非科学的なNの世界   作:氷の泥

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異種との共存 2

 警察署に入って「絹川月流です」と名乗ればそれで話が通るのだから、私も中々な立場になったものだなと調子に乗ってみたりする。

 化け物もしくは犯罪者を見るような目には慣れているけれど、心の中で調子に乗って気を紛らわすくらいのことをしてもバチは当たらないと思う。そうこうしてふざけているうちに、電話で話した「いつもの彼」が出てきた。彼はどうやら私と話すことの担当にされてしまったらしい。

「ご足労どうも」

 缶コーヒーを投げて渡された。私はそれを手で受け取る。そうしなければならないわけではないけれど、とりあえず普通にしておく。

「珍しいですね、前に来た時はくれなかったのに」

「気まぐれだ、次を期待しないでほしい」

「へぇー、気まぐれね。よくわからないな」

 理解する気もないし、したいとも思わないぜ、へっへっへっ。と煽るような態度を表情や体の動きで全力で表してみる。ほんのコミュニケーションのつもりなのだけれど、彼は必死に舌打ちをしないよう我慢しているようだった。

 つまらないやつ、とこれまた態度で示しつつも一応おとなしく、いつもの部屋のいつもの席に着席する。そこは取調室ではないけれど、では何のために使う部屋なのかは私も知らない。知る気もないし知りたいとも思わない。

「で、今回のターゲットはどなた?」

 コーヒーを飲みつつ尋ねると、彼は電話で言っていた通り何か紙の資料を取り出し始めた。

 ところでだけれど、よく見ていなかったがこのコーヒーはブラックじゃないか。ちくしょう、気まぐれってもしかしてイタズラ心的な意味だったのかい?

「名前は色彩絵画(しきさいかいが)。予告状を出すなど、我々をおちょくるような態度が目立つ窃盗、強盗犯だ。……態度については、実際に奴と接触した警官からも証明されている」

 彼はついでに資料に写った顔写真を指さす。色彩絵画なる人物はなかなかの美青年に見えたけれど、それが彼のポリシーなのか、なぜかオレンジ色に染められている髪が目立っていた。個人的な感想を述べるなら、どちらかと言えば嫌いなタイプだ。

「そいつと話せたわけですか」

「ああ、むしろ奴は積極的に我々との会話に応じる。何を考えているのかはわからないが」

「話すところまで行って逃がすんですか」

 メガホンを使って、遠近法によって米粒のように見える状態のそいつと話しているわけでもあるまいに。会話が出来る距離まで接近して逃がすとは、この国の警察も中々に危うい。

「……ああ、そうだ。毎度そうだ」

 一度逃がしたからといって私に依頼をして来るとは思っていなかったので、特に驚いたりすることはない。「毎度」というのが具体的に何度なのかは知らないけれど、とにかく警察諸君はお手上げらしい。

「何度も会話し、何度も逃がすと。逃げられる原因は?」

「奴が消えるからだ。パッと手品のように、盗んだ物ごと消えていなくなる。そうしてしばらく日が経った後、再び予告を出す。それが奴の常套手段だ」

 コーヒーを一気飲みする。缶はもうカラになった。缶コーヒーの内容量は思っているよりも少ない。……ついでに、舌において苦みを感じる部分は根元に近い部分なのだと知った。

「瞬時にワープするのが彼の持つNの能力なんですか? 能力の全容がわからない、とか言ってませんでしたっけ」

「その点についても説明する」

 彼はおもむろに小さな便箋のような物を取り出した。何かと思えば、どうやらそれが例の予告状らしい。思い切り手書きの文字で「予告状」と書いてある。

 予告状には他にも、どこそこの何々という場所へアレコレをいただきに行く、と詳しく書いてあった。全て手書きなせいでなんとも迫力に欠ける物だ。

「こんな物を用意されれば我々だって警戒する。警戒し、警備する。誰一人通さない、というくらいの警備だって敷く」

「まあ、そりゃあそうでしょうね。それで逃げられているのでアレですけど」

「逃げる時に奴は決まって消える。だが、侵入する時に共通点はない」

「はい?」

 ここが重要なポイントだぞ、と言いたげに神妙な顔つきをして彼が言う。

「いくら警備を敷いても奴がワープ能力で瞬時に現れ、その後あっという間に逃げるというなら、分かる。しかし奴の現れ方はレパートリーに富んでいる。変装……どころか「変身」と呼べるような方法を用いて侵入してくることもあれば、ワープではなく高速移動で突っ込んでくることもある」

「それで?」

「どんなことが起こるのかわからないのだ、対策のしようがない」

 じゃあ、わかっていれば対策できるのかよ、とは思ってしまう。私はゲーマーなのでよく知っているけれど、わかっているのに対処できないということは往々にしてあるぞ。

「仮に色彩絵画がワープ能力持ちだったとするなら、警察はどう対策します?」

「物理的にワープして来られる空間を無くすだろうな。物で埋め尽くしてもいいし、結局は地に足を着けるのだから地面に何か仕掛けをしてもいい。消える瞬間への対処はできないが、現れる瞬間への対処はできるだろう?」

「おお、なるほど」

 案外ちゃんとしていた。その対策が上手くいくかどうかはともかく、一応選択肢がたくさんあるように見えることはいいことじゃないか。手詰まりにならない限り、モチベーションとリソースが続く限り人間はどこまでも突き進めるのだから。

「ワープ対策で奴を捕らえられるとは言い切れないが、少なくとも犯行を阻止することはできる。……が、それは仮の話だ。その手の対策はすでに試しているが、実際はどれもワープ以外の方法を用いた侵入によって無力化された」

「なるほど」

 それでギブアップか。まあ、相手の手の内がわからない上に翻弄されまくっているのだから、心が折れてしまうのも理解できる。

 それに気持ちや面子の問題を抜きにして考えれば、やはりNを持たない人間だけでNを持った人間を捕らえようというのは、無理があるとまでは言わなくとも確実に非効率だ。N所持者を代表して、諦めというか割り切りが良いのは評価する。

「さて、説明は以上にして本題に入る。正直言って我々が今回あなたに依頼することは、丸投げだ」

「はあ」

「その予告状に書いてある場所へ、時間通りに奴は必ず現れる。これに例外はない。なのであなたには、なんとかして奴を確保してほしい」

「本当に丸投げですね」

 方法とかアドバイスとか、そういうものは一切ない。「手伝ってくれ」ではなく「なんとかしてくれ」という話なのだから、まあそれで当然なのだけれど。

「その代わり報酬は前と同じ額を出す」

「えっ、なんですって」

 以前にも私は警察の追っている犯罪者を捕らえ、その報酬として金銭を受け取った。どれくらい受け取ったのかというと、諸々の口止め料込みで、三人揃ってしばらく引きこもってゲームだけしていられるくらいの額をいただいた。

 いやー、いやはや。俄然やる気が出てくるってものですね、えぇ!

「必ず成功させます。期待していてください」

「そうさせてもらう。……そうするしかないからな」

 それから彼は私に、予告状のコピーを渡して部屋から出て行った。その予告についての情報だって口外しないことを前提に大金をいただいているのだから、これは大事に上着の中へしまっておく。

 用が済んだので署を出る。予告によると色彩絵画は本日の深夜に、ここからそう遠くない宝石店に現れるらしい。

 ……思うに、彼は恐れるに足らない相手だ。だって、アホっぽいもの。予告状だなんて馬鹿げているし、盗みに入る場所が宝石店だなんて。

 一介の宝石店なんて、別にものすごく貴重な物が置いてある場所じゃない。そりゃあ一切合切盗まれれば被害総額は大金と呼べる額にはなるだろうけど、それで犯人はどこでそれを換金するつもりなのだろう。

 恐れるに足らないとは思う。が、対策が何一つ思いつかないのも事実ではある。相手の手の内がわからないのだからそりゃあそうだろう。そう、つまり私は相手をナめている。が、真面目に対策を考えることもやってみるだけ無駄なのである。

 ポケットの中でケータイが震えた。lineでメッセージが入っている。

「決着ついたよ。俺の勝ち」

 ゲームは木林りんごの勝利に終わったらしい。私はその瞬間を見ることさえ出来なかった。

 これは、あの警官にもう少し話を短くしてくれと頼む必要があるかもしれないな。と、頭の中で冗談を言いつつ何でも屋に帰ることにする。とりあえず帰ったら夜に備えて仮眠でもしておくかな。

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