トールバーナ。βテスト時に多くのプレイヤー達が1層ボス攻略の拠点とした欧風の街である。
正式版でも俺を含む多くの攻略メンバーが根城にしているらしく、行き交うプレイヤーの多くは1層ではハイレベルな装備をしている。
迷宮区から戻ったのは午後6時。視界に《INNER AREA》、とログ表示されほっと一息つく。
圏内、正式名称アンチクリミナルコード有効圏内。各層の主街区や大規模な村などHPが保護されるエリアをそう呼称する。
モンスターも侵入できないので(たとえmobのタゲを引っかけたまま圏内に突入しても物凄く強いガーディアンによってご退去してもらえる)プレイヤーの休息、攻略準備の拠点とすることが出来る。βの最初期、mobを大量に引っかけそれをガーディアンに処理してもらうという経験値稼ぎが考案されたが、パーティー外でしかもNPCである彼らが倒してしまったがゆえ、コル(アインクラッドの貨幣単位)も経験値もドロップも無しだったらしく早々に頓挫した。
隣を歩くフワフワ系バーサクナイファーのサーシャは大きく伸びをすると、笑顔でこちらを向く。
「じゃあ、明日の午後4時にまたね!」
「あ、ちょっと待って。今の狩りでだいぶコルが溜まっただろ? 防具新調しとけよ」
サーシャ自身の個人PSはトップレベルで口出しする余地は全く無いと言えるが、悲しいかなゲーム知識が圧倒的に足りない。実際彼女の防具は、はじまりの街で店売りしている水色のレザーアーマーに白のポンチョみたいな外套のみの防御力皆無の軽装装備である。
防具新調の提案に、しかしアリサは少し困り顔になると、
「えー、でも重くなるのは嫌だなー」
「なら、プレート系じゃなくて革主体のスタッドタイプが良いな。重量増加最低限に防御力を上げれるから」
「へえー、レイって物知りだね。じゃあそれにしよ」
トールバーナの防具店は広間から出てすぐの通りにあったはず。β時の記憶を辿りつつ俺たちは通りを歩いた。
レザーアーマーは同系色のレザースタッドアーマーに。また胸部にはライトチェストプレートで最低限の防御を確保した。
「確かにほとんど重くなってないかも」
「まあ、3層序盤までなら強化すれば使えるからな」
ピョンピョンその場でジャンプして、動きの感じを確認しているサーシャ。そろそろ解散しようと、話を振ろうとした。
「じゃあ、そろそろ」
「あ、レイ、ありがとネ。もう私帰るからまた明日!」
「え、あーと、うんまた明日……」
やっぱり掴みどころの無いフワフワした感じの彼女はお辞儀した後とててー、とNPCハウスの密集する住宅エリアに向けて走っていってしまった。
「────不思議な娘、だったな……」
「まったくダヨナー。という事でお兄さん、あの娘の情報、買わないカネ?」
「……相変わらず見事なハイディングだこと。女の子の情報貰うのはやめとくよ」
いつの間にか後ろに居たのは"鼠"の二つ名を頂戴している情報屋、アルゴであった。
サンドカラーのフード付きマントにほっぺたの特徴的な3本対のお髭ペイント、クルクルと癖がついた金褐色の髪の毛の情報屋はニャハハと笑うと
「いい心がけダナ、レー君。今なら3割引きで提供するケド〜?」
「いらない。それより、頼んでいたデータ、収集できたか?」
「じゃあ、500コルダナ」
トレードウィンドウを出し、情報料をアルゴに支払う。「毎度」と代わりに差し出してきたメールには俺の欲しかった情報があった。
と、アルゴが表情を真面目にすると俺に忠告する。
「……ホントに明日の会議でそれをぶっちゃけるノカ? 間違いなく一部の連中が荒れるゾ」
「それでもだ。今の攻略メンバーをそのままにすれば必ず何処かで衝突が起こる。明日の会議でリスクは極力減らしたい」
***
明くる日12月5日。早朝から迷宮区に潜っていた俺だが、午後3時にはトールバーナへ帰還していた。遅めの昼食に選んだのはNPCベーカリーの1コルの黒パンに水ひと瓶にした。
なにせ武器の強化、防具の新調、先日の情報屋への情報料などコルの使い方は計画的にしなければならない。資金不足で良い装備、情報が整えられずにモンスターに、トラップに殺されるなんて死んでも笑えない。そんな状況を招かないためにも切り詰めれるところは極限まで切り詰めてやる。
────だけど、この黒パン、そのままじゃボソボソした感じで決して美味しいわけじゃないしなー。でも牛クエは効率良くこなしても2時間かかるし面倒だし……。せめて自分で調理すればマシになるかな……。
そこまで考えたところで普段考えない食事を意識していた事を自覚した。
SAOではあくまで脳に対して食事による仮想の満足感を与え『食事を摂った』と認識させているに過ぎない。故に腹さえ膨れれば1コルのパンで十分である……、と思っていたのだが。
「……昨日のサンドウィッチ、また食いたいな……」
半分ほど消失した黒パンを見ながらポツリと呟いた。
決して高級なものではなかった。パンも肉も野菜も低レアの食材アイテムであったが、美味しさを追求しようとする気持ちがあのサンドウィッチを創り出したのだ。
たかだかポリゴンで出来たサンドウィッチだろ、と思う一方、調理した彼女に対して何を考えていたのだろう、という疑問を黒パンと共に腹の中へ収める。
────今はボスを倒すことを、いやその前にこの会議でみんなを団結させる事が最優先事項だ。
午後4時前。トールバーナ中央広場には多くのプレイヤーたちが集っていた。総数46人。
(フルレイドには足りなかったか……)
SAOでは最大6人で一パーティー、それを8パーティー集めた48人のフルレイドを組んでボス攻略にあたる。
β版SAOの第1層のボス攻略の被害や結果を見れば、死者ゼロに抑えるならば、最低限メインのレイドとリザーブ部隊3パーティーがいれば事足りたのだが、デスゲームと化したこの世界でならこれだけ集まっただけでも奇跡に思える。
古代ギリシャの舞台のように半円の階段のようなベンチには既に多くのプレイヤーが座って、皆口々に話し合っている。俺は全体の様子を見るべく、後ろの方に座ろうとした。
「あー、レイだ。こんにちは!」
バーサクナイファーことサーシャと早過ぎるエンカウント。
……というか誘ったのは俺だからここに彼女がいるのも仕方ないか。
彼女の声と美貌に否応なしに視線が集まるが、無視してしまうのは彼女に失礼、と挨拶する。
「こんにちは、防具の方はどうだ?」
「うん。重くないし、今まで通り動けるよー。そういえば、今日の会議って何するの?」
「今日は……」
ここで4時を知らせる鐘がなった。
「じゃあ、そろそろ始めようか! ハイ、そこの人たち、もうあと1歩、いや2歩こっちに来ようか!」
ステージに上がり、集まったプレイヤーに笑顔で呼びかけるのは、鮮やかな青いウェーブのかかった髪に何故こんなイケメンがVRMMOをやっているんだと突っ込みたくなる程の整った顔立ちのプレイヤーであった。
自分の胸あたりの高さのステージに助走なしで飛び乗ったり、全身の装備を見る限り恐らく俺と同程度のレベルと推測できる。
「オレの名前はディアベル。職業は気持ち的にナイトやってます!」
本当は勇者って言いてんだろー、と前列から合いの手が入りドッと笑いが起きる。笑いが収まるのを待ってディアベルは続ける。
「1ヶ月。ここまで1ヶ月もかかったけど……それでもオレたちは示さなきゃならない。ボスを倒し、第2層に到達して、このデスゲームそのものもいつかクリアできるんだってことを、はじまりの街で待ってるみんなに伝えなきゃならない。それが今この場所にいるオレたちトッププレイヤーの義務なんだ! そうだろ、みんな!」
ディアベルの演説にこの場にいる多くのプレイヤーから喝采が浴びせられる。攻略メンバーたちのまとめ役を買って出てくれたナイトに俺も拍手を送る。
「ちょお待ってんか、ナイトはん」
そこに割り込む低い声。視線を振ると、中列の辺りから関西弁と共に立ち上がる人影が見えた。モーニングスターのようなトゲトゲ頭の彼は、ステージまで登ってくるとディアベルと相対する。
答弁を中断されても爽やかスマイルを崩さないディアベル。
「なんにせよ 意見してくれるのは大賛成さ。でもその前に名前ぐらい聞かせてほしいな」
「フンっ、ワイはキバオウっちゅうモンや。こん会議が始まる前に詫び入れなアカン連中が居るはずや」
視界の端でビクりと何者かが動いた、ような気がした。目だけ動かして確認するとグレーのレザーコートを装備した片手剣士が何かから逃れるように視線を伏せていた。。
「詫び? だれにだい?」
「決まっとるやろ!こんクソゲームが始まってスグ、ビギナーたちを見捨ててジブンの保身に走ったベータテスター共のことや!」
ども。艦これ17年夏イベ、燃料不足でE-7攻略中断した野沢瀬名です。あのロリ潜水姫はマジ許さん。
はい、原作だとSAOP第一巻、アニメだと第二話冒頭にあたるお話です。本来ならキリトとアスナの飯テロがあったり、アルゴのアニブレ買取の話があるのですが端折りました。飯に関しては一話でやりましたしね。
アルゴやディアベル、トゲトゲキバオウさん、ついでにキリトくんなど原作の個性的なキャラが出てきたところですが、プログレッシブを読んでいるとキバオウに対するイメージがかなり変わるんですね。アニメや原作二巻だけだと、軍をほぼ私物化するわシンカーをポータルPKしだすわで、ゲスというイメージしかないですが。
この物語では基本キレイなキバオウを出していこうと思います。
あと、序盤に書いた経験値稼ぎの試みはMinecraftの経験値トラップの仕組みを使えないか?と、β時に考案したものとしています。まあ、そんな稼ぎ方でポンポン強くなったらデスゲームにならないのですが(笑)。
次回は攻略会議問答です。お楽しみに。