12月8日、浮遊城アインクラッド第1層迷宮区最上階。
ボス部屋前に集まった46人のプレイヤーたちは、皆各々装備やアイテムの最終確認を行う。
デスゲームと化したSAOにおける初めての大規模戦闘。そのプレッシャーはβ経験者である俺やキリトも、そして一切表情を変えないフェンサー、アスナの顔も強張る。
「大丈夫だよ、きっと」
ハッと横を見るといつも通りのサーシャが居た。ニコッと笑ってみせると、mobを呼び寄せないよう抑え目のトーンで
「私とキリトとアスナ、それにディアベルさんやキバオウにみんな、そしてレイも、絶対生き残るよ。だから、大丈夫!」
その姿に俺はすごいと率直に思った。彼女の強さは剣の腕でも、戦闘時の身のこなしでも無い。心の有り様自体がこんなにも強い人に出会ったのははじめてだった。
「────ああ、そうだな」
そして全8パーティーの準備が整った。全員が剣を、槍を、各々の得物を抜き、突入準備を整える。
「行くぞ!」
ディアベルの一声と共にボス部屋の扉が開かれた。
***
「スイッチ!」
キリトが《ルインコボルド・センチネル)》が振り下ろされた
ゲーム初心者で覚えたソードスキルも《リニアー》一つだが、放たれたそれは鋭く、そして的確にセンチネルの弱点を貫通する。スキルブーストの姿勢からプレ、ポストモーションの短さまで、今まで見てきた中でもトップレベルのソードスキルの完成度だ。
ダメージでふらつくセンチネルにサーシャが追撃をかけ、HPゲージをゼロにした途端ポリゴンの破片を振りまいて爆散した。
戦闘開始から既に30分。
1層フロアボス《イルファング・ザ・コボルドロード》の全4段あるHPゲージは3段目の半分まで喪失し、ここまで、レッドゾーンまで削られたプレイヤーはゼロ。取り巻きのセンチネルの相手もキバオウ率いるE隊と俺たち4人パーティーで事足りている。
「行けそうだな、キリト」
「ああ、次センチネルの初撃任せた!」
突進してくるセンチネルは全身を重装鎧で固め、ただ単にソードスキルを撃ってもマトモなダメージはだせない。故にβテスターたる俺とキリトがセンチネルの攻撃をいなし、アスナとサーシャによるアタックを決めるという構成をとった。横殴りに繰り出される斧槍を左下から繰り出す単発技《ライズ・ムーン》で相殺する。
浮かし効果のあるソードスキルによりバランスを崩し
と、E隊リーダーのキバオウが近寄り、
「おい、レイのあんちゃん。次のブレイクで雑魚コボの湧きは最後やな!?」
「ああ。終わらせたら本隊に合流するぞ!」
「わーっとる! ええか、みな次で最後や! 気張れよ!」
キバオウの発破にE隊メンバーが『応っ!』と応える。キバオウもなかなかどうしてかリーダー職が板に付いている。ギルドリーダーは難しいかもしれないがレイドリーダーやパーティーリーダーなら充分務めあげる腕はあるだろう。
センチネル3体の爆散を確認した後前線に目を移すと、こちらもポールウェポン部隊のF・G隊が3本目のHPゲージを削り切ったところだった。イルファングが吠え、攻略隊も鬨の声が上がる。下がるF・G隊に代わってディアベル率いるC隊が前に出る。
4本目のHPゲージでは片手骨斧とラウンドシールド装備から曲刀カテゴリー、タルワールへと主武装を変化させる。一撃の威力は高いものの、縦切りメインの攻撃は密着すればノーダメージで────────。
(!? ────違う、アレは)
リポップしたセンチネルが行く手を阻むが、繰り出される剣斧より速く曲刀基本ソードスキル《リーパー》でセンチネルの得物の柄を斬り飛ばす。
「お、おいレイ!」
「な、何やっとるねん!?」
ボスまでの距離は50メートル。現実世界で100メートル14秒入るかどうかの平均的な高校生だが、SAOでは
シルエットだけだがアレはタルワールなんてモノじゃない。《前のアインクラッド》第9層に跋扈していたエリートmobが有していたエクストラスキル────。
「────グルアアアッ!」
イルファングの巨体が跳ね、その刀身が血のように赤いライトエフェクトを放つ。
────カタナスキル、360°重範囲攻撃技《旋車》。
攻撃レンジに入っていたC隊全員のHPが半分をきったことを司会左上に表示されたゲージが示す。大ダメージを受けた者たちは────ディアベルも例外無く、皆頭上に
(────間に合え!)
イルファングが長めの技後硬直から解放され。
タンク部隊の何名かがカバーに入ろうとし。
イルファングはカタナを腰だめに構え。
「ガルゥア!」
カタナスキル単発技、《浮舟》。モーションの短さ故に
スキルコンボの起点となる。食らった場合、無駄に足掻こうとせず防御姿勢を取らなければならない、が。
ディアベルは反撃のソードスキルを放とうと懸命に剣を振りかざすが不安定な体勢ではシステムは検知しない。
「────させるかぁ!」
石畳の床を踏み切り、ジャンプの最高到達点でソードスキルを発動させる。曲刀単発突進技《チャージ・エッジ》。
AGI寄りのステータス構成にしていたおかげか。
辛うじて愛剣《フォージング・セイバー+5》の切っ先がイルファングの腰部を捉えた。視界の端では跳ね上げられたディアベルが石畳に落ちる姿が見えた。
HPゲージは────まだ残っている。
SAOにおけるモンスターのヘイトは可視化できないものの、ある程度把握することが出来る。ヘイト値を急激にあげる方法としては挑発スキルの使用、そして発動中のソードスキルをキャンセルさせることも含まれる。故に床に着地したイルファングは憎しみを宿す瞳を俺に向けると野太刀を腰だめに構えようとする。確かアレは居合い系ソードスキルのプレモーション……!
「やばっ!?」
相殺するには着地してすぐさまソードスキルを使用する必要があるが、無茶な迎撃のおかげで空中での姿勢が乱れてしまった。
一かバチか、愛剣を横に構え防御姿勢をとるも不安定な体勢では受け切れない。
「うおおおおぉ!」
野太刀から放たれたソードスキル《辻風》を後方から伸びたペールブルーの軌跡が迎え撃った。
「せああっ!」
「はっ!」
体勢を崩したイルファングを2人の女性剣士が放つソードスキルが襲いかかった。立て続けにダメージを受けたイルファングは吹き飛び倒れ込む。
「キリト……、お前」
「話は後だ! 俺たちでアイツのソードスキルを潰す。その隙にアスナとサーシャは攻撃を!」
「わかった!」
「任せて!」
この場にいるほとんどのプレイヤーが初見のカタナスキルを見破る事はほぼ不可能に近い。今ヤツを抑えることができるのはキリトと俺しかいない。
一瞬のうちに判断し、後ろに倒れていたディアベルに叫ぶ。
「俺たちで時間を稼ぐ! 被弾した連中を下げさせろ!」
「あ、ああ、すまない!」
ディアベルが後退の指示を出す間に、キリトと並んでイルファングに突貫する。
「ヤツのソードスキルは発動してからじゃ相殺できない!」
「わかってる! プレで判断して、だろ!」
第1層ボス戦、《イルファング・ザ・コボルドロード》の残りHP僅か。
ディアベルさん生存(?)。ども、野沢瀬名です。
はじまりました、イルファング戦。βテストとメインアームが変更されてるなんて質の悪いβ殺しじゃねえか、と突っ込まれた方もいると思います。
原作ではキリトがタルワールではなく野太刀であることに気付き、警告を告げましたが時既に遅く、凶刃によってディアベルは死んでしまいます。
……のですが『タルワールと野太刀を見間違えるのか?』という素朴な疑問が僕の中に沸き起こり、調べてみると『うん、全然違う!』となりました故、このような変更をしました。だって、刃の形状とか表面の光り方とかetc…………。
とまあ、僕の武器オタク的解説は置いておき、次回イルファング戦後半に入ります。