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《side:フィルヴィス》
目が覚めると見慣れた自室の天井だった
(あれ?私は昨日何を―――――――――っぐうぅぅぅぅ!?)
目覚めは最悪だった、身を起こした瞬間に激しい頭痛と嘔吐感に襲われる、完全に二日酔いの症状だ。
「確か昨日・・・ぐぅ!?」
思いだそうとすると激しい頭痛に襲われる
痛みに耐えながら昨夜のことを朧気に思い出してきた
(確か、カイトの嫁の話を聞いて、自棄になって酒を―――――)
そう、私は昨夜、彼の話を聞いて自棄酒をした
問題は途中からの記憶が穴あきチーズの様な状態になっている、この部屋のベッドに自ら身を沈めた記憶もない
自分で無意識に戻ってきたのか、それとも誰かが部屋まで運んでくれたのか
「・・・ん?」
枕元を見ると、見知らぬ手紙が置かれていた
宛名を確認すると
「?????・・・・カイト?」
彼の名を呟いた瞬間、思い出される自らが行った狂行
「!?!?あああああああああああああーーー!?」
昨夜の記憶が一気にフラッシュバックしてきた
自分が彼やディオニュソス様だけでなく仲間達にも晒してしまった醜態に頭を抱える
(酒に酔っていたとはいえ、私は何ということをっ!?)
仲間にはかなり強引なアルハラ
尊敬する主神には偉そうに上から目線で絡み酒
さらにはカイトに自身を擦り付ける様に抱きつき、あまつさえ子供のように泣きじゃくる姿まで見られた
エルフとしての誇りが普通もしくはそれ以上である私は当然の帰結としてある答えにたどり着く
「・・・・・・死のう」
冗談抜きでそう思った.
-----------そう思ったのが十数分前
「フィルヴィス、落ち着いたか?」
「むーーー!?むむーーー!!」
私は他の団員達に猿ぐつわを噛まされ、拘束されていた
あの後、口から出す物を出してからグッタリした私はディオニュソスが呼んだ他の団員に念のためにと拘束されていた
実際、拘束されていなければ間違いなく自害していただろう
「フィルヴィス、私は気にしていない、だから私の話をとりあえず聞いて見ないかい?」
「むむむーーーーー!!」
返事をしようにもしゃべることが出来ない
「えっと・・・外しますね」
見かねたアウラが私の猿ぐつわを外してくれた
「くっ・・・殺せ!!」
「まさか、自分の子の『くっ殺』を聞くことになるとは・・・」
何故かディオニュソスが感慨深そうな感じで驚嘆していた
「昨夜の失態に続き、ディオニュソス様にあのようなこと・・・もはや死んで償うしか・・・」
自分の主神に私の・・・ア、アレを吐き掛けるとか
・・・・・・死にたい
思い出すだけで、羞恥と後悔、その他もろもろの感情だけでああああああああああ―――――――となる
そんな風に塞ぎ込んでいると
「ふむ、フィルヴィス・・・私は本当に気にしていないし他の者達も同様だ、どのような神であろうと人であろうとこういったことはある、だから君も気にするな、これは主命だ。君の命をこんなことで散らすことを私は決して許可しない―――――いいね?」
「―――――!!」
神威と一緒に私の身を案じる優しい言葉に拒否などできるわけがない
これほどの狼藉を働いた私にこれだけの言葉を掛けてもらえる、この方の眷属となれたことを誇りに思う
改めて己が主神の慈悲深さに感銘を覚えた
「―――――はい、この罪、償うためにもこれからより一層の献身を尽くすことを誓います。」
「ああ、期待している、私のかわいい子よ」
「はっ!」
私が改めてディオニュソスに忠誠を誓っていると
「――――それよりも、だ」
「・・・?」
「実は昨日、『
雰囲気を変えてディオニュソス様が確認してくる、その表情からは話したくてしょうがない噂好きの神々と同じ気配を感じる
ちなみに他の団員は先程のやりとりの後退出している。
「は、はい・・・ですが途中から記憶が」
かなり記憶が朧気だが彼がここを訪ねに来たのは覚えている
(・・・いや、待て)
なぜ今ここを訪ねたのだ?
少し冷静になれたことで今の時期に彼がここに現れたことに疑問が生じた
今や『
さらに情報や噂好きの神々にも注目され、オラリオで最も注目を集めている人物の一人となってしまっている
そんな彼が何故?
「彼がここを訪ねた理由はフィルヴィスに頼みたいことがあったからだそうだ」
「私に・・・ですか?」
「ああ、私は教えてもらえなかったが、頼み事の詳細は手紙に書いてあるそうだ」
「手紙・・・あ、そういえば枕元に!」
色々あってすっかりその存在を忘れていた
「おそらくそれだ、中を確認してもらってもいいかな?おそらく他言無用系の内容のはずだ、君だけが確認するの方がいいだろう」
その言葉に従い、蝋で固めてある封を開けて手紙の中に目を通す
『 拝啓 フィルヴィス・シャリア様
かなり泥酔していたみたいなんで手紙に頼み事を書いておく
少し身を隠すついでに里帰りすることにしたんだが、
それを誤魔化すためにラウルに普段の俺と同じ格好をしてもらって影武者みたいなことをやってもらうことになった
そこでだラウルが偽物とばれないようにフィルヴィスにサポートを頼みたい、同じファミリアの連中ばかりだけだと偽物とバレる可能性があるからな 頻度は週に1回位だ
ぶっちゃけ他のファミリアで
報酬は別途に請求してもらってかまわないからどうにか頼む!
PS
フィルヴィスがあんなに酒好きとは知らなかったぞ
故郷から帰ったら、偶にはラウルも交えて三人で飲もうぜ。
あ、お嬢はジュースな、あいつ酒乱だから絶対飲ますなよ!
カイト 』
「―――――――なるほど、確かにこれは私が適任だな・・・ふふ」
「・・・フィルヴィス?」
他のファミリア所属の私がカイトに扮したラウル・ノールドと接触する所を誰かに目撃させることで影武者が本物であると信憑性を持たせる、少し心配しすぎな気もしないでもないが念には念を入れてということなのだろう
だが、そんなことよりも私の心をくすぐるのはとある一文
『頼れるのはお前だけだ』
「くふふ」
「あの・・・フィルヴィスさーん?」
い、いかん、けっこう重要な頼み事なのに顔の口角が勝手にせり上がっていく
『――――――頼れるのはお前だけだ、フィルヴィス』
妄想で勝手に言葉が付け足されていく
『――――――頼れるのはお前だけだ、俺の愛するフィルヴィス』
(ほああああああああ!?)
いかんいかんいかんいかんいかんいかんいかんいかんいかんいかんいかんいかん
これ以上はいかぁあああーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!
「ちょっフィルヴィス!?顔がすごいことになってるぞ!?正気に戻れ!」
「はっ!?」
ディオニュソス様の声で何とか現実に帰還できた
あ、危なかった、もう少しで妄想の彼方に旅立つところだった
「手紙の内容はそんなに驚く内容だったのかい?」
「・・・えっと、その~」
まさか手紙の一文から妄想が大爆発したとは口が裂けても言えない
かといって嘘を言えば冗談抜きで神にはすぐにわかってしまう
「詳細は言えませんが・・・大まかに言うと今回の事件で動きにくくなったので、身を隠す際には協力して欲しい、とのことです」
嘘はいっていないし、そもそも私のテンションがおかしくなったのは依頼内容とはほぼ無関係な部分だ
「なるほど・・・色々と疑問もあるが何かしらの事情があるのだろう、だがあんなことがあってもフィルヴィスは彼の頼みを聞くのかい?」
ディオニュソス様の疑問も最もだ
惚れた男が他の女を次々と嫁にしているのだ、普通なら幻滅してあきらめるだろう
だが、私はカイトという男がそのようなことを易々と行う人物ではないことを知っている
きっと何かしらの事情があったのだろう
まぁ、昨夜はそれでも幾ばくかのショックを受けてヤケ酒をしてしまったのだが時間が経ち冷静になってみれば自然とそのように思えてきた
「はい、彼に何があろうと私の中にある気持ちに変わりはありません、どうやら私は自分が思っている以上に恋愛事についてはあきらめが悪いようです」
「まったく『
「まったくです・・・ふふふふ」
私も自分の気持ちを再認識したことで何故か笑いがこみ上げてきた
「だが、それが聞きたかった、やはり昨夜手に入れた情報は君に伝えなくてはならないようだ」
「・・・情報?」
「な~に、昨夜は彼と共同作業したおかげで色々話す機会に恵まれてね、その際に――――――――手に入れたんだよ」
「何をですか?」
「フィルヴィス!」
「は、はい!」
いきなり正面から肩を掴まれ真剣な顔でディオニュソス様がこちらを見てくる
「君が『
・・・・え。
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あれから二日
「・・・ここが彼女達の研究工房か」
場所はオラリオ北東の工業区、その中のとある場所に私は訪れていた。
ディオニュソス様がカイトから聞いた話によると今回の嫁騒動はカイトの身を守るため遂に恋人である『
カイトと『
それについてはカイトから共に行く冒険の道すがら、将来は『
他にも色々ありそうだったがそれ以上はいつも誤魔化されて聞けたことはない
冒険者として富を求め、それを足がかりに夢を叶える
よくある夢を叶えたいだけの者が酒の席で語るような話だ、まぁカイトほど実力があり稼げる冒険者であれば夢物語ではなく相応に現実味を帯びた話になる
だがダンジョンというのは何が起こるかわからない
オラリオ最大派閥のロキ・ファミリアに入団できたとはいえ探索がメインのファミリア
『
そんな時に今回の事件
左腕を失ったカイトを見て彼女は思ったそうだ
やはり、自分が養ってでも冒険者にはさせるべきではなかった
探索がメインではなくても自分と同じファミリアに入れて常に監禁・・・監視しておくべきだったとか
もっとサポートできる何かしらの魔道具を創って渡しておくべきだったとか
そんなことがグルングルン頭の中で何度も反芻したとのことだ
普通の者ならそんなことをいつまでも考え続けるのだろうが『
落ち込んだ後、即座に行動を開始した
目的はカイトの身を今よりもさらに支えること
ロキ・ファミリアと自分ではできないことをサポートできる人材を求めた
そして都合の良いことに彼には彼自身を慕う女性、しかも先程言ったファミリアと自分だけではサポートできない部分を請け負うことのできる人材が偶々その場に揃っていた
魔法薬や回復・治療で彼を支えることの出来る人材
『
武器や防具で彼の装備を支えることの出来る人材
『
前者は言わずもがな、後者もカイトの専属鍛治氏ということで彼に悪い気は持っていない、それどころか話してみたらどうやらカイトにかなり興味があるようだった
即座に彼女はこの二人を勧誘した
現状自分が思っていること、考えていることを吐露しながら
それに対して『
以外にも『
『
そして『
1:彼を全力で支えること
2:男女としての関係では正妻である自分を立てること
3:将来、カイトが経営するであろう店内でそれぞれ得意分野の商品を売ること
この三つだ
これを飲ませることで『
端的に言おう
これ 私でもイケる
条件1、余裕だ
条件2、カイトと一緒に居られるなら全然OKだ
条件3、カイトの店で給仕でも小間使いでも何でもやってやる
ディオニュソス様が私に言った嫁になれる可能性とはこのことだ
カイトが同じ男ということで油断したのか、それとも愚痴らずにはいられなかったのか、洩らした内容は私にとってカイトと一緒になれる一粒の光だった。
そんなわけで私は『
彼女達とまず会ってやったのは開幕土下座
「私もカイトの嫁にして下さいいいぃいいいいいーーーーーーーーー!!」
「いいですよ」
「やはりいきなり言っても・・・ってえぇえええ!?」
なんか速攻で許可された
やはりアニメは原作と漫画の緊迫感を超えられないねぇ・・・知ってたけどさ。