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《side:ディオニュソス》
「ですからね~・・・な~~んで『
目の前で私の愛しい子の1人、フィルヴィスが泥酔しつつ絡んでくる。
「う、うむ・・・そ、そうだな、ところでフィルヴィス、もうそろそろ酒を控え―――」
「ア”あ”ァん!?」
「な、なんでもないですぅ・・・」
「・・・でね~・・・『
「あぁ・・・うん・・・そうだね・・・」
先程から同じ話が延々とループを始めている
(まさか、フィルヴィスが酔うとここまでの絡み酒になるとは・・・)
本当に普段はこんな感じの子ではないのだ
この子がここまで酒に溺れてしまっている原因は一つ
フィルヴィスが懸想している人物に新たな未来嫁が増えたという情報が入ったからだ
情報源は偶々部屋の外でその話を聞いた名も知らぬ神らしい
そいつはその話を面白おかしく他の神々に吹聴したそうだ
そうなればもはやその噂は止まらない
なにせ、今オラリオでは『
本来なら全滅必至であった部隊の半数以上を己の腕を犠牲にしてでも救出したロキ・ファミリアの新たな英雄として囃し立てられている、その中には悪意もあってかどうあかはわからないが彼のことを『悲劇の英雄』等といって茶化す者もいる
そんな彼のスキャンダル
相手はいずれも美女ばかり、しかも求めてきたのは彼からではなく女性の方からときた
そんな面白そうなネタに神々が食いつかないわけがなかった
三日と経たずにその話はオラリオ中に広まってしまった
そして当然ながらすぐにその話はフィルヴィスの知るところとなり
「・・・ンッグンッグ・・・プハァ~~~・・・ヒック、でね~・・・ん~~聞いておりゃれましゅか~デロロレスさま~~・・・」
「あぁ、うん、はい・・・聞いてる聞いてる・・・」
こうなった
できればこのような事態になる前にどうにかしたかったが、私は可憐な乙女達とイチャ・・・戯れ・・・情報交換に忙しく、その噂を耳にしたのは少し遅くなってしまった
噂を聞いた私はすぐにフィルヴィスのことを心配して
臭いの発生源を辿っていくと食堂には酔いつぶれた、というよりも酔い潰されたであろう我が団員の死屍累々・・・
そしてその中心で黙々とラッパ飲みでワインを煽る酒の化身と化したフィルヴィスがいた、肩には同じエルフで同期のアウラの姿
肩を組み仲良く飲んでいるようにも見えるが明らかにフィルヴィスが一方的にアウラを締め上げるように抱きついていた
アウラの方は傍目から見てもかなりグッタリとしているのがわかる、そんなアウラと目が合った
「ディ、ディオニュソス様・・・お、お逃げくだ―――――――キュッ!?」
アウラが落とされた
酔ってはいてもLv.3 見事な絞め技だ・・・できればこのような状況で見たくはなかったが
「あ~~~~~~~~ディオニュソス様だーーーーーー!!アハハハハハハ!!一緒に飲みましょうよ~~?」
ゆっくりと歩み寄ってくるフィルヴィス
だが、その姿からは『逃げたらわかってんだろうなぁ!?』的な雰囲気しか感じられない
神としての直感が言っている「それでも逃げろ」と
だが、私もこのファミリアの主神としての矜持くらいは持っている
自分の子が恋路で悲しみ、そのせいで酒に溺れこのような姿になってしまっているのだ、それを受け止めきれなくて何が親だ、何が主神だ
「・・・そ、そうだな、今日は一緒に飲むとしようか」
まぁ・・・手の掛かる子ほどかわいい、という奴だ、偶にはいいだろう。
・・・いや、別にフィルヴィスが怖いとかそんなんじゃないから
「ん・・・酒、おきゃわり」
「あ、はい、どうぞ」
ほんと違うからね!?
こうして話は冒頭に戻る
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「ですからね~・・・『
「そ、そうだな・・・うん、わかるぞー・・・」
先ほどからもはや何回目になるかわからない話だ
要するにフィルヴィスは『
まぁ、わからない話ではない
フィルヴィスが彼を想う事、数年
それまで恋人である『
しかも同時に二人
『
その強烈すぎるアタック・・・いやもうあれは奇行・狂行の類だ
だが、まさかそれが成就するとは夢にも思わなかった
彼女が彼に行った行動を知った上で今回の話を聞いたら、全ての神が彼の懐の大きさには感服するのではなかろうか
そして突然出てきた『
彼女に関しては優秀な鍛冶師として
だというのに今回のスキャンダルだ
『
だが、私が思うに彼に対してフィルヴィスに未来嫁になれるチャンスがあるかどうかと問われれば・・・
間違いなくある!!
なにせ今回、『
たとえ仲間として大事に思っていても、それだけで下層までほぼ単独で救出に向かうだろうか
そこに特別な思いがなかったとしても、それが男女としての感情に変わるのは難しくないはずだ
ではどうやってその切っ掛けを作れば良いのか
これが冒険者同士となると意外と中々難しい
普通の男女であれば色々思いつくのだが・・・
そんなフィルヴィスのこれからの恋路について考えを巡らせていると
「おじゃましてま~す・・・って、なんだこれ・・・今日は宴会か何かあったのか?」
扉の外に見知らぬ人物・・・というかローブで身体を隠し、顔もマスクで隠している怪しさ大爆発な者が立っていた
「誰だ!?」
「あぁ、いや、すんません、人が居る気配はあるのに外から呼びかけても誰も応えてくれなかったもので」
そう言ってその人物が顔のマスクをとる
「君は――――――」
「はは、どうも、お久しぶりです」
晒した素顔は少し意外な人物だった。
「あ~~カイトだーー!あはははは」
「おうフィルヴィス久しぶっ・・・て酒臭っ!?」
「カイト~カイト~」
フィルヴィスがよろよろと彼に近づきそのまま抱きつくと顔をグリグリと押し付ける
「ちょ、フィルヴィスなんかキャラが違いすぎませんかねぇ!?」
「いやぁ、少し飲み過ぎたみたいでね」
「ディオニュソス様、あんたどれだけ飲ませたんですか!?」
「それは、私も知りたいくらいさ、なにせ私が帰ってきたら既にこの有様だったからね」
「えぇ・・・マジですか?」
彼が少し呆れていると
「うわーん、なんでぇぇーーー私の方がーーーうわーーーん」
彼に抱きついていたフィルヴィスが今度は幼子のように泣き出した
「ええ、ちょっ!?」
「ほら、フィルヴィス、彼にあまり迷惑をかけては―――――」
「しゅぴ~~ZZZZ」
「「寝てるぅ!?」」
大量の酒を飲んでいる最中に泣くことで疲れてしまったのか、彼の腕の中でスヤスヤと寝てしまっていた
「「・・・・・・・・・」」
互いに顔を見合わせてなんとも言えない微妙な空気になってしまった
「えーと・・・とりあえず聞きたいんですけど、何でフィルヴィスがこんなことに?」
いや、原因は君だぞ君
まぁここだけ見て全ての情報を把握しろというのは無理があるか
「まぁ、乙女には色々あるらしいよ?」
「はぁ、そうなんですか・・・」
「すまないが、この子を部屋まで運ぶのを手伝ってくれないか? 私の細腕だと人一人運ぶのは骨が折れる」
「それぐらいは別にいいですよ、ついでに他の方々も運ぶんで部屋の場所とか教えて下さい、こっちもちょいと頼み事があって来たんでその代金代わりってことで、あ、ディオニュソス様、俺片腕なんでお姫様抱っことか洒落てるのは無理なんでフィルヴィスを背中に乗せて下さい」
「それくらいなら、私でも手伝えそうだ」
この後フィルヴィスや他の団員を部屋まで運んでくれた彼と少し話をした
そのおかげでフィルヴィスにとって有益な情報を手に入れることが出来た
多少の見苦しい姿を彼に見られてしまったがこの情報は彼女にとってお釣りが来るものだろう
明日、彼女にこの情報を教えてあげるのが楽しみだ。
―――――――――翌日。
私は『
この情報を聞いたときのあの子の反応が楽しみだ
(『
あの子のために手に入れた情報を伝えられる嬉しさに、らしくもない親父ギャグまで呟いてしまう
テンションが上がっているのか、あの子の部屋を通り過ぎてしまう所だった
コンコン
「フィルヴィス私だ、部屋に入ってもいいだろうか?」
淑女の部屋に入る当然の礼儀として部屋のドアをノックする
だが
「・・・?」
物音はすれど返事がない
(・・・考えてみればあの子は昨夜はかなりの量の酒を飲んだのだ、二日酔いで苦しんでいるのかもしれないな)
怪訝に思ったが昨夜の惨状を思い出し、失礼ながら勝手に部屋のドアを開ける
「すまないフィルヴィス、入るぞ――――――・・・!??」
そうして部屋に入った私の目に飛び込んできたのは自らの喉元に短刀を突きつけ様としている姿だった
「どわぁあああああああああ!?何をしているフィルヴィスーーーーーーーー!?」
咄嗟に飛びつき刃部分をあえて握る、もし無理にでも引き抜けば私をの手のひらはサックリと切れてしまうだろう
だが、心優しいこの子は私を傷つけないようにそんなことはしないという計算もあっての行動だ
「お離し下さい、ディオニュソス様!!」
「お、落ち着くんだフィルヴィス!?」
私がナイフをなんとか手放すように器用に暴れるフィルヴィス
「私はあのような失態を犯してまで生きては・・・」
その最中に動きがピタリと止まる
「え?嘘?ちょ!?」
何故ならフィルヴィスの顔がみるみる内に青白くなり
「オロロロロロロロロ~~~~」
「ぎゃぁぁぁああああああああああああああああ!??」
大惨事
まぁ、おかげでフィルヴィスの狂行がとりあえず止まったので良しとしよう
《side out:ディオニュソス》
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次回
『フィルヴィス頑張る』