サノバウィッチ-LUCKY or UNLUCKY!?-   作:てるづき

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思った以上に長くなってしまった。

しかし天神乱漫ってもう古いよね…ディスクみたら対応OSに98とか書いてあったもん。

まあこの話はともかく、天神乱漫面白いので興味が湧いたらやってみてください。

月一で投稿出来れば良い方かな~


あと、記憶を辿って書いてるので時系列とかキャラ事の呼び方とか間違えてたら本当スミマセン。


第一話:試練の始まり

【学校:中庭】

 

 銃。

 

 それは指先一つで人を殺める事が出来る、殺戮の象徴。

 

 当然だが、「普通の」女子高校生が持ってていい様な代物じゃ無い。

 

 入手手段や金額ではなく、人殺しの道具を平気で構えられる時点で、それはもう普通とは言えない。

 

春樹「…」

 

 俺はその普通じゃ無い女子高生のつま先から頭のてっぺんにまで視線を這わせる。

 

 きわどい部分だけは紅色のベルトで覆い隠し、後は全て素肌。その上に黒いマントと魔女を彷彿とさせる同じく黒の三角帽子。極めつけの銀髪が更に魔女らしい雰囲気に仕立て上げている。

 

 世間では痴女や露出狂、変態と呼ばれる類いの人間だ。恐らく普通には含まれないと思う。

 

 だからと言って銃を持っている理由にはならないけど、今はそんな事どうでもいい。

 

 どうして俺は、その痴女に命を狙われなければいけないんだろう。

 

 生まれ付き超が付く程に不幸な俺は、言いがかりで変な奴に絡まれた事は何度もある。が、ここまで明確な殺意を向けられた事は無い。

 

 一体俺がどんな罪を犯したのだろうか。

 

 俺は自分の罪を数えるため、まずは今日一日の行いを振り返る事にした。

 

 思えば、朝から変な事ばかり起こっていた気がする。

 

【春樹の部屋】

 

春樹「う……」

 

 もう朝か。早いな。

 

春樹(さっさと起きて…着替えないとな)

 

 そしたら髭剃って、顔洗ってー

 

春樹「!?」

 

 身体が、重い。というか動かない。

 

 その原因を探る為、俺はゆっくりと瞼を持ち上げる。

 

春樹「……?」

 

 が、飛び込んで来るのはいつもの光景。蒲団の裏側。

 

 それをめくっても、そこには何も無い。

 

 しかし、何かに縛り付けられている様な感覚は抜けきらない。

 

春樹(熱でも出たか…?)

 

 自身の額に手を当ててみるが、さして熱くも無い。

 

 寒気も無ければ、悪寒も無い。なのにこの凄まじい気怠さ。

 

春樹「水分取って飯食えば何とかなるだろ…」

 

 熱が無い以上、学校には行こう。

 

 そう思って、俺はベッドから這い出た。

 

【リビング】

 

春樹「………」

 

姫「ハルキ」

 

春樹「………」

 

姫「ハルキ」

 

春樹「………」

 

姫「ハルキ!」

 

春樹「っ!? あ、ああ。悪い、何だ?」

 

姫「…もう良い。ちょっと醤油を取って欲しかっただけじゃ」

 

 はっとなって顔を上げると、丁度醤油の入った小瓶が目の前を横切る。

 

佐奈「どうしたんですか兄さん? 何か、いつもに増してぼーっとしていますけど、寝不足ですか?」

 

眞一郎「佐奈よ。年頃の男は、時折夜遅くまでしてしまうん物なんじゃ。暖かく見守ってやるのが、家族という物だ」

 

佐奈「してしまう? 何をですか?」

 

春樹「余計な事を佐奈に吹き込むんじゃねぇ…」

 

姫「ふむ。やはりいつもの元気が足りんなハルキよ。熱でもあるのではないか?」

 

春樹「熱は無い…風邪じゃないから心配しないでくれ」

 

佐奈「あの、風邪でも無いのにそんなに辛そうにしている方が心配です」

 

春樹「なあに大丈夫だ。ご飯だって沢山食べられるぞ…ぅぷ」

 

 無理に笑って茶碗を持ってみせるが、途端に吐き気が込み上げてくる。

 

佐奈「今ぅぷって、ぅぷって言いました! 無理しないで下さい!」

 

春樹「………悪い。正直言うとこれ以上食えそうにない」

 

佐奈「いえ、それは良いんですけど…」

 

 向かいに座る佐奈は手を伸ばし、俺の額に触れる。

 

佐奈「ホントに熱は無さそうですね」

 

眞一郎「学校は休んだ方が良いのでは無いか?」

 

春樹「そうする…」

 

 普通なら気合い入れて学校に行く所だが、俺の場合そうは行かない。

 

 生まれ付きかなり不幸な俺は、登校するだけでも色々と危ない目に遭う事が多いのに、こんな状態で過ごしては怪我で済まないかもしれない。

 

 今は卯ノ花という神様が守ってくれているが、流石におんぶにだっこという訳には行かない。

 

 自分の身は自分で守ろう。

 

姫「なら、担任には妾が連絡をしておこう」

 

春樹「悪い、頼む。それと佐奈」

 

佐奈「何でしょう?」

 

春樹「俺の分は冷蔵庫に入れておいてくれ、夜に食べる」

 

ルリ「何だ? いらないのか?」

 

 今まで黙っていたルリが口を開き、俺の前に並ぶ殆ど手を付けられていない料理を見る。

 

春樹「ああ…食って良いぞ」

 

 別段、勿体無いから取っておくだけで食いたいのなら食えば良い。

 

 俺はそのまま席を立ち、歯を磨く為に洗面所に向かった。

 

姫「…」

 

【春樹の部屋】

 

春樹(しかし、どうしたんだろうな)

 

 そりゃ今まで体調を崩した事は何度もあった。

 

 しかしこんなのは初めてだ。

 

 風邪を引こうが、熱を出そうが、「さっさと治さないとな」位は考えられた。けど、今回のはそれすら考えられない。何も考えたくないのだ。

 

春樹「……寝るか」

 

 漫画でも読もうかと思ったけど、その気にもなれない。

 

姫「ハルキ、良いか」

 

春樹「卯ノ花?」

 

 めくれたままの蒲団に足を突っ込むと、ドアがノックされる。

 

春樹「入って大丈夫だぞ」

 

 流石にこのままでは失礼なので、両脚をベッドの外に投げ出して縁に腰掛ける。

 

姫「うむ。一つ忘れていてな」

 

春樹「…ああ」

 

 少し考えると、それが何なのかはすぐに解った。

 

 俺の不幸を祓う為にやって来た卯ノ花は、こうして定期的に俺の中にある不幸を吸い出してくれる。

 

 そう、文字通り吸い出してくれる。

 

姫「んっ…」

 

 卯ノ花は躊躇いなく俺の頬に手を添えると、そのままぐいと自分の方へ引き寄せる。

 

 俺の方もそれなりに慣れて来た物で、目を閉じて身を委ねる。

 

春樹(………?)

 

 あれ、と俺は思う。

 

 何かがいつもと違う。

 

 その違和感の正体を探っていると、やがて卯ノ花は顔を放す。

 

姫「ハルキ」

 

 そして、真剣な表情で俺を見る。

 

春樹「何だ?」

 

姫「今妾とキスをした時、身体の力が抜ける様な感覚はあったか?」

 

春樹「いや、無かっ………」

 

 そこまで言って、違和感の正体に気が付く。

 

 いつもなら多少そういう感覚があった筈なのに、それが全く無かったからだ。

 

 でも、

 

春樹「慣れてないからそういう感覚になるって言ってなかったか?」

 

 まだこの行為をし始めた頃、卯ノ花が力の調節を上手く出来ず、体力も一緒に吸ってしまうと言っていた。

 

 その頃はする度に貧血みたいになって苦労したものだ。

 

姫「いや、それなら良いんじゃが…」

 

 卯ノ花は俺の答えじゃ納得が行かないみたいで、何かを考える様にして手を顎に添える。

 

春樹「それより、早く行かないと遅刻するぞ」

 

姫「そうじゃな、考えるのは後にするとしよう。養生するんじゃぞ、ハルキ」

 

春樹「ああ」

 

 卯ノ花はそれだけ言って、部屋を出て行った。

 

春樹「さて…今度こそ寝るか」

 

………

 

……

 

 

 ーコツ、コツ。

 

春樹(………ん?)

 

 コツ、コツ。

 

 何だ、この音。

 

 コツ、コツ、コツ。

 

 うるさいな。寝かせてくれよ。

 

???『ええい、邪魔をするな!』

 

春樹「!?」

 

 コツコツという硬い者同士を付き合わせた様な音が止んだと思ったら、いきなり女の子に怒鳴られた。

 

 慌てて飛び起きた俺は部屋の辺りを見回すが、当然居るのは俺一人。

 

春樹「…? ? ???」

 

 誰もいない、よな?

 

 俺だけだよな?

 

春樹「卯ノ花……か?」

 

 試しに呼んでみるが、返事は無い。

 

 あいつなら言霊的な物を操れそうな気がするけど、養生しろと言った本人がそんな事はしないだろう。いくら悪戯好きの卯ノ花とはいえ。

 

烏「カァー」

 

 ふと烏の鳴き声がして、窓の外を見る。

 

 そこには、普通のより二回り位大きい烏が止まっていた。

 

 それだけなら何とも思わないのだけど、じぃとこっちを見ていたのだから少し身構えてしまう。

 

春樹「もしかして、さっきの音は…」

 

 こいつが窓を突いてたのか?

 

 烏ってそんな猫みたいな事したっけ?

 

烏「カァー」

 

 考えていると、烏はもう一度鳴いてどこかへ飛んでいってしまった。

 

春樹「嫌な目覚めだな…」

 

 が、不思議と身体は軽い。

 

 さっきまでの気怠さが嘘のようだ。

 

 その証拠に、食欲が戻って来ている。

 

春樹「とりあえず、飯でも食うか」

 

 あ、でもルリが食ったんだっけ。

 

【リビング】

 

春樹「お、残ってる」

 

 冷蔵庫を空けると、ラップに包まれた朝食があった。流石に食欲旺盛なルリといえ、朝から二人前はキツかったらしい。

 

春樹(レンジ…は)

 

 熱を出す系の家電はあまり使いたくない。俺が使うと壊れるから。

 

 確かにご飯は温かい方が美味しいけど、ン万する家電を壊したくは無い。

 

 …仕方無い。一食くらい我慢しよう。

 

春樹「しかし」

 

 テーブルに皿を並べながら、俺は呟く。

 

 こうして一人で飯を食うなんていつぶりだろうか。

 

 そんな事を考えながらテレビを点けて、適当にチャンネルを回していく。

 

 一週回った後いつも見ているニュース番組で止めて、箸を取る。

 

春樹「………ん?」

 

 何で朝のニュースがまだやってるんだ?

 

春樹「っていうか、今何……」

 

 7時!?

 

 俺が起きたのが6時半で、その後少しだけ飯食ってまた寝たのに、30分しか経ってないってどういう事だ。

 

春樹「もしかして…24時間まるまる寝てたとか?」

 

 いやいや。

 

 だとしたら佐奈や爺さんがいなくちゃおかしいだろう。それにほら日付も変わっていないし。

 

春樹「???」

 

 でもまあ、寝る前の俺は相当やつれてたし、時間を見間違えたのかも…いやでもなあ。

 

春樹「ま、いっか」

 

 考えても仕方無いし、ちょっと時間を得した位に考えれば良いさ。

 

 それよりも、良くなった事を佐奈に言っておかないと。心配性の佐奈の事だから、今も俺の事が気掛かりで授業に集中出来てないかもしれないし。

 

 箸を置き、携帯を開いて佐奈宛てのメールを作成する。

 

春樹「いっぺん寝たら良くなった。心配いらないぞ…と、送信」

 

 いくら気になるとは言え授業中に携帯弄るような子じゃ無いから、すぐ返信は来ないだろう。と思った矢先、携帯が震える。

 

春樹「返信…にしては速すぎないか?」

 

 うん。だけ打って返信すればこれぐらいの速さは実現出来るかもしれないが、佐奈のメールはそんな淡泊じゃない。

 

春樹「何だ、エラーメールか」

 

 誰もが一度は見たであろう、英語がびっしり書かれたメール。

 

 宛先を間違えた時に送り返されるメールだ。

 

春樹(…あれ?)

 

 アドレス帳から呼び出したんだぞ? なんでエラー?

 

春樹「メールアドレス、変えた…のか?」

 

 いや、流石に何も言わずに変えたりしないだろう。

 

春樹「…?」

 

 携帯に詳しく無いから良く解らないけど、まあ良いか。

 

 何か変な事が立て続けに起こったけど、いつもの事だろう。

 

 とりあえず、食おう。

 

【春樹の部屋】

 

春樹「えっと……この「こそ」があるから、已然形だっけか」

 

 元気になったら学校を休んだ罪悪感がこみ上げて来たので、今日受ける筈だった授業の勉強。

 

 相変わらず古典は難解だ。

 

春樹「だからこの意味は……」

 

 そこで机の上の携帯が震え、タイミングの悪さに若干苛立ちながらもそれを手に取る。

 

 が、画面に表示された名前を見てその感情はあっという間に霧散した。

 

春樹「もしもー」

 

佐奈『もしもし兄さんですか!?』

 

春樹「ああ。俺だぞ」

 

佐奈『ホントに本物の兄さんですか? 偽物じゃありませんよね?』

 

春樹「俺以外に俺って居るのか。少なくとも偽物じゃない自覚はあるが」

 

 そんな事して一体何の得になるというのか。

 

佐奈『はぁ…良かった。偽物の兄さんだったらどうしようかと』

 

春樹「何だ、学校で俺でも見たのか?」

 

佐奈「いえ、そうじゃないんです。でも…ドッペル兄さんだったら何人いても……ふへ、ふへへへへへへ」

 

 前から思ってたけど、佐奈って時々変になるよな。

 

 終いには俺を変態だの何だの罵ってくる訳だが、一体どういう目で見られてるんだ。

 

姫『すまぬ。そろそろ代わってくれぬか?』

 

佐奈『へっ!? あ、ああそうですよねすみません』

 

春樹「?」

 

 佐奈の俺を見る目がどんな物か聞く前に声は遠ざかってしまい、代わりに別の聞き慣れた声が聞こえて来る。

 

姫『申す申す』

 

春樹「何言ってんだお前」

 

姫『何じゃ知らんのか。まあ良い。体調の方はどうじゃ?』

 

春樹「二度寝したら良くなったよ」

 

姫『ふむ…』

 

 卯ノ花にとっては朗報だろうのに、考える様な声を漏らす。

 

姫『なら、今から学校に来て欲しい』

 

春樹「今から?」

 

 さっきまでは罪悪感があったけど、今から登校しろと言われた途端、面倒臭さがそれをあっという間に上書きした。

 

姫『担任には妾が伝える故、頼む』

 

 いつになく真剣な声色の卯ノ花。

 

佐奈『兄さん、私からもお願いします』

 

 考えて居ると、再び佐奈の声が聞こえて来る。

 

春樹「…」

 

 どうしてそんなに俺を学校へ行かせたがる?

 

春樹「電話越しじゃ出来ない話なのか?」

 

姫『出来ぬ』

 

 ばっさりと言い捨てる卯ノ花。よほど大事な事らしい。

 

春樹「…解った。今から準備するから、少し掛かるぞ」

 

 卯ノ花がそこまで言うのなら、何かあったのだろう。

 

 全く想像は付かないけど、やっぱり出席日数は稼いでおいた方が良いよな。

 

姫『うむ。佐奈と二人で屋上で待ってるぞ』

 

春樹「は? お前授業ー」

 

 …言い切る前に電話を切られてしまった。

 

春樹「…よく解らないけど、着替えるか」

 

【喫茶店「Robin」】

 

 急にいなくなったら爺さんも驚くだろうし、とりあえず声をかけに来たんだけど。

 

春樹「誰もいない」

 

 昼時だというのに、客が一人も居ない。

 

 それどころか、オーナーである爺さんも筆頭従業員たる渉さんも居ない。

 

春樹「爺さーん。渉さーん」

 

 二人を呼んでみるが、広い店内に声が響くだけに終わる。

 

春樹「二人してどこ行ったんだ?」

 

 何が困るって、これだと俺が鍵を持ち歩かなきゃいけないんだよな。

 

 落としたらシャレにならないってのに。

 

春樹「渉さんの番号知ってるけど…」

 

 わざわざそれだけの為に呼び出すのも悪いよな。

 

 少し考えた後、鞄の中のノートを破り、書き置きをカウンターに残して店を出る。

 

【住宅路】

 

春樹「札くらい出しとけっての」

 

 「CLOSED」の札を入り口にかけて、鍵が閉まっているのを確認して学校を目指す。

 

春樹「………」

 

春樹「……」

 

春樹「…やたらに静かだな」

 

 飯を食いに行く人間が一人二人いてもおかしく無いと思うのだけど。

 

 でも俺にとっては危ない目に遭わずに済むし、これはこれで良いかもしれない。

 

【学校】

 

春樹「で、着いたは良いけど」

 

 もう昼休み終わってんだよな。

 

 その証拠に校舎はしんと静まり返っている。

 

春樹「当たり前だけど、校門閉まってるよな」

 

 こういう場合って、どこから入るのが正解なんだ?

 

 いや、そもそも校内に勝手に入られ無いように校門があるんだから、別の入り口なんて物は無いか。

 

 なら、

 

春樹「誰も見てない…よな」

 

 左右前後を見渡し、人が居ないのを確認。

 

 そうして鞄を門の向こうへと投げて、俺も門をよじ登って敷地内へ。

 

春樹「さて」

 

 屋上だ。

 

【屋上】

 

春樹「卯ノ花、佐奈。来たぞ」

 

 そこで待っていたのは、その二人に加えて、ルリまで居た。

 

 どうやら三人で話し込んでいる様で、俺に気が付いている様子は無い。

 

春樹「おーい」

 

 少し大きめの声を出すと、ようやく卯ノ花がこちらに気付く。

 

姫「来たか」

 

佐奈「あ、兄さん」

 

 が、三人ともちょっと様子が変だ。

 

 卯ノ花は卯ノ花で神妙な顔つきをしているし、佐奈は佐奈で何やら落ち込んでいる様子。

 

 そしてルリに至っては何故か笑っていた。談笑が楽しいと言った感じでは無く、他の何かを面白がるような。

 

春樹「それで、授業サボってまでの用事って何だ?」

 

ルリ?「それは僕が話そうか」

 

 僕? 確か自分の事はルリって呼んでなかったか?

 

ルリ?「初めましてだね、千歳春樹君。僕はそこに居る彼女の上司さ。今はこの子の身体を貸して貰ってる故、やりづらいかもしれないけど、まあ少しの間だから我慢しておくれよ」

 

春樹「は、はあ」

 

 神様って奴は本当に突拍子も無いな。

 

 んで、こいつが卯ノ花を段ボールに詰めた張本人か。

 

 確かに口調からしてそういう事やりそうだ。偏見だけど。

 

ルリ?「さて千歳君。さっそくだけど君に貸していた物を返して貰おうか」

 

春樹「? 何も借りた覚えは無いー」

 

 言い切る前に、俺の身体が鉛の如く重くなり、身体を支えきれなくなった両脚の膝が折れる。

 

佐奈「兄さん!」

 

 膝を突きそうになった俺の懐に佐奈が飛び込んで来て、何とか顔から倒れるのは免れる。

 

春樹「…悪い。助かった」

 

佐奈「いえ…」

 

 佐奈が無言でルリーじゃない、卯ノ花の上司を睨むと、そいつはにやりといやらしい笑みを浮かべる。

 

ルリ?「そう睨まないでおくれよ。彼の中にあった僕の力を元に戻しただけさ」

 

春樹「……?」

 

ルリ?「さっきまでは壊れかけた君の心に僕の力を注いで、無理矢理形を保っていたに過ぎない。君を呼んだのも、その心を元に戻す為なんだよ」

 

春樹「だったらー」

 

ルリ?「勿論無条件とは行かないよ? 忘れてはいないと思うけど、これも彼女の試練の一環なんだ。そうじゃなかったら、どうして僕が君如きに構わなくちゃいけないのさ」

 

 確かに神様にとって人間は取るに足らない存在かもしれないけど、面と向かって言われるとムカつく物がある。が、今の俺にはその気力すら湧かない。

 

ルリ?「もうそこの二人には話したから簡単に説明するけど、君には僕が作ったこの世界で過ごして貰う。もし二人が君の心を救えたのなら、試験は終了。卯花之佐久夜姫は晴れて正式な神となり、君の不幸も帳消しだ。ただし」

 

 今までおちゃらけていた表情が険しい物となり、周囲の気温が幾度か下がった錯覚を覚える。

 

ルリ?「君がもし他の誰かに救われた時点で、失敗だ。卯花之佐久夜姫は神様になれず、君の不幸もそのまま。良いね?」

 

 結構大事な試験だろうに、こんなコロッと変えて良い物なのか。

 

春樹(……ん?)

 

 よくよく考えたら、これって卯ノ花にとってかなり有利じゃないか?

 

 俺が全面的に卯ノ花に協力すれば良い話なんじゃ。極端な話、落ち着くまでずっと家に居れば勝ち確定じゃないか?

 

 その妙な胡散臭さを卯ノ花も感じ取ったのか、神妙な顔つきで上司を見つめている。

 

ルリ?「最後に一つ。この世界で本当の君を知っているのは、君の妹と卯花之佐久夜姫だけだ。そして、逆も然り」

 

佐奈「それって、どういう事ですか?」

 

ルリ?「質問は受け付けない。さあ、ゲームを始めようか」

 

 そう言って、上司はルリの小さな掌で柏手を打つ。

 

 すると、それが合図だったかのようにチャイムが鳴り始めた。

 

春樹「始まった……の、か?」

 

ルリ「何を言ってるんだ、今のは授業が終わった合図だぞ」

 

 いつもの舌っ足らずなルリの声が聞こえ、それが確信へと変わる。

 

姫「なら丁度良い。職員室へ行こう」

 

ルリ「どうした? はるきがまた何かやらかしたのか?」

 

姫「サナ。お主は教室に戻って様子を見て来てくれ。あやつの事じゃから何か仕掛けたに違いない」

 

佐奈「解りました。それじゃあルリちゃん、教室に戻りましょうか」

 

ルリ「? よく解らないけど解った」

 

 ルリは大人しく佐奈の後を付いていき、俺達もその後に続いて屋上を後にした。

 

【中庭】

 

春樹(で、俺は保健室でずっと寝てた事にして、とりあえず先生には許しを得たんだっけ。その後は普通に授業受けて…)

 

 今に至る。

 

 やっぱり人に命を狙われる謂われは無い。

 

 俺はせめてもの命乞いにと、降参の意志を示す為に両腕を持ち上げる。

 

???「……………え?」

 

 すると俺に情けでも湧いたのか、僅かに銃口が揺らぐ。

 

春樹(お?)

 

 ここぞとばかりに俺は口を開く。

 

春樹「何の為にこんな事をしてるのか知らんが、事情を聞くつもりはないし、もし事情を知っても邪魔をするつもりは無い。だから見逃してくれないか?」

 

???「え…!? え? え?」

 

 どうやらかなり動揺しているらしい。

 

 が、銃口がこちらに向けられている以上、下手な事は出来ない。

 

春樹「とりあえず、その物騒な物を降ろして欲しい。それさえしてくれれば俺はどっか行く。ここで見た事は誰にも話さない」

 

???「え、あの、も、もしかして…み、見えてますか?」

 

 何が?

 

春樹「……はっ!?」

 

 少し考えると彼女の言わんとする事が解ってしまい、身体の一部が目を覚まし始めてしまう。

 

春樹「い、いや、見えてない。見えてないぞ。バッチリ隠れてる隠れてる」

 

???「やっぱり見えてるじゃないですかぁ!」

 

 だから何が!?

 

???「うぅ……もうやだ。どうしてこんな格好……ありえないありえないありえない」

 

 よく解らないけど顔を俯かせて悶え始める。

 

 銃口も逸れたし、これはチャンスだ。

 

 逃げよう。

 

???「あっ、待って下さい!」

 

春樹(待つか!)

 

【廊下】

 

春樹「っ……はぁっ……はぁっ」

 

 こっちの方が近かったから校舎に入ったは良い物の、これからどうするか。

 

 本来なら、さっきの場所で二人と合流する筈だったのに。

 

春樹「クソ……教室で待てば良かった」

 

 今更どうこう言っても仕方無い。

 

 俺は携帯で佐奈の電話番号を呼び出す。

 

春樹「もしもし佐奈か? 助けてくれ。痴女に命を狙われている」

 

佐奈『落ち着いて下さい兄さん。言ってる意味がよく解らないです』

 

春樹「いや、本当に言葉通りの意味なんだ。裸にベルトを巻いた魔女みたいなー」

 

 単語が単語なので周囲の様子を見ながら話して居ると、遠くにその姿が見えた。

 

 流石にあの格好ではまずいと思ったのか、制服に着替えている。

 

春樹(もう来たのか!? っていうか着替えるの早え!)

 

佐奈『兄さん?』

 

春樹「とにかく卯ノ花と一緒に早く来てくれ。お前の教室の前にいる」

 

佐奈『んー…解りました。今から行きます』

 

 通話が切れたのを確認して、ポケットにそれをしまう。

 

春樹(あ、あれ? どこ行った?)

 

葵「ハールっ」

 

春樹「!!!!!!!!!」

 

 急に背後から肩を叩かれ、俺は声にならない叫び声を上げて振り返る。

 

葵「あ、ご、ごめん。そんなに驚くとは思わなくて」

 

春樹「葵か………良かった」

 

葵「? よく解らないけど、綾地さんが探してたわよ」

 

春樹「綾地さん?」

 

 って誰?

 

葵「うん。綾地さんが」

 

春樹「いや、誰?」

 

 俺はしきりに背後を気にしながら、その名を持つ人物を記憶の中から探り始める。

 

春樹(いや、待て…)

 

葵「同じクラスでしょ。あの大人しい銀髪の子」

 

春樹「銀髪!?」

 

葵「え、ぎ、銀髪だけど…? 確かに、珍しいわよね」

 

春樹「葵、お前は騙されている! 手遅れにならない内に逃げろ!」

 

葵「はぁ? 何言ってんのよ」

 

春樹「俺は本気だ。死にたいのか!? ああ見えて露出度90パー越えの衣装を着るどころか学校に銃持ち込んでるんだぞ!」

 

葵「あのねぇ…あ、綾地さーん。ハル居たよー」

 

春樹「え………?」

 

 恐る恐る振り向くと、その先には痴女もとい綾地さんが立っていた。

 

春樹「葵、逃げろ」

 

葵「いやだから何で」

 

綾地「あ、あの…そんなに警戒しないで下さい」

 

 屈託の無い笑顔を浮かべる綾地さん。

 

 こうやって、人の警戒心を解いてから密かに殺って来たに違いない。

 

佐奈「にーいーさーん」

 

姫「これサナ。廊下を走るでない」

 

春樹(卯ノ花! 佐奈!)

 

葵「佐奈、ヒメ」

 

 不用心にも葵は二人の元へと駆けだしてしまう。

 

 しかし本命は俺なのか、葵には目もくれずに俺から視線を逸らさない。

 

葵「二人とも、今帰り?」

 

佐奈「いえ、兄さんに呼び出されてしまったので」

 

姫「何とも、痴女に命を狙われているそうじゃ」

 

葵「はぁ?」

 

綾地「…」

 

姫「してハルキよ、その痴女とやらは?」

 

春樹「ん」

 

葵「な…!」

 

 俺が綾地さんを指さした瞬間、葵が俺の手を掴んで捻り上げる。

 

春樹「いでででででででで!」

 

葵「ハル。そういうのいじめって言うのよ? 謝りなさい」

 

春樹「いやだって本当にあいだだだだだだだだ!」

 

葵「いいから謝りなさい」

 

春樹「解った! 解った! 俺の誤解だった! 悪かった、ごめん!」

 

 腕を有り得ない方向に曲げられながら無様に謝ると、ようやく解放される。

 

葵「全く。銃だの何だの、どこでどういう噂を聞いたのか知らないけど、そういうレッテル貼られるのがどれだけ嫌なのか、ハル自身が一番解ってるでしょ?」

 

綾地「ま、まあまあ、その位で許してあげて下さい。私にも非はあるので、はい」

 

佐奈「えっと…誤解で、良いんでしょうか?」

 

葵「そうに決まってるでしょ。朋花でもそんな事言わないわよ」

 

 心底うんざりした表情で言って、叩き付ける様にして俺の腕を解放する。

 

姫「帰るのか?」

 

葵「帰る」

 

 そう吐き捨てて、葵は昇降口の方へと歩いて行ってしまった。

 

春樹(…)

 

 あれ、葵ってこんな奴だったっけ?

 

姫「…で、もう一度聞くが、誤解で良いのか?」

 

綾地「いえ、誤解ではありません。ただ…ここでは場所が悪いので」

 

【オカルト研究部部室】

 

綾地「どうぞ、座って下さい」

 

佐奈「失礼します」

 

姫「失礼するぞ」

 

春樹(こんな部屋あったっけか)

 

 そんな事を考えながら、俺はパイプ椅子に腰掛ける。

 

 が、その中で一人綾地さんだけは立ったままでいる。

 

綾地「……話すよりもこっちの方が早いですね」

 

 彼女がそう呟くと、急に彼女の身体が白く輝き始める。

 

 が、それも一瞬の事で、跡形も無くその光が消えると、さっきまで綾地さんが立っていた場所に痴…魔女が居た。

 

姫「ふむ。痴女じゃな」

 

佐奈「どう見ても痴女ですね」

 

春樹(だろ?)

 

 さっき謝った手前、口には出せない。

 

綾地「やめて下さい! 私だって好きでこんな格好をしている訳じゃ無いんです! というかどうして全員見えてるんですかぁ!?」

 

姫「それは妾達に少なからず神の力が流れているからじゃろうな」

 

綾地「はい…?」

 

 混乱する彼女とは対照的に、冷静な答えを下す卯ノ花。

 

 普通では無い彼女も、その返答は流石に混乱するらしい。

 

姫「僅かではあるが、似た様な物をお主から感じる。大方、普通ではない存在から得た力であろう?」

 

綾地「もしかして、魔法の事を知ってるんですか!?」

 

姫「いいや知らん。じゃが、それは明らかに人の域を超えている」

 

綾地「………」

 

佐奈「と、とりあえず着替えたらどうですか?」

 

綾地「あ、そ、そうですね」

 

 再び彼女の身体が輝き、制服姿へと戻る。

 

 その間、僅か数秒。成る程だからか。

 

綾地「…すみません。今お茶を用意しますね」

 

佐奈「手伝います」

 

綾地「ありがとうございます」

 

 お茶の用意をする二人を他所に、俺は卯ノ花の方を見る。

 

春樹「…どういう事なんだ?」

 

姫「妾にもよく解らん。じゃが一つ言えるのは、お主を本気で殺そうとはしておらん事じゃな」

 

春樹「そう、だな」

 

 少なくとも、話して解らないタイプの人間には見えない。

 

 ただ、その前に。

 

綾地「どうぞ」

 

佐奈「はい、兄さん」

 

姫「すまぬ」

 

春樹「悪い」

 

 そして、今度こそ全員が椅子に腰掛ける。

 

 それを見計らってから、俺は机に両手を突いて頭を下げる。

 

春樹「えっと…ごめん」

 

綾地「?」

 

春樹「さっきはあんな言い方をして悪かった」

 

 廊下のは葵に無理矢理という形だったので、改めて俺は頭を下げる。

 

 確かにあいつの言う通り、レッテル貼られて好き勝手言われるのは嫌だもんな。

 

綾地「良いんです。何も言わずに銃を向けたのは事実ですし、それに……あんな格好を見たらそういう反応をするのは至って普通です。ええ普通ですとも」

 

 微笑む彼女の顔に影が落ちる。

 

 相当気にしてるらしい。これは悪い事をした。

 

姫「まずそれじゃな。どうしてハルキに銃を向けたのか」

 

綾地「…長くなりますが」

 

 ………

 

 ……

 

 …

 

姫「ふむ、魔法…とな」

 

 突拍子の無い話だが、一先ずそれは理解出来た。これも卯ノ花という神様のおかげだろう。

 

 話を要約すると、願いを叶える魔法を使う為に、綾地さんは魔女になった。

 

 そしてその魔法を使う為には、心の欠片と呼ばれる、文字通りの人の心ー強い感情を集める必要があるらしい。

 

 喜怒哀楽どれかの感情が大きくなりすぎてしまい、バランスが崩れた心を治すついでに彼女はそれを回収しているらしい。

 

 そう、銃でだ。

 

 そしてここは、自然な形でそう言った人間と会うために作った部活らしい。

 

 ちなみに見える見えないというのは、魔女モードになると普通の人には見えなくなるからだそうだ。

 

 ただ、それよりも驚いた事がある。

 

春樹「と、言う事は…他に綾地さんと同じ学校の生徒が紛れてる可能性があるって事?」

 

 彼女は、本来この学校の生徒ではないらしい。

 

 それがどこまで「作られた」記憶なのかは定かではないが。

 

綾地「はい。もしかしたら、私の様に…」

 

姫(ハルキ)

 

春樹「?」

 

 隣の卯ノ花の囁き声に気付き、俺は耳を傾ける。

 

姫(恐らくじゃが、いくら妾の上役とて人一人を作り出すのは恐らく不可能じゃ)

 

春樹(じゃあ何だ。綾地さんは本当に居る人間って事か?)

 

姫(そうなる。この部活は彼奴が作った物だろうが)

 

綾地「?」

 

姫「すまぬ。こちらの話じゃ」

 

綾地「そうですか」

 

佐奈「すみません。私からも一つ良いですか? ええと、綾地…先輩?」

 

綾地「そう言えばまだ名前を言っていませんでしたね。綾地寧々です」

 

佐奈「あ、確かにそれを忘れてましたね。千歳佐奈です」

 

姫「卯ノ花姫じゃ」

 

春樹「千歳春樹だ」

 

寧々「千歳さんと千歳君は兄妹…あいえ、まずは千歳さんの話ですね」

 

佐奈「ありがとうございます。その、さっきの魔法の話なんですけど、兄さんに銃を向けたという事は…」

 

寧々「はい。千歳君の心は大きくバランスを崩しています」

 

佐奈「…」

 

姫「ちなみにじゃが、それはどうやって判断するんじゃ?」

 

寧々「さっき話にあったこれを使うんです」

 

 綾地さんは、心の欠片を入れておく小瓶を机に置く。

 

寧々「普段はもっと大人しいのですが、千歳君の様な、心の欠片を回収出来る人間を前にすると、こうやって光り出すんです」

 

姫「ふむ…」

 

春樹「もう何とも無いけどな」

 

佐奈「兄さんは自分の体調に鈍感すぎるんです。さっきまで、死んだお魚みたいな目をしてましたし…」

 

 そんな酷かったのか俺。

 

春樹「そういや、撃たれた俺はどうなるんだ?」

 

寧々「大きくなりすぎた感情を失う…恐らくですが、今より元気になるのではないでしょうか。あ、勿論身体に害はありませんよ?」

 

春樹「へぇ…」

 

 今朝ほどではないが、まだ妙な気怠さは残っている。

 

 じゃあ試しにやってみてくれ。と言いたい所だけど。

 

ルリ?『君がもし他の誰かに救われた時点で、失敗だ。卯花之佐久夜姫は神様になれず、君の不幸もそのまま。良いね?』

 

 卯ノ花の上司の言葉が思い起こされる。

 

 それを聞いた二人も同じなのか、皆思案に耽っている。

 

春樹(卯ノ花の言う通り、綾地さんが実在する人物で、この世界に巻き込まれたんだとしたら)

 

 卯ノ花の上司は魔法の事を知った上で、この世界に呼んだ?

 

春樹(もしそうだとしたら、あの時黙って撃たれてたらゲームオーバーだったって事か)

 

 でも、思った通り綾地さんは話して解らないタイプじゃないし、俺がその救いとやらを無視すれば良いのに変わりは無い。

 

春樹「とにかく事情は解った。ただ」

 

寧々「なんでしょう」

 

春樹「悪いが、俺から心の欠片を回収するのは止めてくれ。ちょっとこっちにも事情があるんだ。その代わりと言っちゃなんだけど、悩んでそうな奴を見かけたら綾地さんに教える。これで良いか?」

 

寧々「いえ、欠片の回収に失敗するのはよくある事ですし、そこまでして下さらなくても良いですよ。最初に千歳君が言ってた通りの事をして頂ければそれで」

 

姫「何の話じゃ?」

 

春樹「あーあれか。事情を知っても邪魔をする気は無いって言ったな俺」

 

 あの時は大分意味が違うんだけど。

 

佐奈「一方的にこっちが秘密を聞き出した形になっちゃいましたけど、良いんでしょうか…」

 

寧々「構いません。それと、心の欠片関係無しに、何かに悩んだりした時はいつでも来て下さいね」

 

姫「…解った。お主がそう言うのなら、この話はここまでにしようか」

 

寧々「はい」

 

 佐奈の言う通り、綾地さんの事情だけ聞いてこっちの話は全くしなかったな。

 

 神の力なんて言葉も出て来たし、何か色々とモヤモヤさせてしまったんじゃないかな。

 

 まあ、本人が良いと言うなら良いか。

 

春樹「それじゃ、帰るか。変に騒いで悪かった。お茶ご馳走様」

 

寧々「気にしないで下さい」

 

佐奈「欠片集め、頑張って下さい」

 

姫「またな」

 

寧々「はい、また」

 

 手を振る綾地さんに見送られながら、部室を後にする。

 

【廊下】

 

佐奈「でも、本当に良かったんですか?」

 

春樹「何がだ?」

 

佐奈「私も魔法の話を全て信じた訳じゃ無いですけど、もし兄さんが少しでも楽になるのなら…」

 

春樹「これ位何ともない。それに、撃たれたらそれで終わりになるかもしれないだろ?」

 

佐奈「それは、そうかもしれませんけど…」

 

姫「何はともあれ、脅威が一つ減ったのは良い事じゃ。が、まだ油断は出来ぬ」

 

春樹「そう、だな」

 

 卯ノ花の上司が送り混んだのか実在なのかはさておき、魔女という存在が明らかになった以上、無理矢理俺の心が治される危険性がある。

 

 端的に言ってしまえば、他に魔女がいるかもしれない。という事だ。

 

春樹「そういや…綾地さんは銃だったけど、他の魔女も銃を使うのかな」

 

 そんなどうでも良い疑問が浮かんだので、少し暗くなった雰囲気を和らげる為口に出す。

 

佐奈「やっぱり杖でしょうか?」

 

春樹「殴るのか」

 

姫「案外刀や槌かもしれんぞ」

 

春樹「…本当に怪我とかしないんだろうな」

 

 怪しい物だ。

 

男子生徒「…」

 

 階段を降りていると、向かいから男子生徒がやって来た。

 

 それは別に普通の事なのだけど、そいつの目がどう見ても高校生のそれじゃ無かったので、思わずじっと見てしまう。

 

 しかし向こうは俺に興味は無いらしく、そのまま階段を上って行った。

 

春樹「やたら疲れ切った顔してたな」

 

佐奈「あんな感じでした。今朝の兄さんは」

 

春樹「マジか」

 

 そりゃ心配されるな。

 

姫「サナの言っている事は間違っておらん。とにかく、魔女がどこにいるか解らん以上、これ以上学校にいるのは得策ではなかろう」

 

春樹「そうだな」

 

【昇降口】

 

 昇降口まで出た所で、俺は部室がある方角へと目を向ける。

 

春樹(そういや…)

 

 綾地さんが俺を探してたって言ってたけど、それって心の欠片を回収したかったって事だよな。

 

 あの小瓶を使ったんだろうけど、何で俺の名前を知ってたんだ?

 

春樹(……?)

 

 まあ、良いか。


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