01:物心×祖父
【転生】
これには大きく分けて二つのパターンがある
一つは何かが原因で死亡後に同じ世界、もしくは別の世界で赤ん坊から人生を別人になってやり直すというもの、
もう一つは何かがきっかけで前世を思い出し、結果的に転生したということに気づくパターンだ、
ちなみに俺の場合は後者だった。
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片田舎の何てことはない普通の平屋、そこで老人が孫であろう男の子を膝に乗せて本を読んでいる
そんな、見ているだけで平穏という言葉が頭によぎる光景の中で俺は唐突に何の前触れもなく前世を思い出した
そのときの衝撃は凄まじいもの、というほどでもなかったな、うん
まぁびっくりはした、受験日に会場で受験票を忘れたくらいの衝撃だ、一瞬頭が真っ白になるだけで済む
ん、洒落にならない? 大丈夫大丈夫、来年もあると思えば開き直るから
まぁ、最初はびっくりしたけど持ち前のポジティブ感でもって開き直ったって話だ。
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「っえ!?」
なんじゃこりゃ、え?待って、ナニコレ、は?
「どうした『カイト』、突然声を上げて?」
見上げると髭もじゃのじいさんが俺を見下ろしていた、
誰あんた・・・いや俺の祖父だわ、あぶね声に出すとこだった
んでもってカイトって・・・カイト、そうだ、そうだった今の俺の名前だ
「・・・んーん、何でもない、それよりも早く続き読んでー」
「?・・・ま、ええじゃろ、どこまで読んだかのぉ、おお、ここじゃったな・・・『そうしてー英雄であるアルスターは―――』」
あっぶねーセーフセーフ、いきなり前世のことを思い出しましたー、なんて言ったらこの世界でなくとも間違いなく痛い子扱いだ、最悪、気味悪がられて捨てられかねない、まぁ、今までのカイトとして生きてきた記憶からこのじいさんが孫を捨てるとは思えないけど、変な子扱いされるよりは何も言わない方が双方のためだろう。
しかし、まいったねこりゃマジで転生って奴なのか、完璧ではないが何となく前世の地球人であった頃の記憶が今のカイト、俺の記憶に追加されている
えーと、前世の死因は――ひき逃げっすか、しかもリア充っぽいヤンキーカップルに挽肉みたいに念入りに殺られたと、クソがっ!
こいつら絶対許さん、文字通り死んでも許さんぞ、とりあえず末代まで祟っておこう南無南無
――――閑話休題
さて一旦落ち着こう、とあえず今ままでカイトとして生きてきた5年間の記憶からこの世界の情報をまとめてみると――
Q1:ここはどんな世界?
A1:剣と魔法の世界、時代は中世♬
Q2:家庭環境は?
A2:祖父が一人、両親いない、弟一人、裕福ではないが特別貧しいわけでもないZe!
Q3:お名前は?
A3:かいとくらねる、よんさいです✰
以上だ。
さすがに5歳児ではこの世界についても自身についても、持ってる情報が少なすぎるな、今後は情報収集に努めよう
まぁ、死んだのは残念だがこうやって生まれ変われたわけだから前向きに行こう
ただ、問題があるとすればここが異世界であるということだ、もし地球の現代なら色々と子供の頃から勉学やスポーツで無双できたんだが、剣と魔法の世界となると勝手が分からない、子供の頃から二次方程式や三次方程式が解けたところで役に立ちそうにない、っていうかよく考えたら前世で社会人になってからも役に立った事なんかねぇな、英語がペラペラで筆記もOKでもここでは意味がないっぽい、いや、だっって、そもそも文字自体が違うことが目の前の絵本を見れば分かってしまうし
前世の知識を活かせる気がしない・・・詰んでないか、これ。
こんなことならもっと転生ものの小説とかコミックを読んどくべきだったなぁ
俺ってばコミック派でラノベとか転生系の小説とかはほとんど読んでないからこういうときどうすればいいのかよくわからない、転生もので読んだのは無職転生と幼女戦記、あとは本好きの下克上・・・のコミック版
全く役に立たないわけではないが原作に比べれば明らかに情報量は少ないだろう
とりあえずこの三作品で共通してるのは子供の頃から一定以上の努力で魔法なり内政なりを鍛えているという所だ
フィクションを見本とするのは褒められた話ではないが、実際にフィクションがこうしてこの身に起こってしまっている以上、今更といった感じだ
それに前世では親孝行の一つもせずに死んでしまったから今世ではちゃんと親孝行をしてやりたい、してやりたいが、このじいさん見た目的には結構歳がいっている感じだ、急がねば親孝行する前にあの世にあばよと、なりかねない
・・・ふむ。
先ほどは詰んだ、と思った今世だが翌々考えてみたら色々とやりたいことが出てきたな
おかげでかなりやる気が出てきた、やはり人間、明確な目標を持てば自然と力が漲ってくるもんだな
「『―――めでたし、めでたし』と、ここまでじゃな、そろそろ畑を見に行かにゃならん、カイト、ベルの面倒を見ててやってくれ」
考え事をしていたらじいさんが本を読み終わってしまった
色々調べたいことがあるんだが・・・適当に何か言ってみるか
「じいちゃんっ!た、たいへんだ!!」
「ん、何がじゃ?」
「さっきちょっと声上げたときな」
「うむ」
「物心付いた」
「・・・・は?」
じじいがポカーンとしてたが、これからの俺の変な行動はしばらくはこれで押し通そう
あれ、でも物心ってこんなだっけ?
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《side:ゼウス》
×1年〇月△日
最近、上の方の孫、カイトの様子がおかしい
急に物わかりが良くなり、今まで何度も読んできたお伽噺話の本ではなく、地理やこの世界の一般的な事に関する本などを読んでくれとせがむようになった
それだけではない、今までより弟の面倒もしっかりと見るだけじゃなく、儂の畑の手伝いや、体を鍛えると言って村の周囲を毎朝走り、筋トレまでするようになった
最初は急に物心が付いたとか言っておったが、人とはそんな感じに物心が付くものじゃったかのう?
まぁええか、人の子の成長はとにかく早い、こういうこともあるじゃろうて
―――――――――――とか、考えてた時期もありました
×3年〇月△日
あれから、2年が経ち、ある日カイトが毎朝日課にやってる素振りを見たんじゃが、
ナニアレ
何回も振ってるはずの木刀が残像を残して気づけば振り下ろされているんですけど!
ていうか何その引き締まりすぎた細マッチョは!?
しかも最近は弟の方のベルまで兄のカイトの真似なのか細い棒を持って庭で振っている
ベルの方はさすがにまだ年相応の速度なことに安心した――――――――――儂がアホじゃった
×5年〇月△日
あれからさらに2年、カイトは9歳、ベルは5歳になった、
最近は素振りじゃなく、二人並んで正拳突きをしたり、瞑想したりと、どこの修行者じゃと言いたい程に鍛えまくっておる、
あと、わしの眼と耳がおかしくなったのか、カイトの正拳突き、たまにだが、音の方が若干遅れて聞こえるような気が・・・いや、さすがに気のせいジャロ、気のせいだよね?
ベルの方も普通に正拳突きをしとるが拳を放つたびに空気を切り裂くような音がしとるし
これで修行ばかりにかまけて畑仕事を疎かにしておったら何か言えるんじゃが、そういうわけでもないので何も言えん、むしろ「兵農一体ーーーー!!Foooooooooo!!」と言って喜んで畑を耕しておるし、最近は逆にすることがない。
他にも、前から儂の昔の女性達が偶に尋ねてくるんじゃが、最近はカイトやベルばかり構うもんじゃからちょっと寂しいのぉ、それだけでも精神的にくるというのにカイトやベルに「あの人みたいにならないように」とか吹き込むのもやめてほしいんじゃが
その後の苦笑いしながら儂を見るときのカイトの目が・・・
『でもそんなじいちゃんでも僕の大切なじいいちゃんなんだ』的な優しい目が逆にいたたまれない、良心の呵責に押し潰されそうじゃ・・・
さらにその後ベルに「浮気物ってどんな物なの?」とか聞かれたときは本気で昔のことを後悔したのぅ
はぁ、やはり男手一つで子を育てるのは思っていた以上に大変なのかもしれん
こんな昔の女達にボロクソに言われているじじいのことを孫はどう思っているのだろうか・・・
やばい、尊敬される要素や理由が思い浮かばない
ヤバイ。
×5年〇月◇日
うおおおおおおおおおんうおおおおおおん儂は幸せ者じゃったーーーーー!
先日、何故そんなに強くなろうとするのかカイトに聞いてみたら冒険者になって金を稼ぎ、儂の暮らしをもっと楽にしてやりたいと言ってきた、なんという親孝行!いや祖父孝行な子じゃーーー!!
こんないい子を少しでも怪訝な目で見ていた儂は最低じゃーーーーうおおおおおおん
・・・よし、冒険者になりたいのであれば儂が色々と・・・教えるのはさすがにまずいのう、うーむ・・・
そうじゃ、ヘルメスの奴に冒険者とは何たるかを孫に色々教えてもらおう、うん、そうしよう
そうと決まれば奴に手紙を書かねば、さっさと来んと昔の恥ずかしいことを神達に匿名でばらすと言えばすっ飛んでくるじゃろ
×5年〇月アホ日
手紙を書いてからしばらくしてから、ヘルメスが訪ねてきた
何のために姿を隠してるんですかと、小言を言われたが、知るか!
儂のかわいい孫のためならそれくらいは些事じゃい!
ほれ、とっとと今のオラリオのことや冒険者のことについて教えてやらんか!
まぁ、少々文句を言っていたが、カイトとベルの修行を見ると、急に態度を変えてぺらぺらと今のオラリオについて話し出した、怪しい・・・こやつ、何か企んだりしとりゃせんだろうな?
まぁ、ヘルメスのアホが何か企んでてもこのかわいい孫達ならその企みごと食い破りそうじゃから、心配せんでもええかの
×6年〇月ヘル日
あれから、二月ごとにヘルメスが家を訪ねてくるようになった、ついでに水色の髪のかわいい少女も一緒に連れてくるようになった、ヘルメスから聞いた話ではどうもこの少女どこかの王族らしい、王族の生活に嫌気がさしていた所をヘルメスが連れ出したらしい、まぁ無理矢理ではなく少女の方から懇願してきたそうなのでええか
それにこのアスフィと名乗った少女、どうもカイトに少々気があるらしい、さすがはわしの孫、たった数回の逢瀬で身持ちの固そうな女子を陥落させおった
この分じゃとオラリオに行ったらすごいことになりそうじゃのう
それにしても、カイトとアスフィのやりとりは見てて微笑ましいのう
ベルもアスフィのことを姉のように慕っておるようじゃし、ええのう、ええのう、何かこの感じええのう、ほっこりするわい
このような平穏をあと幾ばく見ることができるじゃろうか・・・おそらく、あと数年の内にカイトはオラリオに旅立つじゃろう、じゃがヘルメスから聞く今のオラリオは酷い状況だ、儂とヘラが居ったときとは比べものにならんほどに
オラリオに行けば新人のカイトはおそらく様々な事柄に忙殺され村に帰ることもままならないじゃろうて、だがそれまでこのような穏やかな日々を良き記憶として胸に納めておいてほしいのう
×7年〇月メス日
数年以内にオラリオに旅立つじゃろうとは思っていたが、その翌年に旅立つとは思わなかった
何でもアスフィも11歳で冒険者になったらしく、なら自分も11歳で冒険者になろうと前から思っていたそうじゃが、おそらく背中をさらに押したのはアスフィのランクアップのせいもあるんじゃろう
ヘルメスのアホから聞いた話ではアスフィが最近Lv.2になり、超の付く希少スキル【神秘】にも目覚めたと聞いた、わずか2年足らずでランクアップとは、数年間Lv.1のままの冒険者が数多く居る中でこれはかなりの成長速度じゃ
やっぱ、あれかのぉ、惚れた女にこれ以上実力を離されたくないといった感じかの
ほっほっほ、カイトは年の割に大人びすぎていると思っていたが、存外ちゃーんと男の子じゃった
カイトのこういう所が見れてじじいちょっと嬉しいぞい
だがなカイトよ油断するでないぞ、オラリオには富も名声も何でもある、何でもはあるが、それは綺麗事ばかりではない、この世全ての悪意すらもその中には含まれるということじゃ
油断すればどんな者でも見えない何かに食い潰されることになるじゃろう、だから油断せずに前に進め、振り返らずに前に行け
儂はベルと共にここからお主の活躍する噂を期待して過ごすとしよう
ほっほっほ、泣くでない、せっかくアスフィからもらった帽子にシワが付いてしまうぞい
「・・・じいさん、ベル、行ってきます!」
うむ!良い顔じゃ!・・・いってらっしゃい。
PS
先日ベルが岩を何発も拳で殴り、その岩にヒビを入れておるのを目撃した・・・何で拳が無傷なのだ、ベル曰く自分は全力でこれだがカイトの方はもっとすごいらしい・・・オラリオでもカイトなら余裕かもしれん
ベルの念能力何系にしよっかなー(^^)