黒の剣士と紅の風来坊   作:野澤瀬名

6 / 7
たった4人で第一層ボス《イルファング・ザ・コボルドロード》に立ち向かうキリト達。
第一層攻略編、完結。


スプラッシュ・ブレイズ 6

 

 

「ウルグォオオ!」

「せああっ!」

「はああっ!」

 

 視認できない速度で繰り出される野太刀をキリトの《アニールブレード》と俺の《フォージングセイバー》が迎え撃つ。

 立て続けに迫る凶刃に俺とキリトは紙一重の反応でついていく。相互にリンクし、互いの剣を同期させる。

 

(次! 右下からの斬り上げ!)

(上段斬りで迎え撃つ!)

 

 攻撃に専念するアスナとサーシャが、剣閃が、音が、背景が、エフェクトのパーティクルが全てスローに流れる。終わりの無い加速感を共有し、唯ひたすらにピアノの連弾を思わせる剣戟を繰り返す。

 だが、ここまで1時間。休み無しに神経を磨り減らす戦闘を重ねれば自ずと疲労は蓄積する。十数回目の迎撃の時、遂に緊張の糸が途切れる。

 

「しまっ────!」

 

 カタナスキルの中でも対応が難しい単発技《幻月》。上下ランダムに発動するソレは、上段斬りと読んだキリトの片手剣をすり抜け彼の脇腹にクリーンヒットした。吹き飛んだキリトの身体が目前に迫ったと感じた時には二人揃って、石畳に叩きつけられた。

 

「げホッ────、キリト……!」

 

 直接ダメージソースを受けていない俺でも3割方持っていかれたのだ。キリトのHPゲージは注意域(イエローゾーン)の6割まで削られていた。

 

「ガルゥアア!」

 

 イルファングが取ったモーションを見て、サッと血の気が引いた。

 あのモーションはカタナスキル三連撃技《緋扇》。防御姿勢も取らずに受ければHP全損の恐れもある────!

 

「────頭下げろ、レイさん!」

 

 振り下ろされる凶刃と、後方から走ってきた蒼い影が交錯する。7割程しか回復していないHPゲージで飛び出したのは、レイドリーダー、ディアベルその人だった。

 

「てぇああ!」

 

 片手剣突進技《レイジスパイク》が決まり、再度押し戻されるイルファング。そこに、

 

「俺たちもいるぜぇ!」

 

 チョコレート色の巨漢、エギルとその仲間たちの両手武器を掲げ、イルファングと俺たちの間に立ち塞がる。

 

「POT飲み終えるまで俺たちで支える!」

「……、すまない!」

 

 下層で入手可能なポーションはこのレベル帯なら十分量HPを回復できる(但しクソ不味い)が、時間継続回復(ヒール・オーバー・タイム)である為、使ってスグ戦線復帰出来るわけではない。故に回復を待つ間、他のメンバーと交代して戦線を維持するPOTローテなる戦術が必須である。だが、生憎非テスターの多いこの面子では初見殺しのカタナスキル相手に、生半可なプレイヤースキルは通用しない。

 前線を変わったディアベルも重々承知しているようで、ソードスキルによる相殺ではなく、エギルたちタンク部隊の両手武器での防御主体の立ち回りを選択した。

 ディアベルが技の軌道をエギルたちに伝え、エギルたちも防御姿勢でカタナの重い一撃一撃を受け止める。その隙にアスナとサーシャがガラ空きの背や脇へとソードスキルを叩き込む。

 チラリと後方を見ると、ディアベルを除くC隊は全員壁際に退避し回復を図っており、その周りをA隊メンバーが護衛についている。リポップしたと思われるセンチネル5体(これもβから修正されていたようだ)に対してはキバオウ率いるE隊メインに被害の少ないアタッカー隊やタンク部隊が奮戦しているが、恐らく時間経過で湧き続けるであろうセンチネルを対処できるのはもってあと10分か。

 

「────っ、早く動け!」

 

 キリトの叫びにイルファングの方へと視線を移す。見ればボスの背後で足をもつれさせたプレイヤーが。

 取り囲みを察知したイルファングは巨体を捻り跳躍しようとする。C隊メンバーを死へ追い込みかけた範囲技《旋車》────!

 

「────届……けェえええ!!」

 

 野太刀が秘めた殺傷能力を解放する直前、跳躍したキリトが放った片手直剣突進技《ソニック・リープ》がイルファングの脇腹を鋭く斬り裂いた。

 

「ぐるうっ!」

 

 床に叩きつけられたイルファングは立ち上がろうと四肢をばたつかせる。人型mobやプレイヤー特有の状態異常、転倒(タンブル)────!

 

「全員フルアタック! 囲んで構わない!」

「待ってました!」

 

 今まで防御に徹していたエギルたちがそれまでの鬱憤を叩きつけるように、現状最大火力のソードスキルを次々と叩き込む。

 連続攻撃にイルファングのHPゲージが目に見える速度で減少し、しかしまだ僅かに足りない。イルファングももがくのをやめ、身を起こそうとする。

 

「レイ、アスナ、サーシャ! 最後のソードスキル、一緒に頼む!」

「ああ!」

「了解!」

「任せて!」

 

 エギルたちを斬り払うべく、再度身を捻ろうとするイルファングへと全員で突貫する。

 

「「はああああっ!」」

 

 アスナの《リニアー》とサーシャの《アーマー・ピアース》がクリティカルヒットし、バランスを崩したそこへ、俺の使える二連撃技、《インセクト・ホッパー》で追撃する。鮮やかなワインレッドの剣閃が獣人の王の身体を切り刻み、HPが減り、────僅かに数ドット残る。

 

「行け、キリト!」

「う、おおおおォオオ!」

 

 キリトの《アニールブレード》が唸り、青い光を放って《イルファング・ザ・コボルドロード》の胴体にV字のダメージ跡を斬り刻む。────片手剣二連撃技《バーチカル・アーク》。

 空中でピタリと静止した獣人の王は、ひび割れる身体から光を放つと。

 膨大なポリゴン片を撒き散らしながら消滅した。

 

 

 

 ***

 

 

 

 消滅した王とその取り巻きを見ながら。

 レイドメンバー全員が、これで終わりか、まだ続くのか、と思考する。

 その静寂をボス部屋中央に出現した一文とファンファーレが破った。

 

 《Congratulations! You defeated the BOSS!》

 

 次の瞬間、部屋を満たしたのは歓声だった。

 ある者は両腕を突き上げ、ある者は戦友と抱き合い生き残った事を喜んだ。

 俺も緊張を解くと、激戦を経て傷ついた愛剣を丁寧に鞘へ納める。傍らのキリトと顔を合わせ、互いに拳を突き合わせた。

 

「GJ」

「お疲れ」

 

 と、そこに指揮官であるディアベルが歩み寄ってきた。キリトと俺を見て一瞬何故かバツの悪い顔をするが、笑みを浮かべ、

 

「ありがとう、レイさん、キリトさん。君たちがいなかったら、今頃オレは死んでたと思うよ」

「ああ、アンタがああまでして欲しがってたLAボーナス、俺が手に入れちまったけどそれに関して文句はあるか?」

 

 キリトのその問い掛けに遅まきながらディアベルもまたβテスターである事に、そして昨夜キリトから聞いた彼の武器を買い取ろうとしていた人物の正体がディアベルその人である事に気付いた。考えてみれば初見のはずのイルファングの攻撃に対処出来ていた時点で凡そ予想はついていたが。

 ディアベルは苦笑し、

 

「勿論そんなことはしないよ。────それにオレにはやるべき事がまだある」

 

 と、彼は振り返ると歩き出す。その先には。

 

 戦勝した顔には到底見えないキバオウの姿と彼の仲間たちがいた。

 二人が面を合わせ、ただならぬ空気を醸し出した事に気付き、その場に居た全員が押し黙る。

 

「…………ディアベル、はん。一言いうことあるやろ……」

「………………ああ。────みんな、ボスに勝って喜んでいるところ済まない。────オレは、……オレはみんなに謝らなきゃならない。オレが、……βテスターである事を、隠していたことに!」

 

 血を吐くような告白。先程までの歓喜が嘘のように霧散する。このレイドを指揮したディアベルはそのカリスマ性で多くの非テスタープレイヤーたちを勇気づけ、攻略隊を一致団結させた。汚いテスターに対する代表者である彼にキバオウや他正規プレイヤーたちは信頼し、期待していたのだ。それを裏切った彼に対し、キバオウたちがどんな感情を抱いているのか、テスターである俺には判断出来なかった。

 

「……みんなに、テスターであるとバレたらどうなるかって、考えただけで怖かったんだ……! なのに、レイドリーダーに就いて、ボスのユニークアイテムを狙おうとして! ────本当にみんな、すまない……!」

 

 ディアベルが膝をつき、土下座する。見下ろす格好になったキバオウは俯いていて表情が見えない、と。

 

「……アンさんは、ワイらの期待を裏切った。────アンさんならテスター連中と違って、みんなの事思って動いてくれるって思ったわ。それが嘘やったって言われて、確かにショックや……。────けどな!」

 

 崩れるように両膝をつき、ディアベルの両肩に手をかけると顔をあげた。その顔には、────小さな目から溢れる涙があった。

 

「────生きとって、良かった! アンさんが死んどったら今頃こうやって文句も言えんし、肩を掴むことすらできへん! ────後で、みんなから色々言われるやろけど、とにかく! ────よう生きとった!」

 

 彼らの目には涙が浮かび、皆口々に生還を喜ぶ。

 その中心で膝をつく男の顔は見えなかったが、ポロポロと落ちる雫はハッキリと見えた。

 

 

 

 ***

 

 

 

「良かったね、無事に事が済んで」

「ああ。もうβテスト云々で揉めることはないよ」

 

 2層へ続く螺旋階段を歩きながら頷く。ディアベルはと言うと、先頭でキバオウや他のプレイヤーたちと共に上階へと歩んでいた。彼らと語らいながら進むその姿に暗いものは一切感じられない。

 

「────そういえば、LAボーナスってキリト。お前がゲットしたんだろ?」

「あ、いや。あの時は切羽詰まってたからさ、俺もかっさらおうなんて思ってもなかったわけで」

「……そうじゃなくて、レイくんの言っているのは着てみたら、ってことでしょうけど」

 

 アスナとサーシャと俺の視線に渋々キリトは装備ウィンドウを操作すると、激戦を経て所々ボロボロになったグレーのコートから艶めく黒いロングコートへ装備変更された。黒髪にアンダーシャツもズボンも黒色で想起したものといえば。

 

「さしずめブラッキー、だな?」

「そうかも」

「そうね」

「な、別にいいだろ。黒好きなんだし!」

 

 

 

 

 




────書ききった!ども、野沢瀬名です。

無事(?)第一層攻略編を書ききれました。ここまで読んでくださった読者の皆さんありがとうございます!
……え、キリトとアスナの描写が少ない?
────次の編で多めに出すのでお許しください!



レイについて

元々レイというキャラを創り出したきっかけが『キリトハーレム過ぎるだろ、つか男女比率おかしいだろ』というやっかみ嫉みの様なものでした。で、そこから原作における二巻『黒の剣士』、シリカ初登場の話をキリトからレイに置き換えて作ってみたところ『おりょ、けっこういけんじゃね?』とか思い、じゃあ、もう一人ヒロインのサーシャ創って、ソードスキルとか……。
気付けば一層攻略編を書ききっていました(笑)。

キリトがビーターと罵られながらも攻略組のトップに立ち続ける姿に対し、レイにはキリトとは別の方面で活躍してもらう予定です。一応、原作準拠なので(ディアベル生存時点で大分正史と違いますが)それになぞった形で活躍させていきたいと考えてます。

サーシャについて

創り出されたきっかけは『レイのヒロイン創ろう』。
なんとも身も蓋もない理由ですが、そんな感じで創ました(名前に関しては完璧被ることを忘れてました、ゴメンねサーシャ先生!)
彼女との出会い等、キリトとアスナのオマージュが多々ありますが、彼女とレイとの関係性はレイが一目惚れ(本人自覚無し)、サーシャの方は友人、という感じでしばらく進みます。
アスナ以上にほわんほわんしたキャラですが生暖かく見守ってやってください。



さて、ディアベルが生き残り、プレイヤー間格差の問題も解決しちゃった攻略組。第2層以降から大幅にオリジナル要素が増え、また原作者が考えた魅力的な原作キャラも出てきてだいぶ賑やかになります。どうぞお楽しみに。
だいぶ長くなってしまいましたが、改めてここまで読んでくださった読者の方々に感謝しつつ、今回はこの辺りで筆を置かせていただきます。
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