黒の剣士と紅の風来坊   作:野澤瀬名

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……今回もキリトとアスナはMORE☆DEBAN





スプラッシュ・ブレイズ 3

 

 

 ────こんクソゲームが始まってスグビギナーたちを見捨ててジブンらだけポンポン強なってったベータテスター共のことや!

 

 キバオウと名乗ったプレイヤーの弾劾は俺────ベータテスターのキリトへと突き刺さった。事実、デスゲームが始まったあの日、はじまりの街にこの世界で初めて出来た友人クラインを置いてきたあの時から俺は自分の生存の為だけに、自己の強化だけ考えてきた。

 

「────テスター共には今まで貯めてきたカネとアイテムと情報、ゼンブ吐き出してもらわな、ワイは背中を預けられへんし、預かれん!」

 

 言い返したいことはあったものの、周りの非テスターから糾弾されないとも限らない。実際、攻略会議の場は静まりかえり、何かの拍子に爆発するのではないか、

 と思わせる緊張感に満ちている。

 故に出来ることと言えば両手を膝の上で固く握り締めるぐらいしか……。

 

「────発言、良いかな?」

 

 声の方を見れば、ダークブラウンのレザージャケットを着た同系色の髪色をした曲刀使いが立ち上がっていた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 立ち上がった瞬間視線が集中するのを感じた。緊張のあまりスタンしてしまうのではと思ったが投げられる視線に耐えて前に出る。キバオウとディアベルの居るステージに上がり、キバオウと対峙してはっきり宣言する。

 

「俺はレイ。ソロの元ベータテスターだ。」

 

 いっせいに場がざわつく。一部の参加者たちからも睨まれるのが肌でわかる程に場の緊張が高まる。

 キバオウからもヘビーランスを思わせる鋭い一瞥が投げつけられ、

 

「いさぎええやないか?ほな、ストレージの中身出してもらおうか?」

「その前にこの場にいる全員に聞いてもらいたい事がある。キバオウさん、勿論あんたにもだ」

 

 なんやて?、と顰めづらになるキバオウをディアベルが手を掲げて制止させる。

 

「レイさん、君が発言したい事は何かな?」

「────βテスト経験者の推定死亡者数の事だ」

 

 

 

 昨日、アルゴ他4人の情報屋から手に入れたベータテスターの死亡者数の推計データ。そこに書かれていた事実を俺はこの場に居る全員に伝えた。

 外部からの接続解除によって死んだ200人を除く死亡者約1100人の内、自殺者がおよそ300人。残り900人の内ベータテスターは約400人と推測された。βテスト最終日のログイン状況が約850~900人だった事を考えるとβ経験者の半数が既に死んだことになる。

 この情報に場にいる攻略メンバーたちの顔がすうっと青くなるのを俺は感じた。隣にいるキバオウも驚愕の表情を浮かべている。

 

「……う、嘘やろ……」

「勿論、実際数えたわけじゃないから実測値とは異なると思う。それでも恐らくテスターの方が死亡率は高いんだ。原因はこのSAOが『正式版』であるから、それに尽きると思う」

 

 βテストで発見されたバグや不具合、ゲームバランスの不均衡さを製品版に移行する際にデバックとバランス調整が必ずなされる。このSAO正式版の1層でも地形やモンスターのモーション、クエストの一部の修正、改変が加えられていた。

 事実、俺は受けたクエストの変更点を見逃したせいで、その時のパーティーメンバーを死なせ、いや見殺して自分も死にかけた。

 この事は紛れもない事実である、その事を理解してもらわなければこの先もプレイヤーたちの一致団結は難しい。その為に俺の知りうる実態を告げていく。

 

「確かにβテスト経験者がある程度有利なのは事実だ。だが、その知識を信用しすぎたが故に死亡者が出ているのも事実なんだ」

「せやけど! アンタらテスターがもっと情報出しとったら、死なんでええプレイヤーが500人もおったんや!」

 

 キバオウの発言に一部の連中が『そうだそうだ!』と同調する。

 そんなのどうしようもないだろ、と思わなくもなかったが、その言葉は突き刺さった。事実、非テスターから500人もの死者が出た。テスターである俺がもっと努力すれば、と思う一方そんな無理をすれば自分も死んでいた、とも考えた。

 

「しかもその500人には他のMMOでトップはってたベテランプレイヤーなんやぞ! 生きとったら今頃3層、4層辺りに到達しとった筈や!」

「……発言いいか?」

 

 背後から落ち着いたバリトンの声がかかる。

 見ればチョコレートのような褐色の肌に、頭は思い切ってスキンヘッドの巨漢がこちらへと向かってきた。

 

「な、なんやアンタは?」

「俺はエギルだ。キバオウさん、つまりあんたが言いたい事は元ベータテスターが面倒を見なかったから、多くのビギナーが死んだ。その事に対して謝罪と賠償を要求する、ってことか?」

 

 そうや、と頷くキバオウにエギルは懐から一冊の本、といってもB6程度の冊子である、を取り出し見事なバリトンの声で続ける。

 

「この攻略本、俺がホルンカやメダイの町についた時には道具屋で無料配布されていた。あんたも勿論貰っただろ?」

「も、もろたで。それがなんやねん?」

「恐らくこいつを作ったのはベータテスターの連中だ。────レイって言ったな、あんたもこいつの作成に携わっていたんじゃないか?」

「あ、ああ」

 

 エギルはプレイヤーたちに向き直ると、声を大にして語る。

 

「いいか、情報はあったんだ。それなのに大勢の死人が出たのは、彼らがベテランのMMOプレイヤーであったからだと俺は考える。彼らは他のタイトルと同じ物差しでSAOを見た故に引くべきポイントを見誤った。だが、今はその責任を追及する時じゃない筈だ。違うか?」

 

 エギルの至極真っ当な論調にさしものキバオウも反論できないでいた。と、沈黙を保っていたディアベルが夕陽に照らされ紫へと変えつつある髪を揺らし口を開いた。

 

「キバオウさん、あんたの言い分もよくわかる。でも、今必要なのはボスを死亡者ゼロで攻略することだ。レイさんたちベータテスターが命懸けで集めてくれた情報があるからこそ、オレたちはここまで来れたと思う。それに今ここで彼らを排除して攻略失敗したらそれこそ本末転倒だ。そうだろ、みんな!」

 

 エギル、ディアベルの論理整然とした弁舌によって『テスター断罪すべし』の空気が薄れていくのがわかった。キバオウも渋々といった表情だが、了承してくれたらしい。

 ただ、俺の方に向き直ると一言。

 

「……せやったら! ボスの情報に関しては洗いざらい喋ってくれや。情報不足で1人でも事故死したら寝覚め悪いからな!」

 

 これには俺も苦笑しつつ、キバオウに向き合い宣言した。

 

「わかってるよ、俺の知っている限りの情報全部出すよ」

 

 

 

 ***

 

 

 

 会議が再開され、ディアベルからは迷宮区の最上階へと繋がる階段フロアを発見した、と報告される。

 とりあえず、無駄骨を折ることなく、β経験者とビギナーとの全面衝突は回避されたと判断していいだろう。

 最後列まで戻りふう、と一息つく。

 

「カッコよかったよ? レイ」

 

 隠蔽(ハイディング)状態のmobから奇襲を受け、スタン状態に陥ったが如く(勿論そんな事で実際にスタンする訳がない)、ビキンと足先から脳天まで硬直する。

 真っ赤になってあるであろう顔を背けながら、サーシャに弁明する。

 

「あの、いやカッコつけたかったとか、まあちょっと痛かったかもしれないけど」

「必要な事だったんでしょ?」

 

 彼女に振り向くと、ニコニコしながら続けた。

 

「私、べーた、とか難しいこと分からないけど。でも、レイが喋ったからみんな一つになれた、と私は思うよ?」

「……いや、そうかな……」

「そうだよ。だってみんなの顔、さっきよりずっと良いもん!」

 

 言われて初めて、メンバーたちの顔を見た。

 ディアベル、エギル、先程対峙したキバオウに他の面子。彼らの顔には既に『どうやって犠牲無しで攻略するか』という面持ちしか見えない。

 だとすれば、俺の行動はテスターと非テスターとの軋轢を回避するだけでなく、彼らの団結に一役買った、のだろうか。

 

「そう、だといいな……」




?『……キー坊の意気地無し』

とか情報屋から言われそうなキリトくんが端っこにようやく登場。
ども、この頃涼しくなったけど寝る時エアコンから離れられない野沢瀬名です。……だって気持ちいいんだもん、28℃設定の部屋が!

てなわけで僅か1話でしたこの攻略会議問答。テスターと非テスターの軋轢に関してはこの一層攻略編で片付けてしまいたいと思っており、こんな形で収めました。
……まあ、これで仲良くしましょ、って感じで物語進行させるつもりもないのでそこは今後の展開をお楽しみに。
あと、簡単ながら最後にステータス表記してみました。ぜひお話と合わせて見てみてください。



次回ようやくキリトとアスナの会話シーンが入ります!


***
プレイヤー名:レイ
レベル(一層時点):12
構成スキル:片手曲刀、索敵、隠蔽


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