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《side:ベート》
08年〇月△日 天気:怒り
イライラする
イライラするイライラする
イライラするイライラするイライラする
イライラするイライラするイライラするイライラする
周りの雑魚共にイライラする
何故こいつらは弱い
何故ヘラヘラと笑っていられる
何故もっと力を渇望しない
そんなだから
「ベート・・・すまない、だが――――――――――――」
・・・うるさい黙れ
俺の行動に雑魚が口を出すな
雑魚もヴィーザルも引っ込んでろ
俺の視界にも入るな蹴り殺すぞ
08年〇月◆日 天気:哀愁
ヴィーザル達がオラリオを出た
俺にはもう関係ねぇ
居場所もないのが少し困るくらいか
いや、居場所はある
ダンジョンだ
今より強くなるにはそれしかねぇんだ
08年〇月◆日 天気:暇
最近はソロでダンジョンに挑むか街で喧嘩しかしていない
そうでもしなければ俺の怒りが収まらない
誰か
誰でもいい、自身でも言葉にできないこの感情をどうにかしてくれ
08年〇月◆日 天気:死線
死にかけた
ダンジョンではなく街中で
生まれて初めてだ
圧倒的強者に出会い、歓喜のあまり痺れたのは
妨害してくる第一級冒険者数名を掻い潜り、四肢を砕かれようと俺の首に牙を突き立てたあの姿
理性と本能を超えた鋼の意思を持って俺を殺そうとするあの姿は俺の名もなき感情を恐怖で塗り替えた
そうだ、強さとはこうあるべきだ
恐怖と憧れは同居すると初めて知った
あの人みたいになりてぇ
あの人に勝ちてぇ!
いやならなければ俺は弱いままだ
だから―――――――俺はロキ・ファミリアに入団することを決意した
08年〇月◆日 天気:我慢
先日、俺をボコボコにしたカイトの兄貴の部屋に挨拶に行った
「死ねぇえええええーーーーーーーーーーーーー!!!」
また殺されかけた
「カ、カイト落ち着くっす!?ちょ、まっ!?」
「カイトダメ!!」
兄貴と同室のラウルとたまたま居合わせたアイズという少女が居なければガチで殺されていた
08年〇月◆日 天気:我慢我慢
日を改めてまた挨拶と謝罪に言った
なんでも俺が喧嘩を吹っかけた際に兄貴の帽子を蹴りで引き裂いたのだが、その帽子は大事な物だったらしい
兄貴が必要以上に切れているのはそのせいらしい
兄貴が部屋を出るのを待っていたのだが目が合った瞬間に
「くたばれぇええええええーーーーーーー!!」
また殺されかけ、というか殺された
「ちょ、誰か!?団長達呼んできてぇぇえええーーー!?」
「カイトさんを止めろぉおおおお!?」
「うぉおぉおおおおあげび!?」
後々聞いた話によると俺は心臓が一時的に停まったらしい
マジで一回殺されるとは
・・・さすが俺の認めた兄貴だ、パねぇ
08年〇月◆日 天気:我慢解放
「さすがにカイトに身内殺しをさせるわけにはいかないからね」
「お前らは世話が焼けるのう」
「胃が・・・痛い」
フィン達が見かねて今回の兄貴を説き伏せることのできるという女を連れてきた
ババァは何で腹おさえてんだ、あの日か?
つーか誰だこの眼鏡女?
「初めまして、カイトとあなたを取り持つために『
・・・はぁ?
何言ってんだこの女は?
兄貴の女だった
兄貴の女、いやアスフィの
・
・
・
・
・
「・・・わかった、こいつを舎弟にするってことで認めてやる・・・色々こき使うからな覚悟しろ、まぁついでに訓練くらいには付き合ってやる」
「うっす!!」
「ま、これでとりあえず一件落着ですね」
すげぇ、あれだけ荒ぶってた兄貴を説き伏せてくれた
かなり最後の方まで兄貴は粘っていたがアスフィの姉さんが最後に
「
何故あれで兄貴が引き下がったのかわからんが・・・まぁいいか
少し問題があるすればこの話し合いの前、アスフィの姉さんに条件を突きつけられたことだ
しかも
何でも兄貴には現状アスフィの姉さんを含めて4人の女がいるとのことだ
そのことに驚きはない、強い雄に複数の雌がいるのというのは当然だ
さすが兄貴
話を戻そう
兄貴には複数の女が居る
そのため、もしもその4人以外の女の影があるようなら兄貴に内緒で密告してこいとのことだ
おそらく姉御はこれ以上兄貴に女が増えないようにしたいのだろう、まさか逆に兄貴の女を増やすためとか・・・・・・いやいやいやいやないないない、さすがにそれはねーわ
はぁ~~・・・・・・結構めんどくさそうだな
だが兄貴に許してもらえただけではなく舎弟にもしてくれるように計らってくれたアスフィの姉さんには兄貴以上に逆らえねぇ・・・
「・・・」ニ コ リ
・・・こえぇ
09年〇月△日 天気:困惑
「切るときは刃じゃなくて獲物の方を動かせ」
「・・・わーってる」
舎弟になってからしばらくして兄貴からへりくだったような話し方はキモいから止めろと言われた
今ではそこそこ砕けた話し方になった、こっちはその方が話しやすいから助かる
ちなみに今やってるのは戦闘
ではない
「料理は下準備が命だ、ただの野菜と侮るなよ」
「・・・・・・」
たまにやる兄貴の料理の手伝いだ
「料理は戦闘に通じる部分がある、気を抜くなよ」
「・・・あぁ」
最初は馬鹿にしていた兄貴のこの台詞
割とマジだった
さっきの台詞もそのまま戦闘に転用できる、敵を自分の都合のいい場所や立ち位置に誘導してから斬った方が楽だった
下準備のことは言わずもがなだ
ダンジョンへ行く際には細かい初歩的なことの方が抜けがちになる
解毒薬を忘れた状態でパープルモスの毒を浴びたときは生きた心地がしなかった
それと意外な福次効果なのが芋や野菜類の皮を綺麗に向けるようになってから地味に剣技が上手くなった、何となくだがこういう風に斬れば綺麗に削げるというのが戦闘中に分かるのだ、兄貴曰く「斬線が見える状態」という奴らしい、この斬線に沿って切れるようになればあまり武器を痛めずに長時間の戦闘が可能だとか
「うっし、皮むき終了」
(相変わらずどんな早さしてやがるんだ兄貴は・・・)
俺の皮むきはまだまだ兄貴ほど上手くはないしスピードもまだまだ遅い
刃物の扱いがまだまだ未熟の証拠だ
兄貴が剥いた芋の皮には一切の実の部分を残すことなく終わっている
何をどうやったらこんな芸当ができるのか
こういった繊細な刃物裁きも兄貴の強さの秘密なのか?
「さーてと、次はマヨネーズでも作るかね」
そう言って兄貴が義手の手首を外す・・・つーかそれ外れんのかよ
「よいしょ、っと」
そう言って手首から先に泡だて器の様な・・・というか泡だて器だ
そいつをカチリと義手の手首にはめ込んだ
「ポチっとな」
高速で回転する高音が周囲に響く
泡だて器が目にも止まらぬ速さで回転していた
・・・なんだそれ
「ふんふふ~ん」
鼻歌と同時に兄貴が手首から先の泡だて器を使ってボウルの中にある卵と油をかき混ぜ始めた・・・
そういやこの前はダンジョンの中で飯を作る際は指先から火を出してたな
何だあの義手、便利すぎねぇか?
・
・
・
この作業の後に兄貴と同室のラウルから聞いた話だがあの義手はアスフィの姉さんを含めた兄貴の嫁総出で製作した超がつくマジックアイテムらしい
兄貴の女はほぼ全員が何かしらの専門家
その全員で製作したというあの義手
俺も恥を忍んで何かしらの装備を頼んでみるのもありかもしれねェな
09年〇月△日 天気:奮闘
兄貴との訓練がエグイ
試合と違って訓練になると兄貴は鬼になる
終わりはない
最低でも何か一つができるようになるまで続けられる
気を失おうが立てなくなろうがお構いなしに訓練は続行される
例え本当に精魂尽き果てて倒れようにも兄貴の女の一人である治癒と回復の専門家による特別ポーションで強制回復させられる
これに付いて来れる人間は少ない、途中で必ず大勢の脱落者が出る
その証拠に今現在立っているのは俺だけだ
周りは意識のない奴らの死屍累々が転がっている
「ベート、お前さんもギブアップか?」
ハッ、なめんなこの程度で誰が音をあげんだ
俺をそこら辺の雑魚と一緒にすんな
「いい根性だ・・・行くぞ?」
その瞬間に全身の肌が粟立つ
クソがっ、必ず最後まで喰らい付いてやる
09年〇月△日 天気:超奮闘
最近、兄貴の周りにチョロチョロとうぜぇ女が二人増えた
一人は兄貴に料理を教えてもらっているティオネ、こいつのせいで訓練の時間が心なしか減った
今も兄貴が調理場から席を外した後も野菜の皮を必至に剥いている
「・・・ぬぐぅ」ショリ・・・ショ・・・リ
うっわ、皮むき遅ぇ・・・・・・そうだ ニヤリ
意趣返しに少しいいことを思いついた
ティオネからよく見える位置にスタンバイ、余裕顔でスルスルと皮むきをしてみる
「っ!?」
そして俺の意外な料理の手際の良さに驚くティオネ
こっちはティオネの手元と芋の身が残りまくりな皮に目線を向けて
「ぷw」
とどめの笑い
「うがぁああああああ!!」
戦闘が始まった・・・・・・こいつ俺よりも挑発に弱すぎねぇか?
・
・
・
中々強かった、久しぶりに同等の実力者と戦った気がする、だが―――――――――――――――。
「こぅらぁああああああああーーーーーーーーー!!!」
調理場をメチャクチャにしたため兄貴にかなり怒られた
暴れたせいもあってその日の夕食後のデザートが中止になった
「デ、デザートがちゅ、中止・・・だと!?な、なぜだカイト!?」
「いや、実は――――――――――――」
ババァが兄貴からの報告を受けて絶望の声を上げていたが
「・・・・・・・・・・・・・・・ほぅ・・・なるほどな、あの二人が」ギロリ
あ、これはヤベェ
ティオネの方もババァのあまりの怒気に顔を引きつらせている
「二人とも・・・食事の前に少し運動でもしようか」
その後にデザート中止の報を受けたリヴェリアのババァにティオネ共々ボコボコというか魔法でボロボロにされた
Lv.6 の動きで並行詠唱されるとまじでヤベェな
「お前らが!私の炎で!禿げるまで!魔法の詠唱を止めない!!」
「「!?」」
ババァの魔力が疲弊するまで死ぬ気で回避し続けた
・
・
・
一時間後、訓練場にはボロボロの俺とティオネの姿があった
おい、ティオネ
「・・・なに」
調理場での喧嘩は無しにしようぜ
「そうね、二度としないと誓う」
体中に焼き焦げた後を残しながら俺たちは限定的な休戦協定を結んだ
09年〇月△■日 天気:隠密
「カイトカイトーー!!」
「のっわ!? おいこらティオナ!急に乗ってくるな!」
歩いていた兄貴に後ろから飛び乗り肩車を無理矢理してもらっている女
ティオナ
俺的にはティオネよりもこいつの方がうぜぇ
なにせアスフィの姉さんから
「ふむ、ティオナ・ヒリュテですか・・・これは姉の方よりもワンチャンスあり?でしょうか」
ワンチャンス?何のことだ?
「・・・・・・・・・」
しばらく黙考した後、いつもと同じように
「・・・では監視を怠らないようにお願いします、今回のように何かあれば報告を」
と厳命されている
そのせいでこいつが兄貴と接触するたびに色々な意味で心臓に悪ぃ
別にティオナの方を心配しているわけじゃねぇ
どちらかといえば兄貴が俺の報告後にどんな目に遭わされるかの方の心配だ
アスフィの姉さんはあまり直接的なことはしてこないがジワジワと精神を削るようなことをしてきそうだからな・・・兄貴の舎弟としてそれくらいの気配りは見せたいのだが
「カイトーーー!!またカイトのご飯食べたーい!!」
「また今度なー」
「えーーー!!次はいつなのーーー!?」
「時間ができたらだな~、後は食材が朝の市にあるかどうかとかタイミングが難しくてな」
「ふーーーん・・・じゃ、いいや!アイズと遊んでこよーっと」
「おう、お嬢とダンジョンに行くのはいいがあまり遅くなるなよ」
「わかってるってー、じゃ行ってきまーす」
「おーういってらー」
去り際に俺とティオナの目が合う
「べ~~~」
舌を出してガキ臭い挑発をしてから去っていった・・・うぜぇ
アスフィの姉さんから報告しろとは言われてはいるが二人の会話を聞いてると報告とかいらねぇ気がするんだよなぁ
兄貴とティオナの会話は近所の兄ちゃんとそこら辺の娘にしか聞こえねぇ
つーかあいつは頭が空っぽの愉快なアホ女にしか見えねぇし、そういった男女の心配とかいらなくねぇか?
そんなことを考えていると兄貴がこちらを見ながら面白そうに
「お前ら仲いいなぁ」
なんてわけのわからん言葉を投げてきた
いや何でだよ、今のやり取りのどこをどう見ればそんな感想が出て来るんだ
「いやいや、喧嘩するほど仲が良いって諺があってな?」
マジかよ、物騒すぎるだろそれ
「確かに、言われてみれば仲が良ければ喧嘩なんかしないよな・・・改めて言われると変な諺だなこれ」
どーでもいい、それよりも――――――――――
「おう、約束通り試合の相手してやるよ」
ハッ!今日こそ一撃といわず百発蹴り込んでやんぜ!!
「ふっ、そいつは楽しみなこって」
結局この日
陽が暮れるまで兄貴に一撃入れるどころか立てなくなるまでボコボコにされた
だが、それでこそ兄貴だ
これでいい
目指すべき強さ
挑むべき強さ
憧れる強さがそこにあるのは、そうだな・・・楽しいと言っていい
追い抜いたとき兄貴がどんな顔をするのか楽しみだからな
必ず追いつく、そして追い抜くこの壁を。
10年〇月△日 天気:我武者羅
・・・うっぜぇ
最近ま~た兄貴の周りに女が増えた
今度は女弟子らしい
料理の弟子であるティオネと違い今度は冒険者としてのマジの弟子
新規で新しい団員を補充した際にそいつの才能をババァとロキが見いだして兄貴とババァでの共同弟子ってことにしたらしい
・・・うっわ、だっりぃ
これ報告しなきゃダメだよなぁ・・・これでま~たアスフィの姉御に報告する内容が増える
あ”~面倒くせぇ
報告をサボりたいが姉御には俺が現在使ってる装備、特殊装備『銀靴』の件で世話になったせいでさらに逆らい難くなった
・・・とりあえずダンジョンに行くか
ムシャクシャして体を全力で動かしゃ、ちったぁ頭もスッキリするだろ
報告はその後だな
ったく、世の中ってのは思い通りに動かねぇ
せっかく俺もLv.5になれたってーのに兄貴に至ってはその後すぐにLv.6になりやがった
あー!クソつまんねぇ!!
ようやく一撃入れられるようになった途端に元に逆戻りだクソが!!
だが
・・・・・・今はそんな毎日が退屈しなくてちょうどいい。
《side out:ベート》
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日常をいくつか挟んだ後にレーフィーヤの話とかする予定