たくさん買った氷を、当たり前のように私の両手から奪い、何だか嬉しそうに歩く、からすさん。
「1個くらい持つよ!」
と言っても、
「いいんだよ、大丈夫!僕のトレーニングにもなるしね」
とウインクしてニコニコしている。
「藍メソのトレーニングにはならなくて、悪いかもしれないけど」
と言って、楽しそうに笑う。
くすぐったくて、照れくさい気持ちでいっぱいになる。
「しかし、大分歩くね。マコノフさんなら、もっと大老殿近くに住めるんじゃないかい?」
不思議そうに首を傾げながら、からすさんは言った。
確かにマコノフさんの報酬金の額を考えれば、街の中心部でも同じ広さの家は持てるだろうけど・・・。
この辺りは、中心部から大分離れてきていて、夕闇に沈んだこの時間になると人影もあまりない。
「飛行船乗り場から遠いところを選んだんだよ」
「ええっ!?そんなに飛行船が嫌いなのかい!?・・・いや、前に聞いた覚えはあるけど・・・」
いつもより大きなバリトンボイスが響いた。
「まぁ、いつでもみんなが集まりやすい様に、広い家にしたかったのもあるみたいだけど」
「・・・ああ、成程」
随分と驚いているからすさんに、私の方がびっくりしていた。
「前にも話した、極度の乗り物酔い体質の所為だよ」
「・・・あ――。そんな話聞いたね、そういえば・・・」
「乗り物全般、全て駄目」
「それは、キツイな・・・」
「ネコタクも駄目だよ」
「ええっ!? ・・・だから、闘技場のタイムアタッカーか・・・」
頷く私。
マコノフさんの家が見えてきた。
「あそこだよ!」
「おお!さすがに大きいな・・・」
今日のからすさんは、驚いてばかりいる。
「ふふふっ」
ちょっと楽しくなって、思わず笑ってしまう。
「あ!藍メソ待って」
生け垣が門のように空いている所を曲がって、小道に入りかけたところで、そう言ってからすさんは立ち止まった。
「? うん?」
「ちょっとだけ、これ持ってて」
そう言うと、両手に持っていた氷の袋を渡された。
「うん」
受け取りながら、不思議に思ってからすさんを見上げる。
胸元から何かを取り出したかと思うと目の前に、短く切り揃えられ淡い水色のリボンで結ばれた数輪の青い花が差し出された。
「!?!」
驚く私に、嬉しそうな視線を注ぎながら、からすさんはいつものように言った。
「はい。藍メソの好きな青、い花」
うぐぅと、喉が詰まって言葉が出てこない。
うそ!?こんな時にまで・・・!?
「着けてあげる」
「!?」
そう言われたと同時に、からすさんが髪に触れた。
何かしている・・・。
シュル。
リボンが結ばれる音がした。
え!?ええ!?
「はい。できた。うん。似合ってる」
嬉しそうにそう言うと、からすさんは私を強く抱きしめた。
ぶわっと、溢れた涙がからすさんの胸を濡らす。
あまりの嬉しさに、嗚咽が漏れる。
「ん?ふふふ。そんなに喜んで貰えたなら、僕も嬉しいよ」
そう言って、更にぎゅっと抱きしめてくれる。
私が落ち着くまで、背中を撫でながら、花を着けてくれた方とは反対の髪を頬で撫でてくれていた。
「よしよし。氷が溶けちゃうから、行こうね」
そう優しく言うと、涙を拭ってくれた後、私から氷を取り上げた。
私も目元をきゅっと押さえて、深呼吸した。
花の香りがする。
何だかいつもより、甘く感じる。
少し先に歩き出したからすさんに、声をかける。
「鏡を見るの楽しみ!」
振り向いたからすさんは嬉しそうに笑ってくれている。
「ふふふ。ありがとう!」
私も笑顔で、言った。
「ウニャぉ・・・。2人とも笑顔が眩しいんだニャ・・・。毛羽立っちゃうニャ」
ミツが呟いてフルっと、立てた毛を震わせていたのには、気付いていなかった。