03:幼女×剣姫
村から旅立ち馬車に揺られること数日
普通なら間違いなく尻が痛くなるだろうが、そこは便利な念能力者
『
暇つぶしに『流』というオーラを大体の分量で各部位に配分する練習をするだけで意外と暇を潰す事が出来た
俺の尻も守れて念の練習もできて一石二鳥である。
ちなみにこれをさらに高度な技に昇華させると『
『
俺に念の才能がないわけではないと思うのだが俺のオーラは何故かドロドロしてる上に妙に圧縮しにくいせいで制御が非常に難しい、ここまでオーラの制御訓練のみを集中的に行うことはなかったので旅の間は意外と有意義な時間を過ごせたと思う。
そんなことをしていると御者のおっちゃんが声を掛けてきた
「おーい坊主、見えてきたぞ」
ようやくか、そう思って馬車の幌から顔を出すと、かなりの距離があるにも関わらずその巨大さがわかる街壁が見えてきた
「おー、あれがオラリオ、世界の中心都市と謂われる街かぁ」
ヘルメスとアスフィから聞いてはいたが、マジででっけーなぁ
巨人が進撃してきても大丈夫なくらいの広さと高さがある
「坊主、オラリオは初めてかい?」
「ええ、というより村から出る事が初めてかな」
「はっはっはっはっは!それなら驚いただろうな」
「他の街もあんなにすごい壁が?」
「いやいや、一応他の街もそれなりの壁があるがここまでの街壁は世界でもここだけだよ、それを最初に見れた坊主はラッキーだな、村からって事は・・・坊主の目的は出稼ぎかい?」
世間知らずが冒険者を目指しにきたとはなんか言い出しにくい
「・・・ええ、まぁ、似たようなもんですかね」
「そうかい、ただ最近のオラリオは物騒だから気を付けないといけないよ?」
「話には聞いていますけどそんなに酷いんですか?」
「ああ、元々はそこまでじゃなかったんだけどねぇ・・・」
そんな風に意外と気の良いおっちゃんと適当な会話をしながらも馬車はオラリオに向かって進んでいった
その後、特に何のトラブルもなく検閲を終えて街に入ることができた
―――――――――――――――――――――――――――
「お、おおう、この人混み前世以来のなつかしさ」
右を見ても左を見ても人、人、人、前世ならいざ知らず今世では見ることのなかった光景だ
「まぁ、あそこは村だし、当たり前か」
この人混みのせいで村の穏やかな光景が、というかベルが恋しい・・・あとじいちゃんも。
ま、この数年で当初より色々と目的が増えたため村に帰るわけにはいかない
「まずは、ヘルメスがお勧めしてくれたファミリアから行ってみますかね・・・大丈夫かなあいつのお勧めって」
悲しいかな、田舎者の俺にはオラリオにコネなどなく、あの胡散臭い
初っぱなから不安だ・・・だが、俺の夢を叶えるためには冒険者として頑張るしかない!
うっし行くか
そう意気込んで俺のオラリオでの初めての活動が始まった。
―――――翌日。
結果
不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用何でもするなら採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用不採用
不況期の就職活動かよ!?
やめてくれぇ!!、「前世のトラウマ」と言う名の
思い出される、不採用通知の嵐、うう、ヤ、ヤメロー、もう履歴書は書きたくない、なんで全て手書きじゃないと駄目なんだあああ!
――――間。
orz・・・マジか―、全部入団拒否された、一部OKそうなところがあったが、最後に言われた採用条件が怪しすぎたのでこちらからお断りさせてもたった、さすがに何でもは無理だ、ナニをされるかわからん。
俺が入りたいのはダンジョンの探索をメインとするファミリアなのだが、このひょろっとした見た目と年齢のせいで中々採用してくれるファミリアがいない
ちっくしょー覚えとけよ、いつか有名になって勧誘されてもお前らの所だけは絶対受けねぇ、とりあえず拒否られたファミリアはメモっとこ、俺は結構根に持つタイプなのだ
しかし、本当にどうしようかな、さすがにどこにも受かりませんでしたー、コネでヘルメスファミリアに入れてくれませんかねぇ、うぇっへっへっへと、ゴマを擦れたら楽なのだが、男のプライドに掛けてそんなかっこ悪いとこアスフィに見せられない、
ヘルメスにお勧めされたファミリアは全滅、となると直接自分で探すしかないか-・・・
なんか業績の上がらない
―――――――――三日後。
見つかんねえええええ!
もう、ヘルメスんとこに入れてもらおうかな・・・
・・・は?
男のプライドはどーしたかって?
なにそれ、おいしいの?
プライドじゃあ腹は膨れねぇんだよ!
路銀がもう尽きそうなんだよ!!
しかも泊まった宿に帰ってきたら闇派閥とか言う奴らに宿部屋ごと爆破されちゃったYO!!
幸いにも?荷物は瓦礫の中から救出できたが・・・オラリオ治安悪すぎぃ!!
さすが世界の中心都市だね☆クソがっ!!
・・・・・・はぁ、とりあえず入れるファミリア見つけるまでバイトでもするか。
あ、ちなみにヘルメスを訪ねたらアスフィ共々留守だった
胡麻すら擂れない、都会って怖い。
――――――――――――――――1ヶ月後。
そこは街中であるはずだ、だがその一角だけ今は静寂に包まれていた
「――――・・・いくぞ」
その中心に居る男が小さな声で呟いた瞬間
手に持っていたジャガイモを中に放り投げる!
「シャシャシャシャシャシャシャアアアアアア!!!」
一瞬でジャガイモだったものは小さく切り裂かれていく
「・・・っおばちゃん!!」
「あいよおおおお!」
かけ声と共に女性が所定の位置にボウルを持って立つ、するとそこに吸い込まれるように切り裂かれたジャガイモだったものが投入されていく
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ」
細かくなったジャガイモを残像すら残るスピードで潰しつつ調味料を投入し混ぜる、その間、僅か5秒フラット!
「ショオアアアアアアアアアアア!!」
次におばちゃんと共に潰したジャガイモをもはや多重影分身のレベルで一口大に丸めていくこれは10秒フラット!
「そいそいそいそいそおおおおおおおおおい!!」
それをすかさず男は高温の油に投入していく、しかし驚くべき事に勢いよく入れているはずの油は一滴として周りに飛び散ることはなくノースプラッシュで揚げられていき、そして終に!
「完・成!!」
「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」」
それを見ていた周囲から惜しみない拍手喝采がスコールの如く降り注ぐ
人を魅せる、しかし無駄のない動きで無駄に盛大に『じゃが丸くん』を作る充実した顔の男がいた。
・・・っていうか俺だった。
「まいどーまたいらっしゃいませー。」
どーも、お久しぶりです、意気揚々と村を出てから早いもので一月が経ちました、今では立派な一人のじゃが丸職人やってます
俺の大道芸じみた調理を見ていた人々が笑顔で次々とじゃが丸くんを買っていってくれるおかげで売り上げは上々です
最近のオラリオは物騒すぎて人々の笑顔が少なくなってきているが、俺の大道芸で少しでも笑顔が戻ってきてくれれるのは喜ぶべきことだ
うん、それはいい、それはいいんだが・・・
・・・・・・・・何やってんだ俺。
もう一度言おう、何やってんだ俺!!
あれから、バイトを募集していた「じゃが丸くん」を屋台売りしているおばちゃんに何とか雇ってもらえたまではいいのだが、そこから「じゃが丸くん」作りにちょっと熱が入りすぎた、一応買いに来てくれる客にそれとなくファミリアの情報とか聞くのだが、あまりいい情報はない。
「いやーカイトのおかげで今日も完売!ここんとこ売り上げが上がってきて助かるよ、まぁちょっと忙しすぎるのが難点だけどね」
「ははは、すんません」
「ばーか、謝らなくていいんだよ、お前さんのおかげで新しい『じゃが丸くん道』に目覚めたからね」
なんですか『じゃが丸くん道』って、あきらかにそんな道走っていったら「スーパーサイズミー」みたいな末路にまっしぐらじゃねーか
「それより、良いファミリアは見つかったのかい?」
「いや、それが全然ですねー・・・」
「・・・まぁ、店主としてはあんたみたいな売れっ子看板が居てくれる分には何も文句ないからいいけどさ、・・・いっそのことこの店に永久就職でもしてみるかい?」
「最近はそれ、洒落じゃないレベルで頭をよぎるんで勘弁してください」
惚れた女が魔物と戦っている一方で男の方はじゃが丸くん作ってますとか、かっこ悪すぎる、マジで勘弁してくれ・・・・・・あれ、待てよ?
・・・今まさにこの状況がそうなんじゃね?
いやいやいやいや、違うから、まだ俺はスタートしてないだけだから、ノーカンだよノーカン!!
そんな風に屋台の片づけをしながらあばちゃん(店長)と談笑しつつ自らの境遇に絶望しかけていた所に、息を切らして一人の女の子が店に向かって猛スピードで走ってきた
腰に届きそうな長い金髪を垂らした、かわいい少女だ
ただ、そんなかわいらしい少女が猛ダッシュしてくる、しかも無表情で
その様は「※ヒソカ」みたいな注意書きが必要なくらいには恐い、軽くホラーだ。
しかし、今では慣れたので特にビビることもない
「おー、今日も来たのか」
実はこの子、最近毎日ここにじゃが丸くんを大量に買いに来てその場でそれを全て食べ尽くすプチ常連さんだ
あの小さな体のどこに大量のじゃが丸くんが消えているのか、世の中不思議で一杯である
「う、うん、あ、あの、・・・もしかして今日の分のじゃが丸くんは」
「わりぃ、売り切れちまった」
「あう・・・」
ガーーーンと音が聞こえてるくらいにショックを受けている
いつも無表情の娘がここまでショックを受けているのを見ると罪悪感が半端ないな
うーむ、どうにかしてやりたいが材料がなければどうにもできんしなー・・・あ、そうだ。
ナイスなアイデアと共に電球が頭に浮かぶ
「おばちゃん、今日はもう上がっても大丈夫?」
「いいよいいよ、あとは荷物まとめるだけだし、・・・常連さんに接待してやんな」
わぁお、俺の考えてることばれてーら、さすが店長
ならば善は急げだ
「嬢ちゃん、今から時間ある?」
「?・・・大丈夫ですけど」
「うっし!じゃあ店長にも言われたので常連さんにサービスだ、嬢ちゃんさえよければ、材料買ってどっかでじゃが丸くんを作ってやろう」
「!!!!」
暗かった顔がみるみるうちに明るくなった
「ほんと!?ほんとにほんと!?」
「ああ、男に二言はない・・・ないんだが材料は買えばいいとして問題は調理する場所なんだ、嬢ちゃんどっかいい場所知らないか?」
「知ってる!」
「よっしゃ、じゃあ材料買ってそこで調理といこう、まだ店に並んだことのない新作じゃが丸くんを試食させてやろう」
「し、新作!?は、はやく!はやく材料買おう、はやく!」
「おわっ、ちょっ引っ張るなって、
そのまま引きずり回されるよう様にして市場で買い物を済ますと、嬢ちゃんの知るじゃが丸くんを調理できる場所とやらまでやって来た
・・・来たんだが目の前の建物に呆気にとられる
「・・・なんだこの建物」
何と言えばいいのか、そこそこの敷地に本来なら広大な城と塔をぎゅうぎゅうにくっつけてあちこちにサザエさんハウスをはめ込んだような、まさに
しかも一応お城という体裁のつもりか、いっちょ前にきちんと門番までいるし
「あ、おかえり”アイズ”」
「た、ただいま、です。」
「ん、後ろの人はどちら様?部外者を入れるわけにはいかないんだが」
「えっと、この人は・・・」
なんかいきなり雲行きが怪しくなってきた、せっかく材料まで買ったのに作れませんでしたー、という展開だけは回避したいところだ
ここはお得意の口車でどうにかすんべ
「・・・どーも
「え、そうなの?こんな小さい子が調理人?」
忘れてるかもしれないが俺の年齢は12歳、見た目は成長期に入るか入らないかくらいの子供だ、門番が怪しむのも当然だ
確認を取るように門番がお嬢ちゃんを見る、その際に口裏を合わせるよう軽くウィンクしておく
「えっと、はい、今日は料理人さんに直接来て作ってもらうことに」
「いやぁ門番さんも大変ですねー、料理ができたらあとでお裾分け持ってくるんで楽しみにしていてください」
「おお!助かる!いやぁ、門番って退屈でしかたがないんだが褒美があると思えばがんばれるな!」
「ご期待に添えられるように頑張りますねー」
ははははは、とお互い笑ってから、隣でボーとしているお嬢ちゃん、アイズと一緒に城に入る
先を行くアイズの後に続いて廊下を歩いて行く俺
「「・・・・・・・・・・・・・・」」
・・・だ、大丈夫なんだろうかこれ、自分でやっといて何だが不法侵入とかにならないだろうな、いや大丈夫のはず、なんたってこっちにはここの身内(のはず)のアイズがいるのだ、最悪の事態だけは避けられるはずだ
「着いた、ここが調理場」
考え事をしていたらいつのまにか調理場まで来ていた
って、おお、めっちゃ広い!すげぇな、ほとんどの調理器具がそろってる
確かにこれなら思う存分調理できそうだ、
・・・ただその前に、ちょっと気になることができた
「お嬢ちゃんの名前はアイズ、で合ってるよな?」
「うん」
「アイズ・ヴァレンシュタイン?」
「うん」
「・・・マジかよ」
マジかよ、田舎から来たばかりの俺でもその名前は知っている
わずか8歳、しかも所要期間1年で冒険者Lv.2になった最年少かつ最速ランクアップの
オラリオに存在する無数のファミリアの中でも最大手のファミリアであるロキ・ファミリアに所属する『剣姫』という二つ名持ちの正真正銘の天才、ここ最近はその話題で街中が賑わっていたが、まさかこの子のことだとは・・・
ということはつまり、だ
このヘンテコな建物は当然ロキ・ファミリアの拠点ってことか
ハァ、こんな俺より4つも年下の子ですら冒険者に、それも大手のファミリアの団員として冒険者になれているのに、俺はじゃが丸職人か、グスン
・・・悲しくなってくるので深く考えるのは止めておこう
じゃが丸、そう俺にはじゃが丸があるのだ、剣姫でさえ首を垂れるじゃが丸が!!
べ、別に悔しくなんてないんだからね!
「うっし、じゃあ早速作るか!早く食うためにも手伝ってくれよ、剣姫?」
「うん、まかせて、でも何で泣いてるの?」
ほっといてください心の汗です。
そして現在、目の前にうず高く積まれたじゃが丸くんをハムスターの様に、しかしダイソンよりも衰えない吸引力で一心不乱に食すアイズがいた
調理は結局、俺が一人で全部やった、この子に料理をさせてはいけない、じゃがいもと一緒に台座ごとぶった切るような不器用さだ、俺の方から早々に戦力外通告をさせてもらった。
「はぁ、しっかしまぁ・・・」
「・・・?」
「うまそうに食べるもんだねぇ」
「じゃが丸くんは最高、あなたのじゃが丸は至高」
「なはは、うれしいこと言ってくれるねぇ、ほれ気にせず好きなだけ食え」
そう言うと黙々と食事を再開する
(こんなに嬉しそうに食べてくれるなら世界一の料理人を目指すのもありかもなー、アスフィごめんなー俺ってば主夫になるかもしれん)
そんな悲観的ではあるけど精一杯ポジティブに未来を考えている所に声が掛かった
「よう、坊主、家のファミリアに入らへんか?」
何か糸目の女性?からの突然の勧誘だった。