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《side:ラウル》
〇7年X月平凡っす日
初めまして!自分はラウル・ノールド、今年で13歳になったっす、田舎暮らしの三男坊で日々親に兄弟にと、こき使われる毎日に嫌気が差して、男として一旗揚げるために世界の中心、ダンジョン都市オラリオに来たっす
来た当初は右も左もわからなかった所をロキに誘われ、ちょうど行われる入団試験で見事合格、おかげでロキファミリアの一員になれたっす
ただ自分が思っていた以上に冒険者というのは過酷なものなんすよ
まず単純に神に恩恵を刻んでもらってもすぐにダンジョンに潜れるわけじゃなかったっす
最初の2週間とちょっとは先輩方との訓練とダンジョンに関する様々な知識をつけるための勉強尽くしで、生まれてこの方農業しかしてこなかった自分には頭から煙が出るかと思うほどキツいもので、ああ、思い出すと涙が・・・
中にはさっさとダンジョンに潜りたいと言う反発心を持った奴も出て来たっす、原因はアイズさん、アイズさんはLv.2の冒険者で正真正銘の第三級冒険者しかも世界最速のランクアップの世界記録保持者・・・なんすけど何と年齢がわずか8歳、しかも見た目からはとてもじゃないけど自分達よりも強い様には見えないんすよね、でもそういう奴は大抵がアイズさんに身の程を体に叩き込まれたっす、
おかげで反発心を持っていた奴らは全員が大人しく訓練と勉強に打ち込むようになったのは怪我の功名って言うんすかね?
入団して3週間後にはようやく、初めてダンジョンに潜ることになったすけど自分は緊張で何も出来なかったっす、他の皆はそれなりに闘えてたんすけど自分はビビッてゴブリン相手に終始逃げ回ってそのままその日のダンジョンアタックは終わったっす
悔しかったっす、皆がモンスターと闘えている一方で自分だけが逃げ回った
悔しくて悔しくて、その日は与えられた自室で夜中まで泣いたっすよ、同室の団員がいなくてよかったっす
〇7年X月脱っす日
あれから一月、最初の悔しさをバネに訓練とダンジョンアタックを超頑張ったっす、ステイタスももう少しでIからHに上がりそうなものもあるっす、おかげで少しは自信が付いて3階層まで到達階層を伸ばせたっすよ
先輩方やガレスさんに実力よりも精神を鍛えるように言われてから、度胸を付けるために遥かに各上の先輩方やガレスさん相手にボコボk、いやリンt・・・訓練をしてもらったおかげっす!
さぁ今日もダンジョンアタックをがんばるっすよ!じゃなきゃあの訓練ががががががっががががが
・・・モンスターヨリミカタガコワイデス。
〇7年X月驚っす日
今日も訓練に励んでいたらガレスさんが昨日入団したばかりの新入りを連れてきたっす
事情があって入団試験なしで入ったらしく、そのための後日試験とのことみたいっす
その試験として軽く模擬試合をするので審判役を務めるように言われたっす
まぁ、断る理由もないし、(というかガレスさんに逆らうとか無理)快く引き受けたっすけど
試合が終わった後に自分は驚きすぎて放心状態になっちゃう程だったっす、彼、カイトは一体何者っすか?
模擬戦形式で始めた瞬間に文字通り目にも止まらぬ速さでカイトはガレスさんに殴りかかったっす、それでもガレスさんには通じず一旦距離を取ったみたいっすけど・・・ありえねーっすよ、何なんすかカイトは!?
あの動きはとてもじゃないけど昨日今日に恩恵を刻んだ者の動きじゃねーっすよ、むしろ2ヶ月も訓練してきた自分所よりも明らかに上、下手したら先輩方とタメを張れるほどの速度っす
しかも先輩方でも受ければ気絶必至のガレスさんの蹴りを受けて起き上がるだけじゃなく、そこからさらに反撃をしてきて、あのLv.5のガレスさんに傷を負わせたっす
試合を遠巻きに見ていた先輩方も顔に驚愕の表情を貼り付けて固まってたっす
ああ、せっかく後輩ができたと思ったんすけど、カイトには先輩面できそうにないっす
でも先輩としての意地もあるんで負けないように頑張るっす!
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《side:ガレス》
「なんじゃあ・・・あれは?」
カイトとの模擬戦は最初から驚きの連続じゃった、最初の一撃は余裕そうに見せたが危うくもらいかけた、その後の追撃も素晴らしい物じゃった、全てが的確に人体の急所を狙ってきおった、とてもではないが先日恩恵を受けた者の動きではない
続く攻撃には思わず反撃してしまったが、かなり手加減したとはいえLv.2でも受ければ気絶するであろう儂の蹴りを咄嗟に防御し立ち上がりおった!
さすがに無傷とはいかなかったようじゃがそれでも驚くべき反射神経と防御力じゃ、それにこの状況で儂に生意気な言葉を言い返す度胸もある
じゃが、これは今日一番の驚きじゃ、カイトの横にわけのわからん下手なおっさんの絵? の様な小さい何かが浮いておった
『ヒィィィイイーーーハァァーーーー!!それじゃいくぜえええええ?良い目が出ろよぉ!!』
しかも喋っておるし
不思議な物体の口にあたりであろう部分から何かがスライドして出てきたと思ったらカジノにあるスロットの様に回り始め、数字の3が止まった、一体何の意味があるのだ、いやそもそもあれは何なのだ
困惑するこちらを見て不敵な笑みを浮かべるカイトの姿が不気味に見えた
「・・・おい、じじい覚悟しろよ、とびきりの物を喰らわせてやる」
カイトが体の正面に手を合わせるとその手の間に何か黒い何かが現れた、その禍々しさは筆舌に尽くしがたいほどだ
それを手にしつつ、こちらに今までで一番の速度で突っ込んでくる
「うおおおおおおおおおおおおおお!!」
「むう!?」
(まさか伝説に聞く魔法、その中でもさらに異質と呼ばれる闇属性の魔法か!?)
だとすれば、あれは闇属性唯一の魔法!!
「『
本能がアレに触れるのは不味いと警鐘をならす、直感に従い回避を選択、儂の顔面に向かって放たれるそれを最小限の動きで避ける、本来であれば距離を取ることで難なく避けられるが今はルール上この円の中から出ることが出来ない、そのせいで避けられる範囲が狭められているが、これでも儂は現役の冒険者、それくらいの芸当は朝飯前のはずじゃった
(っ避けられん!?)
だがカイトから放たれた黒い塊は追尾機能でも付いているかのように避けたはずの儂の顔に向かって追尾して来た
(っ・・・やむを得んか)
左腕を犠牲にする覚悟で『
『パン』という音と共に『
(何もないじゃと?)
「何じゃったんじゃこれは・・・」
儂が黒い何かに気を取られている間に背後へと回ったカイトが裏拳を放ってくるが軽く腕で止める
「
卵焼き?何を言ってるんじゃこいつは
カイトがそう言うと同時に儂に、向かい風が吹く、カイトが握っていた拳を開くとそこには黒い塊の残滓が残っていた、それは風のせいで儂の右目に向かって飛び散り、そのかけらが目に入った
「これのどこが卵やkぐあああああああああ!?目があああああ目が焼けるううううううう!!??」
まるで眼球が焼けるかのような激痛に襲われる
「見たか、これが卵焼きの実力だ!」
マジで何を言っとるんじゃこいつは!?
こんな卵焼きがあるかぁ!!
「隙ありぃいいいいいい!!」
儂が激痛にのた打ち回っているのを好機と見たのか再びカイトが飛び掛ってきた
「ぬおおおおおおおおお!!」
「おべぇし!?」
あまりの激痛に手加減を忘れて振り回した腕がカイトに命中した、
「しもうた!?」
本気ではないとはいえ手加減抜きのLv.5の豪腕をその身に受けたカイトは先ほどとの倍の距離を水平にすっ飛んでいき、庭の木にぶち抜いて壁に激突することでようやくその身を止めた
まずい、やりすぎた!
「ラウル!急いで
「っ!? は、はいっす・・・って・・・嘘だろ!?」
ラウルに言いつけてから急いで吹っ飛んだカイトの元に駆け付けようとしたが、信じられぬものを見たような顔をしたラウルがカイトが吹っ飛んだ方向を見て呆けていた
儂とカイトを遠巻きに見学していた他の団員も同じ方向を見て呆けておる
まさかと思い、儂もラウルや他の団員の見ている方向に目を向ける
「・・・なんと」
まるで体中が錆び付いたかのように、ゆっくりとだが確実に立ち上がりつつある姿があった、
十秒以上かかっただろうか、本物の戦闘なら致命的な隙だが、Lv.1がLv.5の手加減無しの攻撃をまともに受けた場合は本来なら良くて危篤状態重傷必至、最悪という可能性などなく、普通で死ぬ
だというのにこいつは死ぬどころか立ち上がった
Lv.5の豪腕を受けたにも関わらず成り立てのLv.1の冒険者は立ち上がっていた
おそらく防御に回したのであろう両腕は紫に腫れ上がり、もはやぶら下がっているだけの様にダラリと垂れている
肋骨か内臓もやられたのか口からは血を吐いたような跡が今もアゴから血の雫を落としている
その姿はまさに満身創痍
だがその目から放たれる威圧感をして一体誰がこの姿に満身創痍等という戯れ言を彼に被すことが出来るというのか
儂の方を見たカイトはまるで不気味な半月状の口で笑いながら言葉を搾り出してきた、その声は喉に血でも詰まったのか酷く掠れている、Lv.5の聴力がそれを拾い不思議と良く儂の耳に通った
「・・・ぇ、円・・内・・から・・・出た・・・な・・・」
「!?」
気付けば儂は決められた円内から出ていた、今から駆け付ける所だったのでカイトを助けに行こうとして出たものではない
「・・・ぁ・・まぁ・・だ・・・やるか・・い?」
いくら目が死んでいなくともその身に刻まれた傷は本物である、だというのにこの
「・・・・くっくっくっくっくっくっ」
「・・・・しっしっしっしっしっしっ」
どちらかが笑いだし釣られるようにもう片方も笑い出す
「「ガッハハハハハハハハ!!イヒッヒッヒッヒッヒッヒ!!」」
ダメだ笑いが止まらん、こんな楽しい馬鹿者は久しぶりじゃ。気に入った!気に入ったぞ!!
此奴は儂が育ててやろう、いや儂が育ててみせる!
おっとその前にそのための一区切りの宣言をしてやらねば
「儂の負けじゃあっ!!」
儂がそう言うとこの馬鹿は文字通り糸が切れたかのように顔面からぶっ倒れおった、元々限界を超えたダメージを受けていつ倒れてもおかしくないのを、精神力だけで支えて立っておったのじゃろう、くっくっく、なんちゅー意地っ張りじゃ、アイズ以上じゃの、これは
ほれ、ラウル何をボサッとしとるんじゃ、さっさと回復薬か万能薬でももってこんかい
おっとそうじゃった、リヴェリアに呼集されとったのをすっかり忘れておった
おそらく呼集内容は間違いなく此奴の事じゃ、何か勝手に決められる前に儂が割り込まねばせっかくの此奴の教育係を別の誰かに取られかねん、
そこからはラウルの持ってきた回復薬を全てカイトに使わせて治療を行い、儂は包帯を巻く程度の軽い治療だけですませ急いで招集された場所まで足早に向かっていった
あれ程の激痛だったはずの右目が時間が経つごとに痛みも引き、視力も戻ってきた
本当にアレは一体何だったのか、断じて卵焼きではないということだけは確信を持っていえるのだが・・・本当に卵焼き等と言うのなら今度から卵焼きが食えなくなりそうじゃ
まぁええか、今度改めてカイトに聞くとしよう
しかしまいった、完っ全に遅刻じゃな、リヴェリアとフィンに小言を言われそうじゃ
《side out:ガレス》
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目が覚めたら激痛が急に襲ってきた、ということもなく快適な目覚めだった
場所は先程と変わらず訓練所兼庭の様な場所
どうやらあの後、邪魔にならないように隅っこに寝かされていたらしいな
起きてから自分の現状を把握し始めて、体のどこからも痛みがないことに気付く
あれ、俺ってばかなりの重傷だったよね?
腕とか痛みがズンガズンガだったし呼吸はまともにできないし血が噴水みたいに口からあふれるしで結構ヤバかったはずなんだが、今の俺の体には文字通り傷一つ付いていない、服はボロボロなのにその下にある皮膚だけが妙にツヤツヤして綺麗な状態に違和感を覚える
自分の状態を不思議に思ってると先程審判をしてくれていたラウルという少年が声を掛けてきた
「お、早いすっねもう起きたっすか、どこか体に異常とか違和感を感じたりしてないっすか?」
「いや、逆にどこにも異常がないことに違和感を感じるんだが、どれくらい寝てたんだ? いや、その前に俺って模擬試合でおっさんにちゃんと勝ったんだよな? 実は夢でしたー、とかじゃないよな?」
実は最初の一撃の後にカウンターでノックダウン、そっから先は
――――という夢をみたのさ、良い夢見れたかよ?
とかだったら悪夢だぞ。
「安心するっすよ、カイトはちゃんと
ラウルの話を聞いてとりあえず夢ではなかったことに安堵する
それにしても、すげーな
村ではお目に掛かることすらなかった初めての回復薬の効果に多少浮かれていたが、今のラウルの台詞におかしな単語が混じっていたことに気づき頭に電撃が走った
寝ていた時間ではない、俺と試合をしたおっさんの名前に関してだ
これが聞いたこともない名なら良かったのだが、ガレスというのはロキファミリアにおいて1人しかいない・・・はずだ
もしかしたら俺が知らないだけで同じ名前の者が居るだけなのかもしれないので一応ラウルに聞いてみた
「なぁ、ラウル」
「どうしたんすか?」
「ガレスってもしかしてガレス・ランドロック?」
「そうっすよ」
「
「し、知らないで試合してたんすか・・・」
スンマセン
あまりの事実に頭痛がしてきて頭を抱える
「普通、Lv.5が模擬試合の相手とか思わないだろ・・・」
Lv.5とかガチで世界中を見回しても両手の指だけで数えられる位の第一級冒険者じゃねーか
「まぁ、名乗らなかったガレスさんもガレスさんっすけど、ここに入るのに幹部の顔も知らないカイトもカイトっすよ?」
返す言葉もないっすわ
「まぁいいや、それで俺ってばこれからどうすりゃいいだ、このままここでキャンプでもすりゃいいのか?」
「ホームの庭で一人キャンプって悲しすぎるっすよ・・・」
うん、自分で言ってて悲しくなってくる
「まぁ、冗談はここまでにしてマジでどうすりゃいいか聞いてたりしないか?」
「一応、『目が覚め次第、カイトの容態が大丈夫そうなら団長室で軽い面接だ』って、さっきガレスさんが伝えにきたけど・・・大丈夫そうっすね」
俺の様子を見て安堵したように言っているが、無理
「いや、無理、できれば三日後とかにして欲しい」
「あれ、やっぱりまだどこかがすごく痛むとかっすか?」
違う、そうじゃない、俺の想像通りなら精神が持たん、発狂するぞ
「いいかラウル」
俺はできるだけ声を落として呟くように声を吐き出す
「な、何すか?」
「俺はな、おっさんに
模擬戦でコレだ、きっと精神と肉体の限界に面会とかそんな感じではないだろうか
「いやいやいやいやいや!あそこまで激しい試合は自分の入団試験の時でもなかったっすよ!」
ナヌ!?
「え?じゃあ何であのおっさんあそこまで俺のことボッコボコにしたの、OKもらうまで死にものぐるいだったんだが」
「それはわかんないっすけど、少なくとも団長はそんなことするような人じゃないっすよ、それに元々ガレスさんだって普段の訓練はそりゃあもう厳しいっすけどここまで怪我を負わせるほどのことはしたことないっす」
「じゃあ、何で俺だけスダボロにされたんだよ」
「さぁ?、案外気に入られてとかじゃないっすか?」
このファミリアは気に入った奴を半殺しにするのか、こえーよ
それにしても面接かー、しかも団長の部屋、ラウルの発言からも間違いなく面接相手はこのファミリアのトップ
「今度は『
確かに噂では相当な人格者であると聞いているが、はてさて
「あ、面接は幹部全員とロキの前で行うらしいっす」
「・・・それってラウルも入団試験のときに全員と面接したのか?」
「そういや、自分のときはロキとだけだったすね、全員暇なんすかね?」
珍しいなー、とかラウルがお気楽に言ってるが幹部全員ににファミリアの主神ががん首そろえて面接
・・・それは尋問というのではないでしょうか?
やっぱ拷問とかが待ってそうだ
[模擬試合](条件付き)
カイトVSガレス
カイトの勝利
両腕骨折 肋骨骨折 内臓中度損傷 全身重度の打撲複数
ガレス敗北
右目負傷
【
3『
顔面への命中補正
口内摂取の場合、即死以外の様々な状態異常をランダムで引き起こす
状態異常は毒・麻痺・発熱・腹痛・記憶障害 等多岐に渡る
口内摂取を長年続けた場合、状態異常への耐性が出来る代わりに失明まではいかないが視力が落ちる(某弟が眼鏡を掛けているのはこのせいだと言われている)