【改定版】魏√after 久遠の月日の中で   作:ふぉん氏

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枷のついた帰還

夜半、通い慣れた道場に足を運ぶ。

中は暗く静まり返っており、扉を開く音だけが道場内に長々と響いた。

 

電灯を付けようと壁のスイッチに触れたが、なんとなく止めた。

 

窓から見える大きな満月。

忘れもしない別れの時を連想させる。

 

五年間、思い返す度悲しみに暮れていた。

しかし、今日は違う。

 

 

「やっと……やっと会える」

 

 

時計に目を向ける。

約束の時間までまだ余裕があった。

 

壁に背を預け、目を閉じる。

逸る気持ちを抑え、時間潰しに今日まで足掻いた五年間を振り返る事にした。

 

 

 

 

 

 

 

現代に戻った俺は、自室で朝を迎えていた。

現代最後の記憶から日にちが進んでおらず、全て夢だったのかと一瞬呆然としたが、身体つきや戦場で受けた傷が、彼女達との出来事が現実である事を教えてくれた。

 

 

その日から、慌しい日常が始まった。

 

昼は学校。

放課後は向こうの世界に行くための調査。

夜は鍛錬。

 

鍛錬については、その道で知らない人は居ないと言われている祖父が協力してくれた。

 

そんな日常を高校卒業まで続け、大学進学へ。

 

この頃から、かなり焦り始めていた。

大学には最低限出席し、残りの時間は調査と鍛錬。

 

親に小言を言われたのは一度や二度ではない。

 

そんな中、鍛錬は順調に実を結んでいた。

やはり、祖父の教えが大きいだろう。

 

しかし、調査は一向に進展していなかった。

 

数年で全国の手がかりになりそうな所は全てまわり終えた

 

 

中国に行けば何か……

 

 

そう考え始めた矢先の事。

 

 

 

 

夜遅く、日課の鍛錬を終えた帰宅途中。

 

 

「やっと見つけたわん……ご主人様」

 

 

背後から声と気配。振り向くとそこには、半裸の筋肉達磨が居た。

 

筋肉達磨は両肘をつけてウィンクをしている。

この世のものとは思えなかったが、彼には見覚えがあった。

 

 

「お、お前……確か下着店に勤めてた貂蝉だよな……」

 

 

「あらん、覚えていてくれたのねん。愛の成せる業かしら」

 

 

そう、貂蝉は向こうの世界で下着店の店員として働いていたはずだ。

 

何故この世界にいるのか。考える間もなく貂蝉に詰め寄っていた。

 

 

「教えろっ!どうやってこの世界に来た!どうすれば俺は向こうの世界に行ける!」

 

 

「んもぅ落ち着きなさい……と言っても、無理な話よねん」

 

 

詰め寄る俺をすんなり交わしてこちらに背を向ける。

 

 

「やっとよご主人様。やっと認められたのよ、外史の独立が……」

 

 

「認められた……外史……?」

 

 

外史?聞いた事が無い単語だ。意味が分からない。

 

 

「いいのよ分からなくて。とりあえず、ご主人様は向こう世界に戻れるわん」

 

 

貂蝉の言葉を理解した瞬間、疑う間もなく視界が涙で滲んでしまった。

 

 

「……もど…れる?本当か、本当なのか…?」

 

 

頭に浮かぶ彼女達。この五年間、ずっと思い続けてきた。

 

 

「明日のこの時間。いつも鍛錬してる道場にいらっしゃい。私がご主人様を向こうの世界に送ってあげるわん」

 

バチンッ!とウィンクしながら話す貂蝉。

その言葉を聴いて、目尻の涙が堰を切った。

 

何故かはわからないが、貂蝉が嘘をついている様には思えなかったのだ。

 

 

「貂蝉…ありがとうっ……」

 

 

貂蝉に深く頭を下げる。

五年間の足掻きが、報われるのだ。

 

 

「……でも、ご主人様にはすこーし我慢してもらわないといけないわん」

 

 

「我慢…?」

 

 

我慢とは何だろうか。

彼女達と再会出来るなら、殆どの事に耐えられる自信がある。

 

 

「詳しくは明日説明するわん。ま・た・ね」

 

 

言うが早いか、貂蝉は瞬く間に姿を消した。

 

これが、つい昨日の出来事である。

 

 

 

 

 

 

 

「あらん、待たせちゃったみたい。準備は出来てるかしらん」

 

 

と、いつの間にか道場には貂蝉の姿があった。

 

丸太の様な太い腕で、光り輝く何かを持っている。

 

あれは……鏡?

 

 

「準備は出来てるよ。ただ、説明してしてくれるんだろ?」

 

 

昨日言っていた、向こうの世界で我慢しなければならない事。

色々と予想してみたが、答えは何なのか。

 

 

「……心して聞いてねん。ご主人様」

 

 

憂いを帯びた表情で問いかける貂蝉。

覚悟なら既に出来ていた。

 

 

「向こうの世界に戻っても、ご主人様は暫く曹操ちゃん達には会えないわん」

 

 

「……暫く?」

 

 

貂蝉から放たれた言葉。

衝撃は相当なものだったが、思った以上に落ち着いていた。

 

 

「取り乱さないのねん。それだけご主人様も大人になったって事かしらん」

 

 

驚いた様子の貂蝉。

返事はせず、説明の続きを待つ。

 

 

「あの外史に無理矢理亀裂を作って、ご主人様を送るのよん。その後、亀裂を塞ぐことでご主人様は外史の住人になるわん」

 

 

外史。

昨日の会話から推測するに、向こうの世界の事を指しているのだろう。

 

 

「でもん、外史は亀裂が出来て直ぐ、歪みを正すために原因を排除するように動くのん。あの外史では、ご主人様は既に消えた存在。亀裂を塞ぐ前に曹操ちゃん達に会いでもしたら、外史は直ぐに歪みを感知して……」

 

 

貂蝉は言葉を切った。

全てを理解した訳ではないが、向こうに行って直ぐ彼女達に会うとどうなるかは分かった。

恐らく、外史の歪みを正す動きとやらで消えてしまうのだろう。

 

 

「……どのくらい、待てばいい」

 

 

「全力は尽くさせてもらうわん。それでも、ひと月」

 

 

貂蝉の言葉に、顔が強張る。

たったひと月。五年も経った今、然程長いとは思わない期間である。

しかし、手を伸ばせば直ぐにでも届く環境の中、我慢出来るか自信が無かった。

 

 

「ひと月か……何とか我慢する。また消えちゃったら元も子もないしな」

 

 

俺の言葉に貂蝉は笑顔でサムズアップする。

続けて、持っていた鏡を頭上に掲げた。

 

 

「いってらっしゃい!ご主人様!」

 

 

鏡から放たれていた光が貂蝉を、俺を、道場を飲み込む。

向こうの世界で待っているはずの彼女達を思い浮かべ、意識を手放した。

 

 

枷のついた帰還 了

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