05:期待×疑惑
《side:フィン》
僕は
自他共に認めるオラリオでも数少ないLv.5の第一級冒険者だ
僕の夢は世界規模での
そのためにもオラリオで最大派閥の片割れでもあるこのロキファミリアの団長という役職は意味のある地位だ
ただ、団長という役職は多忙を極める、特にうちみたいに団員だけではなく主神の癖も強いファミリアの場合は特に。
「それで?」
目の前には副団長でもあるリヴェリアの前で正座をさせられ憔悴しきっている我らが主神ロキの姿
「今度は何をしでかしたんだいロキ?」
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聞き出した内容はロキが僕たち幹部に無断で団員を増やしたという内容だった
そこまで重大なポカではなかったことに、とりあえず安堵の息を漏らす
しかし、こんなことが続くとファミリアの人員がすぐにパンクする
それに団員には最大大手ファミリアとしての自覚を持った行動が常日頃から求められるため、よほどの実力者でもない限り入団試験と面接を行うようにしている
今回ロキが入団させたのは村から出てきたばかりの屋台でバイトしている少年とのことだ
・・・これはまた微妙に困った問題だ
現在の団員は他のファミリアから
そんな彼らはロキファミリアに入団できたことを誇りに思ってくれている
そこに実力もなく試験も受けていない者が主神の鶴の一声で入団してきたとなったらどうなるか・・・胃が痛くなりそうだ
それでも既に
団長として皆に当たり障りないように説明しなければならない、そう言うと
「いや、その必要はないかもしれんで」
正座のままでロキがあっけらかんと言いながらポケットから取り出した紙をリヴェリアに渡す
「・・・なんだ」
「ええから見てみぃ」
「・・・ふむ・・・ほう、スキルか・・・・・これは・・・」
それに目を通したリヴェリアの目付きが何かに気付いたように見開かれる
「・・・なるほど、確かにこれなら皆も納得するだろう、ロキよ、これも神の勘というやつか?それともわかっていて
「いや、どうやろなー、昨日はけっこう飲んでたせいで泥酔状態やったし無意識のうちに勘が囁いたかもしれんけど、それに気付いたのもリヴェリアの説教が落ち着いてからでな、気づいたときは驚いたで、なにせ最初からスキルが発現してるなんて滅多にないからなー」
ニシシシと笑いながら棚からぼた餅ってあるんやな~とロキがつぶやく
2人が見たのはおそらくその少年のステイタスの写しだろう、この2人が驚くほどのスキルに興味が湧く
「リヴェリア、僕にもそれを見せてもらってもいいかい」
そう言ってリヴェリアから受け取ったステイタスの写しには彼の名前と初期のステイタス
通常の
だが『カイト・クラネル』の場合はそこからさらに下のスキル欄にさらに追記があった
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カイト・クラネル Lv.1
力:I 0
耐久:I 0
器用:I 0
俊敏:I 0
魔力:I 0
アビリティ
【 】
魔法
【 】
スキル
【念能力】
・魔力を身体能力へ能動的に上乗せできる、熟練度次第で効果は倍増する。
・
・
・
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
そのスキル説明を読んですぐには気付かなかった、だが
このスキルと似たような効果は存在する
身近な例を挙げればアイズが使う【付与魔法】が一番近い、あの子の場合は風を武器や自身に纏わせることで攻撃力や身体能力を底上げすることができる
実際カイトの【念能力】も似たような効果だ、属性付与がない分他人には劣っている様にも感じることだろう、だが注目すべきはそこじゃない、本当に注目すべきはこれが【魔法】ではなく【スキル】であるということだ
【魔法】というのは発動させるために魔力を練りつつ呪文を詠唱しなければならない、これは絶対であり例外はない、さらにそれが強力であればあるほど詠唱時間と必要な魔力はねずみ算式に膨れあがる
だが、これが【魔法】ではなく【スキル】であった場合、それが必要でなくなる
冒険者というのは一瞬の選択ミスが死に直結する、その中で魔法と同じ効果を詠唱なしでスキルとして発動できるというのは破格の能力だ
「これは・・・確かに皆の説得は必要ないみたいだね」
それどころか彼が成長すればロキファミリア最強の
そこでロキが小さい声で笑い始める
「2人とも気付いとらんの?」
「魔法ではなくスキルとして付与魔法が使える以外に何かあるのか?」
「教えたるから正座止めてもええかな」
リヴェリアに目線で合図する、確かに勝手に団員を増やしたのは良くはないが、今回はそれが悪くない結果として残ったのでここら辺で勘弁してあげてもいいだろう、説教はリヴェリアがたっぷりとしてくれたようだし
「・・・いいだろう、それで私とフィンが気付いていないこととは何だ」
あだだだだ、足がシビれる~と言いながら立ち上がりつつロキがとびきりの悪戯顔で僕の持っているステイタスの写し紙を指し示す
「スキルの念能力の欄をもちっとよく見てみぃ、まるでこれから何かが追加されるような空欄があるで」
そう言われて改めて紙を見ると、確かに【スキル】の欄に明らかに不自然な空欄が目立つ、これはつまり―――
「スキルそのものが成長する可能性があるか、もしくは―――――」
「本来のスキルの一部のみが発現している、か・・・ありえるのか?」
「ありえるんやろうな~、くーーーーー!!これやから下界は止められん!!
その未知に狂気すら孕んで喜びを表すロキ
「ロキ、とりあえず落ち着いて、それよりもこれだけ希少な能力なら誰かを直接指導につけた方がいいね」
「スキルといえど魔力を使用するなら私の方でも指導は可能だが、どうする?」
そんな風にリヴェリアと今後の彼の指導について話していると
突然の乱入者が現れた
「ならば、あやつの面倒は儂に任せてもらおうか!!」
そう言って扉を勢いよく開けて入ってきたのは最後のロキファミリアの幹部ガレスだった
しかもなにやら大分機嫌が良い、ただ気になるのは右目に包帯を巻いていることだろうか
これはもしかして件の彼と何かあったかな?
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《side:ガレス》
儂はドワーフの「ガレス・ランドロック」 一応ロキファミリアの幹部を務めておる
今日も庭で他の者達と訓練をしていたらリヴェリアが儂とフィンに招集を掛けた
何でもロキのアホがまた何かやらかしたらしい
やれやれ、前回は自分の分では飽き足らず
何でも交換景品に幻の酒が入ったというのが切っ掛けだったが思いの外、賭博にはまってしまったらしい
最後には目的を忘れて賭博に夢中になってしまたとか
アホじゃのう、せめてその幻の酒とやらを手に入れておれば少しは庇ってやったんじゃが・・・その場合はもちろん庇った分の分け前(酒)はもらうがの。
とりあえず訓練はここまでにして会議室に向かうとするかの
そう思い訓練を切り上げてフィンの部屋に向かっている途中で見慣れぬ坊主が門から
話しかけてみると、儂を見てかなり驚いていたようじゃが、落ち着かせてから素性を聞いてみると、つい先日ロキにスカウトされ恩恵を刻んでもらったとのことだ
証拠に背中を見せてもらうとロキのエンブレムが確かに刻まれていた
・・・今回の招集内容に予想が付いた、多分この坊主のことじゃろうな
まぁいいか、確かに儂らに相談もなく団員を増やすのは褒められた話ではないがそこまで問題視するものでもあるまい、
リヴェリア辺りは激怒してそうじゃが、フィンが無難な解決策を考えるじゃろ
それにしても、先ほど背中のエンブレムを見せてもらったときに坊主の体付きも見ることになったが、年齢の割にかなり鍛えられていた
どれ、今の段階でどの程度見込みがあるか軽く試してみるか
ついでに今まで何をしていたのかと聞いてみると、一月程前にオラリオに初めて来てからは屋台でバイト、その前は村で祖父と弟の3人で畑を耕しつつ冒険者になるために体を鍛えていたということらしい
実戦経験は偶に森に現れたゴブリンを数匹討伐したくらいとのことだが、恩恵を刻んでいない状態の子供がゴブリンを討伐していたというのは驚くべき事だ
・・・ふむ、ロキの気まぐれにしてはこの坊主、当たりかもしれん
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《side:貧乳リヴェリア》
私はエルフの「リヴェリア・リヨス・アールヴ」、ロキファミリアの副団長だ・・・なんとなくだが今笑った奴に災いあれ
今回はまた主神であるロキが厄介事を起こした
つい最近、新たに団員を増やしたばかりだというのにファミリアの幹部に無断で団員を一人増やしたという
恩恵を与える代わりに神々が好き放題に生きるのは神代の時代が始まってから人が背負うべき対価ではある
だが、仕方がないとは言ってもこうまで次々と問題が起こると頭を抱えたくなる
不幸中の幸いなのは今回ロキが入団させた少年が希少なスキルに目覚めているということだ
これならば多少特別扱いということで入団させても他の者に説明しやすいし、その子に対するやっかみも少なくてすむだろう
それにどうやらこの子のスキルは魔力を鍛えればそのまま他のステイタスの底上げに繋がる能力だ、多少であれば私が指導することもできるだろう、そう考えてフィンと話し合っている所に横槍が入った
「ならば、あやつの面倒は儂に任せてもらおうか!!」
ガレス・ランドロック、私やフィンと同じく、ロキファミリアの最古参にして幹部の一人だ
昔はよくこいつとは気が合わずに喧嘩したが、今では気心の知れた仲となった
そんなこいつが随分と嬉しそうに部屋に入るなりカイトの直接指導員になると言ってきた
ただ少し気になるのは頑丈さでは右に出る者のいないこいつが右目に包帯を巻いていることだろうか
カイトとは間違いなく何かがあったんだろう、酒と相撲や力比べの好きなこいつが気に入るとなると、模擬戦か何かでもしたのだろうか
だが、その右目は何だ、まさかカイトが付けた傷なわけではあるまい
「ガレス、遅刻だよ」
「おおう、すまんすまん、ちょっと意気のいい坊主の相手をしとったら思いのほか時間を忘れてしもうたわい」
「その意気のいい坊主というのはカイトのことか?」
「おう、そうじゃ、そのカイトじゃ!あやつ見所があるぞ、わしに育てさせてくれ」
ガレスがここまで入れ込むとは、どうやら思っていた以上にカイトという子は優秀なのかもしれない
そうやって三者三様で思惑に入ろうとしたとき、パンパンと手を叩いてロキが注目を集める
「とりあえず、カイトの情報を共有しよか、まずうちらの方から、その後にガレスがカイトと何があったか」
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私達がカイトのスキルとその特殊性について説明するとガレスは納得した様に相づちを打った
「なるほど、どうりでLv.1であの動きというわけか、それに成長する可能性のあるスキルか・・・なるほど」
「なんやガレス、やっぱカイトと模擬戦でもやらかしたんか?」
「おう、どの程度の実力か試験代わりに見てやろうと思ったんじゃが、多少油断してたとはいえ・・・いいのを一発喰らっちまったわい」
そう言って右目に巻いた包帯に触れる
「「「っ!?」」」
その言葉に私だけでなくロキやフィンも呆けた顔になって言葉をなくす
ありえない、Lv.5のガレスに昨日恩恵を刻んだばかりのLv.1が一撃を、しかも負傷を追わせるほどの攻撃を決めた?
バカなという言葉が思わず漏れてしまった、カイトという少年は一体何者なのだ
「・・・ロキ」
「んー、そやな一応、うちの前で軽く面接といこか」
神の前では地上における人々は嘘をつくことができない、さすがにカイトが何者なのか問いたださねば成るまい
最悪の場合、ファミリアに害を為す存在になり得るなら即刻除名もありうる
剣呑なことを考えているとガレスがカイトを庇ってきた
「おいおい、カイトは何か後ろめたいことをしてきた奴じゃないと思うぞ、あの動きは日頃の鍛錬で磨き上げたものだったぞ」
「だとすれば、彼はアイズに並ぶ将来の幹部候補かな?」
「そう思ったからこそ儂が名乗り出たんじゃろうが」
「こりゃ、棚からぼた餅どころか
まったくだ、だからといって今度から勝手に団員を増やすのは許さないが
「わかっとるがな、今回はちょっとした事故みたいなもんや、まぁ転んでもただでは起きないのがうちやで~」
どうやら、あまり懲りていない様なので正座を一時間再開させてやった、ロキが悲鳴を上げたが知らん、いいかげん反省しろ、次同じ様なことがあったらギザギザの板の上で正座させてやろう・・・
「まぁ、とりあえず、面接はここにいる全員で食事前には行うとしよう」
フィンがそう言ってとりあえずは解散となった
カイト・クラネルか、怪しいところもあるが私も興味が出てきた、午後の面接が楽しみだ。