朔月さん家のお母さん   作:ちみっコぐらし335号@ひよこママ尊い

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※プリヤ世界と美遊世界がフュージョンして平和になった感じのふわっとした世界観。カニファンとか、割とあっち系。
※あとがきにネタバレ等含む。ネタバレを気にするTVアニメオンリーの方は注意。原作ドライ過去編or映画見た人であれば気にする必要はないかと(多分)。
※PRISMA material/pre記載の設定と僅かな台詞を元に、色々と妄想をこねくり回した結果、ここに幻想を投影s(ry


陽代子さんと士郎くん

 使い慣れた工具を携え、私服の士郎が目的地に向かう途中のことだった。

 ふと少し先の通りに、どこか見覚えのある女性の、しかし馴染みの薄い服装をした後ろ姿が見えた。

 

「…………陽代子(ひよこ)さん?」

 

 呟き程度の声量であったが、余程耳聡いらしい。

 彼女は振り返ると少し目を見開いた後、身軽に駆け寄ってきた。

 

「あら、士郎くん!? 偶然ね、元気してる?」

 

 目の前にいる黒髪の綺麗な女性の名は、朔月(さかつき)陽代子。

 妹の友達の母親、という言葉にすれば一見繋がりの薄い間柄だが、家族ぐるみの付き合いも相まって、士郎ともそれなりに親しい大人の方である。

 

「ええ、まあ。それにしても珍しいですね、陽代子さんが洋服を着てるなんて」

 

 淡い色合いのカーディガンとスカート。

 おしゃれには疎い士郎をして爽やかさを感じさせる見事なコーディネイトであると言わざるを得ない。

 

 しかし、だからこそ違和感を覚えた。

 朔月家が天正より続く旧家だからなのか、普段彼女を見かける時は着物姿が大半であり、そのため上品に仕立てられた着物を纏っている印象が強い。

 先ほど声をかける際に自信が持てなかった原因はここにある。それだけ洋装姿は馴染みがなかったのだ。

 

「今日は冬木の外に行ってたから。ほら、冬木の皆さんは慣れてるけど、外の人は違うでしょ? だから一応、目立たないように洋服を着たの」

 

 どう、悪くないでしょ? と笑みを浮かべる陽代子。

 しかし、忘れてはならない。彼女は、通行人十人とすれ違えば十人ともが振り向くようなレベルの美人さんである。

 着物を着てようが着ていまいが、注目度に関してだけは割と無駄なんじゃないかなー、と思いつつも、士郎は曖昧に頷いた。

 

「それで一体、何をしに冬木の外に行ってたんですか?」

 

「もー! 別に敬語じゃなくてもいいのにー。美遊(みゆ)と話す時みたいに!」

 

「い、いや、さすがにそれはちょっと…………」

 

「前の合同バーベキューの時だって私だけ敬語でなんか疎外感あったのよねー、イリヤちゃんのイリヤニウム摂取すれば私もフレンドリーに話しかけてもらえるかしら?」

 

「へ、イリヤニウム……?」

 

「それともいっそ、アイリを見習って私も士郎くんのママになるとか」

 

「なんでさ!?」

 

 思わず工具箱を取り落としそうになりながら叫ぶと、陽代子は朗らかに笑っていた。

 

「そうそう、そんな感じでいいのよ」

 

「善処させてイタダキマス……」

 

「はい、早速できてなーい」

 

 文句を言いつつも、終始にこやかな表情の陽代子。

 今まで二人だけで会話した経験はほとんどなかったが、何となくこの人には勝てそうにないなぁと士郎は嘆息した。おそらく義母と同類である。

 

「それで、用事は何だったのか、よね? それはね…………これ!」

 

「…………免許証?」

 

 陽代子が取り出したのは紛う事なき運転免許証だ。本人の名前と顔写真が記載されているので、間違いない。

 写真映りいいなぁと感心し、生年月日からは目を逸らしつつ、たどり着いた下段。赤い斜線で色付けられた表に、ズラリと文字が並んでいた。

 

「…………ん?」

 

 普通、原付、中型、大型…………。表の左に『種類』と書かれているので、これらは運転できる車の種類を表しているのだろう。

 それはわかる、のだが…………。

 

「大自二?」

 

 何のことだろう。士郎は首を傾げた。

 同じ表内部には『大二』の文字もある。両者の違いは何だろうか。

 

「ふふふ、それは『大型自動車第二種』の略称…………つまり、お客さんを乗せたバスとかが運転できる証よ!」

 

「な、何だってー!?」

 

 バス運転手にでもなるつもりかこの人――――!?

 

 だがしかし、士郎の驚愕はこれでは終わらなかった。

 

「今日取ってきたのはこっち、『大特二』! これなら除雪車やフォークリフト、果ては戦車だって運転できちゃうんだから!」

 

「どこ目指してんだアンタは――――!?」

 

 どこからか取り出したハリセンと共に士郎のツッコミが炸裂した。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「『大特二』はね、教習所で取り扱ってないから試験会場で技能試験から何まで全部受けないといけないのよー、これ所謂(いわゆる)飛び込み試験ってやつなんだけど」

 

 その後、陽代子は何事もなかったかのように会話を再開させた。

 

「『牽引(けんいん)二種』も会場オンリーだからまた行かなくちゃ、一回で済めばいいんだけど」

 

「それはまた、何のために?」

 

「もちろん、運転免許全種コンプリートのため!」

 

「いやだからそれが何のためかって聞きたいんですけど」

 

 先のやり取りを経て士郎の敬語は多少雑になっていたが、陽代子は気にすることはなく、むしろ心なしか嬉しそうな雰囲気を漂わせながら、おとがいに手を当てた。

 

「うーん……………………趣味?」

 

「趣味?」

 

「そ、暇を持て余した一人の親の、ね」

 

 うちの子、最近ますます手がかからなくなっちゃったから。おかげで苦手だった『ぱそこん』も大分マシになってきたのよ。

 そう語る陽代子の声には、喜色の中に少しだけ寂しさがにじみ出ているようだと士郎は感じた。

 

「士郎くんのそれだって似たようなものでしょう?」

 

 つ、と陽代子が指差したのは、士郎がずっと持ち続けている工具箱。

 

「また人助け?」

 

「ええ、まあ。一成…………学校の友達に頼まれて、ちょっとそこの銭湯まで。何でも、ボイラーが壊れたとかで業者に修理依頼を出したけど、これはもう直せないから買い換えてくれ、って言われたらしくって。それで柳洞寺の方に泣きついたとかで」

 

 その後は、お寺の息子である一成が「修理の得意な知り合いに頼んでみるから、それでダメなら買い換えてほしい」と説得し、士郎に話が回ってきたのである。初めは、さすがにボイラーは管轄外だと断ろうとしたが、直せなくても構わないからと言われ、つい引き受けてしまった。

 

 経緯を全て話し終えると、陽代子はポンと手を叩いた。

 

「私も一緒に行っていいかしら?」

 

「………………………………はい?」

 

 

 

 ◆

 

 

 

「柳洞寺さんから頼まれてきました、衛宮です」

 

 銭湯に着いてそう自己紹介すると、すぐにボイラー室に案内された。

 途中、着いてきた陽代子に対し胡乱気な視線を送られたが、彼女自身は助手だと言い張り、結局ここまで来たのである。

 

 案内してくれた壮年の男性は、掃除をしてくるから一時間ほど席を外すという。

 斯くしてボイラー室には士郎と陽代子の二人だけになった。

 

「………………………うーん」

 

 ボイラーを見つめながら士郎は唸った。

 一成からはポーズでも大丈夫だと言われたが、全く何もしないという選択肢は士郎の中には存在しない。しかしボイラーは大きい。

 一体どこから手を付けたものかと悩んでいると――――――。

 

「これ、水管ボイラーね。まあ小型ならそうよね普通」

 

 横で陽代子が訳知り顔で頷いていた。

 

「陽代子さん、わかるのか!?」

 

「ふふふ…………何を隠そう、ボイラー技師の資格だけでなく、こないだボイラー整備士資格をも取得した主婦とは私のこと! これぐらいなら、っと」

 

 彼女は士郎の持ち込んだ工具箱の中からいくつか工具を取り出すと、目を見張るような早さで作業を行っていく。

 流れるようなその手つきに思わず見とれていると、不意に陽代子は手を止めた。

 

「ここね」

 

「まさか、直せるんですか…………!?」

 

 士郎の問いに対し、首肯を以て応じる陽代子。

 

「これ診たのきっとニワカかモグリね、まあこれぐらいならちゃちゃっといけるでしょ! 本職に任せなさい!」

 

 …………いやあなた、本職主婦でしょう。

 士郎の無言の突っ込みは当然誰にも届かない。

 

 しかし、彼女は士郎の工具を用いて、宣言通りにちゃちゃっと終わらせてしまった。

 

 

 ――――――そう、士郎の妹の友達の母、朔月陽代子はやたらとハイスペックなのである。

 

 

 

 

 

 

 

 その後、士郎は今回の顛末を聞きつけた一成から多大な誤解を受け、それを解くべく奔走することになるが、些末な問題であった。

 

 




 サブタイトル設定しましたが、別に次話のフラグだったりはしません。しませんったらしません。


【以下、解説的なサムシング】

>目の前にいる黒髪の綺麗な女性
 美遊に似た面影を持つ。映画においては、回想場面で目元より下が描かれている。マジ尊い。

>イリヤと美遊
 二人はズッ友。そんな微笑ましい光景を見つめるひよこママ、尊い(確信)。

>イリヤニウム
 アインツさん家のイリヤちゃんとの接触によって得られる謎の物質。様々な効果があるというが、当然のごとく科学的には立証されていない。
 ちなみに覚えておく必要は特にない。こういうのはノリなんじゃからー。

>なんでさ
 まひろちゃん曰わく「今日も一日にゃんぱすには内緒で駆逐してやるフレンズなんだね」。
 拙作も二次創作のご多分に漏れず、士郎は「なんでさ」と口にする。なんでさ。

>おそらく義母と同類
 拙作の当初予定していたタイトルは『アインツさん家と朔月さん家』であり、アイリママとひよこママを絡ませる予定であった。しかし想定以上に話が膨らんだ結果、このままでは膨張しすぎで収拾つかずお蔵入りになると判断し、士郎との絡みのみで終了。そのまま公開するに至った。しかし、このあとがきの執筆だけで二時間以上かかっており、それだけの時間があれば何かしらの続きが書けたような気がしなくもない。
 拙作において何やら仲が良さそうにしているが、実はこの二人、映画において直接の面識はない。何故ならば士郎らが美遊を保護する前に、陽代子以下朔月の屋敷にいた者は行方不明になっているからである。しかし士郎は残されていた日記を読み、母から娘(美遊)への何よりも深い愛情を知るのである。ひよこママ尊い。

>運転免許証のあれこれ
 2017年現在の情報を元に執筆しております。公道で戦車を動かすのに『大特二』が必要なのも本当。パンツァーフォー!
 ケリィ「」ガタッ

>どこからか取り出したハリセン
 (投影では)ないです。

>苦手だった『ぱそこん』も大分マシになってきた
 ひよこママが『ぱそこん』関連不得意なのは公式裏設定。まひろちゃん曰わく「時代が時代だし」。
 拙作においては多少改善された模様。しかし、どれほど改善されたのかは現時点では不明である。

>柳洞寺さんから頼まれてきました
 ○○屋さんから~、とかそういう感じの口上。一成からそう言うように指示されていたようだ。

>ボイラー技師の資格だけでなく、こないだボイラー整備士資格をも取得した
 ボイラー技師の資格を有しているのは公式(ガチ)。暇潰しなのか特に使うことのない資格を取りまくっていたらしく、なんとフグの調理もできるらしい。美遊と同様、色々と高スペックなマッマ。そんなところも尊い。
 拙作ではボイラー整備士の資格もゲットしている。美遊が成長したことで、余暇はむしろ増えている模様。

>今回の顛末を聞きつけた一成から多大な誤解
 若い男と、助手だという謎の美女が狭い室内で二人きり。ま、是非もないよね!
 ちなみにその後、ロリっこたちに様々な尾鰭の付いた話が伝わり、関係各所を巻き込んだ大騒動にまで発展したことに比べれば、親友一人の誤解程度は些事、間違いない()。
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