メイの早撃ち講座   作:シャケ@シャム猫亭

3 / 7
こだわり

『Unload and show clear』

 

 スタンディング・ワックス、その7回の射撃が終了し、レンジオフィサーから弾を排出するようコールされる。

 シューター達はパスッパスッパスッと的の方に向かって適当に拳銃を連射した。

 一々BB弾をシリンダーから取り出すよりも、こっちの方が手っ取り早いからだ。そもそも取り出せない物もある。

 もちろん、俺もそれにならって拳銃を連射するのだが、二発目を撃った後でちょっとだけ遊び心がわいた。

 引き金を引きっぱなしにすると、左手を撃鉄(ハンマー)起こす(コッキング)ために一度(・・)だけ振る。

 パパパスッと銃声が鳴り、3発(・・)のBB弾が飛び出した。一度のアクションで複数の弾を撃つ、バーストショットと呼ばれる速射技だ。

 まるで西部劇の主人公のように綺麗に決まったことでテンションが上がった俺は、手の内で拳銃を一回転させてからホルスターに収めた。

 

『ウルフさーん、カッコイイけど競技中のガンプレイは禁止だよ』

「あ………す、すみません!」

『まったく、次やったら失格ね』

 

 慌てて頭を下げる。

 調子こいて完全に失念してた。

 競技中のガンプレイ、拳銃を指に引っ掛けて回したり投げたりする行為は、安全の為禁止されている。

 拳銃の暴発や、拳銃がすっぽ抜けて他の人にぶつかる危険があるからだ。

 

『それでは、残弾が無いことを確認しますので、銃口に蓋(マズルキャップ)をしてからシリンダーを見せてください』

 

 アナウンスの後、レンジオフィサーがシューターの拳銃を順に見ていく。

 俺はレンジオフィサーが来るまでの間、相棒(ピースメーカー)銃身(バレル)の横に付いているエジェクターロッドを使って、カートリッジを一つずつ取り出しシリンダーを空にした。

 ピースメーカー、というかS.A.Aは基本的に固定式(ソリッドフレーム)なため、映画でよく見るシリンダーを横に外したり、真ん中で折ったりしてカートリッジを全部排出するということが出来ない。

 だからどうしても装填、排出に時間がかかる。まあ、裏ワザとしてシリンダーを丸ごと交換するってのもあるが。

 ああ、でも、ちゃんと利点もあるぞ。

 こっちの方が構造がシンプルだからメンテナンスも簡単だし、何より頑丈で壊れにくい。

 実銃なら、カートリッジに火薬を2倍詰めたものを発砲するなんてムチャも出来る。

 

「ウルフさん、シリンダー見せてください」

「あ、はい」

 

 どうやらいつの間にか俺の番になっていたようだ。

 すぐにレンジオフィサーにピースメーカーのシリンダーを見せる。

 カートリッジが抜いてあるため、当然ながら残弾ゼロ。

 別に抜かなくても良かったのだが、手持ち無沙汰だったしな。

 

「………はい、確認しました。ホルスターに収めたら、シューティングエリアから退出して結構です」

「ありがとうございました」

 

 レンジオフィサーに礼を言ってから、俺はシューティングエリアから退出した。

 そのまま、さっきのベンチの所まで行ったのだが、俺の座っていた所はスミスがどっかりと座っていた。

 三人がけのベンチなのに、スミスが真ん中で座っているせいで隣に座れそうにない。

 

「おう、ウルフ。ワックスは悪くなかったようじゃな」

「まあ、ね。それよりちょいと端に寄ってくれよ。俺も座りたい」

「なんじゃ、若いのにだらしない」

「電車の中じゃないってのに老いも若いもあるかよ。つーか、おっちゃんが真ん中に座ってんのが悪いだろ」

「はっはっは、その通りだな」

 

 どっこいせっと掛け声を上げて、スミスは端にズレる。

 一人座るのに十分なスペースが空き、俺はそこに腰を下ろした。

 うわっ、ベンチが生暖かい………。

 

「ウルフよ、コーヒー飲むか?」

 

 スミスの手には湯気を立てている紙コップが一つ。

 

「え? そりゃ、くれるって言うんなら貰うけど」

「そうか、ワシの飲みかけで悪いが―――」

「やっぱいらん」

 

 渡されたコーヒーを速攻でスミスに突き返す。

 誰がいるか、そんなもの。

 

「冗談じゃ。あっちにインスタントとポットがあるから貰ってくると良いぞ」

「………そうするよ」

 

 ベンチに座って早々に立ち上がり、俺は会場の端に置かれたポットの元へと赴く。

 そこにはインスタントコーヒー以外にも、緑茶、紅茶のティーバックが置かれていた。もちろん、砂糖とガムシロップ、ミルクも用意されている。

 俺はちらりと迷った末に、緑茶に手を伸ばした。

 緑の小袋に大きく『お茶』と書かれている物を破り、中からティーバックを取り出す。

 紐だけを紙コップから出すようにしてティーバックを入れ、ポットからお湯を注ぐ。

 初めは紙コップから湯気だけが立ち昇っていたのだが、二度三度と紐を引っ張るようにしてティーバックを揺らせば、ふわりと緑茶の香りが昇ってきた。

 コップを口元まで持ってくるが、鼻に当たる蒸気の熱さにコップはそこで止まった。

 

 これ、飲んだら舌やけどするわ。

 

 俺はコップを下ろすと、溢さぬよう慎重にスミスのもとへと戻った。

 

「ウルフよ、話は戻るが、ワックスは良い感じじゃったの」

「ん? ああ………」

 

 平均0.359秒に最速0.342秒。

 スタンディング・ワックスの平均タイムはスタイルによって異なるが、ツーハンドスタイルだと0.38~0.39秒辺りのことを考えれば、悪くはない。というか、速いと言っていいかもしれない。

 

「けどなあぁ、ノータイムを3回やらかしてるし、競技記録は遅いんだよな」

「スタンディング・ブランクよりマシじゃないか」

「そりゃそうだけどさ、おっちゃんの最速記録にはまだまだ及ばないし」

「アホぅ、あんなの十何年も前の話じゃ。それに公式記録でも無いしのう」

「それでも、0.3秒を切ったのは事実だろ?」

 

 息を吹きかけ、ようやく飲めるようになった緑茶をズズズッとすする。

 緑茶特有の苦味と渋みが抜けた後に、ほのかな甘味がやってきた。

 

 ああ、落ち着く……。

 

 競技で高ぶっていた神経が、収まっていくのを感じる。

 って、いかんいかん。まだ、最後の競技があるっていうのに。

 

「ALL JAPANで優勝するって目標もあるけど、こうして目の前に『最速』が居るんだから、俺としちゃ越えたいわけよ」

「なら、タナカワークス製のガスガンに変えれば良いじゃろ」

 

 確かに、あっちのガスガンの方がファストドロウに向いてはいるが。

 

「タナカのガスガンはなぁ、カートリッジないじゃん」

「その代わり構造が実銃と同じじゃぞ。その分カスタムパーツも揃っておる」

「俺、カートリッジをリロードするの好きだからさ、これだけは譲れないんだよね」

「ポリシーか、なら仕方がないの」

 

 あっさりと引くスミス。

 ファストドロウをやっている人の中には、何かしらポリシーを持っている人がそこそこいる。

 サミングスタイルを貫く人や、お守りと称して二丁の拳銃を吊る人、はたまたファストドロウに全く向いていない銃身が長い銃(キャバルリー)を使う人もいる。

 ファストドロウ界ではそういったポリシーに寛容、というか推奨してると言ってもいいかもしれない。

 何せ、多くのシューターが『ロマン』に生きているのだから。

 それをスミスもわかっているので、強く勧めはしなかった。

 

「ただ、ワシとしてはマルシンの銃はカスタムパーツを作らなきゃならなくて面倒なんだがのう」

「感謝してるって。おっちゃんが作ってくれたパーツのおかげでこいつ(ピースメーカー)を使えるんだから」

 

 そう、シューターネーム『スミス渡辺』のスミスとは、銃職人(ガンスミス)のこと。

 彼の制作するカスタムパーツは出来が良く、全国から依頼が舞い込むほどだ。

 その気になれば、一丁(こしら)えることも出来るとは、本人の談である。

 俺のピースメーカーも、スミスに色々手を入れて貰っている。ツーハンドスタイル用の撃鉄(ハンマー)なんかは良い例だ。

 …………結構イイ値段するんだけどな。

 

「ところでウルフよ、この後昼休憩じゃが昼飯はどうする?」

「メシかー、昨日カレー食べたからそれ以外で」

「ならイタリアンはどうじゃ? 近くに新しい店が出来たらしいぞ」

「いいね。俺、海鮮パスタにしようかな…………ん?」

 

 ブルルと俺のポケットが震えた。

 携帯を取り出して画面を見れば、着信元はどうやら姉さんのようだ。

 スミスに一言断わってから電話に出る。

 

「もしもし」

『やー、久しぶり。今電話しても大丈夫?』

「あー、ちょっと待ってくれ………」

 

 俺の時もそうだったが、ファストドロウの競技中、周りの人は物音を立てないよう注意する必要がある。

 雑音は千分の一秒を競っている彼らの集中を妨げることになるからだ。

 実際スミスとの会話も、実は何度も途中で途切れている。

 俺はハンドサインでスミスに会場の外に出ることを伝えると、その場を後にした。

 

「ん、いいよ」

『悪いね、取り込み中だった?』

「いや、ファストドロウの競技中。俺の番は終わったから大丈夫だよ。それにしても、久しぶりじゃん」

 

 前に連絡したのは、たしか姉さんの誕生日だった。

 何となく気が向いて、ハッピーバースデーを伝えたのだ。

 

『どう、社会人生活は? イイ人見つかった?』

「いや、探してすらいないよ」

『そんなんだから未だに童貞なのよ。アラサーって呼ばれる年齢に入ったんだから、そろそろ探し始めないと。良い人から売れていくんだからね』

「姉さんみたいに?」

『そうよ、私みたいにイイ女は売れるのが早いの。あんた拳銃好きなんでしょ。ハートを撃ち抜くためにも、まずは標的を見つけなきゃ』

「見つけたら、お得意の早撃ちでってか?」

『そうそう。でも、下の早撃ちはダメよ?』

 

 マジもう、姉さんは………。

 下ネタは勘弁してくれよ、つーか本題が全然見えてこない。

 

『ああ、ごめんごめん。積もる話はあるけど、それはまた今度にするわ』

「そうしてくれ。時間があるって言っても一時間も二時間もあるわけじゃないから」

 

 スタンディング・ワックスもそろそろ終わり、昼休憩に入る。

 飯抜きなんて俺は嫌だからな、話せるのは精々十分くらいか。

 

『あんたさぁ、ゴールデンウィーク空いてる?』

「ゴールデンウィーク? ちょっと待って、スケジュール見るから」

 

 通話をそのままに、カレンダーアプリを起動。

 一ヶ月分を送り、予定を確認する。

 

「空いてることは空いてるかな。一日だけファストドロウの定例会があるけど」

『よかった。お願いなんだけどさ、芽衣(めい)のことゴールデンウィークに預かって欲しいのよ』

 

 芽衣ちゃん。

 姉さんの一人娘で、つまりは俺の姪だ。

 確か、今年で十歳になる。最後に会ったのは…………五年前か。

 父さんの葬式で会ったのだが、義兄さんの影から顔を出し、「はやみ めい……です」と挨拶してくれたのを覚えている。

 その後すぐにまた影に隠れてしまったが。

 

「芽衣ちゃんか、毎年姉さんからの年賀状の写真で見てるけど、大きくなったよね」

『実物は写真よりキュートよ』

「それは義兄さんの写真の腕が悪いから?」

『そうそう、何万画素あったって、旦那の腕じゃねぇ』

 

 辛辣ぅ。

 けど、まあ、写真の腕は年賀状で分かるから、擁護してあげられない。

 

「それで、預かるのって一日?」

『出来れば二泊三日くらいかな』

「それって母さんの所じゃダメなの?」

『母さん、老人会の旅行でゴールデンウィークまるまる居ないのよ』

 

 そうか、母さんは相変わらず元気そうで何よりだ。

 父さんが生きてた頃よりも、元気なのはご愛嬌だな。

 別に仲悪かったわけじゃないぞ? というか、こっちが引くぐらい両親は仲良かった。

 

「じゃあ、仕方がないか。しかしまた、突然だな」

『いやー、そろそろ二人目が欲しいと思ってるのよ』

「………は?」

『だから、二人目。子供よ子供』

「いや、それはわかるけど………」

『生理の周期計算したら、ちょうどゴールデンウィーク辺りなのよね、危ない日』

「…………つまり、あんあんしてるところを芽衣ちゃんに見せないために、俺の所でお泊りさせると?」

『そうよ、ダメ?』

 

 そんな理由………いや、深刻なことなのか?

 俺はたっぷり時間をかけて悩んだ。

 悩んで悩んで悩んで、悩んだ末、

 

「………貸し一つな」

『いいわ、今度友達を紹介してあげる』

「そういうのは要らない。菓子折りでも送ってくれ」

 

 取り敢えず、来客用の布団を用意するか。

 俺は姉さんとの通話を終えると、スケジュールに芽衣の来訪を書き加えるのであった。




次回、芽衣ちゃんが登場。
まだ、どんな子か決めてないけどな!!

感想お待ちしています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。