スプラッシュ・ブレイズ 1
────小さい頃、星空を眺めるのが好きだった。
毎年夏休みに、祖父の家がある長野県軽井沢に帰省する時には必ずといっていい程星座早見盤を持っていった。
10歳の時には父親から誕生日プレゼントで225倍率の天体望遠鏡を買ってもらった。祖父の家にいる間は、庭に毎夜広げて宙を見続けた。
……あの無限の空の向こうには誰も見た事の無い世界があって、そこには空に浮かぶ鋼鉄の城があるんだ。
なんてヘビーゲーマーになる前、子供らしい夢を見ていたのも懐かしい。
それから7年。俺は、いや俺を含む1万人は今、その宙に浮く城の中に囚われていた。現実では無い、0と1によって形作られた仮想現実に浮かぶ
量子物理学者にして天才ゲームプログラマー、茅場晶彦によって造られた世界初のフルダイブVRインターフェイス《ナーヴギア》。そして彼が創り上げた仮想世界、浮遊城《アインクラッド》を舞台としたVRMMORPG《ソードアート・オンライン》。
自分自身がファンタジーの世界に入り、自らの
《これはゲームであっても、遊びではない》。茅場のインタビューでの言葉の本意を知ったのは、正式サービス開始から4時間半。
『プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ』
茅場晶彦自らのチュートリアル。1万人のプレイヤー達を前で彼は宣言した。
SAOからの自発的ログアウトは不可能であり、脱出するにはアインクラッド全100層ボスを倒しクリアすること。
そして、プレイヤーのHPが0になった瞬間、ナーヴギアから発せられる高出力マイクロウェーブが装着者の脳を焼く。つまり────現実世界のプレイヤー自身が死亡する事を突きつけた。
『……以上で《ソードアート・オンライン》正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君の────健闘を祈る』
プレイヤーの前から茅場が消え、NPC楽団のテーマが流れる中。プレイヤーの混乱は想像を絶するものだった、らしい。
その事実を恐らくその場に居た誰よりも早く理解した俺は、はじまりの街北東ゲートに向けてダッシュしていたからだった。混乱する広場の状況には目もくれず、次の村であるメダイへとただ脚を動かした。
少しでも経験値とアイテムを得て強くなり、生存する。そして一刻も早く全てのボスを倒し、生還する。
帰りたい、必ず生きて帰る。その確固たる目的と意思を持ったまま、ひたすら最前線で戦い生き残ってきた。
そして2022年12月4日。ゲーム開始から約1ヶ月。
死亡者約1300人、攻略した階層は未だ0。
〜出逢い〜
構造物は石レンガで構成され、壁にはオレンジ色に揺らめく松明が等間隔で並べられ、そこにはコボルドやスライムといったモンスターが出現する。
典型的なダンジョンである此処は、アインクラッド第1層迷宮区。星空どころか、外の様子すら見えないその中を俺────《レイ》は革主体のジャケット装備と曲刀片手に一人探索していた。
何体目かのコボルドをポリゴン片に変えた時、俺は幼い頃見た星空のような光景を見た。
当然、本物の星の煌めきではなく、短剣ソードスキルの連続技と直撃時のエフェクト光がそれに見えただけである。
だが、その中心で剣をとる彼女の姿がどうしようもなく美しく、同時に恐怖を感じさせるものだった。
1層では強敵に分類される《ストレイ・コボルド・ソードマン》の単発ソードスキルを最低限の動きで躱すと、左手に構えた短剣を腰だめに構え、短剣単発ソードスキル《アーマー・ピアス》を発動。赤のエフェクトを纏った刃がコボルドの胴体を突き、大ダメージにふらつく。その間に
モンスターがポリゴンの身体を爆散させ、光を纏った破片が銀色の長髪の彼女を彩った。
「……ナイスキル」
不意に撃破を褒め称える用語が口から溢れた。ピクっ、と頭をあげた彼女が振り向く。容姿を見た瞬間、ドクン、と心が跳ねたように思えた。
銀色の髪をストレートに伸ばし、瞳の色はアイスブルー。整った顔立ちは外国人、ヨーロッパ系を思わせるが目元や鼻の形は日本人らしさを残している。
ハーフかな、と思った所で彼女が口を開いた。
「ありがとう。……キミ、ここで何してるの?」
何処かフワッとした口調と的外れな問いに、先程の戦闘との激しいギャップを感じたが、無言スルーは流石にマナーに悪い、と半ば機械的に応答する。
「えっと、いや、ソロで潜っている。アンタもソロなのか?」
「……? うーん、ソロ、っていうのは分からないけど……朝からこの塔に篭ってるの。ここの怪物が、一番稼げるから」
途端、目の前にいる彼女の像が見えなくなる。最初は手練れで容赦の無いベータテスター、次にバーサク系ダガー使いを想起したが、ソロ、というポピュラーなMMOゲーム用語を理解できない時点で彼女がニュービーである事が(と同時に恐ろしい程のVR適応を持つ事も)分かった。
「私、まだ剣の耐久値あるから、先に進むけど。キミも一緒に来る?」
「ええっと、うーん」
ダークブラウンの髪を掻きながらしばし思考する。正直、こういった誘いは今迄断ってきた。効率重視派である為、安全重視のPTプレイでは経験値効率が最大にならない。如何せん
「……ああ、良いよ」
頭を掻いてた右手でウィンドウを呼び出し、恐らく申請方法も知らない筈なので、『パーティー申請』ボタンを押す。
銀髪の彼女は『レイからパーティー申請がきました』とウィンドウが開くのをきょとんとした顔でしばし凝視してから、《Yes》を押し、俺の視界の左上端にHPバーとプレイヤーネームが追加される。
(……Sa-sha、サーシャ、か……)
その後一時間のパーティー狩りで分かったことといえば、サーシャの戦闘センスがずば抜けている事、そしてどうやらVRMMOどころかゲームプレイ自体すら初めての超初心者であったことぐらいだ。
勿論、レベリングの邪魔になるようなら、それとなく理由をつけてパーティー解散していたところだが、狩猟ペースは下がるどころか向上したのであった。これには俺も内心ガッツポーズである。
「私、お昼作ってきたんだ。あ、そうだ。はい、多く作りすぎたから、どうぞ?」
「……え、ああ、ありがとう」
安全地帯(安地)の床に胡座をかき彼女の事を思案していた俺に紙包みを渡してくれたサーシャ。中には薄く切った黒パンに野菜と素揚げした鶏肉(正確にはそれに近いナニカ)を挟んだサンドウィッチが入っていた。
一応長時間狩場に籠る際には、携行食は持っていくものの、大抵のプレイヤーが持ち込むのは携行性に優れて耐久値もそこそこある乾パンみたいなビスケットぐらいなものだろう。味の方はパサパサモソモソしたスコーン(プレーン)のチョー薄味みたいなシロモノだが。
……なんとまあモノ好きだろう……、と思い、だが善意100%で渡されたサンドウィッチに罪は無い、と一口頬張る。
「…………………………」
「どう?」
「………………旨い」
この1ヶ月の間、食べたものの中で断トツの旨さだった。
肉は鶏胸肉のような食感だが、油で素揚げされたおかげか上手い事ジューシー感を出している。パサパサした黒パンも野菜と肉の多様な食感によって緩和されている。味付けも胡椒(本物は存在しないので恐らくそれに近いスパイスで代用)のピリっとした感じで纏まっており、文句のつけようが無い完成度である。
むしゃむしゃゴックンと夢中で咀嚼し、筆箱くらいの大きさだったサンドウィッチは瞬く間に消滅した。
「ごちそうさま、ほんと旨かったよ」
「えへへ、お粗末さまでした」
……料理スキルも相当に上げているな、彼女。
も一つ判明した事実を脳内アーカイブに収蔵する。ふと明日開催するあの事を思い出し、サンドウィッチを頬張る暫定パーティーメンバーに声掛ける。
「なあ、アンタは会議には出席するのか?」
「むぐむぐ、会議?」
「明日の午後4時からトールバーナで1回目のボス攻略会議が開催されるんだ。アンタも攻略に参加するのなら出ていた方がいい」
キリトとアスナはまだ出ません。
ドモ、久しぶりです野沢瀬名です。
SAOアリシゼーション編を読破したら、物書き魂に点火。気付いたら一層攻略編を書き切っていました。
オリジナルキャラのレイとサーシャ(SAO原作二巻のサーシャ先生とは別人です。キャラ作ってから気付いてもうた……)とキリト、アスナ視点でSAOアインクラッド編をやっていこうと思っています。
一応アインクラッド黎明期の混乱と攻略も描こうと思い、九層(エルフ戦争キャンペーンクエ)が終わるあたりまで書こう、と思ってます。階層攻略は……飛ばし飛ばしになるかな?
艦これ二次創作の方は今しばしお待ちを。硫黄島編執筆終わり次第投稿する予定なので、気長に待っていてほしいです。
あと今回執筆方式を一編書いてから分割し、二日毎に投稿するスタイルに変えようと思います。
それではまた次回!