【改定版】魏√after 久遠の月日の中で   作:ふぉん氏

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詳しくは、活動報告をご覧下さい。


五年間の成果

気が付くと、一人森の中に立っていた。

 

近くには川が流れており、過去に聞き慣れたせせらぎが耳を打つ。

 

深く息を吸う。

肺に満たされる空気は現代のものとは明らかに異なり、彼女達の世界に戻ってきた事を実感させた。

 

 

「戻って……これた」

 

 

ここはどこなのか。周りを見渡すと直ぐに分かった。

忘れもしない、あの日華琳と別れた場所である。成都と隣接している森の中だ。

 

これからひと月、どうするか。

軽く思案し、取り合えずは路銀を稼がなければいけない事に気付く。

計画を立てる前に、一先ず街に向かう事にした。

 

 

 

 

 

 

 

成都の街、大通り。

 

多くの人が行き交い、場は絶えず賑わいを見せていた。

 

取り敢えずは現代で買っておいたボールペンを売る事で、まとまった路銀と衣服を入手する事が出来た。

現代の服はこの時代では目立ってしまうので、早々に着替えたかったのだ。

またボールペンを売る際は、足がつかない様行商人には口止め料を払っている。

 

 

加えて行商人達から話を聞くことで、色々とこの世界の情勢を掴む事が出来た。

 

三国同盟が始まり五年が経とうとしていること。

五年の節目という事で、この成都で盛大な祭典が控えているとのこと等。

 

 

得た情報を整理していると、腹の虫が鳴り始めた。

 

ふと空を見上げると、太陽が真上を過ぎている。

こちらに来てからそれなりの時間が経っていた。

 

 

「おっちゃん!ラーメン超大盛りでおかわりなのだ!」

 

 

元気な女の子の声が耳に入る

視線を向けると、そこにはラーメンの屋台で豪快に麺をすする少女がいた。

 

あの子は確か、張飛だったかな。

屋台の横に置かれている蛇矛を見るに間違い無いだろう。

 

彼女の食いっぷりを見て、ラーメンが食べたくなってきた。

屋台に入り張飛ちゃんの横に座る。

 

彼女は俺に気を止めるでもなく、ひたすら麺をすすっていた。

 

店主らしき男にラーメンを頼み、張飛ちゃんを見る。

あれから五年が経っているにも関わらず、彼女はまったく変わっていなかった。

小さい体に肩にかかる程の赤い髪の毛。強いて言うなら、顔つきが少し大人っぽくなっただろうか。

 

 

「……そんなにじーっと見ても、このラーメンは鈴々のなのだ」

 

 

気が付くと張飛ちゃんは箸を止めており、丼を俺から隠す様に威嚇していた。

 

 

「ごめんごめん。あんまり食いっぷりが良いから気になったんだ。自分の分はちゃんと頼んでるから」

 

 

「ふーん。なら別にいいのだ」

 

 

理由を聞いて興味が無くなったのか、張飛ちゃんは再び食事を再開した。

 

今の季衣もこんな感じなんだろうか…

豪快にラーメンを食べる張飛が季衣と重なる。少し物思いに耽っていると、注文のラーメンがやってきた。

 

箸をとり一口すする。うん、おいしい。大盛にすればよかったな。

 

 

 

 

「お兄ちゃん、どこの国の武官?」

 

 

「え?」

 

 

いつの間にか超大盛りラーメンを食べ終えていた張飛ちゃんが、俺の事をじーっと見つめていた。

 

 

「……どうしてそう思ったの?」

 

 

「鈴々も武官なのだ!だからお兄ちゃんが強いってわかるのだ!」

 

 

胸を張って言い張る張飛ちゃんに、俺は笑いが零れる。

 

 

「そっか。でも俺は武官じゃない。一応昔、魏に勤めてたけどね」

 

 

「魏の人?なんで成都にいるのだ?」

 

 

「……色々あってね。今は三国を旅してまわってるんだ」

 

 

「そうなのかー……」

 

 

むーと唸る張飛ちゃん。

 

ラーメンが食べ終わったので勘定を済まし立ち上がる。

 

 

「じゃあ、お暇させてもらうよ」

 

 

「待つのだ!」

 

 

張飛ちゃんは急いで立ち上がり蛇矛を担ぎ上げた。

 

興奮した面持ちで俺と対峙する。

 

 

「鈴々と勝負するのだ!!」

 

 

「……な、なんで?」

 

 

困惑しながらも理由を問う。

 

 

「お兄ちゃん、鈴々が今まで会った男の人の中で多分一番強いのだ。鈴々の知ってる強い人はみんな女の人だから、どのくらい強いのか気になるのだ!」

 

 

なるほど。とても無邪気で単純な理由だった。

確かにこの世界の名立たる武将は、自分の知る限り全員女性になっている。

張飛ちゃんの興味を引くのも納得がいった。

 

丁度良い機会かもしれない。

勝てる等と奢った考えは持っていない。

ただ、この五年間で俺がどの程度彼女達に近付けたのか確かめる事が出来るはずだ。

少なくとも、張飛ちゃんの目に止まるくらいには強くなれたみたいだが。

 

 

「りんりーーーーん!!!!!」

 

 

大きな声に思考が中断される。

城方面から凄まじいスピードで長い黒髪のサイドテール女性がやってきた。

 

彼女は確か、関羽。

 

大きく揺れる美しい黒髪に見惚れてしまう。

美髪公とはよく言ったものだ。

 

 

「鈴々!また仕事を怠けてこんなところに!いい加減戻って働いてもらうぞ!!」

 

 

「にゃっ!にゃあああああ!!」

 

 

関羽さんは俺に目もくれず、張飛ちゃんの耳を引っ張って城へと戻って行った。

 

 

「……何だったんだ」

 

 

呆けていても仕方が無い。

気を取り直し、これからについて考える事にした。

 

 

 

 

「こんなもんかな」

 

 

日が暮れ、この世界に戻ってから初めての夜。

今日一日かけ、馬の都合や野宿道具等、旅の用意を終える事が出来た。

 

ひと月の間どうするかだが、取り敢えず陳留に向かう事にした。

 

華琳達にはまだ会うつもりはない。が、一目でもよいので様子を見たいのだ。

確認が出来たら、ひと月経つまでは陳留を離れるつもりだ。

そのまま滞在して、街中で誰かしらにばったり会ってしまい消えるなんて考えたくもない。

 

布団に入ると、直ぐに思考が微睡んでいった。思った以上に疲れていたらしい。

乗馬や野宿は五年ぶりになる。明日に備えるため、早々に意識を手放すことにした。

 

 

 

 

 

成都を出て数日、漸く魏の領地を踏む事ができた。

 

道中に立ち寄ったの村々は平和そのもので、活気に満ち溢れていた。

そんな中、嫌な噂を耳にする。

 

国境付近に、行商人を狙う盗賊の集団がいるらしいのだ。

それなりの被害も出ており、国から討伐部隊も出ているとの事。

 

悲しいことだが、いくら世が平和になっても浅はかな考えを持つ輩は必ず現れてしまうらしい。

 

 

 

今日の野宿場は森の中。綺麗な小川を見かけたのでそこに決めた。

乾物で胃を膨らまし終え、木を背もたれに焚き火眺める。

 

 

うとうとし始めた頃、ふと人の気配を感じた。

体勢は変えず、現代から持ってきた木刀を握り意識を集中させる。

 

矢を放つ音を耳にする。向かってきた一矢を地に転がり避ける。

急いで立ち上がるが、茂みから二つの影が飛び出し左右から挟撃をかけてきた。

 

何とか後ろに飛び退き躱し、距離をとる。

追撃はこなかった。声が小さく内容は聞こえないが、挟撃してきた二人がこちらに注意を向けながら話し合っている。

 

武器を構え、自分から距離を詰めた。

 

一人に木刀を振るう。構えられた剣を大きく弾き、仰け反った相手に続けざま回し蹴りを見舞う。

勢いの乗った踵が側頭部に当たり、一人が昏倒する。

続けてもう一人の袈裟切りを半身で躱し、頭に木刀を叩き込んだ。

二人目が地に倒れるが、矢に警戒し集中は切らさない。

 

数秒待つと、気配が消える。諦めて逃げたらしい。

 

 

「……はぁー」

 

 

大きく息を吐く。こちらに戻ってから予想外の初陣だった。

恐らく、噂に聞いていた盗賊集団の一部だろう。

修行をしていなかったら間違いなく死んでいた。祖父に感謝しなければならない。

 

と、大きな衝撃音が聞こえ身構える。数瞬後、勢い良く人が飛んできた。

反射的にしゃがんで避ける。飛んできた人は木に当たり、倒れ込む。

横に落ちる弓。どうやら、逃げた盗賊の様だ。

 

しかし何故……

 

考える間もなく、殺気を感じ武器を構える。

 

 

「ぐぉおお!!」

 

 

鈍い音とともに凄まじい衝撃が圧し掛かる。物々しい斧が襲い掛かってきたのだ。

左手で刀背を支え、何とか持ちこたえる事が出来た。

 

 

「む?……はぁ!」

 

 

声と共に、更に増す負荷。

木刀を傾け受け流す。地に叩きつけられた斧は、轟音と共に砂煙を巻き上げた。

 

飛び退き距離をとると、遅れてきた怖気。

反応が少しでも遅れていたら、間違いなく死んでいた。

 

身体が震える。先程の防御で腕は痺れていた。

逃げるか……いや、相手は相当な手練れだ。逃がしてくれるとは思えない。

 

どうすればこの場をしのげるか。少しの間では何も浮かばず、砂煙が晴れる。

ここで初めて相手を確認し、見覚えのある姿に驚愕した。

 

 

「ふん。盗賊風情が私の一撃を受け止めるとはな」

 

 

憮然とした面持ちで話す銀髪の女性。

反董卓連合での戦いの際、汜水関で関羽と一騎打ちを演じた猛将、華雄。

 

華雄さんは斧を構え直した。感じる重圧に嫌な汗が浮かぶ。

 

 

「お前の仲間達では物足りなかったのでな。精々楽しませてくれ!」

 

 

「待ってくれ!俺は……!」

 

 

俺の声に耳を貸す気は無いらしい。凄まじい速度で接近し、武器を振りかざしてくる。

薙ぎ、突き、蹴り、明らかに片手間では扱えない大斧で連撃を繰り出してくる。

 

一撃の重さもさることながら、隙がまったく見つからず後手に回らざるを得ない。

受け流すのにも限度があり、痺れた腕が悲鳴を上げている。

こうなったら無理にでも…

斧の逆袈裟に合わせ、渾身の力で横薙ぎに木刀を振るう。確かな手ごたえと同時に大斧が宙を舞った。

 

 

「ふっ!!」

 

 

次の瞬間、腹部に鋭い衝撃が走る。鳩尾に刺さる拳を確認した瞬間、吹き飛ばされた。

地を転がり木に叩きつけられ漸く勢いが止まる。

 

 

「ごっ……かはっ……」

 

 

遅れてくる苦痛。息も儘ならず、腹を抑え地に蹲る。

武器を弾き飛ばした瞬間、華雄さんは大斧に目も暮れず俺の懐に入り、拳を叩き込んだのだ。

 

 

「ふむ。多少は楽しめたな」

 

 

斧を拾い近づいてくる華雄さん。このままでは間違いなく殺されるだろう。

勘違いで殺されるなんて御免こうむりたい。しかし、この状況で事実を説明した所で、盗賊の命乞いにしか聞こえないだろう。

 

窮地を脱するには、この猛将を相手に勝つしかないのだ。

何とか手放さなかった木刀を握り直し、立ち上がる。

 

 

「まだ動けるとはな。いいだろう、来い!」

 

 

立ち止まり斧を構える華雄さん。攻め手を譲られるのは願ってもない。

軋む身体に鞭を打ち、全力で地を蹴る。

 

後手に回ってはどうしようもない。反撃の隙を与えない様絶え間なく打ち込む。

 

何十回と打ち込んだだろうか。全て防がれているが、華雄さんの動きが鈍くなってきた。

やはり大斧を自由に振り回すには多くの体力を要する。武器を持つ腕は小刻みに震えていた。

限界が近いのは俺も同じである。だが意地でも負けるわけにはいかない。呼吸を荒く繰り返し、絶えず斬撃を振るう。

 

 

「ぐっ……ええい、鬱陶しい!!」

 

 

怒号と同時に、大振りの横薙ぎが迫る。

その孤影をしゃがんで躱し、振り切った斧を上に打ち上げた。

間髪居れずに足払い。倒れこんだ華雄さんの首筋に、木刀を添える。

 

 

「ぐぅ……盗賊如きに遅れをとるとは……」

 

 

悔し気に俺を睨む華雄さん。未だ勘違いしている彼女を訂正しなければならない。

荒ぶ息を何とか整え、口を開く。

 

 

「いや、俺は盗賊じゃないよ。旅をしていてここで野宿しようと思ったら-----

 

 

 

 

 

「ほら、飲め」

 

 

「ありがとう」

 

 

華雄さんから渡された水を口にする。戦いでは強烈な一撃を受けたが、どこかを痛めたりしていなかったのが幸いだった。

今は戦いの後処理を終え、一息ついているところだ。

 

 

 

戦いの後の事。

自分が盗賊出ない事を説明した後、気を失っている盗賊達を拘束した。

すると、華雄さんが森奥へと姿を消し、少し経った後十数人の盗賊を縄で引き摺り戻ってきた。

俺と戦う前に、倒していたらしい。

 

その後、華雄さんは俺に謝罪し自身について教えてくれた。

どうやら仕事で三国の盗賊を討伐して回っているらしい。

今回も、噂を聞きつけ討伐をしていた矢先の出来事だった。

 

 

 

「そういえば、まだ名を名乗っていなかったな。私は華雄、三国最強の武将を目指している。先ほど説明した通り、今は悪党共を駆逐して回っている」

 

 

名前……正直に名乗るのはやめておこう。

華雄さんが天の御使いを知らないとは限らない。

 

 

「……俺は郷。今は気ままに旅をしてるけど、数年前までは魏で働いてた」

 

 

「魏に?なるほど、武将としてか。であればその武も納得がいく」

 

 

何やら勘違いされたが、訂正はしないでいいだろう。

武将に間違われるとは気分が良い。五年間の鍛錬は、確実に実を結んでいた。

 

 

「ところで郷の得物は木刀の様だが、あそこまで私と打ち合い何故折れなかったんだ?」

 

 

興味津々といった様子で木に立てかけた木刀を見る華雄さん。

 

 

「気で補強しているからね。ずっと使ってたものだから気が馴染み易いらしいんだ」

 

 

現代で子供の頃から使っていた木刀である。

この五年間、基本的な鍛錬だけではなく、気の扱いも学んでいた。

 

 

「ほぉ……気で肉体を強化するのは珍しくないが、得物に籠めるとは珍しいな」

 

 

と、華雄さんが大きく欠伸をした。

盗賊の襲撃からかなりの時間が経っている。空は変わらず暗闇を保っているが、日の出までの時間はそう長くないだろう。

 

 

「すまんがここで寝させてもらってもいいか。野宿の準備をしていなくてな」

 

 

「構わないよ。寝ずの番はしてるから」

 

 

「いらんだろう。何かあったら勝手に目が覚める」

 

 

華雄さんは木を背にして座り目を閉じる。すると、数秒後には寝息をたて始めた。

どんな環境でも眠る事ができ、有事の際は即座に目を覚ます。流石は戦乱を経験した武将だな。

 

俺も荷物を枕に横になる。戦いで疲れたせいか、何かを考える前に眠りに落ちていた。

 

 

 

 

 

「陳留に行くのか?奇遇だな。私も今回の件を報告しに陳留へ向かわねばならんのだ」

 

 

盗賊の襲撃があった翌日。捕縛した盗賊達を兵に引き渡すため、華雄さんと共に国境にある砦に来ていた。

兵とのやり取りを終え戻ってきた華雄さんに、陳留へ向かうと別れの挨拶した所、驚きの言葉が返ってきた。

 

斯くして、陳留へは華雄さんと共に向かう事になった。

 

 

五年間の成果 了

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