「私がこの世界で永い眠りについている間に、すっかり人間の欲は大きく、そしてより深くなっているようだな。」
ビルの屋上から夜の街を謎の存在が見下ろしていた。
ヘドロ敵の事件から二か月が経った夏、出久は引子から息抜きをするようにとのことで街に出ていた。
いくら体の調子がいいからと言っても、もしものことがあるかもしれないので、いざという時のために薬と保険証、そして応急処置の道具は常備している。
「へー、こっちにこんなお店あったんだ。でも学校から帰るとするとちょっと遠回りになるかな。それにノートも少し高いかな。他の店も回ってどこが一番安くて多く変えるかピックアップしておかないと。後書店とか・・・・・」
息抜きと言っても出久は時間を無駄にはしない性質である。
ところ変わって某研究所。そこでは一人の研究員が個室で手を机に叩きつけていた。
「くそっ!なんで私の考えを理解してもらえないのだ!これさえあればいかなる敵にも勝てるというのに!」
研究員が作り上げたものは個性を強化する腕輪であった。
「実証さえできれば、きっと上も・・・・」
「なかなかいい欲望だな。」
「っ!?誰だ!」
研究員は声の聞こえてきた方向を振り向く。するとそこには白い武者のような怪人・グリードがいた。
「い、いったいどこから入ってきた!」
「そんなことはどうでもいい。それより・・・・・・お前の欲望を開放しろ。」
グリードは手にセルメダルを取る。すると研究員の額にメダルの挿入口が出現し、グリードはセルメダルを研究員に入れる。
研究員の体からミイラのような怪人・ヤミーが生まれる。
「お前の欲を満たすには実験に必要な被験体がいるのだな?」
「あ、ああ・・・・」
「ならば行け。そしてお前の欲を満たすのだ。」
ヤミーはグリードの言葉に従い町の方へと歩き始めた。
出久は少し公園のベンチで休息をとっていた。
「ふぅ・・・・・・こうして外に出たのっていつ以来だろう?」
出久はふと顧みる。思い返せば病気と診断されて以降、全く外へ出ることはなかった。
しかしそれでは健康上の問題もあることから多少の運動はできるようになった。それでも吐血して倒れてしまうことが多々あった。
今はプトティラのメダルによって症状自体は抑えられている。しかし病魔が完全に消滅したわけではないのである。
「今日は調子もいいし平和だといいなぁ~。」
出久がそんなことを口にしているとどこからか声が聞こえてきた。
「おい、なんか敵が暴れてるみたいだってよ!」
「しかもヒーロー数人がかりでも手も足も出ないって話だぜ!」
「行ってみようぜ!」
野次馬どもが事件の現場へと集まって行く。
「僕も少し行ってみようかな?邪魔にならないところで。」
出久も興味を持っていくことにした。しかしヒーローが数人がかりでも手も足も出ない相手と聞けば近くにいるだけで邪魔になる。ならばと考え、遠い場所から見ることにした。
出久が事件の現場付近に行くと衝撃の光景が目に入った。
(ヤミー!)
そこには紛れもなくヤミーの姿があった。ヒーローたちはまだ変身していないヤミーに攻撃を仕掛けているが全く効いておらず、ただの怪力で返り討ちにされていた。
(どうしてこんなところにヤミーが!そもそもこの世界にグリードがいるのか!)
出久は驚きを隠せなかった。
そして事態は最悪の方向へと進んでいく。現場を一目見ようと来た野次馬の一人、ピンクの女の子にヤミーが憑依、そしてクモヤミーに姿を変えどこかへ連れ去って行った。
「マズい!」
出久は急いでライドベンダーを探そうとするが、そこであることに気づいた。
(そうだった!こっちにはライドベンダーがないんだった!)
頭をかいて最善の策を考えようとすると目の前にあるものが入った。
「これって・・・・・」
そこには紛れもなくマシンベンダーモードのライドベンダーがあった。
「どうしてこの世界に・・・・・・あっ!?」
『出久君、向こうの世界でも私は全面的に君を支援しよう!』
別れ際に聞いたあの言葉を出久は思い出した。
「ありがとうございます、会長!」
出久はタカカンドロイドのボタンを押す。タカカンドロイドの缶が一つ出てくると出久は栓を開けタカカンドロイドを起動させる。
「ヤミーのところまで案内をお願い。」
出久はライドベンダーの真ん中のボタンを押してマシンベンダーモードへと変形させるとヘルメットを装着しマシンベンダーを走らせる。
ちなみに大型二輪免許はちゃんと持っているのでご安心を。
ピンクの女の子を連れて研究所に戻ったヤミーはクモ糸で女の子を拘束し、無理やり装置をつけようとしていた。
「や、やめてくれ!被験するにはまだ若すぎる!それに調整だってできていない!」
「黙れ!」
「ぐあっ!」
しがみついてくる研究員をクモヤミーは裏拳で弾き飛ばした。
「さて・・・・・・私のためにもこれに付き合ってもらうぞ。」
クモヤミーは装置を起動させる。
「うぁああああああああああああああああああああああああ!」
装置にエネルギーが送り込まれ、強制的にピンクの女の子の個性が強化される。
そんな時であった。タカカンドロイドが窓を突き破って室内へと入ってきた。
「ここか!」
遅れて出久も入ってきた。そして出久に続くようにスキンヘッドで筋肉ガッチリの男性が入ってきた。
「大丈夫かね?」
「マンサム所長!」
スキンヘッドで筋肉ガッチリの男はマンサムと言う名前であった。
「いつもならあの言葉を言うのだが今はそれどころではないな。あの子は一体どういう状況なんだ?」
「それが、私の考案した個性強化装置を無理やりつけられている状態で・・・・・」
「なんだと!」
マンサムはそこのことに驚く。
個性の強化。それは本来であれば成長に合わせて行っていくものである。
なぜそうしなければならないのか?それは一重に人間だからである。
どんなに強い個性とは言えどもベースは人間。そして個性は身体能力である。どんなに強い個性でも、元となる器が弱ければ本人になんらかの後遺症や障害が発生する。
「止めようにもまずヤミーを倒さないと!」
出久はそう言うとオーズドライバーをセットし、タカ・トラ・バッタのコアメダルをセットする。
「変身!」
出久はオースキャナーでメダルをスキャンし変身する。
【タカ!トラ!バッタ!タ・ト・バ!タトバ!タ・ト・バ!】
『!?』
出久の変身にその場にいた一同は驚いた。
「なるほど・・・・・貴様がオーズか。ならば殺さなければな!」
クモヤミーはオーズに襲い掛かる。
「はぁっ!」
オーズはトラクローを出し回避するとバッタレッグでクモヤミーを弾き飛ばす。
「ふっ!」
クモヤミーは口から糸を吐く。オーズはトラクローでクモ糸を切り裂く。
(普通ならクジャクを使うけど、ここは室内。防火対策を施しているとは思うけどあの子も助けないといけない・・・・・・・だったら!)
オーズはクモヤミーの後ろへと飛ぶと同時にウナギをセットする。
【タカ!ウナギ!バッタ!】
オーズはタウバへと姿を変える。
「はぁっ!」
オーズはウナギウィップをクモヤミーに絡み付けると電撃を流す。
「ぐぁああああ!」
「今だ!」
オーズはクモヤミーが怯んだ隙を見逃さない。オーズはメダジャリバーを取り出しセルメダルを三枚挿入、レバーを押して三枚を刀身へと入れるとオースキャナーでスキャンする。
【トリプル!スキャニングチャージ!】
メダジャリバーの刃にセルメダルの持つエネルギーが集中する。
「はぁああ・・・・・・せいやぁあああああああああああ!」
オーズは横一線に振るう。ヤミーごと空間を切り、空間が元に戻った瞬間ヤミーは大量のセルメダルへと戻った。
「く、空間ごと斬ったのか!」
マンサムは目の前の出来事に驚きを隠せなかった。
「待ってて。今君を――――」
オーズがピンクの女の子を助け出そうとした瞬間、装置が起動し始めピンクの女の子の個性である酸をオーズへと吹き掛ける。オーズは咄嗟に避けるが避けたところはものすごく溶けていた。
「ぐ・・・・ぐあぐっ!」
ピンクの女の子は自分の個性に苦しむ。
「まさか・・・・暴走したというのか!」
「どういうことですか!」
「あの装置は個性を強化するための物なんだ。だけど私はあの子の限界値を知らない。酸が出せるといってもあの女の子は自分の個性で死んでしまう!」
「なんですって!止める方法はないんですか!」
「一つだけある。あの子につけている装置を取り外せば自動的に機能は停止する。だが・・・・」
研究員は先ほど溶けた個所を見る。少し時間が経てば溶解液と言えどもその勢いは収まっていくものだ。しかし女の子の酸はまだその衰えを見せてはいなかった。
「防御力を持ちつつ怯まなく重い足であの子の下まで行くには・・・・・これだ!」
オーズはカメとゾウのコアメダルを手に取りセットするとオースキャナーで読み取る。
【タカ!カメ!ゾウ!】
オーズはタカメゾと姿を変え、女の子の方へと一歩一歩近づいていく。
女の子の意思に関係なく出される酸をカメのシールドで防ぎながらタカの目で女の子の姿を捉え、象の足で一歩一歩近づいていく。
「もうやめて!このままじゃ君が―――」
「それでも・・・・僕は止まらないよ。」
「どうして・・・・」
女の子は涙を流しながら問う。
自分が傷つくのをわかっていながらも、なぜ自分のために自信を犠牲にできるのか。
その理由を彼女は知りたかった。
「手を伸ばせるのに救えない・・・・・・・そんな理不尽を僕は壊したいんだ。なにより、君が助けを求めた目をしていたから。」
女の子はその言葉を聞くと涙を流した。
そしてオーズは女の子に最も近づいた。が、暴走した装置はオーズの胸に強力な酸をかける。
「ぐぅうううう!」
オーズ自身にも激痛が走るが、その痛みに耐え、装置を女の子から外した。
女の子は装置から解放され床に膝をつく。出久は変身を解き膝立ちになる。
「大丈夫?」
「うん・・・・・ありがとう。」
女の子は少し恥ずかしそうに言う。
女の子が無事なことに出久は喜んだ。
しかしその刹那、胸の奥からこみあげてくるものに出久は思わず口を押さえる。
ドボッ・・・・・
「・・・・・・え?」
ピンクの女の子は間抜けな声を出した。出久が押さえている手の隙間から血が溢れ出したのだ。
(なんで・・・・・・・あ! そういえば伊達さんが言ってたっけ。調子がいい時ほど気を付け・・・・・・)
出久はそこで意識を失い女の子に身を預ける形で前に倒れる。
「ねぇ・・・・・・ねぇ・・・・ねぇってば!!へ、返事をしてよ!ねぇってば!」