最近のデバイスはわがままで困る   作:bounohito

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第九話「緊急徴用条項・特例Ⅱ-A」

 

 

 彼女なら大丈夫だろうと周囲も太鼓判を押していたが、フェイトは無事に試験を終えて管理局の嘱託魔導師として登録された。

 一歩前進ながら、裁判終了まではこれまでと同様、PT事件の重要参考人としての立場は変わらない。そのままアースラ預かりとなった彼女は、巡航パトロール時はクロノのお手伝い、本局では裁判と、以前より少し忙しくなった。

 

「アーベルさん、こんにちは」

「いらっしゃい、ユーノくん」

 

 その裁判も大詰めであるが、アーベルの周囲ではPT事件の証人として本局に呼ばれた少年ユーノ・スクライアが店に来るようになったぐらいで、大きな変化はない。

 

 ユーノは民間協力者としてPT事件に関わっていたが、重要参考人であるフェイトのような拘束義務が科せられているわけではないので、時折訪ねてきてはアーベルの仕事を眺めて興味の向くままあれこれ質問をしてくる。

 

 彼はスクライア一族と総称される発掘技術者集団の出身で、フェイトと同い年の子供ながら責任のある立場を任されていたのだが、その発掘品が宇宙船の事故で第97管理外世界にばらまかれ、PT事件の発端となっていた。

 もっとも、この事故も後になってプレシア・テスタロッサによる次元跳躍攻撃が原因と立証されていたから、ユーノが管理責任や職務不履行を問われているわけではなく、フェイトの罪状の軽減を狙ってクロノが呼びつけただけらしい。

 

「ああ、今日はフェイトちゃんだけ呼ばれてるんだっけ?」

「はい。

 フェイトはクロノが中央の司法部に連れていきました。

 クロノに言われた書類は用意できたんで、僕は一足先に解放されたんです」

 

 なかなか理解力のある少年で、弟子でもとるなら彼のような相手がいいなとアーベルは密かに思っていた。しかし彼はミッドチルダにある魔法学院を飛び級で卒業した英才の上に、既にロストロギアの発掘責任者を任されるほどであったから引き抜くわけにも行かない。

 

「今日は来客の予定もないから、ゆっくりしていって。

 本局は遊ぶところが少ないからなあ……」

「いつもごめんなさい」

「ふふ、気にしなくていいよ。僕も話し相手が居ると楽しいし。

 クロノに責任をとらせたいところだけどフェイトちゃんの裁判も大詰めだし、彼が忙しいとエイミィにしわ寄せが行くのはいつものことだから」

 

 判決はもう少し先になるが、公判はあと少しで終わると聞いている。

 

 アーベルも先日、フェイトが友達───高町なのはと手紙越しに知り合った彼女の友人達───に宛てて、もうすぐ会いに行けることを知らせるビデオレターを送るというのでそれに付き合わされていた。……何せお姫様の頼みを断ることなど出来ないので。

 ちなみにユーノはフェレット姿で出演させられていた。なんでも向こうでは事件中に負傷して回復と魔力の節約の為にずっとその姿で生活していたおかげで、ペット扱いをされていたのだと言う。

 

 第97管理外世界『地球』は、アーベルにしてみれば少し不思議な世界だった。魔法技術が皆無で質量兵器が全盛、100を優に越える国々が一惑星の表面に割拠する割に、メンタリティなどは随分とミッドチルダに近い。聞けばミッドチルダも含めた次元世界への移住者も皆無ではなく、その子孫は管理世界に溶けこんで暮らしているし、驚くべき事にクロノの師匠筋でアーベルも幾度か会ったことのあるギル・グレアム提督の出身世界であった。

 

 食文化や作法なども国ごと地域ごとに多種多様らしいが、理解不能なほどにかけ離れてはいない様子である。現地でしばらく暮らしていたフェイトによればシュークリームはこちらで食べる物より美味しく、クロノの話だとコーヒーはアーベルの興味を惹くだろうほどの逸品が随分と安価に提供されているという。

 

 そんな世界に在住する少女たちへのビデオレターであるから、アーベルもデバイスマイスターとして紹介されることはなく、クロノの友人で機械修理工と名乗らされていた。

 

「暇だったら、デバイスでも作ってみるかい?」

「……いいんですか?」

「同じ暇つぶしでも、何か目標があった方が楽しいんじゃないかな?

 ユーノくんなら、フェイトの裁判が終わるまでにC級ぐらいは余裕で取れると思う」

 

 弟子獲得は半ば諦めていたが、興味ぐらいは持って貰えれば嬉しいなあと、アーベルは教本とともに、雑多な在庫の中から使えそうなパーツを探し始めた。

 

 しかし困ったことに、ユーノはアーベルの予想を遙かに上回って出来過ぎる少年であった。

 彼は読書魔法と呼ばれる文書情報を解析する魔法を駆使して僅か数分でそれなりの厚みがある教本を読み終え、呆れるアーベルを後目に今はもうパーツを手に取ってあれこれと見比べている。

 幾つか質問をして理解が及んでいることを確認したアーベルは、驚きつつも納得せざるを得なかった。

 

 だが、そうであれば話は早い。

 

「クララ、管理者権限行使。

 クラーラマリアはユーノ・スクライアを限定ユーザーとして認証。

 期限は現時刻より新暦65年11月末日まで」

“了解しました。

 ユーノ・スクライアを限定ユーザーとして認証します”

「えっ!?」

「うちの店で何かやろうとすると、クララ───クラーラマリアが使えないと何一つ出来ないように設定してあるんだ。

 席を交替しよう。こっちに座って」

 

 彼は間違いなく一流の人材だ。

 納期が明日となっている目の前の仕事よりも、ユーノの才能の方に興味をそそられたアーベルである。

 ……彼が帰った後、徹夜するぐらいは構うまい。

 

 

 

 ▽▽▽

 

 

 

 結果から言えば、ユーノはB級デバイスマスターに十分合格できる勉強までは済ませたが、試験日が合わず資格を得ることは出来なかった。それこそフェイトの裁判が優先されるので、暇つぶしの延長を越えて彼に強要をするわけにもいかない。

 

 それでも11月中には公判が終了、判決を翌日に控えた12月1日の夜、アーベルはクロノからの通信を受けていた。

 これまでも帰港の合間に公判が行われる過密スケジュールだったが、クロノもこれで一つ肩の荷が下りるだろう。

 

『あとは判決を待つばかり、なんとか無事に済みそうな感触だ。

 色々と助かったよ、アーベル』

「まあ、協力した甲斐はあったかな。

 フェイトちゃんやユーノくんと知り合えたのは大きいよ。

 あの二人、伸びるだろうねえ……」

『そうだな。

 もう一人の高町なのはもすごいぞ』

「そうなのかい?

 まあ、フェイトちゃんが嬉しそうに話すぐらいだから……」

『君には話していなかったかもしれないが、なのはは砲撃魔導師として希有な才能を持っている。

 魔法を知ってたかがひと月で、収束砲撃を使いこなしていたんだぞ』

「……最近の子供はすごいな」

 

 アーベルが9歳の頃と言えば魔法学院の初等部に通っていたあたりで、まだまだ子供だった。

 もう家を出ることは決めていたが、A級デバイスマスターの資格も取れていなかったように思う。A級はB級C級とは一線を画する難易度で、『歩合制』の小遣いとにらめっこしつつ、勉強のためにデバイスのパーツを買い集めたりしていただろうか。

 

『君も一度会うといい。

 フェイトはこちらに居ることの方が多いだろうから、彼女もそのうち遊びに来るだろう』

「ああ、楽しみにしているよ」

『じゃあ、また明日にでも』

「うん、夜は空けておく」

 

 フェイトとユーノは結審後、即日第97管理外世界へと渡航するのだという。

 裁判終了お疲れさまパーティーは、彼女たちが帰還した後の予定だった。

 無論、フェイトがなのはに会いたいが為にこの数ヶ月間頑張っていたことは、皆知っている。裁判に忙しいフェイト本人やクロノに代わり、周囲は手土産なども用意して送り出す準備の方に余念がなかった。

 

 

 

 ▽▽▽

 

 

 

 当事者不在でも軽い食事会ぐらいはしようかと、クロノを労う意味も込めてエイミィ達と予定を立てていたアーベルは、残念ながら肩すかしを食らうことになった。クロノどころかフェイトやユーノにも連絡が取れず、これは何かあったかと思案する。

 アースラは本局に停泊しているはずだったが、そちらも作戦行動中の表示が出て取り次いで貰えない。

 

 これはどうかしたなと首を捻りながら店のシャッターを降ろし、アパートに帰る途中になってようやくクロノから通信が入った。

 

「クララ、繋いで!」

『アーベル、僕だ。クロノだ』

「何があったんだい?

 アースラにも連絡が取れなか───」

『説明は後だ。

 アースラ所属の執務官クロノ・ハラオウンは緊急徴用条項の特例Ⅱ-Aを行使し、第四技術部所属の嘱託技官アーベル・マイバッハ二尉相当官に協力を要請する。

 頼む、すぐ第四技術部に向かってくれ』

「……緊急事態なんだな?」

『そうだ。

 詳細は向こうで聞いて欲しい』

「わかった、すぐ行く」

 

 日頃から少しの無茶は通してくるクロノだが、筋の通らない理不尽はしないことをアーベルはよく知っていた。

 そのクロノが緊急徴用条項の特例Ⅱ-A───クララに調べて貰うと、期間制限無しの強制徴用であった───と、滅多なことでは通りそうもない強権を持ち出すとあってはただごとではない。

 

 自分に対する緊急徴用が正式に発令されていることを確認したアーベルは、すぐさま第四技術部へと向かった。

 

 


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