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《side:フィン》
「・・・これは罠だな」
ギルドの最奥にある作戦室に僕の呟いた言葉が響く
「あの・・・この作戦に何か?」
ギルドの職員が僕の呟いた言葉に疑問を投げかける
僕とリヴェリアの他にもギルドの上級職員でこれからの対闇派閥への攻勢について考えるために今現在分かっている闇派閥に関する全ての情報をまとめている際に、最近の闇派閥の動きからアストレア・ファミリアが今行っている下層の調査が罠だと気付いた
そのことを伝えると全員が一斉に狼狽え始めた
「早く救援に!」
「・・・ダメだ、おそらく今から救護隊を組んでいたら間に合わない」
既にアストレア・ファミリアが下層に出発してから一日、とてもではないが間に合わないし誰かを単独で向かわせるにはあまりにも危険すぎる
だが、これは同時にチャンスでもある
下手をすればこのオラリオ暗黒期と呼ばれる今に終演の幕を下ろすことが出来るほどの千載一遇の機会
「全員聞いてくれ・・・救護隊を組むのは今から話す作戦が成功してからだ」
「なっ!?調査隊を見捨てるのですか!?」
これは大のために小を切り捨てると見られても仕方がない、冷酷な判断と思われるかもしれない、だがそれでもこのオラリオの未来がこれからも闇に飲まれ続けるか、それとも少しでも早く光を迎えることが出来るかの分水嶺だ
「元から間に合わないかもしれない可能性に兵を割くくらいなら、僕は確実に勝てる方を執らせてもらう・・・今から作戦を伝える」
そして僕が話した作戦は単純明快だ、現状でオラリオにいるロキ、フレイヤ、ガネーシャ、それ以外の地上に残っている全てのギルド傘下のファミリアの人員を投入しての一大攻勢作戦
狙いは闇派閥の首魁である神々の強制送還
資料から察せられるのは敵の人員・資材・物資の動きアストレア・ファミリアを罠に嵌めるためにかなりの戦力を投入しているであろうということ、そしてそれは同時に奴らの防御がこれまでにないくらい手薄になっているということだ、この機会を逃せば次はいつになるかわからない
「カイト、大至急でフレイヤとガネーシャ・ファミリアのホームまで行って今の話の内容をそのまま伝えてきてくれ、機密情報ランクは『SSS』って言うのも忘れずにね、こう言えば否が応でも幹部クラスが出てきてくれくるはずだ」
今回のような伝達事項があったときのために会議室の壁際で待機していたカイトに言伝を頼む
「・・・了解・・・伝達が終わった後はうちのLv.3以上の団員に戦闘準備とLv.2以下には半々でサポートもしくはホームで待機ってことでいいのか」
話が早くて助かる、指令が終わった後に関することを言う前に伝えたいことを先読みして確認してきてくれる、おかげで支持が出しやすい
「いや、下級団員は全員ホームで待機、現場にはアイズと数名のLv.2の団員を除いた全戦力を投入する、それ以外は君が言った通りでいい、本当なら全ての戦力を投入したいところだけど、さすがにホームを本当の意味で空にするわけにはいかないからね」
大人しく聞いていたカイトの表情が『アイズを除く』と言った部分で眉間に皺がよった
「ちょっとお嬢を甘やかしすぎじゃないか、お嬢はあれでそこそこ度胸はあるし、戦力で言うならかなりのもんだぞ?」
「そうかもしれない・・・でもさすがに今回はちょっとね・・・なにせ」
今回は過去類を見ないほどの殺し合い
正義と言う名を借りた一方的な
虐殺だ
幼子に見せるのはあまりに惨いだろう?
そう言うと、嘆息しつつ一応納得はしてくれた
「・・・俺もギリギリ純朴な少年って言っていい年齢なんだが」
「ははははは、うん、それおもしろいね、ウィットの効いたナイスジョークだ」
特に純朴というところが笑いのポイントが高いね、ここがホームの食堂なら座布団でもあげていたかもしれない
「えー傷つくわー・・・はぁ・・・んー・・・じゃまぁ、行ってくるわー・・・」
そう言うと仕方がないとでもため息をつき、やる気のないような言葉とは裏腹に急いで会議室を飛び出していった
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一時間もしない内にカイトに呼び出しを頼んだ人物が会議室に集結した
フレイヤ・ファミリア団長:オラリオ唯一のLv.7【
ガネーシャ・ファミリア団長:Lv.5にして都市最多の構成員を誇るファミリアを束ねる女傑【
さらに僕ことロキ・ファミリア団長:【
言わずもがな、構成員の質と量はこのオラリオで五指に入る大派閥の団長三名が一同に会することになった
「・・・それで?」
腕を組んだままの状態のシャクティが口を開く
時間がないこともあって二人とも既にここに着くまでに事情はあらかた案内役の者に聞いたそうだ
「・・・フィン、単刀直入に聞くぞ、作戦は?」
シャクティに続くように武人気質の強い、都市最強の戦士が言葉少なく聞いてくる
オッタルやシャクティ、特にオッタルとはライバル関係にあるファミリアの団長ではあるが、これも腐れ縁というのだろうか、10年以上も競い合っているとファミリアの家族とはまた別の奇妙な信頼関係できていたりする、おかげで遠慮なく伝えたいことだけを端的に伝えることができる
「それぞれのファミリアの投入できる最大戦力を一気に集めて、敵の拠点と思われる場所を全て叩く」
「隊はいくつまで分けるつもりだ? お前らの所と違って私のファミリアの最大戦力はほとんどがLv.4だ、できればどちらかに混ぜる形で編成してほしいのだが」
ガネーシャ・ファミリアは団員の数も多く実力者もそろってはいるが、それでも団長であるLv.5のシャクティが最高レベルだ、Lv.6を複数所持しているフレイヤ、ロキ・ファミリアには質という点で一歩劣るためこの要望は妥当な意見ではあるが、今回の作戦ではそんな心配はする必要がない
「いや、隊は分けない、全ての戦力で持って一気に敵の拠点を叩きつぶす、潰した後は最低限の人員を後始末に回して次の拠点潰しに向かう、これを5回繰り返して、さらにキナ臭い所も潰す」
「・・・電撃戦か」
「うん、ここで一気に僕たちと闇派閥の天秤の趨勢を一気に傾ける」
「そのための私達、ということか・・・わかった、「群衆の主」としても、ガネーシャ・ファミリアとしても今回の作戦に全力で参加させてもらう」
「協力感謝するよ・・・オッタル、君の所はどうする?」
「・・・ここに俺自身が出向いたこと事態がフレイヤ様の神意だ、『目障りな羽虫を駆除せよ』とお言葉を頂いている」
「それはフレイヤ・ファミリアも全面的に協力してくれるというこでいいのかな?」
「・・・ああ、それでかまわん」
(・・・よし!)
これで戦力は十分に揃った、戦力過剰とも言われるかもしれないが、犠牲なしで圧倒するにはこれくらいがちょうどいい、たとえ生き残りがいたとしても復讐心など芽生えぬくらい心も身体も叩き潰す
「じゃあ、さっそく―――――――」
これからの作戦のための命令系統に関する話をしようとしたときだ
「団長、入ってもいいですか!?ちょっと問題が発生してしまいまして・・・」
カイトの同期
入ってきたアキは会議室にいるオッタルやシャクティを気にすることなくまっすぐに僕の元にやってくる、だが、そのときの表情は非常に申し訳なさそうな顔をしているのが気になった
「団長・・・カイトがこの手紙を残して消えました」
「・・・え?」
差し出されたのは二つに折りたたまれた紙
とりあえず内容に目を通してみた
「・・・おっふ」
見なければ良かった・・・おかげで変な声が出てしまった
「・・・フィン?」
「ちょっ、【
「いや、すまないちょっと眼球を潰されてから頭を叩き割られたような衝撃に襲われただけだよ、うん、・・・大丈夫だ」
「一般的にそれは大丈夫とは呼ばないと思うけど・・・」
急に眼精疲労に襲われると同時に頭痛がし始めたが、目頭を押さえてから天井を見上げることで何とか耐える
「何があった?」
オッタルが困惑顔で聞いてきた、彼が表情を崩すとは珍しいこともあるものだ・・・いやそれだけ手紙に目を通した際の僕の表情が不味かったのだろう
僕は黙って手元にある紙を二人に見えるように広げる、そこには
『
ちょっとお嬢と散歩に行って来ます。
PS:晩御飯は外で食べてくるのでいりません
』
と端的な事が書いてあった
「「・・・なんだこれは」」
まぁ、カイトのことをよく知らないとこの突飛な手紙の内容はわからないのも当然か・・・理解してしまえる自分が恨めしい
「たぶんだけど、カイトがアイズを連れて27階層に向かったってことだよ、目的はおそらくアストレア・ファミリアの救援なんだろうけど・・・んー・・・?」
「なんだ?」
「いや、カイトがあそこのファミリアのために指示を無視してまで助けに行くとは考えづらいんだよねぇ、確かにそこそこの交流はあったんだけど」
カイトも今回の作戦の重要性はわかっているはずだ、それでも独断で救援に向かったとすると考えられる可能性の中で一番ありそうなのは――――――
「アキ、ちょっと聞きたいんだけどいいかな?」
「え、は、はい」
「今回の下層の調査に参加しているファミリアの中にカイトと仲が良い人物とかがいたりするかい?」
「えっと・・・あ、そういえばラウルが何か言ってたような・・・あ!・・・」
アキに質問すると、どうやら心当たりがあったようだ
「昨日の夕食のときにラウルが『カイトとよくダンジョン探索で組むことがあるフィルヴィスっていうエルフの女性が今回の調査に参加するからいつもよりカイトとアイズのサポートが大変っすよ~』ってぼやいてたような・・・」
これで確定だ、間違いなくカイトとアイズは下層に向かったのだろう
「アキ、急いでリヴェリアかガレスにこのことを報告、今すぐにカイトとアイズを連れ戻して――――――――」
「待ってくれ」
貴重な戦力を抜けさせるわけにはいかない、そう思いアキに指示をだそうとした所に待ったの声がかかった
「フィン、【
待ったを掛けたのはシャクティだった
ガネーシャ・ファミリアとアストレア・ファミリアは幾度となく共に闇派閥と闘ってきたことは知っているが、理由もなく個人的な感情で貴重な戦力をわざわざ危険な場所に送り込むことは承諾できない
「・・・二人を向かわせる理由でもあるのかい?」
「二人を向かわせるのは・・・若干であるが私事も入ってはいる・・・だが、ここで本当に一切の救援を送らなければ後々難癖を付けてくる者たちがいるかもしれん、今ここで二人を送り込むことで最低限の戦力は救援として出した、という理由付けにできる」
(なるほど、悪くはない・・・か)
帰ってきた答えは確かに悪くないものだった、派閥というのは大きくなれば成る程敵が多くなる、それは闇派閥だけではない、一番厄介なのはこちらの足をわざと引っ張り最大派閥の座から引きずり下ろそうとする無能な味方だ
(そいつらに対する言いがかり回避するのに今回のカイトの行動は都合がいいか・・・だが、それを差し引いたとしても二人もLv.3の団員が抜けるのは・・・)
頭の中で作戦後のことを優先するか、それとも目の前の作戦かを天秤に掛ける
個人的にはカイトの行動を黙認してやりたいが、団長としての立場がそれを拒否する
シャクティに目を向ける
気丈に振る舞ってはいるが、やはり知古のアストレア・ファミリアが心配なのだろう、眉間は似つかわしくない程に寄っていた
(ここで、シャクティに借りを作らせた方が作戦には都合が良いか・・・ガネーシャ・ファミリアの構成員数は包囲網の要だ)
結局このとき考えたことが決めてとなり、カイトとアイズをこのまま救援に向かわせることになった
《side out:フィン》
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唐突だが階層主について話をしよう。
階層主とはその名の通り、先へと進もうとするダンジョンの敵を排除する一定階層の主である
その強さはギルドが定めた階層レベルからプラス1をしても足りないとも言われる正真正銘の化け物であり、階層適正レベルの冒険者が数十人以上で挑むのは当たり前、適正レベル以上の冒険者でも単独で相手取るのは危険とされている
ましてや適正レベル以下の者が単独で相手をするなど自殺以外のなんでもないと断言できる
そして、その数少ない階層主の中でも、その能力と唯一の習性、そして特にその周りの環境によって適正レベルが跳ね上がる階層主がいる
その階層主こそが下層27階層の主
「双頭竜」アンフィス・バエナ
その名が指すように2対の首が生えている階層主であり、モンスターの中でも強力な竜種型という凶悪な化け物である
このモンスターの厄介なところは確認されている階層主の中でも唯一の移動型階層主ということだろう
この巨体のままで移動できる所なら下層の陸と海中どこにでも現れる
この階層主を攻略するにはいくつかの条件をクリアしなければ戦闘にすらならず、一方的に蹂躙されることになる
一つ目は闘う場所
アンフィス・バエナとの戦闘は水上で行われる、そのため水上にできるだけ多くの足場があるルームに誘導しなければならない
二つ目 物理的な攻撃
アンフィス・バエナの首の片方は魔法を大幅に減衰させる霧を吐いてくる、そのため基本的にこの階層主への攻撃は水上の足場からの飛び移りつつの近接攻撃か、遠距離から弓などによる攻撃しか通じない、首を切り落とせば魔法も使えるようになるが、それまでの攻撃手段の確保は必項である
三つ目 消化剤の準備
魔法減衰の霧を吐いてこない方の首からは可燃性の液体と共に灼熱のブレスが放たれる、この液体と炎は水でも消えることはなく、専用の消化剤を使用しなければ鎮火させることはできない、そのためこの炎をまともに喰らってしまった場合は消化剤がなければ死ぬまでその身を炎に焼かれることになってしまう
地に足を付けてできない不慣れな戦闘環境
ダンジョンで切札であるはずの魔法の無効化
巨体から放たれるその身を使用した攻撃と燃え続ける灼熱のブレス
まさしく『凶悪』
今までこの理不尽な状況と化物自身の力によって多くの冒険者がその身を骸に変えてきた
だが
だがだがだが!もしも!もしもである!!
水辺であろうとも地に足を付けることができ、尚且つ、近接攻撃で有りながら遠距離にも匹敵するリーチを持ち、ブレスなど吹き飛ばすほどの膂力を持つ様な存在がいたらどうなるだろうか!?
こ の 世 に は!
ど ん な こ と で あ ろ う と も!
圧倒的な例外というものが存在する!!
―――――――――――――――水深15メドル以上の湖など、その身の巨大さをもって踏破し!
「はぁあああああああああ!!」
「Graaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」
巨大な竜と鎧武者によって水柱が上の階層まで立ち昇る
互いが自らに有利な立ち位置を取るためにその巨体に見合わぬ速度で動く、ただそれだけで周りに台風のような豪風と立ち上がった水柱が豪雨となり周りの冒険者達の肌を打ち付ける、それは、さながら小さな台風の様だったと後の冒険者は語る。
――――――――――――――――――その手に持つ太刀による圧倒的な物理で脅威を破砕し!!
「がぁぁぁぁあああーーーーーー!!」
「Gyaaaaaaaaaaaaaaa!?」
鎧武者に握られた太刀が堅剛な龍鱗に守られているはずの片首を半ばまで断つ
それは刀でありながら切り裂くといった流麗なものでは決してない、純粋な力のみによって断ち切られていた
魔法を減衰させる霧などこの鬼神の前には真の意味で無意味
何故なら、この武者にあるのは絶対的な物理!超然的な破壊力!!
ただただ、それだけなのだから
だがこの竜にとっては今はそれこそが何よりも脅威であった
武者の攻撃は首を切り裂いただけでは止まらない、胴体の方にも無視できぬ程の裂傷が次々と刻まれていく
「Gooooaaaaaaaaaaaaaaa!!」
ダンジョンに生み出されてから初めて感じる恐怖、アンフィス・バエナは後先を考えぬほどの最大量・最大威力の炎を吐き出す
だが―――――――。
「ぶっ飛ばせ!明王!!」
その手に持つ巨大すぎる刀を内輪の如く振り抜き、豪風によって敵の攻撃を文字通り吹き飛ばし、跳ね返された炎と液体がそのままアンフィス・バエナに襲いかかる!!
「Pigyaaaaaaaaaa!?!?」
あまりの理不尽に階層主の思考は困惑一色に塗りつぶされた
ナンダナンダナンダナンダナンダナンダナンダナンダナンダナンダナンダナンダナンダナンダナンダナンダナンダナンダナンダナンダナンダナンダナンダナンダナンダナンダナンダナンダナンダナンダナンダナンダナンダナンダナンダナンダナンダナンダナンダナンダナンダナンダナンダナンダナンダナンダナンダナンダナンダナンダナンダ
――――――――ナンダコイツハ!?
ダンジョンに生み出されるようになってから幾千年、初めて体験する類いの恐怖に、今や片首となってしまった双頭竜は萎縮した
母に仇為す害虫、それはどれも葉クズの如き小さきゴミでしかなかったはずだった
それがどうだ!?
自らよりも巨大な体躯
そうであるにも関わらず速さは我と変わらず
あまつさえ我の炎すら吹き飛ばしてきた
――――――――アツイ
アツイアツイアツイアツイアツイアツイ!!
本来なら自らの炎すら通じないはずの龍鱗が、目の前の理不尽な存在によって剥がされたせいでその身を焦がしてくる
―――――――ユルサヌ
生まれ出でてからは、わけのわからぬもので動きを制限され、解放されたと思えば理不尽に襲われる
「GRAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
―――――――――――イナイ!?
辺りを見回すが先程までいた場所にその巨軀が見当たらない。
双頭竜は一瞬でもその巨軀から目を離すべきではなかったのだ、相手は自らの炎に苦しむ隙だらけの姿を見逃すほど決して甘い存在ではないのだから
――――――カゲ!?
双頭竜がようやく気付いて見上げた空には
宙に身を躍らせ、太刀を上段で振り上げた鎧武者が全身を使って今まさに振り下している
その瞬間だった。
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いやぁ、それにしてもダンまち最新刊の14巻はおもしろかったなぁ~(* ̄ω ̄)≡3
個人的にはMVP1位はヴェルフだと思います。(表紙もかっこいい!!)
次点で文字通りいのちを削って双頭竜に致命傷を与えた桜花と命の胸熱コンビプレー!!
っていうか全員かっこいいーーーー!!
次の巻で全員ステイタスがヤベぇことになってそうですよねー(-_-;)
PS:カイトもこれ以上に追い込まなきゃ(使命感)