藍と碧   作:藍澤 碧

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3.やっぱり藍と碧

「ところで、ついったーアイルーで呟いていた件は何なんだい?」

 

ぎく!!

そりゃ、聞かれるよね~・・・。

 

 

さりげなく隣を歩いていたからすさんが、ふと思い出したように口にする。

でも本当はずっと聞きたかったのだろう。

 

家に戻る道すがらだった。

 

判ってる。

もう、逃げられない。

でも、さっきまでほど怖くはない。

 

 

私は、意を決して言った。

「・・・・・・家に戻ってから話すよ」

 

・・・今はユクモに住んでいるし、博識で知識欲旺盛だから、あの書物、からすさん自身で読めるかな?

というか、読んで頂けないと困る!!

とてもじゃないけど、恥ずかしい。

 

 

 

家に着き、片付けが終ると、シュナさんが言った。

「私たちは、そろそろ帰るわね」

「ええ!?」

困惑する私に、シュナさんが耳打ちする。

「もう、2人になっても大丈夫でしょ!」

「!!!」

赤くなって口元を押さえる私を、からすさんは不思議そうに見つめてくる。

 

いやいやいや!

大丈夫だけど、大丈夫じゃない!!

 

 

私とからすさんを交互に見たシュナさんは、楽しそうに笑いながらウインクした。

 

わ―――ん!

シュナさーん。

 

でも、もう逃げるのはおしまい。

どうしたって、いつかはこの時が来るのだから。

 

 

 

 

 

 

男同士、何か通じ合うものあったのかな。

「からすさん、また来てくれよ! ドンドルマの俺の家なら、椅子やテーブルも揃ってるから。また、色々話そう」

帰り際のマコノフさんが、本当に楽しそうに言う。

「はい!ぜひ!!」

からすさんも嬉しそうに返事をした。

 

「また、狩り、ご一緒しましょう!」

スズナも声をかける。

「勿論!ぜひ、よろしく!」

 

 

改めて、シュナさんが言う。

「じゃ、帰るね!」

 

「はーい!またね~!!」

私も応える。

 

 

玄関の外で見送る。

「気をつけてね~!」

 

私の声に、

「またねー!」

そう、口々に言いながら、手を振って3人と3匹は飛行船窓口に向かって行った。

 

こうやって、バイバイするのは、やっぱりちょっと、寂しい。

 

 

 

村の人に見られるのも、いつまでもそこにいるのも、照れくさくて家に入る。

からすさんも、入ってドアを閉めた。

 

 

 

ごく・・・。

・・・よし!!

 

ちょっと気合いを入れる。

・・・というと少し大袈裟だけれど・・・。

 

 

 

本棚から、大切に包まれた書物を取り、からすさんに椅子を勧める。

書物を包みから出し、からすさんの前にそっと置いた。

「見ていいのかい?」

テーブルに置かれた書物を見つめ、少し躊躇するように、聞いてくる。

それもそのはずで、ユクモの村長から借りた、村の古い言い伝えが記されている書物なのだ。

その、歴史を感じさせる表紙の雰囲気からして、ひと目で大事なものとわかる。

 

「うん・・・・・・。読める?」

書物は、古い言葉遣いで古い表記で書かれているので、この手の文学好きか、ユクモの人しか読めないようなのだ。

からすさんはそっと書物を開くと、丁寧にページをめくる。

「ああ。何とか読めそうだよ」

 

良かったぁ――――――!!!

読み上げたりしなくて済んだぁ~・・・。

正直、物凄くホッとした。

 

「わからない所は、遠慮なく聞いて」

そう言ってキッチンに立ち、新しくお茶を淹れる。

 

ちょっと素っ気ない言い方になっちゃったけれど、今はこれで精一杯なの―――!!

 

 

テーブルに戻ると、正面ではなく椅子を少し離して、右隣りに座った。

さすがに、すぐそばには座る勇気はない。

かといって、今更正面に座るのは何だかよそよそしい気がしたのだ。

 

熱心に読んでいたからすさんが、驚いたのか顔を上げる。

顔が熱くなるのを感じながら、気にしないフリをして、カップにお茶を注ぐ。

 

うう・・・。

恥ずかしいよぉぅ・・・。

 

 

「湯治場の辺りまでで大丈夫・・・」

 

私の声に、からすさんは我に返ったように、

「ああ。わかった」

と応えて書物に視線を戻した。

 

 

ムァとミツは、気を遣って2階で窓の外を向いて、静かに話している。

 

 

お茶を飲みながら、時々様子を見ていた。

どれくらい経った頃だろうか・・・。

からすさんの、顔どころか耳までが赤くなった。

少なくとも、蒼火竜に留まる話のところまではきたようだ。

 

きっと、私も赤い顔をしている。

恥ずかしくなって、顔を逸らす。

 

あぁ、どうしよう・・・、緊張する・・・。

どんな反応をするだろう?

 

膝の上で左手を右手に重ねて、顔だけ右に向けたままひたすらじっとしていた。

 

 

 

ズズ――――――。

 

!!?

 

音に驚いて、肩がびくりと跳ねる。

思わず振り向いていた。

 

椅子を後ろに押し出すようにして、テーブルに両手をのせたまま、からすさんは顔を伏せ、床を見ているかと思うと、深いため息をついた。

 

「はぁ――――――・・・・・・・・・。・・・藍メソ・・・さん?・・・これは、・・・僕はもう、我慢しなくていいっていうことかい?」

「え?」

これまた、びっくりする言葉に、混乱する。

 

ええ!?

何を言っているの!?

 

 

からすさんは顔をあげると、

「もう、遠回しに言うのはやめよう。 ・・・正直に言おう」

そう言って振り向き、しっかりと私の目を見て、口を開いた。

「僕は、藍メソ、君が好きだ」

ぼん!!と音がしそうな勢いで、顔が熱くなる。

「君が、そういう目や気持ちで僕を見てこなかったのは、解っている」

「・・・・・・」

「でも、そういう反応をしてくれるという事は、この書物がきっかけで、多少なりとも意識してくれたという事だろう?」

 

!!!

 

「・・・」

うきゅう――と胸が苦しくなって、視界が霞む。

鼻の奥がぐうっと熱くなる。

言葉など出てくるはずもなかった。

代りに、膝の上で固まっている手の甲に、ぽたりと滴が落ちる。

一度落ちたら止まらない。

ぱたぱたと落ちる滴に、思わずうつむく。

 

ガタン。

からすさんが、椅子を戻すようにして体ごと近づいた。

 

おそるおそる、からすさんの右手が伸びてきて、そっと頭を撫で髪を伝い、火照る頬に触れた。

顔を上げられない私の頬を、長い親指が優しく撫でる。

 

温かくて心地いい。

 

 

からすさんは私の頬に触れたまま、ズズズと椅子を更に寄せた。

そっと左手が伸びてきて、固まったままの私の右肩に触れる。

 

たまりかねたように、力強く引き寄せられ、両腕でしっかりと抱きしめられていた。

優しく、でも力強く。

 

――――――!!!

 

小柄な私は、背の高いからすさんの体に、頭まですっぽりと納められてしまっていた。

 

 

ため息とともに吐き出すような、からすさんの声が響く。

「君にこうして触れることを、どれだけ待ち望んでいたかなんて、無邪気な君は気づきもしなかったんだろう?」

「・・・・・・ぅっふっ」

更に胸がきゅうと締めつけられるようになって、苦しくて顔を横にしてからすさんの胸に頬を押し付けた。

それに応えるように、からすさんの腕がぎゅっと締められた。

 

 

からすさんは、その頬で私の髪を撫でる。

涙は止まっていた。

 

 

嬉しい気持ちと恥ずかしい気持ちでいっぱいで、何も考えられない・・・。

 

 

 

いつの間にか、膝の上で固まったままだったはずの私の手は、からすさんの服の腰元を掴んでいた。

 

ぎゅうぎゅうと抱きしめていたからすさんは、もう、待ってはくれなかった。

私を胸から引きはがすと、大きな両手で私の頬を包み、顔ごと引き上げて、そっと・・・、そして強く口づけた。

 

何だかわからない、うきゅうっとした気持ちで何も考えられずに、されるがままその温もりを受け入れていた。

 

胸の中から熱いものがこみ上げて、鼻の奥がぐうっと熱くなる。

こらえることはできなかった。

こらえる必要のなくなった、涙は閉じた目から零れ落ち続けた。

 

 

動くこともできないで、私はからすさんの服を、ただぎゅっと掴むことしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

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