藍と碧   作:藍澤 碧

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7.伝説とジンクス

「そういえば・・・」

とスズナが切り出した。

「最近は私達と狩りに行くことが多いような気がするけど?」

「うん」

 

あー・・・。

 

「からすさんとは、狩りに行ってる?」

「ううぅん」

 

やっぱり、それは聞かれるよね・・・。

 

「あ―――。やっぱり?」

と言ったのはシュナさんだった。

 

「そりゃ、行かないわなぁ~・・・」

マコノフさんも言う。

 

 

 

みんなの反応にも、私とからすさんがどちらともなくあの日を境に一緒に狩りに行かなくなったのにも、れっきとした訳がある。

 

 

 

ハンターたちの間で、語り継がれ続けている伝説とそれに因るジンクスだ。

 

 

 

その昔、“ハンターという職業”すらなかった時代。

ある竜人族の男性が4人の仲間とともに、5人でココット山のドラゴンを討伐する為に出撃した。

熾烈を極めたその戦いの最中、仲間の1人が命を落としてしまったのだ。

命を落としたのは、その竜人族の男性の婚約者だった。

ドラゴンの討伐は辛うじて何とかできたものの、竜人族の男性はこの戦いを最後にハンターを引退した。

 

この竜人族の男性は、今のココット村の村長である。

引退後は後進の育成やギルドの整備などに尽力してきたそうだ。

 

 

 

そしてこの話の為、今でも5人以上で狩猟に行くと、仲間を失うというジンクスがあるのだ。

ギルドでも、5人以上の狩猟を原則禁止している。

 

 

 

5人以上の狩猟には当たらないが、婚約者と一緒に狩猟に行かないカップルも実は多い。

この伝説的な話が大きく影響していない訳がなかった。

 

かくいう、私もそれが心配で一緒にはいかない・・・。

行きたくない。

 

勿論、ハンター自体が命がけの職業であり、いつだってクエストに行けば、命の危険がある。

しかし、ジンクスの所為で何かあっては堪らない!!

誰だって、安全の為のゲンは担ぐ。

初めて狩猟に成功した時のモンスターから剥ぎ取ったものを、お守りにする者がいるという話もよく聞くくらいだ。

 

ハンターは、無事に戻ってくるのが最低目標であり、絶対条件なのである。

だから、ギルドも可能な限り、安全には力を尽くしている。

 

育成指導教官がいるのもその一環だ。

ベースキャンプが安全であるように、モンスター避けを施し、可能な限りキャンプまで飛行船でハンターを運ぶ。

そして、モンスターの観測・研究を続けている一因でもある。

抗竜石の開発に象徴されるような、武具や護石,装飾品の研究開発なども、ハンターの命を守るという目的もあるのである。

 

 

 

 

 

「また、会って話したいから、呼んでよー」

マコノフさんが、些か不満そうに言った。

 

「そうよ!全然会せてくれないじゃない!?」

シュナさんが、きれいな唇を尖らせる。

 

 

「いや!別に会せないつもりは、全くないんだけど・・・?」

私は、大袈裟に左右に手を振って見せた。

 

「じゃあ、今すぐ、ついったーアイルーだっけ?で、呼んで!」

「!?」

シュナさんが、“ついったーアイルー”なんて言い出すから、びっくりした。

 

本当はここからでも呼べるけれど、恥ずかしいから外へ行こう。

 

「ん。わかった・・・。ついでに買ってくるものある?」

 

 

 

「マタタビクッキー!!」

メロが叫んだ。

「・・・が、あると嬉しいニャ・・・」

と、咄嗟に叫んでしまったことを後悔しているかのように、小さくなった声で付け足した。

 

「・・・・・・メロ?・・・後でどうせマタタビ酒飲むんでしょ?」

呆れて、私は言う。

 

「そうよ!今日も地面に埋まりたいの!?」

シュナさんに一喝されて、しゅんとなるメロ。

 

ちょっぴりかわいそうになって、私は口を開く。

「代りに、ドンドルマグロをおつまみ用に買って来ておこうか?」

「ニャ―――!!!」

4人のオトモたちが、一斉に、目をキラキラさせてこちらを向いた。

「はいはい。みんなの分も買ってくるから・・・」

「ニャニャニャ~♪」

などと、口々に喜んでいる。

やれやれ・・・。

 

 

 

マコノフさんの家を出て、玄関から通りへと続く小道を歩く。

ドアや窓から覗かれても見えない位置を選んで、ついったーアイルーを呼ぼうとした。

 

あ。この場合、らいんアイルーの方がいいな。

うーん。何て書こうかなぁ~♪

 

そんなことを思いながら、らいんアイルーを呼んだ。

ほとんど事務連絡みたいなものなのに、浮かれている。

ペン型ナイフを指先でくるくる玩びながら、考える。

 

「んーと、『今、大丈夫?ご都合が良かったら、ドンドルマに来られないかな? マコノフさんとシュナさんが、会いたいって。呼んでって言われちゃった・・・。 うふふ・・・。待ってるね―――♪』ふふ。お願いね~」

「はいニャ」

 

ざかざかざか・・・すぽんっ!

 

 

 

さて、ドンドルマグロと・・・、お茶請けは何がいいかなぁ~。

 

 

 

 

 

ずぼっ!

 

「!!!」

 

手首に黄緑色のリボンを結んだアイルーの手だった。

 

まだ、数歩しか歩いていないのに・・・!

 

「びっくりした!早!!んーと?

『大老殿に依頼の確認に行くところだったんだけど。飛行船を降りた直後に、藍メソからのらいんアイルーが来たよ。大老殿に行った後でなら、お邪魔できるよ』

ええぇ!!ドンドルマに居るの!?」

 

やだ。ちょっとドキドキしちゃう。

 

「えっ!じゃあ・・・。『大階段下の、リンゴ好きの雑貨屋さんの前で待ち合わせね』と」

 

「ニャ!」

 

 

 

ざかざかざか・・・すぽんっ!

 

 

 

マコノフさんの家は、飛行船乗り場から、敢えて離れた所にある。

なので、街の中心部までは距離がある。

ついったーアイルーと、それに書き込む人々を避けながら、のんびり歩いていく。

 

着いたばかりだったからすさんが、大老殿まで上って下りてくるまで、たっぷり時間がある。

 

 

 

ずぼっ!

 

 

 

らいんアイルーだった。

 

「何々?

『少し時間がかかるし、今からだと大分待たせちゃうから、夕方にそこで待ち合せにしよう。また後でね。なるべく急いで行くよ』

って、・・・夕方までまだ大分あるじゃない・・・」

もう!うふふ。

 

嬉しくて照れ笑いしてしまってから、慌てて周りを見回した。

幸い、誰かにじろじろ見られたりはしていなかった・・・。

 

 

 

よし、ドンドルマグロとチココーンチップスと、からすさんの好きなレウスウィスキーを買って、一旦戻ろう。

 

 

 

マコノフさんの家に戻って、ひとしきりチココーンチップスをお茶請けに美味しく楽しい時間を過ごした。

 

日が傾き始めた頃、スズナに見張られるかのような指示の下(つまみ食い防止の為である)、さっき買ってきたドンドルマグロなどのおつまみが用意され始めた。

私は、お酒の用意をし始める。

 

マコノフさんの家には、氷結晶を使った、人の背丈より大きな保冷庫がある。

勿論、どこの家にでもあるものではない。

大都市ドンドルマの端の方に大きな家を持てるだけの稼ぎがある、マコノフさんの家だからこそである。

もっとも、稼ぎのいいハンターの家ならば、少ない氷結晶で賄える程度の小さい(私の家では小タル三つ分位)保冷庫は割とあるものではあるのだが・・・。

とは言え、ここまで大きい保冷庫は、そうそう持てるものではない。

 

保冷庫には、色々な食材やたくさんのお酒が入っている。

さすがに、今からシュナさんのシャートーロマーネを出すのは早すぎるな、温くなっちゃう。

 

みんなのお酒や食器が並んでいる棚から、樽ジョッキやグラスを出して、テーブルに運ぶ。

からすさん用のレウスウィスキーをテーブルに載せようとテーブルの上に手を伸ばした時だった。

 

 

バコっ!

 

ガン!!

 

思い切りよく、腰に何かが当たった・・・。

 

「痛―――い・・・。何?」

 

振り向くと、椅子から生えてきたカンバンが揺れている。

 

「!?!?」

 

「何?今の音!?」

「何事!?」

スズナとシュナさんの声が飛んでくる。

 

よく見ると黄緑色のリボンが、アイルーの手首に結ばれていた。

 

「わっ!」

私は慌てて、カンバンに書かれている文字を隠すようにして、読む。

 

『終ったから、待ち合わせ場所に来てくれるかい? ゆっくりでいいから、気をつけて来るんだよ』

 

キャ―――!!からすさんっ!!

(って、他の人な訳は全くあり得ないのだけれど・・・)

 

『はい!今から行くね!お店見ながら待ってて!!』

 

急いで返事を書いて、らいんアイルーを送り出した。

 

 

「ちょっと!藍メソ!何コソコソしてるのよ?」

シュナさんが、両肩に手をかけて椅子を覗き込むようにして声をかけてくる。

焦って、ワタワタしながら答える。

「いや!今のは個人的なやり取り用のアイルーだからっ・・・!」

「ふーん」

ちょっとからかうように、細めた目で私の顔を覗き込みながらシュナさんは続ける。

「で?何だって?からすさん」

「!」

「今更、照れても隠してもムダ」

さっくりと、シュナさんに言われてしまう。

 

「よ、用事終ったって。迎えに行ってくる・・・」

 

「ハイハイ。いってらっしゃい!スズナの熱帯イチゴ酒は私が樽から出しとくし、藍メソのハップルアップルシードルは保冷庫の底から上に出しておくわよ」

抱きつくようにしていた私の両肩をグイッと押し出すように離しながら、シュナさんはキッチンに向き直る。

 

「シュ・・・シュナさん!いいよぉー。自分の分は戻って来てから自分で用意するから!」

 

慌てる私に、シュナさんは手をヒラヒラさせて、追い出すような仕草をする。

「いいから、早く行きなさい。待たせてるんでしょ?」

「・・・うん・・・。ありがと。私の分はいいから、みんなのを・・・」

「わかった!わかった!氷買ってくるの、忘れないでよ」

 

いい加減呆れたように言われ、おとなしくショルダーバッグを掴んだ。

 

「にゃい!いってきます!!」

 

 

マコノフさんの家から飛び出すようにして、小走りで街の中心に向かった。

 

 

 

 

 

 








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