【本編・小話集】東方龍遊譚   作:在原虚也

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ちょっとgoogleドライブで公開した場合いろいろとまずい状況になると気付いたので、ハーメルンに上げなおし。
この物語は、東方龍刻想紀、及び#紅眼の三剣銃 の関連小説です。


[ティカル生誕2020]青き春の一歩

「……へぇえ~~~~~~~……なるほどねぇ」

 

「……なんですか、その顔。なんか文句でもありますか?」

 

「あっはははは、いんや~?君にもそういうとこ、あるんだなぁって思ってね」

 

 四月十日。在原虚也の事務所に訪ねてきたのは、赤と白を基調とした和装に深紅の髪を一つにまとめ、同じく深

紅の瞳を持った青年。

 

名前はFaye。虚也や龍我とは顔なじみの人物で、特に龍我とは一時期行動を共にしていたこともあるらしい。

 

そんな彼が訪ねてくること自体は特段珍しいことでもないのだが、虚也の興味を刺激したのはその様子。

 

普段は龍我と同様全世界を俯瞰したような風格を醸し出し、年不相応な態度をとっていた彼が、その頬をほんのり赤く染め、照れくさそうに肩を揺らしているのだ。

 

「そ、そういうとこって何ですか!俺は別に、ただ家族として、普段のお礼って意味で!」

 

「だぁれもティカルちゃんのことだなんて言ってないでしょうが」

 

「あっ……!」

 

「あっははははは、ずっぼし~~」

 

「ぐぬぬぬぬ……」

 

 ティカル、というのは、Fayeが幼少期から共に時間を過ごしてきた少女のこと。血は繋がっていないらしいが、互いに“家族同然”と評しあっており、Fayeにとって最も大切な人物の一人だ。

 

「それで?わざわざ龍我ではなく俺に相談してきたということは、つまりはそういうことで、いいんだよな」

 

「……まぁ、そうですよ。もうあと三日で、彼女の誕生日だっていうのに……」

 

「プレゼントが決まらない、と」

 

 無言でFayeは頷く。思った通りだ。

 

「あっははは、そりゃあそうだよなぁ。そんな相談あの朴念仁にしたところで、わかるわけねぇよなぁ」

 

「貴方に相談することも相当な博打なんですけどね」

 

「言ってくれるねぇ。これはこの在原虚也、本気出しちゃわないとな!」

 

「ああ、不安が増した……」

 

 Fayeの不安などどこ吹く風、今日も白玉楼に虚也の笑い声が響くのだった。

 

 

 

 

「きゃぁぁあ~~~~~!!なにこれ!かっわいい~~~~~~!!」

 

「ティカルちゃんティカルちゃん!ねぇ見て、こんなのもあるよ!!」

 

「わぁあ!すごい、梨理ちゃんすっごくにあってるぅ~~!!」

 

 ところ変わって、人里の呉服屋。Fayeの相方・ティカルは、藍と虚也の義娘・白鷹梨理と共に、ショッピングに来ていた。

 

「梨理、ティカル、あまりはしゃぎすぎるて迷惑にならないようにしなさいよ?」

 

「は~い、わかってます!」

 

「大丈夫~!むしろ、藍お姉ちゃんも楽しも~よ~!」

 

「残念、私は監視役であると同時に財布でもあるんだ。貴重品の管理をしなければならない都合上、そう手放しではしゃぐわけにも……」

 

「あ、みてみて!これ、藍お姉ちゃんにすっごく似合ってる!」

 

「わあ、すごい!あ、こんなのもどお?すごく女の子っぽくてかわいい!」

 

「聞けぇえ!」

 

 どれだけ大人の藍が止めようとも、ティカルも梨理も可愛いもの好きかつはしゃぎ盛り、いうことなど聞きやしない。二人に同時に目をつけられた藍は、瞬く間に二人の着せ替え人形にされてしまう。

 

「そもそも、ここに来た本来の目的は、ティカル、お前の服を選ぶためだろう?どうして私に似合う服など選んでいるのだ。」

 

「「 か わ い い か ら ! 」」

 

「……あっそう……」

 

薄々感づいてはいたものの、こうも同時に強調されるとため息しか出ない。結局のところ、藍自身も下手に注意して期限を損ねられるよりは身を任せた方が楽だろうという結論に達し、呉服屋を出る頃には、藍用に買った服の方が値段が張ってしまうことになるのであった。

 

 

 

 

「う~~ん、一応完成はしましたけど……あんな感じで、本当によかったんでしょうか?」

 

「十分だと思いますよ。気持ちの籠った、いい作品だと思います」

 

「それなら、いいんですけど……」

 

 白玉楼の座敷。一通りの作業を終えたFayeは、虚也の妻・魂魄妖夢と共に、お抹茶を嗜んでいた。

 

「何か、不満が残る顔つきですね?」

 

「……不満というか、不安というか……いや、其れとも違うか……」

 

茶菓子を口にしながら、煮え切らない態度をとるFaye。その様子を、妖夢は穏やかな笑みで見つめている。

 

しばらくそうしていると、少しずつ、Fayeが言葉を紡ぎ始める。

 

「……ティカルは、ずっと……家族同然、姉妹同然で、プレゼントをあげるのも、家族だから。そう、思っていたんです。」

 

「……家族、ですか。」

 

静かに、Fayeの言葉を繰り返す妖夢。何でもない、ただの相槌ではあったが、彼の心を整理する役割は十分果たしてくれた。

 

「そう。家族なんです……だから、今年の誕生日だって、同じようにすればいい、そのはずだった。でも……なんでか、それじゃあいけない気がして。もっと特別な、彼女にとって、何より素敵なものをあげないといけないって、そんな気がして……」

 

「……家族である、その気持ち以外に……別の意味での、“特別”。それが、いつの間にかあなたの中にできていた。そういうことですね。」

 

「……たぶん。」

 

 Fayeの中にある迷い。自分の変化についていけない焦燥感と、その変化を他に影響させてしまう不安。少年らしい、青く、眩しい痛み。

 

 勿論部外者が直接手を出していいことではない。だが、こういう背中を押すことは、先達である自分の役目。そう思った妖夢は、まっすぐにFayeを見つめ、言葉をかけた。

 

「大丈夫。その“特別”は、何も悪いことではありません。あなたに起きた変化は……ティカルさんへの想いが、より強固な形を持ったに過ぎません。寧ろ、より純粋に……一人の人間として、彼女を愛することが出来るようになった。その証なんですよ。」

 

「……一人の、人間として……」

 

「そう。だから、不安に思うことはありません。あなた自身の想いを、あなた自身の言葉と作品で、しっかり伝えてあげてください。それがきっと……彼女にとっても、なにより素敵で特別なプレゼントになるはずです。」

 

「妖夢、さん……」

 

妖夢の言葉、その一文字一文字をFayeは噛みしめる。顔を上げる頃、その瞳にもう迷いはなかった。

 

「ありがとうございます、妖夢さん。おかげでなんだか、すっきりしました。」

 

「ええ、どういたしまして。応援してるからね。」

 

「はい!」

 

 

 

 

「……お前も随分と丸くなったな、藍」

 

「うるさい、単に制御が面倒だっただけだ」

 

 はしゃぎつかれて眠ってしまったティカルと梨理を連れて道述邸に戻った藍は、龍我と雑談を交わしながら二人を布団にくるめてやる。藍の服装は、フリルやリボンを多めにあしらった、青を基調としたワンピース。普段の法衣姿とは全く違ったファッションに、龍我も驚きを隠せないでいた。

 

 梨理の服装も、こげ茶と白のチェック模様にボリュームのあるスカートと大きく変わっていた。

 

「おそらく今日買った服なんだろうが……ティカルだけ着替えずに袋に入れたままなのはどうしてだ。」

 

 龍我の指さす方向には、呉服屋のロゴのついた袋が数着。藍達の元々来ていた服と、ティカル用に新しく買った服だ。

 

「さあ、どうしてだろうな。おまえなりに推測してみたら、少しは女心というものがわかるかもしれないぞ。」

 

「……別に、興味ない。そろそろ俺は研究室に戻るから、あとは好きにしろ。」

 

「ああ、わかった。」

 

退室する龍我に「そういうところだぞ」とつぶやきながら、藍は寝ているティカルの頭を優しくなでる。

 

 ティカルが服を買った後、すぐに着なかった理由。

 

 着飾った姿をいちばんさいしょに見せるのは、Fayeでありたいから。

 

 最初に聞いたときはこっちまで恥ずかしくなってきそうだったが、もしかしたらそのくらい大胆でないと、つたわらなかったりするのかもしれない。

 

「でもまぁ、よかったなぁティカル。お前の恋人が、あれほどのっ朴念仁じゃなくってさ。」

 

大丈夫…おまえの気持ちは、しっかり伝わっているよ。そう思いながら撫でていると、ティカルの方も、徐々に寝言を漏らし始める。

 

 

 

「……Faye……Faye……すき、だいすき……」

 

 

 

 

 

 そうして迎えた、四月十三日。ティカルにとって、またFayeにとって、なによりも大切な日。

 

白玉楼から秘密裏にとどいたプレゼントを丁寧に包み、Fayeは隣の部屋へ向かう。

 

 この時間なら、ちょうどティカルも起きてくるころだ。

 

 Fayeは心の中で、もう一度繰り返す。

 

 何度も言ってきたはずなのに、恥ずかしくて、言いづらくなってしまった言葉。

 

 

 

ティカル……誕生日、おめでとう。

 

<完>

 

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