!」

「相談役のマコノフです!」

 

 

!!!

ちょっ!!!どこの芸人よ!!?

 

やだ!もう!!

可笑しくなってきちゃったじゃないよ~。

 

 

「もー!2人とも―――!くくくっ!」

お節介な位の2人のワザとらしい態度に、笑いが堪えられなくなる。

「くく、くくくっ!スズナも何とか言ってよ~~~!」

 

ニコニコしながら、スズナが言う。

「お久しぶりです、からすさん。ミツくん!」

 

いや!スズナ!!そうじゃなくて!!!

 

 

からすさんが赤い顔のまま、それでも自然に自己紹介する。

「こんにちは。シュナさん、マコノフさん、初めまして。からすと申します。・・・スズナさん、お久しぶりです」

 

素敵なバリトンボイス炸裂に、シュナさんが私の方に向き直って言う。

「ちょっと!藍メソ―――!こんないい男、隠してたなんて!!」

「いやいやいや!別に隠してないから!!」

手を振って否定する私。

すかさず、マコノフさんが叫ぶ。

「おい、シュナ!俺という男がありながら・・・、なんてことを言うんだぁ―――」

「何、アホなこと言ってるのよー。マコノフってば・・・」

呆れたようにツッこむシュナさん。

 

 

ああ・・・!もう!この人たちは・・・。

 

ダメだ!もうムリ。

面白すぎる!!!

 

たまらず、私とスズナは顔を見合わせて笑い出した。

「もう!あははははは!マコノフさん、面白すぎ!!」

「シュナ~~~。もう、それ位にしておきなさいよー。くく、くくく!」

 

「ごめん!からすさん。おかしな歓迎の仕方で・・・。くくくっ!」

笑いを抑えられないまま、私は謝る。

 

困惑しきりのからすさんが、何とか応えてくれる。

「いや・・・。歓迎されてるんならいいんだが・・・」

「してる!してる!!あははははは!緊張しすぎの2人を笑わそうと、ワザとらしいこと言ってるだけだから!」

すかさず、スズナも応じる。

 

笑いが止まらない・・・!

 

 

 

からすさん以外が笑い続ける中、ミツが近づいて来た。

「はいニャ!」

さっき、キャッチした袋をくれる。

中をのぞいて、私は笑顔で言う。

「本当に、シナトマト、持って来てくれたんだ!ありがとう!」

からすさんのこわばった顔が、やっと緩む。

「いや・・・。冗談だと思ったのかい?」

「ううぅん。そうじゃないけど・・・、ふふふ。 これも、ありがとう!!!」

抱えていた青い花束を、そっと抱きしめるようにすると、

「喜んでもらえたんなら良かった」

と、嬉しそうに言われた。

 

あぁ、やっと笑ってくれた。

 

 

 

グ――――――。

 

「!?!」

「誰!?」

 

「ボクだニャ・・・」

恥ずかしそうにミツが言った。

「ご主人、とても楽しそうなところ、本当に申し訳ないんだニャ・・・」

「ああ。すまん。朝食もそこそこに飛行船に乗ってしまったからな・・・」

 

!!?!??

ちょっと待って!

そんなに急いで来てくれちゃったの!??

うわぁ―――!

申し訳なさ過ぎる・・・。

 

私は、慌てて言った。

「お昼にしようね!」

 

すぐさま、ムァが応じてくれる。

「屋台のおかみにサンドイッチでも作ってもらって、オトモ広場で食べるのはどうだろうニャ?」

「あら!ムァくん、いい考えね!メロ!お願いしてきて!」

シュナさんがメロに頼んでくれて、ネコノフも一緒について行く。

 

 

 

狭いテーブルで、からすさんは囲まれている。

初対面とはいえ、そこはハンター仲間。

仲良くなるのに時間は要らなかった。

マコノフさんは、男友達が増えたのが嬉しいようで、熱心に話している。

 

 

あー良かった。

緊張していたのが、バカみたいに思えてくる。

お花、何に活けようかな?

 

みんながハンタートークなのか、もう何だかわからない話で盛り上がっているうちに、お花を活ける。

少し迷って、ベッドサイドの枕元に飾った。

「うん。そこはいいニャ!」

ミツが嬉しそうに声をかけてきた。

「ニャニャ。これを教えた事は、からすには秘密なんだニャ!」

ドキ!

何だろう?

「実は途中に寄った街全部とドンドルマで、青い花を買い占めてきたんだニャ!」

「んんっ!」

びっくりして慌てて口を押さえる。

「しー!」

「うそぉ・・・」

小声でミツに確認する。

「本当だニャ。シナト村で子供たちに摘んできてもらったり、ユクモで集めてもらったりしたんだニャ」

「・・・うっ」

ぐうっと鼻の奥が熱くなる。

「あ!だめニャ・・・」

「うん。だから、ミツをモフって誤魔化すね。ふふ」

「ニャ・・・」

ミツをぎゅうっと抱きしめる。

「ニャニャニャ・・・。からすに羨ましがられるニャ・・・」

 

やだ、ミツったら!

 

「ふふ」

胸がざわざわして、喉がつかえる。

ミツのふわふわの毛に顔をうずめて、こらえる。

「からすさんに、凄く喜んでたってミツからも伝えてね」

そういうのが精一杯だった。

「もちろんニャ」

 

 

 

バタン!!

「全員分は、ボクたちだけじゃ持てないんだニャ!」

メロが走り込んできた。

 

「何!?レディに持たせてはいかん!からすさん、行こう!」

「あ、はい!」

そう言って、マコノフさんとからすさんは出て行った。

 

「私たちもティーセットとか持って、行こう」

 

 

ぞろぞろと、オトモ広場に移動する。

「うわ!凄!どんだけいるのよ?オトモ」

若干呆れたようなシュナさんの声。

 

えーと・・・。

「んー。ムァ入れて73・・・かな?って言ったって、スズナ程じゃないわよ――。オトモ大好きハンターには敵わないわぁー」

「あはは。まぁねぇ」

照れたような、スズナ。

 

 

思い思いの場所でトレーニングしたり、のんびりしたりしているオトモたちに少し場所を空けてもらって、ランチタイムが始まる。

 

 

ムァとお茶を淹れていて気付かなかったが、みんなが座っている輪のからすさんの隣が空けられている。

 

うきゃ――――――!!!

 

「ムァ―――」

「くふふ。いいから行くんだニャ!」

 

 

 

どうしよう・・・・・・、物凄く恥ずかしい・・・。

 

とてもくすぐったい気持ちで、そこに座る。

そのうち、ここが私の居場所になるのだろうか?

 

痛いほどのからすさんの視線とみんなの楽し気な視線を感じながら、楽しい時は過ぎていくのだった。

 

 

 

 

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