いわゆる、早撃ちのことです。
この小説は、ファストドロウに興味を持って貰うきっかけになればと書き始めました。
『………ターゲットD、ウルフさん。ご準備をお願いします』
室内会場に響くアナウンスが、ついに俺の順番を告げた。
俺の前は3組、たった12人だというのに、待ちきれなかった俺の足は自然と小走りになる。
さして広くもない会場だ。すぐに所定の位置に着くことが出来た。
右手側80センチほど離れたところにある、腰ほどの高さの白い台に、持っていた赤いケースを置く。
それから、正面に置かれたターゲットを見た。
8インチの穴があいた円盤に固定された黄色い風船、その上部にはランプが取り付けてある。
これがターゲットだ。
俺はターゲットに向き合うと、自分のホルスターの位置を微調整する。
ホルスター。そう、西部劇でカウボーイが拳銃を収めているベルトのことだ。
このベルトをしているんだから、当然俺の右腰にはリボルバーが、コルトの
カウボーイハットも被り、気分はクリント・イーストウッドの演じるモンコだ。
………気分だけな。流石に、キャラものTシャツを着てモンコとは口が裂けても言えん。
何せ、隣のおっさんはガチでモンコの格好してるし。
ホルスターの調整には数秒とかからない。
待ち時間の間、散々やったからな。
続いてホルスターベルトの正面についたバックルの中心よりも風船の中心が下にならないように、ターゲット三脚の高さが調節される。
これは自分では行わず、前の組みの人が行う。
不正防止の意味合いもあるのだが、俺としては競技に集中出来るので、とてもありがたい。
調整してくれた人に礼を込めて軽く会釈をすれば、彼はぴっと親指を立てた。
『各シューターは、シューティングスタンスを取ってください』
横一列に並んだ4人は、アナウンスを聞くと思い思いに構えを取った。
四人の共通点は、ホルスターを付けた足がシューティングラインを越えていないことと、利き手がリボルバーのグリップにぎりぎり触れないほどに添えられていることだけ。
その様子を、審判が一人一人チェックしていく。
『はい、オッケーです』
そのアナウンスに、全員が構えを解いた。
どうやら、不正な構えやホルスターの角度が違反している者は居ないようだ。
俺も大きく息を吐いた後で、緊張をほぐす為に軽く伸びをする。
そろそろ、これから行われる競技が何なのか、わかったんじゃないか?
『では……Load and make ready』
並んだ4人のシューターは、それぞれ持ってきたケースから、カートリッジを一つ取り出す。
俺も先程置いた赤いケースから一つ取り出すと、掌で転がした。
真鍮で出来たそれは、形だけ見れば本物そっくりだ。
でも、これに込められているのは
いや、まあ、競技ではこの火花が重要なんだけどね。
ころりとカートリッジを転がして親指と人差し指で挟み込むと、空いた中指でコルトSAAのシリンダーに付いた
祈るようにカートリッジをシリンダーに収めて、蓋を閉じた。
後は次弾の位置までシリンダーを回せば準備完了だ。
『Range is clear』
このコールで、他のシューターは何度かリボルバーを抜く練習をする。
一方、俺はというと腕を組んで目を閉じ、深呼吸をする。
精神のコンディションは、この競技では非常に重要なファクターだ。精神統一をはかる意味は大きい。
それに、一発勝負って燃えないか?
シューターはそれぞれ数回の練習が終わると構えに入る。
その頃合を見て俺も腕組みを解き、構えに入った。
足は肩幅に開き、右足はほんの少しだけ後ろに引く。
その状態で腰を十数センチ落とすことで、身体の重心を下げて下半身を安定させる。
脇を締めて、右手はリボルバーのグリップを軽く握った。
『Are you ready?』
「「「「Yeah!」」」」
準備はいいかと尋ねるコールに、全シューターが声を揃えて答える。
会場は、いつの間にか静かになっていた。
隣のシューターの息遣いが耳に届く。
『Shooter on the line』
コールは、全員が位置に付いたことを知らせる。
待ったなし。
ここから始まるのは、千分の一秒を競う世界最速の戦い。
瞬きなんかしていられない。その瞬きにかかる時間が明暗を分ける。
ターゲットの風船の上に置かれたランプを、じっと見つめる。
『Shooter set』
始まった。
コールと共に、リボルバーから手を数ミリ浮かせる。触れたら失格だ。
このコールの瞬間から5秒以内にランプが灯り、その時初めて拳銃に触れることが許される。
拳銃をホルスターから引き抜き、撃鉄を起こし、風船に銃口を向け、
この一連の動作を行う速度を競うのだ。
ランプが灯る瞬間、いや刹那こそが勝負の分かれ目。
コールが聞こえた時には、シューターはすでに自分の世界に入っている。
周りの音は全て消え失せて、真っ暗な世界でただ一人、光がやって来るのを待つ。
それが何時来るのかは、神すらわからない。
一秒後か、二秒後か、はたまた今この瞬間か。
己の時間が限界まで引き伸ばされたこの世界では、たった一秒が永遠にも思えるほど長い。
心臓すら鼓動するのを止め、ただ成り行きを見守る。
狂おしいほどの時が流れ、もしや光は来ないのかと絶望さえする。
狂気と正気を行き来し、ついには己を失い「」へと成り果てながらも、それでも待ち続け………
光が現れる。
『ターゲットD、ウルフさん、不発です』
「なんでやねん!!」
因みに、使う拳銃は厳しい規定があります。
もちろん、安全に競技するためです。
感想、評価お待ちしております。
感想、評価お待ちしております。
大事なことなので2回書きました。