どこかの世界で織のハッピーエンド   作:トンマのマント

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みなさんご機嫌いかがでしょうかトンマのマントです。
一人称での物語はキャラがブレてしまっているのではないかと心配になりながら書いております。



2話

退院してから数日が経った。

数日の大半の時間は地獄のような修練に費やし、残りの時間はかつてのように寝て過ごした。

修練を終えるとどうしても感覚が過敏になり、死の線が普段よりもより鮮明に視えてしまう。

まったく気が滅入るばかりだが、何も悪い事ばかりではなかった。

その昂った神経を抑えるという作業を通じて、徐々にだが眼の制御法も理解してきた。

要は視すぎるから視えるのだ。

ならば自分の視ている視点をずらし、俯瞰することで対象を直接視なければいいい。

それがこの眼を扱っていくうえでの最適なのかもしれない。

そうしてまた眠りにつく。

夢は決まっている。

『シキが幸せに暮らしている』

その光景は何よりも眩く、また何よりも得難いものだ。

だから違ったものを見たことに驚いた。

 

式がこの眼を持ち苦しんでいる姿を見た。

女の魔術師が式と談笑する姿が見えた。

式が死体に襲われていた。

式が彼と顔を合わせていた。

彼は泣きそうになりながら、こちらに笑顔を見せていた。

 

目を醒ます。

あの夢は何だったのか。

オレが見たいと思った夢なのか、それともあちらで起こった現実なのか。

なんにせよ夢とはいえまた彼の顔を間近に見れたことは嬉しかった。

だからだろうか。

久しぶりに外に出てみたくなった。

どこに行くのかなんて決まっていない。

ただ気の向くままに足を運ぶ、という行為をしたくなった。

だが季節は冬。

いくら寒さに強い身体でも、夜間何も羽織らずに外を歩くにはいささか気が引ける。

『例えば皮のジャンパーとか?』

彼の言葉を思い出す。

かつて気に入った赤いジャンパーがあるかはわからないが、あれに似たものが手に入れば嬉しい。

そう思いながら屋敷を出た。

 

足を運んだのは繁華街。

探すのにいくらか手間がかかるかとも思ったが、思いの外簡単に見つかった。

似たものではなく、全く同じと言っていいものが手に入ったのは素直に嬉しかった。

 

買ったばかりのジャンパーに袖を通す。

目的は果たしたがもう少し街をぶらつく。

ビルに取り付けられた大型ビジョンに映し出されたキャスターがなにやら騒がしくニュースを読み上げている。

内容は世界で初めてISを扱える男性が現れた、というものだった。

インフィニット・ストラトス、通称IS。

よくわからないが、宇宙でも活動可能なパワードスーツらしい。

その最大の特徴は女性にしか扱えないという点。

この兵器の登場で世界は女尊男卑社会へと変わっていった、とのことだ。

いくら(オレ)が世間に関心がなかったとしても、こんなものにまで関心を払わないということはない。

だからおそらくこのISの存在があちらの世界とこちらの世界での最大の違いなのだろう。

あちらでは少なくとも事故に遭う超然までにそんなものが生み出される兆候などはなかった。

だがそんな違いも結局は些末事だ。

アレに今後関わるとは思わないし、女尊男卑社会も多少影響があるだけだ。

だからこれ以上の喧騒は御免と感じ、大通りに背を向け小さな脇道へと足を運ぶ。

背中越しにキャスターの声が届く。

近々男性のIS適正検査が検討されているとのことだった。

 

数日後、政府の通達により男性のIS適性検査が実施されることになり会場へと足を運んだ。

ざっと周りを見渡すが、その反応は様々だ。

普段は触れることなどないものに触れられるということで興奮している者たち。

自分でも動かせるのでは、と躍起になる者たち。

どうせ動かせないのだからさっさと終わってほしい、と溜息をつく者たち。

対して、この検査を執り行う女性たちの視線は冷ややかなものだ。

どうせ男が動かすことなどできない、貴重な休日が無意味な行為に費やされる、という態度をありありとみせる職員が何人か見受けられる。

検査は順当に進んでいく。

結果は例外なく反応なし。

検査を終えた人数が半分を超えたあたりから、場内には嘆息が聞こえ始めた。

多くの人が少なからず期待を持っていたということだろう。

検査はさらに進む。

順番が巡ってくる。

さっさとISに触れて決まりきった結果を見てこの茶番を終えよう。

別段ISに興味があったわけでもない。

名前が呼ばれ機体の前に立つ。

腕を伸ばしそれに触れようとした瞬間、とても嫌な予感がした。

思わず手を止め、それを凝視する。

 

「どうかしましたか?」

 

職員が怪訝そうに声をかけてくる。

このまま触れない、ということはできないだろう。

一つ溜息。

手を伸ばしISに触れる。

甲高い金属音が頭をよぎる。

「ッ!」

唐突に起こった出来事に舌打ちをしながら思わず手を放す。

だが遅かった。

情報が頭に叩き込まれる。

機体が光を放ち、機動音が鳴る。

周囲がざわつく中で、オレはただ黙って機体が動き続けるのを見る他ない。

機体が動きを止める。

閉じられていた胸部の装甲は、搭乗者を乗せるべく開かれている。

周囲のざわめきがより大きくなる。

 

「君、こちらへお願いします。

「クソッ...なんだってオレが」

 

職員が別室へと促すが、望んでもいない事態つい悪態をつく。

それでもとりあえず彼女たちについて行く。

そこからが長かった。

オレの存在がいかに貴重であり日本にとってどれだけ重要であるかを説かれた。

はっきり言ってそんなことはどうでもよく、内容など半分も覚えていない。

それだけにとどまらず好待遇を条件に様々な研究調査の機会を提供してもらえないかとの打診も受けた。

だがモルモットになるつもりはなく、その打診ははっきりと断った。

職員はその後もいろいろと話を続けたが、すべてを聞き流すこと計三時間。

ようやく話が終わり解放されたと思えば次は大量に群がったマスコミに野次馬たち。

そんなものを相手にしている気分ではないため、早々に踵を返す。

ちょうど視界に入った職員の女性に話しかける。

 

「なあ、ちょっといいか?」

「ん? ああ、お前が二人目か。 何か用か?」

「外の奴らを何とかしてくれないか? あれじゃあ帰ることもできない」

 

そう言って背後に視線を向ける。

 

「確かに、あれでは帰れまい。 わかった。 あれはこちらで何とかしよう。 少し時間がかかるだろうから、座って待っているといい」

 

職員はそう言うとエントランスへと歩いていく。

だが彼女は歩みを止めるとこちらを振り返った。

 

「今回は何も言わないが、口の利き方には気を付けておけよ、ガキ」

「ガキか...」

 

これでも年齢は三十後半らしいが、肉体的には十六なので十分にガキと言えるだろう。

そのまま歩いていく女を見送り、椅子に腰かける。

それから十分ほどして先ほどの女が戻ってきた。

 

「さあ、奴らは大方退かしたぞ。 気を付けてと帰るといい」

「ああ、ありがとよ」

 

席を立ち女に礼を言うとエントランスに向かって足を運ぶ。

しかしそこに女の待ったがかかる。

 

「貴様、名は何という」

「なんだよ、あんたも今日の職員なんだろ?ならわざわざ聞く必要なんてないんじゃないのか?」

「たしかにそうだ。だが名というものは見て知ればそれで終わりというものではないだろう? 名とはその人間に名乗られて初めて意味を成すと私は考える。だから名を聞いているんだ」

 

なんというか、堅苦しい奴だ。

だが、その考えは嫌いではない。

両儀という苗字にも、シキという名前にも意味を持つオレからすれば、名乗るという行為にも意味を見出す人間は好ましく感じる。

 

「オレは両儀織。あんたは?」

「私の名は織斑千冬だ。聞いたことがないか?」

「いや、ないな。ここ数年は寝っぱなしだったからな。あんた有名なのか?」

「なに、少しばかりISの扱いがうまかっただけにすぎん。それよりもなにやら不穏なことを聞いたが、それはまた今度会ったときにしよう」

「そうしてくれるとありがたい。じゃあな織斑」

「口の利き方には気をつけろといったろうに。まあいい、身体に気を付けて帰れよ、両儀」

 

織斑のいたわりに手を振って返す。

外にいた連中はそのほとんどが姿を消していた。

残った奴らは無視して歩を進める。

今日はこのまま街を彷徨うことにしよう。

 

そうして足を運んだのは暗い路地裏。

かつて占い師の老婆に出会った場所に似ている。

もう一度老婆の言葉を思い出す。

今は感じることさえできない自分()

それでも、あの老婆の言葉を信じてただ幸せを祈る。

届くことはないが、それでも。

 

「こんばんはこんなところで何をしているのかな?」

「ん?なんだアンタ」

 

背後から声がしたかと思い振り返えれば、そこにいたのは奇抜な格好をした女。

気を抜いていたとはいえ、話しかけられるまで気づかなかった。

その事実に少しだけ女を警戒しナイフを持つ力を強める。

 

「そんなに警戒しなくていいよ~。私はただお散歩しに来ただけだからね!」

 

暗い路地裏には似つかわしくない明るすぎる声色。

すると女が唐突に右手を差し出してきた。

 

「こんなところで会ったのも何かの縁だからね!その記念に握手でもしないかい?」

「はぁ?」

 

思わず間の抜けた声が出てしまう。

 

「いいじゃないか~。袖すりあうも他生の縁っていうじゃないか!」

 

笑顔で右手を差し出し続ける女。

面倒だが、何か感じるものがあり無視することもできない。

溜息を一つ。

腕を伸ばし女の手を握る。

 

「うんうん!面白いことがあって、面白い出会いがあって、今日はとってもいい日だね!君はどう思うかな?」 

「最悪だ。厄介ごとが起きて、よくわからない出会いがあったんだからな」

「ありゃりゃ、これは辛辣だ。でも良いことも悪いこともあるのが人生ってやつだからね!」

 

そう言って女は握っていた手を離し身をひるがえした。

 

「それじゃあ私はもう行くよ! 済ませなくちゃいけない用事ってのができたからね! バイバーイ!」

 

走り去っていく女。

 

「変な女だ」

 

あの女はオレとの握手でオレについての何かを掴んだらしい。

だがそれはオレも同じだ。

奴と直に触れあったことで、感じたものの正体がわかった。

アレはオレと同じ()()()だ。

だから少しだけ興味を持った。

奴とはまたいつか必ず出会う。

そんな予感を覚えながら、また深夜の徘徊を再開した。




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