53:来訪✕武神 その1
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《side:ヤマト・命 》
海を越え 野を超え 山を超え 谷を超え
故郷を後にした私たちはただひたすら目的地を目指して西進する
私の名はヤマト・命
武神タケミカヅチ様の娘だ、もちろん娘といっても血の繋がりがあるわけではない
そもそも神は下界で子を成す事はできない、孤児であった私をタケミカヅチ様が拾い娘としてくれたのだ
タケミカヅチ様は下界に降りてきてから複数の神々と孤児たちを引き取る孤児院(極東では社と言う)を運営している
そしてその運営費は各地の方々からの厚意による支援で成り立っている…だがそれも最近は限界が見えつつある
元々の経営も楽なほうではなかったが、ここ数年で孤児の数がさらに増えたのだ
その状況を鑑み、社で腕の立つ者達が出稼ぎに行くことにした
手を上げたのは桜花殿を初めとしたタケミカヅチ様に
武神の眷属である自分達が誇れるのはその身一つの武芸のみ…身分不相応に稼ぐ手段は限られている
故に――――――目的地は世界で唯一のダンジョン
世界の中心とも呼ばれる大都市オラリオ
そこが二度と故郷に戻れぬ覚悟で決めた私達の新天地だ。
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それから数ヶ月の旅の末、私たちはようやく明日にはオラリオに着くであろう地点まで来ていた
まだまだ金を稼ぐという目的を達成していないながらも、目的地に到着できるという達成感に心が逸る
それは自分だけではないようで皆どこか浮き足立っている
そんなとき
「ん? あれは…」
鳥獣の羽ばたき音が中空から聞こえてきた
「お!来たか!」
音源であった一匹の鷹がタケミカヅチ様の肩に止まった、脚には手紙が括り付けられている
「ハッハッハ、中々賢い奴だな」
『ピーーー!!』
タケミカヅチ様の反応から察するにこの伝書鳩、いや伝書鷹にはどうやら心当たりがあるようだ
慣れた手つきで鷹を撫でると気持ち良さそうに鷹が鳴いている、ナニソレかわいい私も撫でたいんですけど
「タケミカヅチ様、その鷹は一体・・・いえ、それよりもその手紙は?」
「こいつはおそらく俺の知り合いが寄越した物だ、最後に手紙をやり取りしたときにヘルメスに何かしらの方法で連絡を取らせるとは聞いていたが、こうきたか・・・さすがに奴でも青い鳥は用意できなかったか? カッカッカ!」
青い鳥?何のことでしょうか・・・
タケミカヅチ様以外の全員が頭の上に疑問符を浮かべている間に鷹の足に括り付けてあった手紙を開き目を通していく
「ふむ・・・ふむ・・・おぉ助かる・・・」
読みながら何度も頷きつつその表情は明るくなっていく
もしかして何かの朗報・・・オラリオに居る知り合いの神に何かしらの連絡が取れたとかでしょうか?
神々の交友は広い、基本的に天界で不老不死なため全ての神々は顔見知りだ
顔見知りとは言っても仲の良い悪いは神であろうともあるわけですが、タケミカヅチ様の表情から察するに仲の良い方の神と連絡が取れたということだろう、そうだとするならばオラリオに着いても早々右も左もわからないという困った状況は回避できそうですね
「タケミカヅチ様、その手紙はいずこかの神からですか?」
全員の疑問を桜花殿が代表するかのように聞いてくれた
「ん?あぁ、この手紙を寄越したのは神だが手紙を書いたのは別の奴だ」
「手紙を書いたは別の神、ということですか?」
「いや、手紙を書いたのは神じゃなくておまえ達の兄弟子な」
「へー・・・」
「兄弟子かぁ」
「なるほど」
「・・・うん?」
「・・・え」
「・・・あれ?」
なるほど、私たちの兄弟子・・・兄・・・弟子・・・?
タケミカヅチ様の言葉を脳内で処理するのにその場の全員が10秒以上の時を要した
「「「「「「兄弟子!!??」」」」」」
兄弟子が私達にいたのですか!?いつ!?
「あ、あれ・・・言ってなかったか?」
「全員初耳だと思いますけど・・・」
一応確認のために皆へと視線を送ると全員が首を横に振っていた
「なるほど・・・・・・実はなおまえ達には兄弟子がいるのだ!!」バーン!
いや、バーンじゃないですよ、バーンじゃ
遅すぎます、色々と。
オラリオ到着の前日
タケミカヅチ様、まさかのカミングアウト。
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翌日
タケミカヅチ様曰く
まだ見ぬ兄弟子は相当に腕が立つだけでなくオラリオでもかなり幅広く顔が広い人物とのこと
いや、そんなことより名前とか教えてくださいよ
「名前はカイトだ、家名は事情があって名乗っていないそうだ」
カイト殿ですか・・・ん? どこかで聞いたことがあるような?
私が聞き覚えのある名前に首を傾げていると
「み、命ちゃん、カイトってもしかしていつも支援金を送ってきてくれていた人じゃ」
おぉ!言われてみれば確かにそのような名前の方でした!
何年か前に千草殿と一緒にお礼代わりの押し花を送った記憶があります。
・・・あれ、それ以外でもカイトという名前に聞き覚えがあるような?
「うむ、その人物で間違いないぞ、お前たちの兄弟子には何年も前から社に金銭的にも物資的にも支援をしてもらっている」
なんと、やはりそうでしたか
「あの、そのカイトって兄弟子は俺たちと同じタケミカヅチ様の眷属なのですか?俺は他に眷属がいるなんて聞いた事がないんですが」
「いや、他の神の眷属だ」
「他の…」
桜花殿の疑問に何でもないように答えるタケミカヅチ様ですが、桜花殿はそれに納得がいっていない様子
まぁ気持ちはわかります、武神であるタケミカヅチ様に武技を教えてもらっているのは眷属である自分たちだけのはずと思っていましたし、自分たちだけという独占感が侵されてしまいみっともない嫉妬心が私にも芽生えます。
「まぁ、武を教えたというのも、何と言えばいいのか…ぶっちゃけ俺は一度も直接教えたことがなくてな」
は?
「えっと…どういうことですか、教えたことがないのに俺たちの兄弟子ってのは?」
「うむ、簡単に言うと俺は書伝であいつに技や訓練方法を教えただけでな、これが出来るようになったら次はこの訓練を、といった感じでな」
なるほど、でもそれは・・・弟子なのでしょうか?
「弟子うんぬんとかを最初に言い出したのは向こうの方でな、俺たちがオラリオに出稼ぎに行くことを伝えたら『師や兄弟弟子達に何もしないわけには行かないので当面はご安心下さい、色々と準備をしておきます』とな、最初はそこまで迷惑を掛けるわけにはいかんとは思ったんだが・・・正直ここまで来るだけでも路銀や風習の違いで大変だっただろ?」
それは確かに・・・移動続きの旅は私達の心身を疲弊させるには十分でした
「ここはカイトの言葉に甘えようと思ってな、さっきの手紙もそういったオラリオでカイトが準備している俺たちの仮の拠点や手続きのことに関してでな、とりあえず明日はオラリオの門まで迎えに来てそのままオラリオの案内までしてくれるそうだ」
なんとまぁ、至れり尽くせりではないですか、不安だらけの新天地への不安が一気に減った気がします
「それでその兄弟子のカイトって人はどこのファミリアに所属しているんすか?」
あ、それを聞いてませんでしたね
あ、何故かタケミカヅチ様が悪戯でもするかのような表情になってます
「ふふ~聞いて驚くなよ? なんとあの【ロキ・ファミリア】だ!」
「「「「ろ、ロキ・ファミリア!?!!??」」」」
さすがに全員の顔が引きつりました
オラリオにそのファミリアありと言われ、構成団員のみで国家を相手に蹂躙できる戦力を保有するというあのファミリですか!?
・・・ん? あれ? カイト? ロキ・ファミリアの・・・カイト?
先ほど私が兄弟子の名に感じた違和感がロキ・ファミリアの名と共に再度浮上してきました
それに気付いたのは自分だけではないようで、他の皆も「え?嘘でしょ?」みたいな顔になっています。
いや、でも、まさか、そんな・・・ねぇ?
「あ、あ、あああ、あのタケミカヅチ様?」
「ん?どうした千草?」
「あ、兄弟子のカイトさんって上級冒険者ですか?」
「おう、そうだぞ」
上級、つまり最低でもランクアップ済みでLv.2以上は確定ということ
世界的にはそれだけでも十分すごいのですが・・・
今思い描いている内容はさらにそれの数段上を行くわけで・・・
「その人の二つ名って・・・?」
桜花殿がまさか、とでも言うかのような顔で質問しています
「『
「「「「「やっぱりぃぃぃぃいいいいーーーーー!!??」」」」」
な、なにをあっけらかんと答えているのですかタケミカヅチ様は!?
ロキ・ファミリアの『
旅の途中で一体どれだけの吟遊詩人達がその方の活躍を詩にして語っていたことか!
正直、ランクアップ所かステイタスも低い自分たちでは千、いや万倍の数で逆立ちした所で足下にも及ばない高みにいるはずの人物!
えぇー・・・そんな方が
兄弟子?
私達の?
マジっすかー・・・
「何をそんなに驚いているんだお前ら?」
いや、驚きますよ
昨日、兄弟子が居るということだけでも驚いたのにその人がロキ・ファミリでしかも第一級の冒険者であの『
皆、驚きの連発で感情と思考が放心状態ですよ
「いや何言ってんだ、これから向かうオラリオでこれ以上心強い味方なんていないぞ?」
まぁ、それは確かに・・・でも自分たちみたいな者が雲の上に居るような方に会うのは気が引けるというか何というか
「そんなに不安にならずに頼りになる兄弟子がオラリオで俺たちを迎えてくれるくらいの感覚で行けばいいさ」
「だ、大丈夫なんすか・・・?」
不安そうな桜花殿の言葉はここに居る全員の代弁だ
なにせまだ見ぬ兄弟子はLv.6、私達が何か粗相をして怒らせようものなら指一本で消し飛ばされます
「心配するな、あいつは第一級冒険者の中では貴重な人格者だと言われているらしいし、そんな人物でもなければ俺も訓練方法の指示などせんよ」
「まぁ、そこまで言うのなら・・・」
タケミカヅチ様にここまで言わせるとは・・・
まだ見ぬ兄弟子は良き方のようで-――――――
「ちなみに、将来を約束した恋人が4人いるとのことだ、はっはっは、英雄色を好むとはカイトのための言葉だな」
あ、ダメですね
女の敵です
雲の上の存在の兄弟子が急にゴミ以下の存在になりました。
ウマ娘楽しいわ~